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遅くなってすいません。

エピローグです。


 柚子ちゃんと雪菜の試合が終わった後、簡単な表彰式を行いクリスマスパーティーの準備をする。

 叔父さんの店で行われるクリスマス大会は、毎年大会後に必ずクリスマスパーティーという催し物が開かれる。

 このクリスマスパーティーは大会の参加費とは別に徴収されているのだが、大会の参加者は毎年1人もかけることなくこのクリスマスパーティーに参加していた。

 またこのパーティーは夕方から行われるため、仕事で大会に参加できないお店の常連の人も多数参加することで有名である。

 今こうして準備が終わって辺りを見回すと、去年までこの店に来ていた人の姿もチラホラと見えた。


「それじゃあ全員、準備は出来てるか?」


「おう」


「店長、早く始めましょうよ」

 

 戸田さんや柏木さんの他、この場にいるほぼ全員がグラスを持って立っている。

 普段ダーツの矢等小物を置くための机には、この日のために取り寄せたクリスマス用の料理が所狭しと並んでいた。


「相変わらず、うちのクリスマスパーティーはよく人が集まるな」


「本当に暇な人達ですね」


 こんな所にいるぐらいならクリスマスデートでもしてくればいいのにと切に思う。

 ここにいる人達はクリスマスに用事とか入っていないのだろうか。


「健一はあっちに行かなくてもいいのか?」


「別にいいんですよ。むしろ向こうに行かない方が楽でいいです」


 ため息をつきながら俺は佐伯さんにそう返事をする。

 現在俺と佐伯さんはパーティーの参加者と距離を取り、カウンターの所でドリンクを配っていた。

 これはなるべく宮永さんや達也と顔を合わせたくないため、できる限り裏方に徹するつもりで自ら志願したことである。


「お前がそう言うなら別にいいが、メインディッシュの鳥の丸焼きはどうなってる?」


「もうすぐ焼けると思いますよ。焼けたら俺が取りに行きますので佐伯さんはそこにいてください」


 カウンターから戸田さんと柏木さんの楽しそうな様子を見ながら、俺は今日1日のことを振り返る。

 雪菜と柚子ちゃんが俺のために決勝まで頑張って勝ち残ってくれた。

 そのことを知った今、俺は2人にどんな風に声をかければいいのか全く浮かばない。


「どうした、健一? 柄にもなく黄昏て」


「何でもないです。それよりオーブンの様子見てきます」


 この場にいるのが気まずくなり、俺は調理室の中へと逃げる。

 これで誰とも接することなく、無難に過ごすことが出来ると思っていた。


「じゃあみんな、メリークリスマース」


『メリークリスマーーーース』


 戸田さん達の叫び声と大量のクラッカーの破裂音を背中で聞きながら、カウンターの裏にある調理室にひっそりと入る。

 調理室内にあるオーブンを覗くと鶏肉がこんがりとおいしそうに焼けていた。

 俺はそれをオーブンから取り出すと調理スペースに鳥の丸焼きが入った容器を置き、皿の上へと置く。

 

「よし、これでいいか。後は盛り付けだけだな」


 1人ごとのようにそう言うと、容器の中で鳥の丸焼きと一緒に焼いていた野菜を皿の周りに盛り付ける。

 ジャガイモやにんじん、ピーマンといった色とりどりの野菜を盛り付ければひとまず完成である。


「うわぁ~~、すごいおいしそう」


「そりゃそうだよ。なんたって叔父さんが作った特製の‥‥‥‥‥‥‥‥‥って雪菜? 何でここにいるの?」


「反応が遅いよ」


 俺が横を向くといつの間にか雪菜が俺の横に立っている。

 気配なく俺に近寄ってくるその隠密スキルは、まるで忍者の末裔ではないかと疑うくらいである。


「それよりもここってすごいよね。このお店ってこんな設備もあったんだ」


「そうだよ。料理を頼むお客さんなんて基本いないからからめったに使わないけど。ちゃんと調理する環境ぐらいは整ってる‥‥‥‥って話を逸らすな。何で雪菜がここにいるんだよ。ここは関係者以外立ち入り禁止だから」


