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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之弐拾壱 神世界とカミカクシ

「すまない。君の言葉を誘導したようなモノだね。これでは……」

 雪子学校長は目を伏せてそう口にした。

「そうかもしれませんが……」

 僕はそこで一旦切ってから、できる限り真剣な表情を浮かべて自分の決意を表明する。

「僕に出来ることで、子供達の助けになることがあるのなら、何でもしたいので」

 雪子学校長は僕の言葉に深く頷くと、話を再開した。

「アチラの世界、私たちは便宜上『神々』の『世界』。『神世界(かみせかい)』と呼んでいる」

「神世界ですか……」

「カミといっても、いわゆる宗教で祀るような神様とは少し毛色が違う。人知を超えた、我々の上位、上という意味での『カミ』も掛けてある呼称だよ」

 そこまで説明を受けると、よりなるほどと思えた。

 確かに、地震や疫病の火種なんて、人間よりも遙かに上位の次元での話だし、そもそもそう言った超常的なモノを神として祀ってきた文化がこの国にはある。

 そんな存在の住まう世界を『カミ』の世界と呼ぶのも自然だと思えた。

「……その、神世界に入る為の入り口があの黒い鳥居……ですか?」

「その通りだ」

 雪子学校長は一度大きく頷いてから「しかし」と続ける。

「人間の体では鳥居をくぐることは出来ない」

 僕はその言葉を聞いて、並べられたベッドに寝かされていた子供達の姿を思い出した。

「その、魂みたいなモノを体から切り離して入る……ということですか?」

 これは最早オカルト的な話ではなく、漫画や小説世界の話だが、雪子学校長は「おおよそその通りだ」と肯定する。

「『カミ』の世界に入る『資格』を持つ『姿』。これを私たちは『神格姿(カミカクシ)』と呼んでいる」

「……カミカクシ」

 その単語を聞けば自然と浮かぶのは、人が突然姿を消す現象だ。

 雪子学校長もそんな僕の思考の流れを読んでいたらしく「人が消失する神隠しと同じ響きなののには意味がある」と口にする。

 続きを求めて僕が目線を向けると、雪子学校長は先を話してくれた。

「そもそも、この土地は黒鳥居が出現しやすい……つまり、神世界への入り口が出来やすいんだよ」

 雪子学校長の発言から、その先を想像した僕は「つまり、神隠しがおこる?」と尋ねる。

「ああ……神世界で行動を起こせる姿を『神格姿』と名付けた裏には、異世界に紛れ込んでしまった神隠しの被害者達も、神格姿を得て、生き延びていて欲しいという願いも込められていたんだよ」

 残されてしまった人間の悲しい未練の感じる話に、僕は感想を口にすることは出来なかった。


「要は、その『神格姿』を手にするというか、会得するというかして、その『神格姿』を体から切り離して、『神世界』に入れるようになれば、子供達を助けられるということですよね?」

 僕なりのまとめに雪子学校長は「そうなるね」と頷いた。

「そして、その『神格姿』を僕も手に入れられる?」

 多少確信を持ちながら、雪子学校長の様子を探りながらそう尋ねたのだが、反応はすぐに返ってこない。

 むしろ、悩むような、考え込むような素振りで黙り込んでしまった。

 沈黙する雪子学校長の姿は、それだけで、事はそう簡単じゃないのだと訴えている。

 そうして、しばらくの沈黙を挟んだ後で、雪子学校長がゆっくりと立ち上がった。

「林田先生。見ての通り私の体はこうして年を取っては若返るのを繰り返している」

 そう口にした雪子学校長の姿は子供達とそんなに変わらない年齢まで巻き戻っている。

「この姿は私の『神格姿』なんだよ」

「え? でも、雪子学校長には触れることが出来ますよね?」

 これまでの話の流れで『神格姿』とは体から切り離されて、異世界に立ち入る力だと聞いた。

 だが、雪子学校長には触れることが出来る。

 つまり、肉体であるハズだ。

「落ち着いて聞いて欲しい」

 僕の混乱を見透かしたかのような雪子学校長の言葉で、文字通り思考がストップする。

「私はこの姿のままで『神世界』に入ることが出来る」

 雪子学校長はそこで僕の目を真っ直ぐ見てから、更なる説明を口にした。

「体を『神格姿』と切り離せるのは、子供の内だけで、ある程度体が成長してしまうと、切り離せなくなり、体そのものが『神格姿』へと作り替えられてしまうんだよ」

 そこまで耳にして、ようやくああと、僕の頭が納得する。

 そして、雪子学校長が僕に覚悟を求めた時の言葉が脳裏に蘇る。

 求められた『これまでを捨てる覚悟』とは、雪子学校長のように容姿が変化することを受け入れられるかということなんだと思った。

 だから、その事を直接問うことにする。

「僕も雪子学校長のように、年齢が変化する体になるという事ですね?」

 だが、その質問に対する雪子学校長の言葉は否定だった。

「それはわからない。自分の本質の表れである『神格姿』は、千差万別だからね」

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