みつけた(1)
——今日で、全部終わりにする。
それだけを胸に、私はこの会場に来た。
GG4の公開実況当日。帽子を深くかぶり、大きめのメガネをかけて。
周りは数万人のファンであふれ返っていたし、きっと誰にも気づかれない。
それでも、息が詰まりそうだった。
舞台のライト、響き渡る歓声、GG4の名を叫ぶ声。全部が、遠く感じて、眩しくて、怖かった。
それでも、見たかった。
智士くんが、またステージの上に立つ姿を。光の中で、仲間たちと躍動するその光景を。
目に焼き付けておきたかった。
ステージの上、4人の姿がスクリーンに映し出される。
ぐっちさんの穏やかな笑顔。
Renさんの変わらぬクールさ。
セイくんのはしゃぎっぷり。
そして——智士くん。
ステージに、彼が現れた瞬間。
私は、やっぱり泣きそうになった。
変わらない笑顔。変わらない声。でも、どこか前よりも少し大人びた表情。
ああ、戻ってきたんだね、あの場所に。
彼が一番輝ける、「GG4」の中心に。
そして実況が始まると、彼はもう“羊”だった。
何もかもが自然で、笑いに溢れていて、まるであの騒ぎが嘘だったかのように——いや、きっと、これが本来の姿なんだろう。
セイくんのボケを華麗に拾って、Renさんの冷静なコメントにも即座に反応して、ぐっちさんの天然発言にやんわりツッコんで——。観客の熱気を彼が動かしている。
やっぱり、すごいよ。あなたは。
このステージこそ、あなたの場所なんだ。
だから足枷になってはいけない。彼が高みに行く邪魔をしてはいけない。そう思った。心の底から。
……今日が終わったら、ここを去ろう。仕事も辞めて、別の街へ行こう。彼との人生がもう交わらないように。
幸い、看護師はどこででも働ける。遠くから、また彼の配信を見守ることができれば、それでいい。
胸はまだ痛むけど、それが一番いいんだ……そう思うようにしてた。
「ここで皆さんに、大切なお知らせがあります」
公開実況の終盤。会場に緊張が走った。
……いよいよ、Asteria Visionとのスポンサー契約の正式発表か。
彼の夢の証が、ここで披露されるのだと思っていた。いよいよ彼がまた一つ、高みに上がれる。
でも次の瞬間、耳を疑う言葉が飛び込んできた。
「Asteria Visionさんのスポンサードを、正式にお断りします」
…………え?
何を、言っているの?
ざわつく観客の声も、他のメンバーの言葉も、すぐには理解ができなかった。
「俺たちは配信者である前に、ひとりの人間です。」
「俺たちの大事なものに手を出されたら黙ってません」
「GG4は、“自由であること”を選びます」
そしてビジョンに映し出された“証拠”たち。
……どういうこと?
頭が回らない。心臓の音がうるさくて、言葉が頭に入ってこない。
なんで?
なんで、そんなこと……?
私はまた……彼の足枷になってる……?
混乱した頭のまま、ステージを見る。その瞬間、ステージの上の彼と目が合った、気がした。
まさか、気づくはずがない。
帽子もかぶってるし、メガネもしてるし、座席だって遠いのに。こんな、数万人もいる観客の中から、私を——。
でも、彼は私を見ていた。
目を逸らさず、真っ直ぐに。まるで「ずっとそこにいたこと」を知っていたみたいに。
そして、ふっと笑った。
あの優しい、どこかいたずらっぽい笑顔。
隣にいたセイくんに何か囁いて——
そのままステージから、飛び降りてきた。
「……だめ」
私は立ち上がり、無我夢中で出口に向かって駆け出していた。
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