212.商家の護衛(5)
二日目は午前中に平原を進み、午後からは森の中を進んだ。平原ではブラックカウやメルクボアと戦い、森の中に入るとゴブリンと戦っている。
今も馬車がDランクのゴブリンに囲まれて、みんなで撃退しているところだ。ウルマさんパーティーとニックさんパーティーがゴブリンを退治していって、私がボブさんたちを守る役目になっている。
私たちを狙ってくるのはゴブリンアーチャー、弓矢を放ってくるので私がそれを落としていた。このままじゃ埒が明かないけれど、この場を離れるわけにはいかない。
他のみんながゴブリンたちを退治し終えるまで、私が防御に徹していた。自分が飛び出したら、ボブさんたちは弓矢の的になってしまうからここは我慢。
「よし、前衛は倒したぞ!」
「こっちはあともう少しかかる!」
「後衛を倒しに行くわ!」
「頼んだわ!」
「おりゃー!」
みんなで声を掛け合ってゴブリンを退治していく。十体以上いたゴブリンは数を減らしていって、残り後衛の四体だけになった。みんなで後衛に突っ込んでいくと、近接戦の手段のないゴブリンは瞬殺される。
「まだいるかもしれない、辺りを警戒しろ」
「ちょっと森の中に入ってくる」
戦闘が終了したみたいだ。各々が周囲の警戒に入り、静かになった。
「ボブさん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だ。リルちゃんが守ってくれたから、こいつらも怪我一つしなかったよ」
うん、ボブさんにも馬にも怪我がなかったみたい。守るのはちょっと苦手だったけど、上手に守れたみたいで本当に良かった。
鍛えた自分の力を試すために護衛を受けたんだけど、まだ自分の力を試す場面がない。チームを組んで任務をしているから、ここは協調性をもって任務に当たったほうがいいだろう。
というか、護衛の任務で自分の力を試すのは違うんじゃないかな。ヒルデさんが言っていたのは、他人と自分の力量差を知ることが大切だって言ってた。それで自分の力がどれくらいあるのか計れってことだよね。
みんなの戦闘を見てみると、自分とは戦い方が違うから違和感を感じてしまう。もっと上手く立ち回れば早く倒せる場面も沢山あったけど、それがなかった。
私だったら、そういう場面が多々あったと思う。みんな強そうに見えても、実戦ではそんなに強そうには見えなかった。ということは、私って本当は強いってことになるのかな?
うーん、力量差を計るって難しい。もしかしたら、力を温存しているだけかもしれないし、どうやったら力量差があるって分かるんだろう。
「周囲の警戒が終わった、辺りには魔物がいないようだ」
「こっちも森の中を見てみたけど、魔物の影すらなかったぜ」
ウルマさんとニックさんが戻ってきた。じゃあ、これで出発できるね。
「それじゃあ、馬車を動かす」
ボブさんが馬に鞭を入れると、馬はゆっくりと歩き出す。その馬車を囲むように私たちも歩き出した。
◇
「後方からワイルドウルフの群れが来た!」
ルイードさんが前方にやってきて叫んできた。
「分かった、行く!」
「リルちゃんはボブさんたちを守って!」
「分かりました!」
声を聞いたウルマさんとロザリーさんが急いで馬車の後方に移動をした。私は前と同じようにボブさんたちを守るためにこの場に残る。
「ボブさんは危ないので馬車の中に隠れていてください」
「わ、分かった。馬のこともよろしく頼むよ」
「任されました」
ボブさんを馬車の中に移動させると、私は馬車の前方から後方に警戒を始めた。後ろを見てみると、みんなの目の前にワイルドウルフの群れが唸り声を上げている、十体くらいいそうだ。
戦闘が始まり、みんながワイルドウルフに攻撃を仕掛け始める。素早い身のこなしのワイルドウルフに中々攻撃が当たらず、戦闘は混戦模様となっていく。
戦闘を開始して数分、ようやくウルマさんが一体のワイルドウルフを仕留めたみたいだ。でも、数はまだまだいる。もたついている戦闘を見て、飛び出していきたい気持ちをぐっと堪えた。
「しまった!」
