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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之拾漆 『放課後』の終わり

「ほんとに……雪子、学校長……ですか?」

 雪子学校長を名乗り姿をい見せた女性は、確かに、花子さんによく似た風貌で、ちゃんと幼い容姿の頃の面影も残っていた。

 だが、いや、だからこそ、目の前の雪子学校長が急に大人の姿になったかも知れないという事実が飲み込めない。

 現実的にはあり得ない出来事は、理屈を頭で思考出来たとしても、曹操受け入れられないのだなと言うのを実感しながら、これは僕の頭が固いせいかも知れないと、思考が脱線し始めた。

「話したいこと、言いたいこと、そして林田先生には聞きたいことがあるだろうけど、先に子供達の様子を見て欲しい」

 雪子学校長を名乗る女性はそう言うと、元来た方へ戻り出す。

『子供達』と言われたことで、気持ちがはやっていた僕は、無言でその後をついて行くことにした。

 無駄な問答をするよりも、まずはこの目で子供達の状況を確認したい。

 そんな思いで雪子学校長に続いて歩いていると、その向かう先に五台のベッドが並んでいるのが見えてきた。

 更に近づくと、一台に一人ずつ子供達が横たわっている。

 思わず駆け寄ろうとする僕の手首を、誰かが掴んで引き留めた。

「待て、林田先生」

 僕の手首を掴んだのは、雪子学校長で、その顔にはとても真剣な表情が浮かんでいる。

 その表情に、はやる気持ちを抑えて、僕は雪子学校長に向き直った。

 想像を超える状況にいる今、感情のままに行動することで、最悪の結果を呼び込む可能性がある。

 そう考えられたからこそ踏みとどまれた。

「子供達は眠っているのと変わらない状態にある」

 雪子学校長にそう言われて視線を向ければ、確かに皆、静かに眠っているように見える。

 よく見れば、一定間隔でゆっくりと胸が上下しているようで、呼吸も正常なのだと想像がついた。

 子供達が大丈夫そうだと認識すると、一気に疲労感が湧いてくる。

「ふぅ」

 僕の行動を待っていたのか、重い疲労感を息に乗せて吐き出したタイミングで、雪子学校長が説明を再開した。

「問題はここからだ」

 雪子学校長の感情がこもっていないような声の響きに、再度、体が強張る。

「子供達の()()、確かにここで眠っている」

 あえて、体を強調して言う雪子学校長の言葉に、僕は「心は違う、と?」と探るように問うた。

「心……精神、あるいは魂と言っても良いかもしれないが、それらは体を離れている」

「それが『放課後』だと?」

 僕の言葉に、雪子学校長は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに元通りの渋い表情に戻す。

「『放課後』とは言葉遊びのようなモノだ。意味の説明は後でするが、要は、子供達は体から魂を切り離しているということをまずは飲み込んで欲しい」

 雪子学校長の話はそれこそ漫画や小説にでも出てきそうな奇想天外な話だが、ここは変に否定を挟んで話の流れを乱す場ではないと僕は判断した。

 壮大なドッキリか何かで、後で馬鹿にされたとしても、もし本当の話をしている場合に、変な横やりが状況を悪化させる可能性を回避出来るのなら構わない。

 だが、雪子学校長は『命を懸け、これまでを捨てる覚悟』を僕に求めたのだ。

 ならば、その言葉通りにこれまでの常識で状況を図ることをしないと、言い聞かせるように頭で繰り返しつつ、雪子学校長の次の言葉を待つ。

 その思いが通じたかはわからないが、雪子学校長は低めの声で説明を再開した。

「……子供達の魂は『カミの世界』と読んでいる場所で、戦っている」

「戦っている?」

 僕のオウム返しの質問に雪子学校長は小さく頷く。

「それも追々説明するが……ともかく、戦わねばならない相手と戦い、まもなく帰ってくる」

 雪子学校長がそう口にした直後、グンと部屋中の空気が重くなった。

 直後、それまではなかったベッドと壁の間に、黒い物体が出現する。

 雪子学校長の変化は直接目にしていなかったが、目の前で何もないところから物体が現れるのを目撃してしまったことで、完全に自分が常識の外側の場所に立ってしまったと実感した。

 目を閉じて息を吐き出して、気持ちを立て直すと、出現した黒い物体に意識が向く。

「これは……黒い鳥居?」

 鳥居は神社などにある赤と黒の建造物で、神域と人の暮らす世界を隔てる境界にして、門の役割もあり、更に、神様が地上に滞在する社に降り立つ際の玄関あるいは目印となる存在だ。

 それが黒一色に塗りつぶされて存在している。

「来るぞ、花子」

「はい。姉さん」

 僕が鳥居に目を向けている間に、雪子学校長と花子さんは、子供達のベッドを挟むように立ち、お互いがお互いに向かって手を伸ばしていた。

 何が起こるのかわからずに戸惑っている僕の前で、それは起こる。

 それまで何事もなくただ寝ていただけに見えた東雲くんのベッドが大きく跳ねた。

 直後、何かがベッドから天井に向かって飛び出す。

 反射的にその飛び出したモノを目で追った僕は、目に映ったモノを即座に認識することが出来なかった。

 見えてなかったわけではない。

 それが何かわからなかったわけでもなかった。

 いや、それが何かわかったからこそ、僕は即座に飲み込めなかったのだろう。

 なぜなら、宙を舞ってベッドの上に落ちたのは、東雲くんの左腕だったからだ。

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