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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐章 変化変容
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弐之漆 敏感な感覚に慣れる

 僕と花子さんはそれなりに時間を割いた風呂場での特訓を終え、学校長室へとやってきていた。

 雪子学校長は自らの机から立ち上がると、僕達の方へと歩み寄ってくる。

「……それで、克服出来たのかね?」

 首を傾げながら放たれた雪子学校長の問いに対して、僕は「いいえ」と答えるしか無かった。

 一応、花子さんと訓練は続けたものの、僕の感情が高まった時はもちろん、ボーッと気を抜いても、尻尾が動き出すことがわかり、短時間でどうこう出来ないという結論に至ったのである。

「それじゃあ、何か手を考えないわけにはいかないね」

 雪子学校長は表情を引き締めて、真面目な声でそう口にした。

 一応『神格姿』といえど、人間……生物である以上、食事も排泄も欠かせないわけで、出さないと言うことは無い。

 そして、学校の責任者であり、花子さん程で無くとも、衛生面には気を遣っている雪子学校長は、僕の現状を看過出来ない問題だと思ってくれていた。

 なので僕は一本の紐を取り出して、花子さんと話し合いの結果導き出した解決方法を示す。

「ん? 紐?」

「これで、結びます」

 そうってワンピースのスカート部分に手を差し込んでお尻と尻尾の間に手にした紐を通し、付け根から少し上で尻尾を持ち上げるように回すと、へその辺りで結んだ。

「これなら、尻尾は降りてこないので、もっと上手く尻尾を操れるようになるまではこれで行きます」

 完全に後ろ側の裾はめくり上がって、お尻も尻尾の付け根も晒されてしまっているが、用を足す時は個室で周囲の目は無いからと、花子さんが渋々ながら妥協した方法である。

 そんな苦肉の策だったが、この姿を見た雪子学校長は口に慌てて手を当てると視線を逸らした。

 笑われているという事実に顔が火を噴き出しそうになる。

 すると当然僕の制御を離れた尻尾が勝手に暴れ出すのだが、紐で縛っているお陰で、お尻から下に下がってくることは無かった。

 とはいえ縛られていることで少し不自由そうに暴れる尻尾は、さぞ滑稽に映ったのであろう。

 この暴れる尻尾を見た雪子学校長はついに声を上げて吹き出した。

 とてつもなく叩きたくなったが、上手く尻尾を押さえ込めていない僕も悪いし、何より今は制御を覚えなければと、無理矢理意識を切り替えて、雪子学校長を頭の中から追い出す。

 結局尻尾を静かにさせるにはそれなりの時間を要したものの、紐で縛り付けるという原始的な方法は想像以上に効果的だったことは証明された。


「と、ともかくだ、難問を一つ攻略出来たようで良かったじゃないか」

 口元をピクピクと震わせながら雪子学校長に対して、僕は「すぐに尻尾を制御しますから!」と睨みながら返した。

 流石に僕が怒っていることに多少気が咎めたらしい雪子学校長は「笑ったのは申し訳なかったと思っているよ。君たちが真剣に取り組んだのもわかっているとも……」と謝罪の言葉を口にする。

「だが、真剣なのはわかっていても、つい微笑ましいと思わせる程、君の容姿が愛らしいということも考慮して欲しい」

「あ、愛らしいって」

 雪子学校長の言葉に反応して尻尾が暴れ始めたが、体に縛り付けているお陰でお尻より下に下がることは無かった。

 作戦は成功しているのに虚しく、それ以前に簡単に言葉で制御を乱してしまうことに、僕は前途の多難さを痛感する。

 そして、そんな僕に対して、雪子学校長は「ふむ」と口にしてから、真面目な顔で考察を口にし始めた。

「君もある程度実感はあると思うが、褒め言葉に強く反応する傾向が強いね。特に容姿に関する事だと顕著だ」

「それは……」

 雪子学校長の指摘そのものが、恥ずかしく思えて、すぐに否定したかったが、しかし、僕の中の冷静な部分はその意見に同意してしまっている。

 そして、その冷静な部分はこの局面での否定は、否定では無く、照れ隠しだという断定を行ったことで、僕は完全に二の句を告げなくなってしまった。

 一方、雪子学校長はそんな僕をじっと見詰めながら「花子」と視線を向けずに花子さんを呼ぶ。

「なんですか?」

 後ろからスッと近づいてきた花子さんは、そのまま僕のお腹に手を回すと、尻尾を縛っていた紐を解いてしまった。

 結び目を探す為だと思うけど、ワンピースの薄めの布越しにお腹の上を滑っていった花子さんの指の感触がくすぐったくて、声を出してしまいそうになって思わず両手で口を押さえてしまう。

 そんな僕の耳に、溜め息交じりの雪子学校長の「……そっちもか……」という呟きが届いた。

「褒め言葉になれれば良いかと思ったが、触れられることにも慣れないといけないようだ」

 雪子学校長の言葉に対して「触れられるのは大丈夫」と口にした直後、花子さんの指が高速で蠢き出す。

 不意打ちでくすぐられてしまった僕は、不覚にも「ふにゃっ!」と単語にすらなっていない鳴き声のような声を漏らしてしまった。

 そしてそれが恥ずかしくて、尻尾が暴れてしまう。

 パシパシと花子さんを叩く尻尾の感覚はあれど、制御出来ないのは、その花子さんが未だに僕をくすぐってるからだ。

「ひょっとぉ、はにゃこしゃん、くす、くすぐりゃにゃいでっ!!」

「これも慣れる為の練習です!」

「そ、そんにゃっくぅっ!」

 くすぐりに耐える為に、体のいろんな所に余計な力が入ってしまい、体中で筋肉が突っ張る感覚がする。

 一方で、くすぐりによって生じるくすぐったさで、僕の体の別の部位では力が抜けてしまっていた。

 弛緩と緊張を全身の至る所で繰り返し、同時に尻尾が大暴れしているのに、花子さんの手は止まらない。

 というよりも脇腹から離れ、首筋に脇の下にと、縦横無尽に僕の体を触れ回っていた。

「みょおお、はにゃこしゃああん!!」

「これも慣れる為です!」

 必死に抵抗しても抜け出せない現実を突きつけられた僕は、より一層抵抗を強めるが、それでも花子さんは手を止めてくれない。

 いよいよ意識が真っ白になってしまいそうなタイミングで、僕の全身から急に、くすぐる手の感触が消え去った。

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