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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之玖 初対面の時

「皆、待たせた」

 講堂へ足を踏み入れつつ、雪子学校長は、横一列に並んで座る子供達へと声を掛けた。

 緋馬織中学校にも、緋馬織小学校にも制服があるので、子供達はそれぞれ男女で別の制服を着ている。

 唯一の男子であり、中学生である東雲(しののめ)くんと思われる少年は、黒の学ラン姿だ。

 女子は白いブラウスに紺の襟なしブレザーとスカートの組み合わせだが、後ろ姿では詳細はよくわからない。

 確か花子さんが、小学生の女子は吊りスカート、中学生は吊り紐がなくなるとか言ってたと思うが、シルエットでは中学生も小学生も変わらないそうだ。

 むしろ、男子の方が小学生は女子と同じ形の紺ブレザーに、同じ色の半ズボンか長ズボンなので、見分けはしやすい。

 どちらかというと、見た目、特に周囲からの目に敏感になる傾向のある女子の方に、そういう大きな変化があった方が良かった気もするのだが、ともかく、現時点では皆小学生なので、大きな失言はしなくて済みそうだ。

「あー、ちょっとここで待っているように」

 くるりと振り返った雪子学校長にそう命じられたので、僕は大人しくそこで足を止める。

 一応始業式であって、入学式の類いでないからか、この場にいるのは、子供達と僕、雪子学校長、花子さんの八人しかいなかった。

 八人ならわざわざ講堂でやらなくても良いような気もするのだが、花子さんがこの学校では決まりを遵守する方針なのだと教えてくれたので、敢えて意見していない。

 効率を重視することはもちろん大事なことだが、非効率的であっても、伝統を繋ぐことも大切なことだ。

 もちろん生徒達の自由を不当に奪うような決まりは改善すべきだが、そうでないのなら今しか体験出来ないと学び受け入れて貰う方が将来の多様性に繋がると思う。

 そんなことを考えていると、子供達と何事か話していた雪子学校長が僕を手招きした。

 直後、緊張で体が硬直する。

 頭では行かなければとわかっているのに、足が出せず、その場から動けなくなってしまった。

「林田先生?」

 歩き出さない僕に対して疑問を抱いたのであろう雪子学校長が首を傾げる。

 その態度が、僕の硬直に拍車を掛け、体がガチガチに強張ってしまった。

 だが、直後、そっと背中を押すような感覚がしたと思ったら、僕の足は気付くと一歩、二歩と前に進んで歩き出す。

 何が起きたのかわからずに振り向くと、丁度こちらを見ていた花子さんと目が合って、微笑まれてしまった。

 ふと、花子さんが何かしたのかと思ったのだけど、彼女と僕の間には距離があって、直接触れたワケではなさそうに感じる。

 そんな妙な違和感を覚えたが、とにかく体が動くのならと、そのまま雪子学校長の横へ急いだ。

 視界の端にこちらに興味深そうな視線を向ける子供達の前を横切って、僕は雪子学校長の横に立つ。

「皆、今年度から、皆の勉強を見てくれることになった、林田先生だ」

 雪子学校長にそう言われて、僕は子供達に向かって頭を下げた。

「初めまして。今日から皆と一緒に学校生活を送らせて貰う林田、京一です。漢字で書くと、木が二つの林に、田んぼの田、京都の京に、数字の一……横棒一本の方の簡単な一です。四年生以上の子しかいないので、皆僕の名前は漢字で書けると思うから、覚えておいてくれると嬉しいな」

 そう自己紹介をしながら頭を上げたものの、特に食いつく子はいない。

 唯一の男子である東雲くんは、どこか警戒しているような視線を向けているし、多分鏑木姉妹だと思われるそっくりな見た目の女の子二人はお互いを見て視線を交わしていた。

 見せて貰っていた写真の顔との売りで比較した結果、三峯さんだと思われる女の子はこちらを見て入るのだが、はっきり言うと、視線が向いているだけで、まるで僕自身は見ていないような不思議な印象を受ける目をしている。

 そして、葛原さんは早朝だというのにきっちりと三つ編みを二本結い上げて、見るからに優等生然とした印象を抱かせる子で、僕と視線が重なるなり深く頭を下げてきた。

 葛原さんの反応に、まず何か言わなくてはと思ったのだが、それよりも先に雪子学校長が割って入る。

「あー、皆の自己紹介は教室に戻ってからやろう。まずは始業式を終わらせてしまうことにしよう」

「え、あ、はい」

 葛原さんへの反応を考えてはいたものの、適当な行動も思い浮かんでいなかったので、僕は素直に雪子学校長の言葉に従って頷いた。

 それが子供達の目にどう映って、どう認識されるかに、僕はまるで意識が向いていなかったのである。

 何しろ、このときの思考は、現場では上司に逆らわないという僕なりの処世術に則った自動運転のようなもので、教師としての初めて生徒の前に立ったという事実があまりにも大きすぎて、他の思考をする余地が、この時にはまるでなかった。

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