208.商家の護衛(1)
魔法を鍛え終えた私はその成果を試すために、再び魔物討伐に行こうと思った。折角だからヒルデさんを誘っていこう、そう思ってヒルデさんの家を訪ねた。
そこで三か月間あったことを話し、ヒルデさんを冒険に誘った。だけど、ヒルデさんは何かを考えている様子だ。どうしたんだろう、何か他に用事でもあるんだろうか?
「なぁ、リル。私と一緒に冒険に出たい気持ちは分かるし、私も話を聞いて行こうという気にはなっている。なっているが、それだけじゃリルのためにならないと思うんだ」
「私のためですか?」
「そうだ。確かに私との冒険はやりやすくて戦いやすいだろう。その環境がとても得難いものだと思うのだが、それだけだとリルの成長を阻害しかねないんだ」
私の成長を阻害? そんな要素があったなんて気づかなかった。やりやすい環境ばかりに慣れすぎちゃうのがいけないのかな?
「リルはもっと他の人たちと組んで戦う経験をしたほうがいいだろう。やり辛い環境でどれだけのことができて、どれだけのことができないのか知っておいたほうがいい」
「ということは、パーティを組んで魔物討伐をしろ、ということですか?」
「それもいいが、それだとあまり変わらない。だから、護衛クエストを受けてみたらどうだろうか?」
護衛クエストか、難しそうなクエストの指名が入ったね。以前護衛クエストを受けたことはあるけれど、その難しさに自分の至らなさを感じたっけ。確かにそのクエストなら様々な角度から私の力量を図ることができそうだ。
「複数人で受ける護衛クエストだ。そこで複数人で対応する魔物討伐、山賊と対する時の対人戦、護衛の経験、複数人と行動する人間関係の難しさ。色んな経験ができて、それらはリルのためになるはずだ」
護衛クエストを受けるだけで色んな経験ができるんだな。今までほとんど一人でやってきたから、複数人と一緒に行動をするのは得意ではないな。
いや、でもこれからどんなクエストがあるか分からない。領主さまのクエストだって複数人で行動するものばかりかもしれないよね。そうしたら、そういう経験をしておいたほうがためになるのかもしれない。
でも、自信がないなぁ。
「私、複数人で行動する自信がありません。それは今まであまり経験をしたことがない、ていう理由ですけど。そんな私でも護衛クエストはできるのでしょうか?」
「しっかりと考えることができるリルならできると思うぞ。リルには向上心というものがあるからな、立ち止まらなければどこまでも進んでいける。自信はこれから少しずつつけていけばいい」
ヒルデさんにそういわれると、弱いなぁ。護衛クエストかぁ、苦手意識があるから本当ならやりたくないけど、今後のためにも経験したほうがいいのは分かってる。ちょっと、踏ん切りがつかないかな。
「それにリル自身の力量がどれくらいあるのか、誰かと一緒にいたほうがしっかりと自覚できる。他人の言葉を受けて、今の自分がどれだけ強くなったのか確認するのも大切だ」
「それはヒルデさんじゃダメなんですか?」
「私ではダメだな。リルのことを知らない他人が一番いいと思う。今までだって知らない人と一緒に仕事をしてきただろ、その時と同じ要領でやっていけばいいんだ」
自分の強さを自覚か……今じゃ不十分だっていうことだよね。ここはヒルデさんの言葉を信じて、護衛クエストを受けてみよう。自信がないけど、今回で自信つけばいいなぁ。
◇
ヒルデさんに言われて私は冒険者ギルドにやってきた。クエストボードを確認して、護衛クエストがないか調べてみる。いくつかのクエストボードを確認すると、護衛クエストが見つかった。
隣町までの護衛クエストだ。片道三日、往復するクエスト。護衛人数は六人だ。これくらいなら丁度いいよね。
クエスト用紙を持って受付に並び、受付のお姉さんと話す。
「あら、リルちゃん久しぶり。長期の仕事は終わったのね」
「はい。今度手が空いたらまた同じクエストを受けようと思います。それで、このクエストを受けたいのですが」
「はいはい……護衛クエスト? リルちゃんにしては珍しいクエストを受けるのね、今確認してくるわね」
お姉さんが後ろを向いてデータ蓄積装置を操作していく。しばらく待ってみると、お姉さんがこちらに振り向いた。
「お待たせ、この護衛クエストは受けられるわ。三日後の午後三時に顔合わせがあるから、その時にここに寄ってね」
「分かりました。護衛クエストで何か気を付けることはありますか?」
「そうねぇ……一緒に行動する人たちとは争わないっていうことかしら。協調性をもって行動していればいいと思うわ。リルちゃんなら大丈夫よ、自信をもって」
そうだよね、それが大事だよね。上手く交流できればいいけど、大丈夫かな。不安はあるけど、ここまで来たんならやるっきゃないよね。よし、うじうじ考えてないで自分ができることをしていこう。
お姉さんと分かれた私は顔合わせの日までどうやって過ごすか考える。すぐに終わる仕事を請け負うか、それとも一人で魔物討伐に行くか……どうしようかな。
◇
三日後、午後三時前に冒険者ギルドにやってきた。受付に並び、お姉さんに来たことを伝えると、待合席に行くように言われる。そこで今回の護衛対象でもある商人が待っているらしい。
待合席に近づくとそれらしいおじさんが座っているのを見つけた。
「あの、ボブさんですか?」
「あぁ、ボブだが。もしかして、護衛を請け負った冒険者か?」
「はい、リルといいます。今回はよろしくお願いします」
自己紹介をすると、商人のボブさんはテーブルの上に置かれた紙を見始めた。どうやら、その紙は冒険者の情報が書かれてある紙のようだ。
「リルっと……年齢は若いがかなりの魔物を討伐しているんだな。このBランクのズールベアも倒したと書いてあるが、本当か?」
「はい、本当ですよ。一日に四頭くらいは倒したことがあります」
「一日に四頭か……頼もしいな。年齢が低いから心配していたんだが、実力はあるみたいだな。よろしく頼むぞ」
「こちらこそ、護衛の経験は少ないですが精一杯やらせてもらいます」
やっぱり私の年齢が低いことを気にしていた。だけど、討伐してきた魔物の種類や数を確認して、護衛者として認めてくれたみたい。頼りなく見えちゃうけど、その分後で挽回しないとね。
二人で少し話していると、こちらに近づく人が見えた。その人たちはこちらのテーブルまで近づくと声をかけてくる。
「失礼、商人のボブさんですか?」
「あぁ、そうだ。今回の護衛者か?」
「そうだ、冒険者のウルマとロザリーだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
二十代前半の男性と女性だ。男性は槍を背に括り付けていて、女性は剣を腰にぶら下げている。二人は軽く挨拶をして席に座ると、ボブさんは冒険者の情報が書かれてある用紙を確認した。
「熟練の冒険者か、頼りにしている」
「そう言ってくれるとありがたい」
「期待には応えて見せるわ」
なんだか自信たっぷりな冒険者さんだな。でも、頼りになりそうなのは分かるかも。存在感があるから余計にそう思っちゃうのかもね。
「君も冒険者か?」
「はい、一緒に護衛のクエストを受けたリルと言います。あまり護衛の経験はありませんが、足を引っ張らないように頑張ります」
「そうなのね、よろしく」
話しかけられたけど、それ以上話すことはなかった。まぁ、あれこれ聞かれるよりはいいのかもしれないね。
それからしばらく待ってみると、またこちらに近づいてきた冒険者らしき人がいた。
「すいませーん、商人のボブさんってあなたですか?」
「そうだ、私だ。今回の護衛クエストを受けた冒険者か?」
「はい。俺がニック、こっちがルイード、こっちがアルマっていいます」
軽い調子でやってきたのは十代後半か二十台前半に見える冒険者だ。男の人が二人、女の人が一人のパーティ。男の人は剣、女の人は杖を持っている。
「よし、これで全員集まったな。じゃあ、詳しい話をしようと思う」
商人のボブさんが今回の護衛クエストについて話し始めた。




