65魔族よりヤバいの来たー!?
「そなたを殺してしまうのは忍びないが、隷属の魔法には私も抗えん。諦めてくれ」
魔族ミロスが勝つことを前提に話しているのは当然だろう。
スキルは多いものの、ジョブレベル50程度のステータスの俺が勝てる訳がない。
だが。
「魔族ミロス、一つ聞きたいことがある」
「なんだ? 言ってみろ。私に出来る範囲で答えよう」
俺はコクリと頷くと、こう言った。
「あなたは自由になったら、人に復讐したいか?」
率直な質問。
俺の勝ち筋に重要な点だ。
彼の答えによっては、ただの力任せの戦いしか出来ない。
しかし、それは俺の敗北を意味する。
だが、この魔族の答えは。
「復讐? そんなものに興味はない。ああ、憎いさ。エリーの命を奪った人が憎い。だが、全ての人が悪ではないだろう。それにエリーを殺した者はもうこの世にはいない。何より……復讐をしたところで、エリーが帰ってくる訳ではない……」
俺は再び頷いた。
「わかりました。心置きなく戦うことが出来ます。覚悟を!」
俺はそう叫ぶと、瞬歩のスキル(極大)を発動して収納魔法から例の物を出して魔族と刃を交じえる。
「勝負あったな」
魔族ミロスが呟く。
俺は脇腹を押さえて思わずしゃがみ込む。
「ははは! よくやったぞ、ミロス! 褒美は何が良い? 生娘の血か、肉か? 望むなら何でも叶えてやるぞ!」
「勘違いしておるようだな。勝者はそのアルと言う人の方だ」
「はっ?」
誰もが理解出来ないのだろう。
「あ!? なるほど、アル君、私わかった」
「アル、なるほどね」
「ご主人様の低脳で良くやりやがったのです。褒めてやるのです」
クリスやアリーはともかく、あのクソ奴隷!!
「ああ、なるほど、アル殿のハリセンか」
「お姉ちゃん、私もわかっちゃった。この人達詰んでるね」
「い、一体何をとち狂っておる! 勝負は明白だろうが! お前達、脳が腐っているのか?」
「脳が腐っているのはハウゼン。お前だろう?」
「へっ?」
魔族ミロスがゆっくりと後ろを向きながら呟く。
隷属の魔法で主人に逆らえ無い筈のミロスが主人をお前呼ばわりして。
「ミ、ミロス……ミロス……さま?」
魔族ミロスから立ち上る凄まじい魔力の翻弄にハウゼン伯爵は思わずたじろいだのだろう。
だが、それよりも重大なことに彼は気ずいた。
「ひ、ひぃ!?」
ハウゼン伯爵はその場にへたり込むとおしっこを漏らしたらしい。
「そ、そ、そんな馬鹿なぁ!」
ミロスの奴隷の首輪が風化してサラサラと砂になっていく。
「礼を言う、アルベルティーナの弟子よ。私は復讐するつもりは無いが、その男は私に始末させて欲しい。私が知っているだけでも3人もの猫耳族の女性を傷つけ、殺した」
「お願いします。そいつは貴族なので、俺が始末する訳にはいかないのです」
「承知した。そなたに代わり成敗しよう。私も正義の血が騒ぐ」
ミロスの目は赤く染め上がった。
そして。
ギリギリギリ
鋭い八重歯が剥き出しになる。
怖。
ちびりそう。
だけど、彼が睨んでいる先はハウゼン伯爵だ。
「や、止めて! 止めて、止めて、止めて! いやだ、いやだ、死にたくない!」
そういうと、脱兎の如く逃げ出した。
「逃げ切れる訳もあるまいに」
そう、ミロスはつぶやくと。
シュン
残音を残してハウゼンを追った。
そしてあっさり追いつくと。
「やあ、ごきげんよう。ところで何処へ行くのかな? そうか地獄か?」
「あ! やめ、ああ! お願いだから!」
ミロスの牙がハウゼン伯爵に食い込む。
おびただしい量の血が流れる。
ほとんど伯爵の首はもげかかっている。
そして、おしっこやら、何やらありとあらゆるものを垂れ流して。
「やめ、ほげ……ほげ……」
みるみるうちにハウゼン伯爵の血の気が無くなり、死者のそれになる。
「この男はもう、ただのグールだ。好きに処分するがいい」
ミノスはそう言うと、今度は猫耳族の族長ルナを見た。
「さて、その猫耳族の族長はお主ら猫耳族の手で裁くべきであろう」
ザシュ
リリーがグールと成り果てたハウゼン伯爵を斬り捨てる。
リリーは族長に相対して、問うた。
「族長、いや、ルナ、なぜこんなことを? 猫耳族の戦士として問いたい」
「何故? 何故って決まっているでしょう? お金が欲しいから、宝石が欲しいから、愉快に生きたいから、人に敬まわれて生きたいから。決まっているでしょう?」
「あなたという人はぁ!?」
リリーは剣先をルナに向けると。
「捕縛させてもらいます。ルナ。例え族長とはいえ、許されることではない」
「はははぁ!! 好きにするがいい! どうせ私は終わり、待っているのは死罪よね? いっそ、ここで殺せば? 誰も咎めたりしない」
リリーは険しい顔をするが。
「族長……誰であろうと、罪をおかした猫耳族は族長によって裁かれなければならない。あなたは次の族長に裁かれる。ここであなたを殺してしまったら、私もあなたと同じ咎人になる」
リリーは正しい。
怒りに震えながらも正しい判断をする。
「ふっ。良い子ちゃんは良いわね。そんな綺麗事が平気で言えて。私がどんな生き方をしてきたと思うの? 私が子供の頃、あなた達が楽しく遊んでいるそばでひもじくて、母から暴力を受けて、何の愛情を注いでもらうこともなく生きてきたのよ! あなただけじゃない。みんなそう。みんな自分だけ幸せで、私のことなんて見てみないフリ!」
族長、ルナは左手に巻かれた太めのバングルを外す。
その左手にはたくさんの傷が。
自傷のものだろう。
かなり深い。
「誰も、誰も助けてくれなかったじゃないの? なのに今度は正義の味方気取りなの? リリー? あなたがお母さんから誕生日のプレゼントをもらって、嬉しそうにしている時ね。私はあの母に人族の客をとらされていたの!! あなたの嬉しそうな顔が今でも脳裏に浮かぶわ! 惨めで、死のうとした。でも、死ねなかった……」
「……族長……あなたの生い立ちは皆知っている。だけど、それを乗り越えて、立派に成長したから族長に選ばれたのではないのか?」
族長ルナの太めのバングルは気になっていたがな。
例え、どんなことがあろうと罪を犯していい理由にはならない。
捕縛して、猫耳族の掟に従い、罰を受ける。
人攫いはおそらく……死罪。
「ねえ、あなた達、勝ったと思っていない? たかが猫耳族の女に何ができるって? 私、言ったわよね。死のうとしたけど、死ねなかったってね。私はね、邪神に魅入られたの。今、その力を思い知らせてあげる」
「な、に?」
ルナは突然暴風雨のような禍々しい邪気を撒き散らした。
そしてみるみると姿を変えていく。
美しい猫耳族の女から漆黒の禍々しい姿の何かに。
「うっ、私はちょっと、腹痛が、ここで失礼する」
え?
魔族ミロス?
お前、何一目散に逃げてるの?
魔族がスタコラ逃げ出すとか何だよ?
「あ、あれは聖伝に記される……終末の化け物」
アリーが震える声で、俺達にその正体を知らせた。
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