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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之拾参 それぞれの姿勢

「さて、それでは、まずはテストをします!」

 雪子学校長と花子さんは並んで、教室後方に自分たちで用意した椅子に座っていた。

 五人に散れるに並んで座っている子供達は、それぞれ僕の言葉に反応を示す。

「キョーイチセンセー。ユイの実力を見せて上げるわ!」

「……がんばる」

 真っ先に反応したのは結花さんでやる気が満ちた言葉だったし、妹の舞花さんの方も姉に隠れてはいるものの挑戦する気合は十分に感じられた。

 唇を結んで、拳を握って気合を入れている志緒さんの姿には、ついつい色眼鏡は良くないと思いつつも、優等生らしいなと思わさせられてしまう。

 那美さんは特に大きな反応はしていない……というかおっとり微笑んでるだけで、わかっていないんじゃなかろうかと、少し焦りを覚えてしまった。

 東雲くんは、筆箱を開けて中に収められた六本の鉛筆の尖り具合を、自らの指の腹で確認し始めている。

 予想外だったのは、拒否したり、否定的なことを言う子がおらず、皆自分なりに挑もうとしているように見えたことだ。

「このテストは、僕が皆の勉強の進め方の参考にする為のテストなので、わからない問題は飛ばしてください。後日改めて授業で教えます」

「ハーイ!」

「……はい」

「はい!」

「はぁ~~い」

 元気な結花さん、小声の舞花さん、短くハキハキとした志緒さん、のんびりな那美さんとこれまた個性的な返事が返ってくる。

 最後に視線を向ければ、東雲くんも深く頷いてくれたので、早速、できたての問題集を配ることにした。


「え、キョーイチセンセー、これ、本だよ」

 手渡されたのが一枚の紙ではなく、束ねて冊子状にしたものだったからか、結花さんは受け取るなり疑問の声を上げた。

 僕は他の子達に冊子を配りながら「実力テストとは言いましたが、今日一日でやる必要はありません。これからしばらくはこの問題集を解いて貰います。僕はその結果を見て、皆の得意なところ、苦手なところを知って、どういう授業をするか決める予定です」と説明を加える。

