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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之拾陸 『放課後』への誘い

 教室で待機していた僕を呼びに来てくれたのは花子さんだった。

 花子さんは短く「ついてきてください」と口にして教室の入り口で踵を返す。

 僕は慌てて立ち上がると、既に教室を離れてしまった花子さんを追いかけた。


「こちらです」

 花子さんが立っていたのは、本館と学舎の間にある通路、これまでは立ち入り禁止を告げられていた学生寮の棟へ繋がる廊下の分岐路だ。

 そして、花子さんが示したのは、その学生寮への通路である。

「……いいんですか?」

 少し震える声になってしまった僕の問い掛けに、花子さんは小さく頷いた。

「林田先生が覚悟を決めたようだからと……」

 花子さんの言葉に、心臓が強く跳ねる。

 確かに覚悟は決めたけど、それは一人の時に、教室での話だ。

 雪子学校長が、何故、そんな予測を立てられたのかと考えると、気持ちが落ち着かない。

 状況が普通じゃないというのも大きく影響していて、得体の知れない出来事に足を踏み入れようとしているという実感だけが強まってきた。

 それでも、僕はその不安を振り払って、踏み出す意思を改める。

「僕は教師になることができた……夢が叶ったので、次はより理想の教師になると決めたんです。だから、もう立ち止まったり引き返したりはしません」

 花子さんには、何を言っているのか理解出来ないだろうけど、それでも自分の決意を強固にする為、僕はそう断言した。

「……わかりました」

 花子さんは僕にそう言ってカラくるりと踵を返すと、学生寮に続く廊下を歩き始める。

 いよいよだという気持ちと共に、僕はざわめく気持ちを無理に押し込めながら、花子さんの後を追いかけた。


 渡り廊下を過ぎて、建物に入ると、空気が変わったのが変わった。

 どこか気持ちがホワッと暖まるような子供が放つ独特の空気に、思わず身構えてしまいそうな程の緊迫した空気が混じる。

 感じる空気のチグハグさが、僕はやはりこの空間は異質なのだと再認識させた。

 学生寮の作りは基本的に本館とそう変わらない。

 廊下も壁も天井も年季の入った板張りで、僕の使っている部屋と似た作りの扉が廊下の左側に倣っていた。

 右側にはガラス戸が並んでいて、目隠しの役目もあるのだろう植え込みの低木越しに校舎や校庭が見える。

 花子さんは部屋の前を無言のまま通り過ぎると、廊下の突き当たりで立ち止まった。

 追いつくとそこには階段があったのだが、本館と違い、そこには下向き、つまり地下に続く階段がある。

 意思を確認するように花子さんがチラリとこちらを見たので、僕は黙って頷いた。

 花子さんも僕に頷き返すと、迷うことなく地下に続く階段へと降りていく。

 それに続いて、階段の一段目を降りようとした瞬間、肌が粟立った。

 僕はその感触に戦いて足を止めてしまったが、花子さんは平然と階段を降りている。

 軽く服の上から鳥肌の立った腕をさすって気持ちを立て直した僕は、少し速い足取りで階段を降りだした。

 情けない話ではあるけど、階段を降りきる為に、勢いが必要だったのである。

 そうして、どうにか花子さんと間を開けずに地下一階へと辿り着くことが出来た。


 地下一階に足を踏み入れた瞬間、階段の一段目に足を踏み出した時とはまるで違う感覚に僕は包まれた。

 これまで感じていた近寄りがたいような気配ではなく、身が引き締まるようなとても清らかな感覚が肌だけでなく、吸い込む空気や目に映る景色、五感全てから感じられるものに変わる。

 その空気に意図せず、僕の口から「はぁ」と声が漏れた。 

 地下一階は上の階と違い、窓明かりはない。

 代わりに壁には灯りとして、太い和蝋燭に火が灯され、ゆらりゆらりと揺れていた。

 それだけでも、特別な感じがするのに、その蝋燭が設置されている壁の燭台と燭台を繋ぐように藁か何かで編まれた(しで)の挟まれた縄が渡されていて、一目で神域だと主張している。

 縄に垂というのは、神棚や神社などで見かける注連縄と同じな上に、それが一本で繋がれているとなれば、通常領域と神様のいる神域を隔てる境界線となるのだ。

 この張り巡らされた縄が、どういう意図に寄るのか、実際の所はわからないが、僕自身が足を踏み入れた瞬間に感じた清らかさは、神域に入ったのだと確信出来るだけの説得力がある。

 だが、これまで心霊体験だとか、都市伝説だとか、オカルトめいたことについて、知識として知りうることはあっても、実体験したことがなかったので、神域に入ったと確信する気持ちの裏側に、それを疑わしく思う気持ちも存在していた。

 そんな僕に「来たね、林田先生」と奥から声が聞こえてくる。

「雪子学校長?」

 僕が思わず疑問符を付けてしまったのは、雪子学校長と思しき声が、これまでと違うように聞こえたからに他ならなかった。

「やはり覚悟をしてしまったようだね、林田先生」

「え?」

 灯された揺れる蝋燭の光に照らされた雪子学校長の姿に僕は驚愕する。

 なぜなら、奥からやってきた雪子学校長は、これまでと違う、花子さんとよく似た()()()()姿()になっていたのだ。

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