209.商家の護衛(2)
護衛当日の朝、門の外に行くと何台もの馬車が止まっているのが見えた。きっとこれらは他の町や村に行く商人たちの馬車なんだろう。その中からボブさんの馬車を見つけると、近寄っていく。
「ボブさん、おはようございます。今日から数日間よろしくお願いします」
「おはよう。よろしく頼むよ」
「他の方たちはこれからですか?」
「そうなんだ、まぁまだ時間に余裕があるから大丈夫なんだけどな」
早く来すぎたのかな、もうちょっと遅くに出ても良かったのかもしれない。ボブさんと雑談しながら待っていると、続々と他の馬車の冒険者たちが集まってきた。その冒険者の中に一緒に護衛をする人たちもいる。
熟練男性冒険者のウルマさんがまず話しかけてきた。
「お待たせしました。彼らとは途中で一緒になった」
「今日からよろしくお願いしまーす」
軽い感じで若手男性冒険者のニックが挨拶をした。これで全員が揃った、出発の時間だ。この護衛団を統率するのはウルマさん、そのウルマさんが早速指示を出す。
「それじゃあ、この間話した通り。ニックのパーティーは馬車の後方、私のパーティーは前方、リルはボブさんの傍だ」
「了解でーす」
「分かりました」
「それではボブさん、出発を」
「分かった、よろしく頼む」
御者台に乗ったボブさんが二頭立ての馬に軽く鞭を入れると、馬車はゆっくりと動いていく。先頭をウルマさんのパーティー、後方をニックさんのパーティー、ボブさんたちの傍に私が配置についた。
馬車はそのまま進んでいき、隣町へ続く道を進んでいく。
◇
何もない平原を進む。遠くを見渡せばあちらこちらに魔物の姿が見え始め、緊張感が増していく。いつ魔物に目を付けられても可笑しくない状況だ。周囲を警戒しながら道を進んでいくと、前方を進んでいた熟練女性冒険者のロザリーさんが駆け寄ってきた。
「前方にDランクのブラックカウがいるわ。討伐するので馬車を止めて」
「わ、分かった」
「リルはこのままボブさんと馬の護衛をよろしくね」
「分かりました」
そういったロザリーさんは馬車の後方に移動をした。しばらくすると、ニックさんと若手女性冒険者のアルマさんを連れて前方に向かっていく。なるほど、後方にいた人たちを呼び寄せたのか。
前方を見るとウルマさん、ロザリーさん、ニックさんが牛型の魔物ブラックカウに近づいていき、アルマさんが後方から魔法の準備をする。えーっと、ブラックカウは合計で三体か、これだったら助太刀をしなくても大丈夫そうだ。
戦闘が始まり、前衛の三人がブラックカウに立ち向かっていった。ブラックカウは雄たけびを上げながら、強靭な角を向けて突進をする。それぞれが突進を避けつつ、攻撃が始まった。
戦闘を見ているだけじゃダメだ、私のやるべきことは周囲の警戒だ。視線を逸らして周囲の警戒をする。見渡しやすい平原はそれだけ見つかりやすい、戦闘音を聞いて近寄ってくる魔物がいるかもしれない。
見渡していると、こちらに近づいてくる魔物の影が見えた。あれは……ブラックカウだ、多分雄たけびを聞いて駆けつけたのに違いない。そのブラックカウは馬車に向かっているように見えた。
「ボブさん、あちらからブラックカウが馬車を狙っているみたいです」
「そ、そうなのか!?」
「撃退しますね、馬車から離れないでください」
「わ、分かった」
ボブさんは怯えながらも頷いてくれた。もう一度ブラックカウに視線を向けると、やはりこちらに真っすぐ向かってきている。これは私が対応する場面で大丈夫だよね。
前方を見てみると、まだ戦闘は終わっていないみたいだ。急いで後方に向かうと、若手男性冒険者のルイードさんが馬車の後方を守っていた。
「すいません、横からブラックカウが迫ってきているので、対応してきますね」
「え、そうなの? じゃあ、よろしく頼むよ。俺は後方を守らなきゃいけないから」
「よろしくお願いします」
なんだか軽い人だな、いけない今はそんなことを気にしている場合じゃない。すぐにブラックカウが向かってくる馬車の前に立ちはだかる。このままだったら馬車が突進を食らってしまうかもしれない、ブラックカウを止めなければ。
私は手を前に構え、魔力を高めて集中させていく。魔法の訓練で手に入れた魔法の壁を作り出す。強度を強くして、ブラックカウの突進を待った。
「ブモォォォッ!」
すぐ目の前まで迫ったブラックカウは魔法の壁に気づきもしないで飛び込んできた。
ゴンッ!!
