肆之漆 新アプリ
頭に浮かんだテレビを出現させようとするが、分身の時と違ってなかなか形になる気配がしなかった。
皆の助けになるためにも、早く次のステップに行きたいという焦りが、私の中で大きくなっていく。
それでも自分の中の冷静な部分が、焦りは大きな失敗を呼び込むと訴えてくれていることで、私はどうにか集中を保てていた。
その上で私は、無理に継続することが得策では無いと判断して、一旦集中を切る。
仕切り直すつもりで、目を開いて息を吐き出すと、雪子学校長と視線が交わった。
「流石の卯木くんにも難しかったかね?」
そう尋ねられて、私は素直に頷きで応える。
もう一度、あるいはあと数回挑んでみればどうにかなるという感覚では無かった。
むしろ、このままではこの壁を乗り越えられないだろう。
「テレビ……機械を出現させようとするのが難しいのかも知れません」
私の言葉に雪子学校長は「ふむ」と真剣な表情で頷いた。
それから雪子学校長は、私と分身の全身に視線を巡らせてから「制服、だけを出すことは出来るかね?」と質問してくる。
「なるほど、無機物だけが出せるか……ですね?」
「試す価値はあるだろう?」
好奇心に背中を押され、短く「やってみます」と伝えてから意識を集中した。
しかし、制服だけを出現させようとしても、上手く力が収束していかない。
それでも少し長めに挑戦を続けてみたが、やはり制服を出現させることは出来そうに無かった。
集中を解いて、集まった力が分散していく。
私の様子から状況を判断した雪子学校長は「……制服のみを出現させるのは無理か……」と顎に手を当てて考え始めた。
「あの、雪子学校長、私なりの仮説ですが……」
雪子学校長は顎に当てていた手を外して、短く「聞こう」と返してくる。
私は頷いて仮説を口にした。
「制服を分身に着せること……つまり、無機物である服を着せる形で出現させることが出来るのに、単独で出現させられないのは、私の能力があくまで『自分に似たもの』を出現させる能力で、服はその付属品として出現させられたのでは無いかと思うんです」
雪子学校長は「恐らく、君の考えは正しいだろうね」と頷いてくれる。
「……というよりも、君のイメージが能力の根幹である以上、君が思い描いたそれが気にが能力を扱う上でのルールということだ」
雪子学校長の言葉に頷きで応えながらも「でも、そうなると、テレビというのは……難しいかも知れません」と自分の中の感覚を伝えた。
対して、雪子学校長は自分の手の中のスマホをこちらに向けて「これは?」と尋ねてくる。
「可能性はあるかなと、私も思ったんですけど……」
そう言ってベッドの上の分身に視線を向けた。
自分の中に既に無理そうだなという感覚があるが、確認は必須なので「試してみても良いですか?」と雪子学校長に確認を入れる。
「もちろん」
雪子学校長の答えに、私は頷いてから、分身に手を向けて意識を集中させた。
「スマホは機械だからか、出現させられませんでしたね」
私の言葉に、雪子学校長は「いや」と首を振った。
実際出現していないのに、何故否定されたのかわからず目を丸くすると、雪子学校長は私の思い付かなかった可能性を口にする。
「君の認識の問題かも知れない……今、卯木くんは自分のスマホを持ち歩いていないわけだからね」
「それって、私用のスマホがあれば」
「認識が変わる可能性がある」
雪子学校長の意見を聞いた私は、確かにある得ると思った。
むしろ、この私が確信を持てるかどうかということが、出現を決めている気がするので、これで出せるようになるかも知れない。
「とはいえ、スマホの出現テストは、君の手元にスマホが……」
恐らく雪子学校長は、先の話になると思っていたんだろうけど、分身の手の上に四角い機械の板が出現したことで固まった。
「……君の認識次第というのは、証明出来たようだね」
もの凄い疲れた表情を見せる雪子学校長だが、その手には分身の上に出現したばかりのスマホが握られていた。
軽くインターネット検索を試し、成功したことでスマホとして使えそうと言うところまでは確認している。
ちなみに、どのように影響が出るかわからないので、課金が必要なコンテンツへのアクセスやアプリの使用はしないことにした。
制服の時も完全コピーだったので、クレジットとか端末の識別とか、京一の時のスマホそのものの気もしなくも無いけど、何か架空の番号などが紐付けられていた場合、システム障害や法に触れる行為に繋がる可能性を加味しての判断である。
それよりも、私たちが注目したのは、スマホの中に出現した新たなアプリだった。
イソギンチャクのように何本もケーブルを背負ったテレビに、雷が突き刺さったような初めて見るアイコンの下には『異界NetTV』の文字が付与されている。
直前まで、異世界と繋がり映像情報を映し出す手段としてテレビを想像し、電波か有線で映像を受信してと、映像を映し出すまでの流れを考えていたのもあって、私には『これしかない』という確信があった。




