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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之拾弐 通学スタイル

「はい、完成です」

 一度完成した髪を解いて、結い直して、再び完成までの時間はとても早かった。

 にこやかに完成を宣言したタイミングで、花子さんは手にした手鏡を使って、私の背中側の様子を鏡台の鏡越しに見せてくれる。

 そこには、丁度首筋から背骨の上を真っ直ぐ通るように一本にまとめられて、結い上げられた太めの三つ編みが鎮座していた。

「椅子に座る時に、背もたれと背中で三つ編みを引っ張らないように気をつけてくださいね」

 花子さんにそう忠告された私は「わ、わかりました」と頷いたものの、具体的にはどうするかが思い付かずに、考え込んでしまう。

 すると、横で見ていた雪子学校長が、呆れた様子で「だから、卯木くんは考えすぎなんだ」と言いながら歩み寄ってきた。

 それから私の三つ編みを掴むと「こうすれば良いだけだよ」と肩へ回して、体の前へと垂らす。

 すぐに思い付きそうな簡単な対処方法に、まるっきり頭を使えてない自分を自覚して、私はとても恥ずかしくなってしまった。

 そんな私に、花子さんは優しく頭に触れながら「簡単に結べますから乱れてもいいんですよ」と言ってくれる。

 気遣ってくれる事自体は嬉しいと感じているのに、その気持ちがとても申し訳なくて居たたまれなかった。

 胸の内でこんな私でごめんなさいと思いながら私は雪子学校長と花子さんに「二人ともありがとうございます」と感謝の言葉を伝える。

「気にしないでください。まだまだ慣れていないんですから」

 花子さんはそう言って微笑んで、雪子学校長は黙って私の頭を撫でてくれた。


「早速だが教室に向かおう」

 なんだかに合わないゴツゴツした腕時計を確認した雪子学校長の言葉に、私は頷きつつ「はい」と返事をした。

 直後、花子さんに「はい、凛花さん」と声を掛けられて、振り向くとそこにあったものに私は思わず絶句する。

 花子さんの手の中にあるとても鮮やかな赤いランドセルは、とてつもない存在感を放っていた。

 一応、私は小学校五年生の女の子を演じる訳なので、ランドセルを背負うのはむしろ当たり前だけど、その事がすっかり頭から抜け落ちてしまっていたこともあって、とても衝撃的光景に映る。

 制服を着ることにはそれほど抵抗はなかったのに、花子さんに広げられたランドセルの肩紐に腕を通すのは、なぜだか抵抗があった。

「大丈夫ですよ、サイズはバッチリ調整してありますし、お姉ちゃんに今日使う分の教科書を聞いて、中身は最低限にしてますから重すぎることも無いです」

 笑顔で花子さんに断言されてしまうと、いよいよ背負う以外の選択肢は無い。

 気分が乗らないという説明しづらい理由で拒否するわけにもいかないし、これも凛花として過ごす為だと自分に言い聞かせて、赤いランドセルの肩紐に左腕を通した。

 花子さんにもって貰ったままで、体を半回転させると、背中にリュックサックとは違うランドセル特有の板のようなそれでいて柔らかい感触が触れてくる。

 何故かもの凄く心臓がバクバク言って、頬が熱くなってきたけれど、ここで止まると拒絶してしまいそうなので、右側の肩紐を右手で掴んだ。

 それから先に右肘を肩紐の間にくぐらせて、肩への食い込みを調整するようにランドセルの位置を軽く整えてから、ジャンプまでは行かない程度に体を上下させて最後の調整を行う。

 子供の頃やっていた動作が自然と出てしまったことに気付いて少し恥ずかしくなったし、未だ心臓は騒いでいるけど、どうにか背負うことは出来た。

 ランドセルを無事背負い、小さな達成感を覚えた私だったけど、実は配慮が足りていなかったのだと、花子さんの言葉に教えられてしまう。

「凛花さん、可愛いですよ。でも、髪の毛は気をつけないとですね」

 私の後ろに下げていた太い三つ編みはその花子さんの言葉と共に、背中とランドセルに挟まれないように持ち上げられて、右の肩紐の横へと垂らされた。

「あと、もう少し胸が大きくなってブラジャーをすることになった時に、ホックが圧迫されちゃうので、ランドセルを背負う小学生の間はスポーツブラとか、カップ付きのキャミソールとかがおすすめですよ」

 予想もしていなかった花子さんのアドバイスに、最初は意味がわからなかった私は「えっ?」と戸惑いの声を漏らしてしまう。

 けれど、時間経過と共にその言葉の意味が頭に入ってくると、今度は妙な恥ずかしさで頬が火傷しそうな程熱くなった。

「わ、わきゃりましりゃ」

 大分あやふやな発音になってしまったモノの、変に言葉が続くのは危険と判断した私は、言葉を断ち切るように花子さんにそう告げて、インナー関連の話は棚の上に放置することにする。

 すると今度は雪子学校長が、私のまで来て急に背伸びをして、私の頭に何かを被せた。

 すぐに視線を鏡に向ければ、そこには紺色の帽子が乗せられているのが見える。

「学帽だよ。校外に出る時は身に付ける決まりだ……まあ、この学校の敷地内にいる時は不要だが、一応、それで通学スタイルの完成だ」

 子供スタイルに戻っているせいで、今の私より身長が低い雪子学校長は、背伸びを辞めるとそう言って笑みを見せた。

「じゃあ、今日は被らなくても良いですか?」

 私は学帽にも何故か照れを感じてしまい脱ごうと手を伸ばしたのだが、何故かその手首を花子さんに掴まれてしまう。

「花子さん?」

「一枚だけで良いですから、その格好を写真に収めさせてください!」

 もの凄く必死な表情で花子さんにそう訴えられた私の答えは、一つしか無かった。

「……はい……」

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