「ブォッ!?」
盛大に頭を魔法の壁にぶつけると、ブラックカウは弾き飛ばされた。強い衝撃を受けたブラックカウは地面に倒れると痙攣をして動かなくなった。隙ありだ、駆け寄って頭部に剣を刺すとぐったりとして動かなくなる。
戦闘は終了した。すぐに馬車の周囲の警戒をするが、他の魔物が近づいてきている気配はない。馬車の前方を見てみると、まだブラックカウと戦っているみたいだ。
こういうのも何だけど、そんなに手こずる魔物だったかな? それとも上手く連携がとれていないせいなのかな? ともかく、私は自分の仕事を全うしよう。
「ボブさん、こちらのブラックカウは討伐が完了しました」
「おお、ありがとう。ずいぶんと早く終わったんだね」
「はい、分かりやすい行動をする魔物だったので、すぐに終わりましたよ」
「大したもんだな。後は前方のブラックカウだけだな」
「私は周囲を警戒してますね」
「頼んだよ」
ボブさんたちを守るように傍にいて、周囲を警戒する。こちらに近づいている魔物は今のところいないみたいだ。でも、いつくるか分からないから警戒は解かないでいく。
「ブモォォォッ!」
その時、前方からブラックカウの雄たけびが聞こえて振り向いてみた。前方で戦っていた四人の間をすり抜けて、一頭のブラックカウが真っすぐ馬車に向かってきている。
「危ない!」
咄嗟に馬の前に立ちはだかると、手をかざして魔力を高めていく。そして、魔法の壁を作り、その強度を上げていった。真っすぐに突進してくるブラックカウは魔法の壁があることに気づかずに、正面からぶつかってくる。
ゴンッ!!
「ブモォッ!?」
魔法の壁にぶつかったブラックカウは弾き飛ばされ地面に転がった。強い衝撃だったのかブラックカウは起き上がれず、地面の上で痙攣をしている。ここは止めを刺したほうがいいかな?
剣を抜き、駆け寄ると頭部に剣を刺した。ブラックカウは短い悲鳴を上げた後、ぐったりとして動かなくなる。討伐が完了するとすぐに周囲の警戒をしたが、問題はなかった。
前方を確認してみると、丁度残りのブラックカウを討伐し終えたところだ。どうやら戦闘が終了したみたい、これで一息つけそうだ。前方で戦っていた四人がこちらに近づいてくると、ウルマさんが真っ先に話しかけてきた。
「一頭のブラックカウを見逃してしまってすまなかった。無事に討伐できたようで安心した」
「ボブさんたちを守れて良かったです。討伐お疲れさまでした」
「馬車は無事か?」
「はい、一頭のブラックカウが向かってきましたけど、それも討伐済みなので安心してください」
「それを君がやったのか、こんな短時間で二頭も討伐するなんてすごいな。さて、マジックバッグがあるならブラックカウを回収しておこうか」
ウルマさんの指示で倒したブラックカウは回収することになった。私はすぐにマジックバッグを背中から外して、二頭のブラックカウを入れる。これも貴重な収入源だ、ありがたく頂いておこう。
回収をし終えた後、馬車に戻ると後方組のニックさんとアルマさんが近づいてきた。
「小っちゃいと思って役に立つか分からなかったが、やるじゃん」
「その調子で頑張ってよね」
「はい、ありがとうございます」
褒められているんだけど、すごく軽い感じで言われているからありがたい感じがしない。なんかニックさんのパーティーはみんな軽い感じがするなぁ。なんだかやる気を感じられないような、そんな感じがする……仕事に支障がでなければいいけど。
「それじゃあ、出発するぞ。配置は同じで頼む」
ウルマさんの声と共に馬車は再び進みだした。




