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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之参 予兆

 一日の流れは、前日とほぼ変わりのないものだった。

 グループ学習のように机を合わせて、各自が『京一』の用意した問題集を教えあいながら熟していく。

 監督は雪子学校長から、花子さんに代わっている点は違うと言えば違うが、恐らく分身について調べてくれているのだ。

 そう考えると、分身がどんな状況になっているのか興味が湧いてきてしまい、何度か『同調』する誘惑にかられたが、その度に涙目で心配してくれた花子さんの表情が頭に過り、思いとどまれている。

 この体になってから、もの凄く好奇心が強くなったなと思いながら、問題を解いていると、那美さんから声が掛かった。

「リンちゃん、この解き方わかる?」

 そう言われて示されたのは少数同士のかけ算で、小数点を打つ位置さえ間違わなければ、普通の掛け算で解けることを伝えて実演してみせる。

 すると那美さんが「すごいね、リンちゃん」というので、慌てて首を振った。

「そんなこと無いよ。那美さんだって慣れれば簡単にできるようになるよ」

 そう返した私に対して、意味深に見える笑みを浮かべて那美さんは「でも、これ、五年生の算数だよ」と言う。

 直後、好奇心を抑えることに意識が言っていて、自分の設定を完全に忘れていたことに背筋が凍った。

 けれども、このまま黙り込んでしまっては、それこそ良くないと思った私は起死回生の返しを思い付く。

「えっと、受験、受験するから塾で習ってたの!」

 そう返すと那美さんは表情を明るくして「それじゃあ、六年生の範囲も教えて貰える?」と尋ねてきた。

「きょ、教科書見ながらなら、多分……」

 表情を更に明るくした那美さんは「おーーー」と言いながらパチパチと手を叩く。

 私の事情で、担任不在なので、このくらいは良いだろうと思いつつ、花子さんをチラリと確認した。

 花子さんはこれまでの会話を聞いていたけど、特に気にした素振りを見せていないので、任せてくれると言うことだろうと思う。

 そんなことを考えていると、結花さんが「リンちゃんは、私立の学校に入りたいの?」と真剣な顔で尋ねてきた。

 結花さんの表情で、ここに暮らす子達が特別な環境にいることを嫌でも思いだした私は、少し考えてから答えを返す。

「うーん。別に行きたい学校があったわけじゃ無いよ。でも、勉強は出来る時にやっておきなさいって学校の先生に教わって、自分で勉強するようになって、それで勉強が楽しくなって、塾にも通わせて貰ってたんだよ。受験は絶対したいと思ってたわけじゃないし、今はここで皆と頑張りたいって思っているよ」

 私の一方的な演説は、一応、京一としての過去をなぞったものだ。

 受験と塾は那美さんへの回答のために、付け足したけど、言葉をくれた先生も、勉強が楽しくなったのも実際に経験したことである。

 小学校の時に出会ったあの先生がいなかったら、私は教師を目指していなかったかもなぁと思い出に浸っていると、結花さんがホッとした顔で「ここが嫌じゃ無いなら良いわ」ととても小さな声で呟いた。

 その表情と呟かれた言葉に、このまま流してはいけないと、私の直感が訴えてくる。

 なので、私は少し大きめの声で、順番に顔を見ながら今思っていることを伝えた。

「私はここに来て未だ少ししか立っていませんけど、結花さん、舞花さん、那美さん、志緒さん、東雲先輩、花子さん、雪子学校長。皆と過ごすのは楽しいです。皆優しいですし、ここに来られて良かったと思ってますよ」

 私の言葉に皆がそれぞれ笑みを浮かべてくれて、それがとても嬉しい。

 ほっこりとした気持ちを味わいながら、勉強に戻ろうと促そうとしたタイミングで、全身に気味の悪い気配がまとわりついてきた。

「なっ」

 あっという間に全身に寒気が走り、服の下に隠れていても、鳥肌が立ったのがわかる。

 自分に起こったことに戸惑っている私に対して、他の皆は冷静だった。

 問題集と筆記道具を片付けると、皆はゆっくりと立ち上がる。

 志緒さんが私に「リンちゃんも感じるんだね?」と尋ねてきた。

 今感じている悪寒のことを言っているんだろうとは思うけど、一つの誤解が致命的になる可能性も考えて、私は敢えて質問を返す。

「この、寒気というか、嫌な気配……ですよね?」

 私の問いに答えをくれたのは花子さんだった。

「凛花さんが感じ取ったのは、災厄の種が生まれた気配です」

「それじゃあ……」

 これから皆で祓いに行くんだと思うと、脳裏に東雲先輩の腕が吹き飛んだ光景が浮かぶ。

 その時自分の顔がどうなっていたかはわからないけど、少なくとも舞花さんには不安そうに映ったに違いなかった。

「大丈夫だよ、リンちゃん、先輩達に任せておきなさい!」

 明るい口調でポンと自分の胸を叩く舞花さんに、私は上手く表情を作れていないのを自覚しながら、精一杯の笑顔を見せる。

 それから、花子さんに視線を向けて「あの、私も行ってはいけませんか?」と私は『放課後』への参加を志願した。

 そんな私の言葉に、花子さんは困った顔を見せて「お姉ちゃんに聞いてみましょう」と答えてくれる。

 こうして、私は皆と供に、地下の『黒境』の部屋へと向かった。

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