9 恋人タイム ※ 藤嶋慎吾視点
打ち上げとその後の麻雀勝負を終えてお風呂をいただいた俺はサラの待つ部屋へと戻った。
勝者の権利ということでお風呂にはサラたちが先に入り、続いて俺たちが入った。
「今日はつかれたね~」
既に就寝の準備をしているサラが布団の上に足を崩して座っている。
一昨日からこの家でお世話になって今日で3泊目。
もう見慣れたサラの布団の隣に敷かれた俺の布団の上に腰を落とすとあぐらをかいてサラに向き合った。
「そうだな。今日はサラもお疲れだったな」
「ほんとだよ~、もう慎ちゃんポイントは空になっちゃったんだから」
サラは付き合う前から慎ちゃん分が足りないなどといって俺にくっついてきていたが付き合うようになってそれは慎ちゃんポイントとかいう謎のポイントに格上げされその増減を表現するようになった。
略称はSPというらしい。
「んふっ♡ 慎ちゃんポイントほじゅ~」
サラが俺の布団に侵入して来てそう言うや俺に抱き付いて来た。
サラはお風呂から上がって時間が経っているのに拘らず、しっとり汗ばんでいて甘い匂いがした。
「どうした? 今日はやけに甘えるな」
「だってぇ~、本当に今日はもうスッカラカンなんだもん。しっかりぎゅ~ってしないとちゃんと補充できないよ」
サラは演技をするとSPを消費するらしい。
今日は短いとはいえ、演劇でかなりSPを使ったそうだ。
仕事ではなくプライベートということもあってかいつもよりも出力がマシマシだったらしい。
「それにしてもこんなサラの姿、他のやつらには見せられないな」
「ん~?」
サラは目を細めて俺の胸に顔を埋めて頬をスリスリする。
そんなサラの艶々の黒い髪に手を伸ばして頭を優しく撫でた。
「ゴロゴロ♡」
サラは俺に匂いをつける猫のように甘えてくる。
他のやつ、恐らく啓一すら気付いていないだろう。
みんな、女優として振る舞う藤嶋紗良のことをサラの素だと思っている。
その藤嶋紗良を起点としてサラは与えられた役どころを演じている、そう思われているのだろう。
しかし、その女優としての藤嶋紗良もサラが演じる役どころの一つに過ぎない。
堂々と自信たっぷりに胸を張って行動する姿に多くの人は惹きつけられるのだろう。
しかし、本当のサラ、藤堂更紗は引っ込み思案で自分に自信がない、いつも人の後ろに隠れるようなか弱い女の子だ。
サラが俺と付き合うようになってSPの補充がしやすくなっただけでなく、女優の仕事でもSPの消費効率が高くなったとかで今では俺の前でも女優モードで接する時間が増えてきてはいる。
そんな彼女だがいざSPが枯渇して女優モードを維持できなくなるとこんなに可愛らしい甘えんぼさんに早変わりしてしまう。
「それにしてもポイントの減りが早すぎないか? 劇以外に何か特別なことをしたか?」
「したよ~、慎ちゃんは気付いてないかもしれないけどまーじゃん勝負のときに使ったんだもんっ」
「そうなのか?」
俺自身、麻雀にまだまだ慣れていないこともあって自分の手牌を確認したり整理するだけで頭がついていかなかったから正直周りを気にする余裕がなかった。
そう言えば啓一がサラに対して「懐かしいな」とか「そうくるか」とか一人でぶつぶつ言っていたがそれも関係しているのだろうか。
「あー、癒される~、回復する~」
「どうする? 同じ布団で寝るか?」
恋人同士とはいえここはよそ様のお宅ということもあってこの2日は用意された布団にそれぞれで寝た。
しかし、同衾するだけであればいいだろう。
「うんっ、一緒の布団がいいっ!」
善は急げとサラは俺の布団の上に横になると掛布団に中に入った。
「ほらっ、慎ちゃん、はやくっ!」
「まったく、しょうがないな」
俺は電気を消すとサラがポンポンと手で叩いた場所へと潜り込んだ。
「あれ、サラ、枕は?」
「私の枕はコレ」
サラが俺の腕を両腕で抱きしめる。
そう言えば最近はしてなかったな。
「はい、どうぞ」
「うんっ!」
俺の腕を枕にするとサラは俺の方を向いて言った。
「おやすみ、大好きだよっ♡」
愛しい恋人にキスされて疲れから俺も直ぐに眠りに落ちた。
本作のあらすじの告知場所にも書いていますが新作短編です。検索除外設定を掛けていますので下からどうぞ(スマホの方は評価欄の下からリンクで飛べるようにしています)。
「素直にならないと出られない部屋に閉じ込められた喧嘩の絶えない幼馴染の二人はその部屋から出た後つきあうことになったようです」
https://book1.adouzi.eu.org/n6162hc/




