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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之拾参 変わる世界

「それでは、本番といこう」

 雪子学校長の言葉に私はゆっくりと頷いた。

 本番とは、つまり分身の狐を操って『神世界』へ突入させることである。

 突入させた結果どうなるかは不明だが、一番望む結果は、現状のように視界を維持出来たうえで、私が向こう側に行かなくとも操れるという形だ。

 息を吐き出しながら、成功のイメージだけを頭に描いて『黒境』に向けて狐を歩ませる。

「いきます」

 それだけを伝えて、私は狐に『黒境』を潜らせた。


 狐が完全に『黒境』を通り抜け、その姿が完全に消えた。

 姿自体は見えなくなったが、狐自体は未だ歩みを止めていないのが、伝わってきている。

 世界を越えて感覚を共有している異常、視界の共有までしてしまうのは危険と判断した私は、スマホの方の接続がどうなっているか、確認するために雪子学校長に声を掛けた。

「どう、ですか?」

 雪子学校長の後ろから回り込むと、画面は黒一色で何も映し出していない。

「黒……リンクが切れてしまいましたか……」

 私の声は想像以上に落ち込んで聞こえた。

 役に立てると思っていたのに、結果を出せそうにないのが悔しかったのだと気付く。

 けど、悔しがってもどうにも出来そうに無い現状に、私は唇を噛むことしか出来なかった。

 そんな私に振り向きながら、雪子学校長は意外な言葉を放つ。

「そうとも言い切れない」

「え?」

 私が期待を抱いているせいかも知れないけど、雪子学校長の言葉は、気休めなどでは無く、ある種の確信があるように聞こえた。

 それが態度に出ていたのだろう。

 雪子学校長に「そんなに強い期待の目を向けられるとくすぐったくなるね」と苦笑されてしまった。


「簡潔に言えば、君の認識の問題だと思う」

「私の認識ですか?」

「『神世界』は人によってその姿を異にするんだよ」

 雪子学校長の言わんとすることがわからず、思わず「え?」と声が出た。

「それって、どういう……」

 私が詳細を聞こうと切り出したタイミングで、雪子学校長は「人によっては桃の花が咲き乱れる『桃源郷』にみえるそうだ」と口にする。

「桃源郷……ですか?」

 私がそう言葉を返すと、雪子学校長はクスリと笑ってスマホの画面を私に見せた。

「ああ、こんな感じだ」

 そこには桃の花が咲き乱れる桃林が広がっていて、どこまでも青く澄み渡った空と円形に見える緑の山々が、桃の花の鮮やかさを際立てている。

 まるで、CGかなにかで作られたような光景だけど、スマホ経由で映し出されていると言うことは、狐が目にしている景色なのだ。

「これは君の意識が作り出した景色というわけだ」

「……私の意識がですか?」

 雪子学校長の言わんとすることはなんとなくわかる。

 何しろ、雪子学校長の『桃源郷』という言葉を切っ掛けに、まさに言葉通りの光景が狐の目の前に広がったのだ。

 私が頭で思い描いたから、黒一色に見えていた世界に色がついたということなのかも知れない。

 そして、それを肯定するような話を雪子学校長が付け足してくれた。

「『神世界』が人に寄ってその姿を変えるというのは、言葉通りなんだ……今、君は私の発言の影響で『神世界』が桃源郷に見えているが、ビルが建ち並ぶ摩天楼だったり、江戸時代の町並みだったり、石造りの建物が並ぶ西洋の街だったり、お菓子の木や家が並ぶ現実にはあり得ない光景まで、見るモノが見たい光景に変わる」

 私はそこまでは理解出来たと頷く。

 が、どうしても気になることがあったので、すぐに質問を口にしてしまった。

「私には桃林が並ぶだけの光景に見えてますけど、摩天楼……ビル街に見えている人にとって、建物には立ち入れないのですか?」

「いや、普通に立ち入れる。それどころか、高層ビルで、エレベーターがあると思っていれば、乗って上層階に移動することも出来る」

「……え?」

 雪子学校長の言葉に、私は目を瞬かせる。

 だが、このまま流されても困るので、私は踏み込んで尋ねることにした。

「それって、桃源郷に見えている私から見たらどう見えるんですか?」

 私の質問に対して雪子学校長は苦笑しながら「そのまま、宙に浮かんで上層階であろう場所まで飛んでいったように見える」と言い切る。

「な、なる……ほど……」

「君のようなイメージの力、想像力が強い人間には、桃の木の枝が足下に現れて、それが天高く伸びて運んだように見えるかも知れないがね」

 雪子学校長の言葉に、私は一つの閃きを得た。

「それって、天高く伸びた木の枝に、私が触れることも出来るのでは?」

「もちろん……君が木の枝が伸びたとイメージ出来ているならできるだろう」

 雪子学校長の力強い返答に、体が震える。

「そう……『神世界』はイメージが世界を形作る世界だ。そこが溶岩流れる火山の火口だと思えば灼熱の世界に。いかなるモノも凍てつく氷の世界だと思えば極寒の地に変わる」

 そこで要った話を切った後で、雪子学校長は私をじっと見た。

 雪子学校長はしばらく黙って私を見詰めた後で、私の聞きたかったことを先回りして口にする。

「自分と相手のイメージが異なる場合、イメージの強い方の世界が影響を及ぼすことになる」

 その言葉を聞いた私はゴクリと唾を飲み込んでから、少し自分の呼吸が乱れたのを感じて、深く息を吐き出した。

 口にするのが少し怖いような、しかし、確認しなくてはいけないことを頭に描いて意を決する。

「……つまり、氷と炎の世界をイメージした二人がいた時、そのイメージが強い方、氷が勝てば氷の世界に、炎が勝てば炎の世界に変化するということですね?」

 私の言葉に、雪子学校長は表情を引き締めてゆっくりと頷いた。

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