214.商家の護衛(7)
「くそっ、剣が全然通らないぞ!」
「アルマ、援護の魔法はまだか!?」
「行くわよ、みんな離れて!」
「おう!」
「分かったわ!」
ズールベアの前から四人が退き、アルマさんの火魔法が放たれた。真っすぐ放たれた魔法はズールベアに着弾すると、大きな爆発になる。
「やったか!?」
煙がズールベアを覆い隠す。その煙が晴れる頃、ズールベアが地面の上に転がっていたのが見えた。
「ど、どうよ! 私の魔法は!」
「やったじゃねーか!」
「初討伐か!?」
「……いや、まだだ!」
ウルマさんが声を上げると、ゆっくりズールベアは起き上がる。爆発を食らった胸元は少し抉れているが、致命傷とはほど遠かった。
「うそ、効いてない?」
「なん、だとっ」
「みんなで畳みかけるわよ!」
「そんなこと言ったって、切り傷くらいしかつけられねぇぞ!」
「それでもやるしかない!」
みんなの表情が曇った、その時に私が到着した。
「みなさん、私もお手伝いします!」
なんとか間に合った、剣を抜いてみんなの前に立つ。
「リルちゃん、危ないわよ!」
「ボブさんはどうした!?」
「ボブさんからズールベアを討伐してくれ、とお願いされました。大丈夫です、ズールベアなら倒したことがあります!」
「嘘だろっ!?」
「おいおい、マジかよ」
「嘘っ……」
やっぱりみんな半信半疑か、こんな子供がズールベアを倒したなんて普通は信じられないよね。でも、事実だ。私はその場を避けることなく、ズールベアと対峙する。
ズールベアはこちらを睨み、今にも飛び掛かってきそうだ。飛び掛かったらみんなが危ない、先に攻撃を仕掛けられる前に攻撃する。
剣を地面に突き刺すと、両手を前にかざす。両手に魔力を瞬時に集めると、右手に水球、左手に雷を作った。そして、その二つを合わせるとズールベアに向かって放つ。
ものすごいスピードで飛んだ雷を纏った水球。ズールベアは避けることができず、それを真正面から受けた。
「グギャァァッ!!」
激しい電撃がズールベアを襲う。再度、魔力を高めていく。ズールベアが怯んでいる内に魔力を集約すると、それを氷の魔法に変換する。
「くらえっ!」
両手をかざした先、ズールベアの足元が氷で覆われる。これだけでは終わらない。どんどん上の方まで氷漬けしていく。膝、太もも、腰、腹、胸、腕。厚い氷で覆うようにしていく。
「すごい……」
「氷魔法がこんなに簡単に」
頭を残し、ズールベアを氷漬けにすることができた。ズールベアは身動きが取れず叫び声を上げている。ゆっくりしていると氷を破かれるかもしれない、さっさとトドメをさそう。
地面に刺した剣を抜くと、普通の身体強化をまとう。そして、軽めに走り跳躍すると、ズールベアの首目掛けて剣を振るった。
「グアアッ!!」
すっぱりと首を刎ね飛ばされたズールベア、一瞬で勝負がついた。
「ふう、討伐しました!」
着地した私はみんなの方を振り向いた。すると、みんなは口を開けて固まっている。どうしたんだろう? 気になった私はみんなの前に歩いていった。
「あのー、倒しましたけど」
そういうと、一番初めに我に返ったのはウルマさんとロザリーさんだった。
「えっ、あっ、そ、そうか」
「嘘、リルちゃんが……そんな」
二人とも表情が引きつっているけれど、どうしたんだろう? もしかして、ズールベアの頭を刎ね飛ばしたのが悪かったのかな? 脳天一突きにすれば良かったかもしれない。
どう反応していいか分からずにいると、ニックさんたちも声を上げた。
「えっ、えっ、これをリルがやったのか?」
「一瞬で終わっちゃったわ」
「嘘だろ、おい……嘘だろ」
私を指さして信じられないと驚いているみたいだった。えっと、ズールベアを倒しただけなんだけど、どうしてこうなっちゃったのかな。
とりあえず、話を進めてもいいかな。私はボブさんのほうに近づくと、ボブさんは恐る恐る馬車の中から出てきた。
「ボブさんのお陰でズールベアを倒すことができました、ありがとうございます」