「ちゃんと許可はとってきたもん」


 頬を膨らませ反論する雪菜はどこか可愛らしく見える。

 佐伯さん達から雪菜達の話を聞いたせいか、いつもより雪菜が可愛らしく見えたのは内緒である。


「佐伯さんに健一君がどこにいるか聞いたら、ここに案内してくれて‥‥」


「佐伯さん‥‥」


 俺の脳裏には佐伯さんが笑顔でサムズアップポーズをしている姿が目に浮かぶ。

 多分本人は上手くやったと思っているだろうが、俺としては迷惑な話である。

 というか関係者以外立ち入り禁止の所に雪菜を入れるなよ。


「一応私も関係者なんだけど」


「何で俺の考えていることがわかるの?」


「健一君、今ぶつぶつ独り言言ってたから」


 雪菜は不満そうな顔を俺の方に向ける。

 彼女の視線に耐えられなくなり、俺は素直に頭を下げることにした。


「そうかそうか。悪かった」


「言葉の節々が棒読みだよ」


 プンスカと起こる雪菜を尻目に目の前の盛り付け作業をすることにする。

 というかこれを早くパーティー会場の方に届けないと佐伯さんに怒られてしまうので急がないと。


「文句は後で聞く。とりあえず、盛り付けの作業やってもいい? これあっちに持っていかないとまずいから」


「じゃあ私も手伝う」


「はぁ、わかった。その代わり手を洗ってきてから作業してよ」


「わかった」


 雪菜の性格上やるなといっても聞かないので、ここは素直に雪菜の提案に乗っておくことにする。

 案の定雪菜は俺の提案に乗って、笑顔で手を洗いに行く。

 何が楽しいかわからないが、雪菜の機嫌が直ってくれたのは俺としてはありがたかった。


「おまたせ。準備できたよ」


「それじゃあ始めようか」


 俺と雪菜は野菜を手に取ると鳥の丸焼きの周りに盛り付けていく。

 やっていてびっくりしたのは雪菜がきれいに盛り付けをしていることである。

 料理が出来ない雪菜がこんなきれいに盛り付けが出来ることに驚きだった。


「意外だ。雪菜がきれいに盛り付けができるなんて」


「健一君酷い。料理は出来ないけど盛り付けぐらいなら私だって出来るよ」


「悪かった。とりあえず雪菜の言い分はわかったからとりあえず口閉じて。唾が入ったらパーティーに出せなくなるから」


 まくし立てる雪菜を俺は必死になだめる。

 雪菜はといえば俺の言っていることを理解したようで、口に手を当ててはっとした表情をする。


「ごめん、健一君」


「いいよ。よし、これで完了っと」


 最後のジャガイモを皿に置き、盛り付けは完了する。

 客観的に見てみても、今回の盛り付けはよくできてると思う。


「すごくおいしそう。健一君ってやっぱり料理上手だね」


「違うよ。味付けとかの下ごしらえは全て叔父さんの担当だから」


「そうなんだ」


「だから俺は関係ないし殆ど関与してないよ」


 雪菜も俺のセリフに納得したようであった。

 今回俺がやったことといえば、今みたいにオーブンから取り出し盛り付けをしたぐらいである。

 それを褒められてもあまりいい気がしない。

 雪菜は相変わらず興味深そうに鳥の丸焼きを見ている。


「そんなに気になるなら、少しだけ食べてみる?」


「でも、これってパーティー用のやつだよね? ここで食べてもいいの?」


「大丈夫。多少つまみ食いしたところで何も言われないから」


 俺は食器棚から皿を2つ出し、ナイフを手に取ると鳥の丸焼きのなるべく目立たない所にナイフを入れる。

 鳥肉を少しだけ頂戴し、きれいに2つの皿に分けると俺は鳥の丸焼きの皿を持って扉の外へと向かった。


「健一君、どこに行くの?」


「ちょっとこれを佐伯さんに渡してくるから。そこで待ってて」


 俺は雪菜をおいて調理室を出ると再びカウンターへと出る。

 パーティー会場で楽しそうにしている戸田さん達とは対照的に、カウンターでは佐伯さんが暇そうにジュースを飲んでいた。


「佐伯さん、鳥の丸焼き持ってきました」


「おう、サンキュー‥‥‥‥って健一、お前つまみ食いしただろ?」


 皿を手に取った佐伯さんの目はごまかせなかったみたいである。

 彼女とは長年付き合ってる仲でもあるので、これぐらいはわかってしまうのだろう。

 佐伯さんは怒るわけでもなくその場でため息をつく。


「怒らないんですか?」


「どうせ雪菜ちゃんのために取り分けたんだろ? つまみ食いじゃないんだから別にいい」


 佐伯さんはそう言うと華麗にサムズアップを決める。

 その姿が微妙に格好良く見えた。


「そういえば雪菜を何で調理室に入れたんですか? あそこは関係者以外立ち入り禁止ですよ」


「お前は馬鹿か? 雪菜ちゃんと柚子ちゃんはもう関係者みたいなもんだろ?」


 どうやら佐伯さんはあの2人を関係者だと認識しているようである。

 確かに店の売り上げに貢献はしてくれているが、部外者だと思っているのは俺だけだったらしい。

 それはそれで何か複雑な気分である。


