8 勝負 ※ 水無月啓一視点
「ばあちゃん、麻雀勝負といってもみんなが麻雀をできるとは限らないよ」
この水無月の家では俺が小さい頃は盆暮れには親戚が集まりその度に夜ごとジャラジャラじゃらじゃらという音がしていたものである。
そんな訳で実は俺も小学校の低学年の頃からルールも役も知っていたりする。
「私は大丈夫よ。バラエティの企画でやったことがあるから」
そう言って胸を張ったのは紗良さん。
この人は今回の帰省で俺の見る目がいい方に大きく変わった人だけどまだまだこの人のことは知らないことが多そうだ。
というかテレビ局は神女優にいったい何をやらせてるんだろうか?
「私もルールは知っていますので卓を囲めと言われれば……」
「え゛っ!?」
思わず変な声が出た。
意外だ、まさかサヤちゃん、ギャンブルが好きだったりするのだろうか……
「違いますよ! 私は外で遊べなかったので室内で遊べるゲームはひととおり嗜んでいるというだけですからっ!」
俺の疑惑の視線を感じたのかサヤちゃんがちょっと前のめりにそう言った。
うん、俺はサヤちゃんを信じるよ。
「あー、俺は大学に入って友達と何度かやったことあるから大丈夫だ」
「ほれ、問題ないじゃろ」
ばあちゃんはそう言うとこたつを運んで来た。
正方形の天板のこたつで天板をひっくり返すとグリーンの麻雀マットが姿を見せる。
マットはところどころが擦り切れていてかなり使い込まれていることが分かった。
麻雀牌を用意すれば準備完了だ。
「水無月家ルールの説明をするよ。基本的なところは一発裏ドラあり、食いタン食いピンフはなし。後は都度聞いておくれ」
今回の勝負はチーム戦なので返しはなしの各人2万5000点スタートでチームの合計点で競う。箱下になったメンバーのチームは即負けのルールだ。
こうして俺と慎吾の男性チーム対紗良さんとサヤちゃんの女性チームの戦いが始まった。
「おっ、北が来た」
「ふふっ、慎ちゃん背中が煤けてるわよ」
麻雀の楽しいところはその打ち筋に性格がモロに出るところだ。
あと会話の内容でミーハー度が分かる。
慎吾みたいなことを言ってるやつは大体経験の浅いヤツだ。
あと紗良さんは言葉だけじゃなくて演技をしながらだから格好が様になっている。
哭きの〇か、懐かしいな。
その一方で静かに淡々と打つサヤちゃんを見る。
ふむ、サヤちゃんは静かだ。
表情が変わらないしダマテン注意だな。
「くっ、くっ、くっ。リーチよっ!」
シャリーンと紗良さんが千点棒を卓に出した。
10巡目。
――ざわざわざわ
ギャラリーがばあちゃんしかいないはずなのに聞こえるはずのないざわめきが聞こえる。
紗良さんの支配する空間に入ってしまったようだ。
それにしても今度はア〇ギか。
さすがは大女優、持ちネタが多いな。
あの漫画の作者さんは今でこそカ〇ジの方が有名になっているが俺はやっぱりア〇ギだな。
しかし、紗良さんは捨て牌からお手本通りのタンピン狙いは見え見えだ。
しかも索子が危険なことも丸分かり。
まあ、俺の手配は全然進みそうもないからここは無理せず降りでいくか。
「五索」
「ロン! リータンピンドラドラ、満貫8000点よ」
「うっそー!」
慎吾が振り込んだ。
ウッソー捨ててうっそーってそりゃあ俺のセリフだろう。
なんでそんな危険牌ど真ん中を捨てるんだ?
――じゃらじゃらじゃらじゃら
「なあ慎吾、何かでかい手でも張ってたのか?」
洗牌しながらちょっと聞いてみる。
「いや、別にそんなことはないんだが……」
「……そうか」
ダメだ。
慎吾は残念ながらホントに初心者であることが確定した。
これは期待できない。
俺が何とかしなければ……
――タン、タン、タン
南場も終盤に入るとみんな口数が少なくなった。
紗良さんはどちらかと言えば大きい手を狙って大胆な打ち筋。
勝負に出るところは出てきて入りも大きいが出も大きい。
それでも収支はプラスで今だいたい3万点くらい。
サヤちゃんはこれまで一度も振り込んでいない。
そして俺がツモ上がりしたことで減った点数は直ぐに取り返す。
だいたい2万5000点で収支はほぼプラスマイナスゼロ。
これはあの有名な漫画のやつだな。
狙ってるのだろうか。
一方の俺たちは俺が3万8000点で4人のうちトップ。
で、慎吾が7000点で一人負けの青色吐息だ。
トータルでは4万5000点対5万5000点で約1万点負けているがなんてことはない逆転できる範囲だ。
南3局は全員ノーテンでうちルールでは親流れ。
ついに南4局、オーラスに突入したのだが、
「ツモ、ゴミ」
あっさりサヤちゃんがしょっぱい手で上がって俺たちの負けが決まった。
実は南4局をもう少し書こうかと思ったのですが本話はルールなどが分からないと面白くないだろうし人を選ぶと思いましたのであっさり終わらせました。
さらに当初の予定では、ばあちゃんが「水無月が負けたままで終わるのは許されない」と言いだして慎吾と代わって第二戦が始まるという構想もあったのですがさすがに止めました。
ちなみにばあちゃんは爆牌を打てます。