「す、凄いんだねリルちゃんって」
「いえいえ、私なんてまだまだですよ。あそこに氷漬けされているズールベアは邪魔なので、撤去しますね。素材の回収時間を頂いてもいいですか?」
「も、もちろんだよ。素材採取は冒険者の特権だからね、好きにしていいよ」
やった、ズールベアの回収を許してもらった。結構お金になるから、こういうことからコツコツ貯めていかないとね。よし、まずは氷を溶かすところから始めよう。
立ちすくんでいるみんなの前に移動すると、両手をズールベアに向ける。魔力を高め、一気に放出した。
「えいっ」
巨大な炎が吹き出し、音を立ててズールベアを飲み込んでいった。竜巻のように渦を巻きながら、ズールベアの氷を溶かしていく。
「ひぇ、こんな炎も出せるの……」
「リルちゃんって何者なの?」
後ろからなんか聞こえるけれど……そっか、待っているのも大変だよね。早く終わらせなくっちゃ、私は火の勢いをさらに上げる。すると、みんなから短い悲鳴が聞こえた気がした。
◇
午後過ぎに森を抜けれた、ここまでくれば魔物との遭遇も少なくなるはずだ。みんなの引き締まった雰囲気が少し緩くなったように思えた。
それから平原に囲まれた街道を行き、夕暮れになる頃にはようやく町に辿り着いた。町に入るとまず宿屋を目指して進んだ。
「ここが、今日泊まる宿屋。もし気に入らなければ、他の宿に泊ってきてもいいぞ」
「いや、ここでいい。みんなはどうだ?」
「俺たちは問題ないぜ」
「私もです」
「なら、手続きを済ませておくか」
みんなで宿屋の中に行くと、一人のお姉さんが受付に座っていた。ボブさんとお姉さんがやり取りをすると、今度は金銭の支払いだ。
「二泊でお一人一万二千ルタになります」
お姉さんの話を聞き、それぞれがお金を支払った。支払いが終わると、それぞれに部屋の鍵が手渡される。すると、ウルマさんがみんなに話しかけてきた。
「準備ができたら、みんなで食事をしないか?」
その言葉にみんなが頷いて、用意が終わった人はここのホールに集まることになった。今日もみんなで食事ができるから楽しみだな。
その後、用意された部屋に行き、準備を終えたら受付があったホールに戻ってきた。しばらくすると、他のみんなも集まってきて宿を出ていく。食べに行くところは、この町を良くしっているボブさんのオススメのお店になった。
暗くなり始めた通りを進んでいくと、一際明るい場所がある、そこがオススメのお店だった。そこは吹き抜けになっている大衆酒場みたいで、外にも座席がある珍しいところだ。
私たちは店の中に入り、席に座った。するとすぐに給仕の人が注文を取りに来る。私たちはメニュー表を見ながら、自分の食べたいものを頼んだ。
これで一息吐ける、そう思った。
「さて、リル」
突然私に話が振られた。よく見ると、みんなが真剣な表情で私を見ている。一体何があったの? 不安が心をよぎった。
ごくり、と喉が鳴る。すると、みんなは一斉に喋り出す。
「なんなんだ、あの力は。あんな力があるなんて知らないぞ」
「子供だと思っていたけれど、大人顔負けの魔法に剣術……一体何者なの?」
「難しいと言われる氷魔法をあんなに簡単に発動するなんて。何かコツがあるわけ?」
「あの動きはなんなんだ、リルは本当に人間か?」
「剣といい、魔法といい、どれもめちゃくちゃ強いじゃないか。どうなって、そうなったんだ?」
「いやー、報告を見た時は半信半疑だったけど、リルちゃんは本当に強い冒険者なんだね」
凄い圧で質問が襲い掛かってきた。えっと、これは私がズールベアを倒したことと関係があるのかな? なんて言ったらいいんだろう、どの質問を返したらいいのか分からない。
一人焦っていると、ニックさんがニヤリと笑って話を続ける。
「今日はリルの強さのこと、根掘り葉掘り聞いてやるからな」
えっと、隠すこともないんだけれど……私どうなっちゃうの? お手柔らかにお願いします。