「そっちに行ったぞ!」
その時、ワイルドウルフが二体こちらに向かって駆け出してきた。みんなの隙間を目ざとく見つけたらしい、ようやく私の出番だ。
すぐに手をかざして魔力を高める。凝縮された風弾を一瞬で作り上げると、それを先頭を走るワイルドウルフに放った。
「ギャッ!」
顔面に風弾がぶつかったワイルドウルフは風弾の威力で首が曲がって骨が折れ、一瞬にして絶命した。まだもう一頭のワイルドウルフが残っている、瞬時に身体強化をすると剣を抜いた。
「ガウッ!」
地面を蹴って飛び上がってきたワイルドウルフを横にずれることで避け、横を通り過ぎていくワイルドウルフを剣で切りつけた。切りつけられたワイルドウルフは着地ができず、地面の上に転がる。
私は瞬時にワイルドウルフに駆け寄った。態勢を整える前に距離を詰めると、寝転がったところを剣で一突きにする。短い悲鳴を上げた後、ぱったりと動かなくなり、これで襲い掛かってきたワイルドウルフは仕留めた。
すぐに馬車の後方を確認してみると、戦闘は続いている。
「こちらにきたワイルドウルフは仕留めました、安心してください!」
「分かったわ!」
声を上げて状況を伝えると、ロザリーさんの声が聞こえてきた。よし、これで後ろのことを気にしないで戦うことができるだろう。あ、もう一体倒した。残りは五体だ。
ワイルドウルフの戦意は変わらず高いままで、好戦的な様子にみんなが手こずっている。あぁ、そこは攻撃するチャンスだったのに。そこも、隙があるのにどうして攻撃しないの?
みんなの戦闘を見ていると、アドバイスめいたことが頭に浮かんでくる。ヒルデさんと一緒に戦っていた時はそんなことなかったのに、どうして今になってそんなことを考えついてしまうのだろう。
遠くから見ているだけだからかな、それともこれが力量差を計るということなのかな。良く分からないけれど、みんなの戦い方は洗練された動きじゃないってことは分かった。
「ちぃっ、また馬車に行ったぞ!」
「ごめんなさいっ!」
また二体のワイルドウルフがこちらに向かってきた。全速力で駆けてくるワイルドウルフ、今度はそれを逆手にとってみよう。手をかざして魔力を高めると、今度は魔法の壁を作りだした。
魔法の壁はほぼ透明の姿をしていて、目を凝らさないとそこにあるかは分からない。だから、その魔法の壁をワイルドウルフは避け切れないと思う。
黙って待っていると、ワイルドウルフが飛び掛かってきた。
ゴン! ゴン!
「ギャッ!」
「ギャワンッ!」
ワイルドウルフは盛大に壁に衝突して、地面に飛ばされた。強い衝撃を受けて起き上がれない内に魔法の壁を撤去すると、ワイルドウルフに手を掲げて再度魔力を高める。
今度は魔力を空中に集めると、尖った氷が生成されていく。私の頭よりも大きく成長させて、それをワイルドウルフの頭に向けて落とした。尖った氷はワイルドウルフの頭を貫き、一瞬で討伐が完了した。
うーん、今のは剣で刺したほうが早かったかな? でも、二体同時に倒したかったし、どっちが良かったか悩むね。いけない、考えている暇はなかったんだった、警戒をしないと。
馬車の後方を確認すると、残りは二体になっていた。少なくなったワイルドウルフを五人で畳みかけて、数分後にようやく討伐が完了する。
すると、すぐにウルマさんが駆けつけてきた。
「リル、大丈夫だったか?」
「はい、問題ありませんでした」
「そ、そうか。リルは魔物討伐が上手いんだな、あっという間に四体ものワイルドウルフを討伐するなんて」
「いや、もっと上手くできたはずなんですけれど、私なんてまだまだです」
「そ、そうか……」
ウルマさんは微妙な顔をしたんだけど、どうしたんだろう?
「それじゃ、後始末をした後に出発だ」
「分かりました」
そう言ったウルマさんは馬車の後方に戻っていた。さて、私も後片付けをしないとね。ワイルドウルフの毛皮は売れるけど、剥ぎ取る時間がないから本体のままマジックバッグに入れておこう。
私はせっせと、自分が倒したワイルドウルフをマジックバッグの中にしまい込んだ。




