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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之拾肆 ねっ

 黒板に名前を書いて振り向くまで、私の意思とは関係なく動く体のお陰でやり遂げたが、しかし、教室へと体を向けたタイミングで、その自動運転は終わってしまった。

 私の意識としては、何か言うべきタイミングで、放り出されたという認識である。

 どうすれば良いのかという思いと、何かしなければという焦りで、混乱した頭は、私の次の行動を導き出してはくれなかった。

 そんな混乱状態の私の肩に、トンと手を置きつつ雪子学校長が「ほら、自己紹介」と行動を示してくれる。

「は、はい」

 雪子学校長のサポートで、自己紹介をすれば良いのだと、すべきことを気付かせてくれたことに感謝した私は、そこで一拍おかずに口を開いた。

「私は林田……」

 そこまで口にした瞬間、私の肩に置かれた雪子学校長の手に、ギュウッと痛いと感じる程の力が籠もる。

 同時に『林田京一』と名乗り掛けていた自分に気づき、無理に会話を修正した。

「先生……に会えなかったですが、心配だなって思いました」

 何の話をしているんだと自分自身でツッコミを入れたくなる言葉だったが、教室を見れば、心配そうな顔で頷いてくれている結花さんと舞花さん、じっと見詰めている志緒さん、東雲くん、ニコニコと微笑みかけてくれている那美さんと、表情は様々だが、何かを言いたそうな人はいなかったので、このまま自己紹介を終わらせることに決める。

 すうっと息を吸い込んで、気持ちが折れる前に一気に言い切った。

「う、卯木凛花です。五年生です。よろしくお願いします!」


 頭を下げたまましばらく、シンと静まりかえっていた教室にパチパチと拍手が起こった。

 慌てて頭を上げると舞花さんが拍手をしてくれていて、次いで結花さん、那美さん、志緒さん、東雲くんと拍手の輪が広がっていく。

 その光景に私は大きく息を吐き出してしゃがみ込んでしまった。

「リンちゃん!?」

 驚いた舞花さんの声に、私は慌てて「だ、大丈夫です!」と無事を伝える。

 それだけでは不安そうな表情を解いてくれなかったので、私は更に「き、緊張が解けただけなので」と付け加えた。

 すると「えー、昨日お話ししたのに、緊張したの?」とちょっとふざけた感じで、席を立った結花さんが私の方へと近づいてくる。

 続いて舞花さんも席を立つと、同じく私の方へと近づいてきた。

 何が起こるのか、わからず固まってしまった私を二人はするりと通り過ぎていく。

「えっと?」

 二人の行動の意図がわからずに振り返ると、そこにはチョークを手に自分の名前を各二人の姿があった。

 白いチョークで書かれた『結花』も『舞花』も、書き慣れてないからか『花』に対して『結』と『舞』の字が大きい。

 そんなことを思っていると、結花さんも舞花さんも自分の名前の花の字を指さしながら「「ほら、お揃い」」と声を揃えた。

 私は思わず笑顔になって立ち上がると、自分で書いた凛花の『花』の字を指さして「お揃いですね」と頷く。

 すると、そこに、雪子学校長がつま先立ちで背伸びをして、結花、舞花の名前の上に『鏑木』と書き込んだ。

 雪子学校長は書き終えた『鏑』の字を指しながら「この字は小中学校では習わない漢字だからあまり目にしないかも知れないが、これで『かぶら』と読む」と口にする。

「これに『木』を付けたのが二人の名字……」

 雪子学校長の説明の言葉をふりにして双子が「「か・ぶ・ら・ぎ」」と声をハモらせる。

 語尾は結花さんが「よ」と一音、舞花さんは「だよ」と個性が出た。


 手を差し伸べてくれた結花さんと舞花さんの手を借りて立ち上がると、いつの間にか那美さんが私たちの前に立っていた。

 頬に手を当てて、どこか大人びた素振りを見せつつ那美さんは「三人とももう仲良しなのね」と笑みを浮かべる。

 私は『仲良し』と評されたことが嬉しくもあり、気恥ずかしくもあったので、率先して「昨日廊下で顔を合わせたんです」と出会いを伝えた。

「そうなんだ」

 那美さんは私の言葉に頷きで応えると、赤というよりはピンクに近い色のチョークを手に取る。

 ひらがなで『みつみねなみ』と自分の名前を書いてから、那美さんは「『み』が多いのよ、私」と溜め息を零した。

 私は那美さんの不満げな様子に、思わず尋ねてしまう。

「あの『み』が嫌いですか?」 

 すると那美さんは驚いた表情を見せて「そんなことないわよ。ただ『み』が三つでしょ。だから、私の名字は『三つみ、ねっ!』で覚えると覚えやすいかも」と言い放った。

 予想外の返しに、私は思わず吹き出してしまったが、それから、なるほどと頷く。

 話の流れから名字で呼んだ方が良いのかなと思って「三峯さんですね。覚えました! よろしくお願いします」と伝えた。

 けど、三峯さんはすぐに唇を尖らせる。

「私も名前で呼んで欲しいわ」

「え!? 名字の話をしてたから、名字で呼んだ方が良いのかと思いました!」

 私は素直に名字呼びをしようとした理由を口にした。

 すると「自己紹介の時にしか、このネタ使えないでしょ? だから使っただけなのよ」と三峯さん、改め那美さんは胸を張ってみせる。

 私は笑い出してしまうのを堪えながら、那美さんの要望に応えることを伝えた。

「わかりました、那美さんって呼びます」

「あら、なっちゃんとか、なみなみとか、ウェーブとかでも良いのよ?」

 私の言葉に対して、いきなりハードルの高い呼び名を那美さんは提示してくる。

 どれもすぐに採用するのは、私には気恥ずかしくて無理なので尋ねてみた。

「あの……慣れてきたらでもいいですか?」

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