「ちなみにこれは私の判断だけじゃなくて、店長の判断でもあるからな」


「叔父さんまで」


 叔父さんまでそう思うなら2人は関係者決定だろう。

 店の最高決定権が叔父さんにあるのだから、余計なことを考えるだけ無駄なことである。

 できるだけ上の言うことにはYESと言った方がいいとどこかで聞いた気がするので、この判断は間違っていないように思う。


「そう言うことだから、お前は雪菜ちゃんを慰めてやれ」


「慰めるも何も。雪菜はすごく元気そうでしたが」


「いいから。お前はあっちで雪菜ちゃんと仲良くやってろ」


 そう言うと佐伯さんは鳥の丸焼きが乗っている皿を俺から奪い、カウンターから出て行く。

 俺はそれを見届けてから、コップを2つ持ち俺と雪菜が飲むためのドリンクを作り始める。

 雪菜はいつも飲んでいる烏龍茶を入れ、俺のコップにはコーラを入れた。

 さっきは炭酸入りコーヒーというとんでもないものを飲まされたので、今更ながら口直しに飲みたくなったためである。

 2つの液体をコップに注ぎ終わると、調理室で待つ雪菜の所へ戻る。


「お待たせ。ついでに飲み物も持ってきたから」


「ありがとう」


 雪菜は俺にお礼を言った後、彼女はキョトンとした表情で俺を見る。


「どうした? 俺の顔に何かついてる?」


「違うよ。健一君がコーラ飲んでるのが珍しいなって」


「さっきは炭酸入りコーヒーなんていうゲテモノを飲んだからね。だから普通のコーラが飲みたくなったんだよ」


「あれは面白かったな。すごいむせた後、慌てて戸田さんの飲み物飲んでたよね」


 雪菜はあの時のことを思い出したのか、俺の顔を見てクスクスと笑う。

 戸田さんと対戦中飲んだものは佐伯さんが仕込んだ炭酸入りのコーヒーという激物であった。

 あのなんともいえない苦味と炭酸が混ざった悪い意味でのコラボレーションは忘れられるわけがない。

 そりゃあ慌てて口直しに戸田さんの飲み物も飲んじゃうよ。


「出来るならあのことは忘れてほしい」


「そう簡単に忘れられるわけがないよ。だってあれ、すごく面白かったもん」


 雪菜はいまだにクスクスと楽しそうに笑う。

 俺も今度雪菜に水で薄めてない原液のみの烏龍茶でも渡してやろうかと考えてしまう。

 あの飲み物も炭酸入りコーヒー以上に苦くて不まずい代物である。


「そういえば、あの時の健一君って結構動揺してたよね?」


「まぁね。あの時は悪い方悪い方に考えがいってたから」」


 柚子ちゃんがあそこにきたから再び冷静にダーツが出来たが、こなかったらどうなっていたことかと今でも思う。

 予想ではあるが何も手立てもなく無様に負けていたとだろう。

 そう言う意味でも俺はあの時の柚子ちゃんにすごく感謝している。


「私もあの時声かければよかった」


「雪菜、何か言った?」


「何でもないよ」


 雪菜は小さい声で何かをつぶやくが俺には全く聞こえない。

 そして何故か知らないが彼女がへこんでいるようにも見えた。


「それよりも早く食べよう。せっかくのご飯が冷めちゃう」


 雪菜はそういうと先程の発言をごまかすように皿にのせた鶏肉を食べ始めた。

 何も言わず黙々と食べる雪菜の横に座り俺はコーラを1口飲む。

 隣に座っている雪菜はあからさまにへこんでいて元気がない。

 相変わらず雪菜は表情を見れば何を考えているかが丸分かりである。


「そういえばさっきの大会だけど、今まで見た中で1番の出来だった」


「えっ?」


「さっきの大会見てたけど、雪菜のダーツがすごくよかったって言ったの」


 雪菜は驚いた顔をしているがこれは俺の本心でもある。

 先程の試合を見た限り、雪菜のダーツは試合を重ねるに連れてよくなっていった。

 柚子ちゃんとの対戦では全く歯が立たなかったが、以前よりも確実に上手くなっていると断言できる。


「本当に? 私って上手くなった?」


「あぁ。上手くなった。特にSTANDARD CRICKETに関しては柚子ちゃんより上かもしれない」


 そこまで断言すると雪菜の表情がほころぶ。

 その様子は本当にうれしそうで、俺までうれしくなる。


「私上手くなってたんだ。柚子よりも」


「あくまでSTANDARD CRICKETという種目に関しての話だから。01(ゼロワン)系はまだまだだし、あまり調子にのるなよ」


「わかってる。だけどそれでもうれしいんだもん。しょうがないじゃん」


 うれしそうに俺に笑いかける雪菜は今までで1番可愛く見え、胸がドキッとする。

 悔しいから本人には絶対そのことは言わないけど。


「お兄ちゃん」


 調理室の扉から声が聞こえたかと思うと、小さな人影が俺の方へと向かってくる。

 その人影だった小さい女の子は、先程表彰式の時に貰った小さいトロフィー持ち俺の方へと近寄ってきた。


「柚子ちゃん、どうしたの? てかどうしてここにいること知ってるの?」


「佐伯のお姉ちