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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第四章 冒険者ランクD

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115.行商クエスト(6)

 昇った朝日を前に大きく背伸びをする。


「んーーっ」


 はぁ、朝日が気持ちいい。森の中だと体いっぱいに朝日を浴びる事なんてないから、ポカポカして気持ちいいな。


「馬に水と餌をやりにいきますね」

「よろしく頼むよ」


 朝食の準備をしているファルケさんにそういうと、緑のマジックバッグから小さな樽と枯草を取り出す。それを持って木に繋がれている馬に近寄った。


 バケツの中に樽から水を入れて、隣に枯草を置く。すると、馬はバケツに顔を突っ込んで水を飲み始めた。


「よしよし、今日もよろしくね」


 首を撫でてその場を離れた。ファルケさんのところに戻るとすでに朝食は用意されていた。昨日とは違うスープとパンだ、ありがたく食べ始める。


 会話をしながら朝食を食べてお腹が満たされた。昨日と同じく食器を洗い、緑のマジックバッグに入れて戻す。


「さて、出発しようか。僕は馬を馬車に繋げるから、リル君は荷物を馬車の中に入れて欲しい」

「分かりました」


 ファルケさんが離れると私も動き出す。昨日馬車から下ろした木箱を再び馬車の中に入れる。この木箱は中々に重くて持ち上げるのが大変だ。


 落とさないように慎重に馬車の中に入れていき、全部入れ終えると今度は馬車の中に入って木箱を整頓する。昨日と同じようになるよう木箱を積み上げた。


 馬車の中から御者台の向こう側を見てみると、ファルケさんが馬を繋ぎ終えていた。そのファルケさんが御者台に座ると、後ろを振り向く。


「じゃあ、出発するよ。座っていて」

「はい」


 クッションを敷いたところに座ると、鞭で叩く音がした。始めはゆっくりと動き出す馬車、次第に早くなりいつもの速度に変わる。馬車は道へと戻ると村に向かって進み始めた。


 ◇


 馬車は順調に進んでいく。ずっと馬車の中で座っているのも退屈だし、体も痛くなるので外に出てみた。馬車の後ろから辺りの景色を眺めながら歩いていく。


 いつもの仕事とは違うのんびりとした時間のお陰か心が穏やかなままだ。毎日忙しなく働いているせいか、なんだか手持ち無沙汰な感じがする。


 景色を眺めながら進んでいると、遠くにいくつかの家屋が見えてきた。村はまだのはずだけど、あれはなんだろう。


 進んでいくとその家屋の姿がはっきりと見えてくる。崩れた屋根や壁、家屋の中から生える草や木。それは明らかに人が住んでいない家屋に見えた。


 それが一つならともかく、視界に入る家屋全てが同じような有り様だった。遠くから見てもそこに村があったように見える景色に少しだけゾッとする。


 あれが何か気になって馬車の前に行くと、ファルケさんに話しかけた。


「ファルケさん、あれってもしかして……村、だったものですか?」

「ん、あぁあれか。あれは数年前に小規模のスタンピードで滅んだと言われる村さ」


 スタンピードで滅ぼされた村跡ってこと?


「大規模や中規模のスタンピードなら前兆が分かりやすいから対応できるけど、小規模のスタンピードは前兆は小さかったり無かったりして気づかれないことが多いんだ」

「前兆ってどんなものなんですか?」

「赤霧が発生するんだ。それがなんなのか分からないけど、瘴気が可視化されたものだと言われているね」


 スタンピードに前兆なんていうものがあったなんて知らなかった。これは忘れないように覚えておこう。


「多分、この一帯に赤霧が発生してスタンピードが起こってしまったんだろう。赤霧発生を見逃してしまってこんなことになったんだと思う」

「分かりやすい前兆なのに見逃してしまったんですね」

「赤霧が発生した場所が離れたところだったから見逃してしまったんだと思う。分かりやすく村に発生すればいいんだけど、そんな上手い話はないだろう?」


 瘴気があるところには魔物がいるっていうけど、瘴気が魔物を生み出しているのかな? でも、そうだとしたらどうやって魔物は生み出されているんだろう。


「魔物ってどこから現れるんでしょうか?」

「さぁ、どこからだろうね。僕が聞いたところによれば瘴気から生まれているとか、魔物が沢山いる異世界に通じている何かがあるとか。そんな話を聞くけど、何が正しいかなんて誰にも分からないさ」

「魔物って未知の存在なんですね」

「どこかで生まれて、増えて、僕たちの居場所を奪っていく敵だからね。その数を減らすために冒険者がいるんだろう?」


 魔物のことは誰も詳しくは知らないらしい。でも、実は解明されていて事実を公表したくないから伏せているっていう可能性もある。


 私たちにとって未知の生物の魔物は本当に厄介ものだ。いくら倒してもどこからか湧いて出てくるし、減った分だけ増えている可能性もある。


 冒険者はそんな未知の生物の対抗手段の一つだ。スタンピードを起こさせないために、日常的に冒険者に魔物を狩らせている。もちろん、国も騎士や兵士を使って魔物を討伐したりしている。


 そうすると一つの疑問が浮かんでくる。スタンピードを起こさせないために魔物を狩ることは、そんなに効果的じゃないんじゃないかって。


 だって、結局は赤霧が発生したらスタンピードが起こるんだから、あんまり意味がないんじゃないかって思ってしまう。魔物が増えると赤霧が発生してスタンピードが起こるって考えれば少しはスッキリするけど。


 スタンピード、赤霧、瘴気、魔物……これらの関係性ってどう繋げていけばいいんだろうか。なんだか話がややこしくなってきた。


「冒険者が魔物を倒すのはスタンピードを抑えるためって、講義の時に聞きました。でも、スタンピードって赤霧が発生してから起こるものだから、あんまり意味がないんじゃないかって思っちゃいます」

「小規模なら前兆が無い場合もあるって言ったろ? 僕の考えだと、普段冒険者が魔物を狩らないとそんな前兆のないスタンピードが起こってしまうんじゃないかな」


 そっか、前兆のないスタンピードだってあり得るんだ。第一は魔物を氾濫させないために、日常的に魔物を討伐することだ。


 記憶はないけど、私もスタンピードで町を追われてしまった。今、幸せに町に住んでいる人たちが居場所をなくさないように、私と同じにならないように魔物討伐も頑張っていきたいな。


「今までお金を稼ぐためっていう意識で魔物討伐を頑張ってきましたけど、改めて冒険者の存在意義みたいなものを確認できました。うん、スタンピードを起こさせないために頑張らないと」

「ふふっ、そうだね。僕みたいに非力な人は冒険者に頼るしかないから、頼んだよ」

「はい! 魔物が襲って来たら、逃がさないように全滅させてみせます」

「おー、頼もしいやら怖いやら」


 ファルケさんはそう笑って冗談を言ってくれた。


「後ろに戻りますね」

「あぁ、魔物に襲われないように見張りをよろしく頼むよ」

「はい!」


 私はその場で立ち止まり馬車が前に進むのを待つ。それから馬車の後ろが目の前に来ると、その後を追うように歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 霧確認を含めて難民地区周囲の討伐かあったと気づきあってもよかったのでは
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