「問題集かぁ……」

 僕の言葉に頷きながら渡した冊子を蛍光灯の明かりにかざすように持ち上げた結花さんはどことなく嬉しそうだった。

「名前……書いてある」

 ボソッと発言したのは、冊子を受け取ったばかりの舞花さんだった。

「結花さんと舞花さんは双子なので同じですが、他の皆は学年が違うので、一人一人間違えないように、表紙に名前を書かせて貰っています」

 僕の説明に少し首を傾げた舞花さんに、結花さんが「つまり、これはユイ専用で、舞花のは舞花専用ってコトよ!」告げるとその表情はみるみる明るくなる。

「専用……」

 ぎゅうっと渡したばかりの冊子を胸に抱きしめて、舞花さんは嬉しそうな表情を浮かべた。

 少し大袈裟かとも思ったが、彼女たちは双子なので、自分だけの者というのは少ないのかも知れないと、推測が頭に浮かぶ。

 特殊な環境の子達という雪子学校長の言葉も重なると、自分だけの物に憧れが強いのかも知れないなと、一人一人冊子にして良かったと、過去の自分を褒めたくなった。

「これを一つ一つ、きょうい……林田先生が作ったんですか?」

 志緒さんが受け取った冊子を手にしながら、僕を見上げて尋ねてくる。

「市販の問題集を取り寄せる方法も考えたのですが、いつ届くかわからなかったのと、思いがけず準備する時間が出来たので、作ってしまうことにしました。市販の物が……」

 良ければ変えると言おうとしたのだが、志緒さんは食い気味に「これが良いです。手作りの問題集がいいです!」と強めの口調で訴えてきた。

「そうですか? 気に入ってくれたなら嬉しいです」

 僕がそう告げると、志緒さんは恥ずかしそうにコクリと頷く。

「それから……」

 僕が更なる発言をすると、今度は不思議そうな顔で志緒さんは僕に視線を向けてきた。

「京一でも林田でも、志緒さんの呼びたいように呼んでください。僕はその二つならどちらで呼んで貰っても構いません」

 真面目な志緒さんの思考だと、ちゃんと許可しないといけないだろうなと思って、そう告げたのだが、志緒さんは声を上擦らせて「は、はひ」と小刻みに首を何度も上下させる。

 そんな志緒さんの反応を目にした僕の中に、京一と呼びかけて辞めたことはスルーした方が良かったのでは?という疑念が湧いた。

 だが、生徒が多いことが良かったのか悪かったのか、そこへ考えを巡らせるまもなく那美さんの声に意識を向ける必要が生まれる。

「キョーセンセ、問題たくさんすぎかも……」

 志緒さんに対して、那美さんは既に名前を省略し始めていた。

 そんな些細な生徒の違いを僕は素直に面白いと思いながら、志緒さんのフォローはタイミングを改めることにする。

 那美さんの言葉に対して「一気にやる必要はないですよ、那美さん。那美さん達がどの程度のスピードで問題を解けるのか、そういったことを知る為のものでもあるので、マイペースでやってくれれば良いです」と、問題集への抵抗が減れば良いなと思いつつ、僕の意図を伝えた。

「一年かかっても良いの?」

 那美さんの言葉に僕は思わず苦笑してしまったが、でも、正直な所を伝える。

「それが那美さんのマイペースなら、良いと思います。那美さんはこの問題集を終わらせようと思ってくれてるみたいなので、その意欲だけでも、僕はとても意味のあることだと思います」

 実力を測る為に問題集の内容は、これまでの学年で学んでいるはずのことをまとめているので、時間が掛かるのなら、そこは復習をしなければいけないのだ。

 過去の学年でのできないを放置してしまうと、先の学年で学ぶことの基礎が足りなくなって、そこでも躓いてしまう。

 仮に一年丸々掛かったとしても、やりきることで学んでおくべきことを復習出来るので、十分に意味があると僕は考えていた。

 そして、何よりも「そっかぁ」と口にした那美さんが、心から安堵したといわんばかりの表情を見せたことが大事だと思う。

 おそらくだが、那美さんは自分がのんびりしている自覚があるし、それが()()()()()()()良くないことだと自覚しているものの、自力では改善できない子なのだ。

 自分のリズムを意識で変えられないこと言うのは、その事実だけで、不要な気負いをしてしまうと、これは確か教授から教わった気がする。

 ならば、出来ないことをしなさいと言うよりも、出来る範囲で頑張ろうという後押しの方が支えになるのだ。

 実際、那美さんは出来ないとは言わず、一年かかってもといっているので、ちゃんとやる気も終わらせる気もある。

 ただそこに、自信が欠けているだけなのだ。

 そう考えて取った方針は那美さんの気持ちを和らげることが出来たようで、僕は少し安心する。

 最後に、東雲くんを確認すると、彼は黙々とページをめくり、問題集を読み込んでいた。

 そんな最中、僕が視線を向けているのに気付いたらしい東雲くんが僕を見る。

「始めても?」

「もちろん」

 僕が頷くとすぐに、東雲くんは問題集を解き始めた。

 カリカリと響く鉛筆の音を聞きながら、僕は那美さん、志緒さん、舞花さん、結花さんと順に視線を向けていく。

「それでは、皆さんも自分のペースで良いので、始めてみてください」

 僕の言葉に、彼女たちも叉問題集に挑み始めた。

 睡眠時間を削る事にはなったけど、僕の作った問題集に真剣に挑んでくれる皆を見て、僕はようやく一つ確信する。

 ずっと夢だった教師の道を踏み出せたのだなと、心から確信出来た。

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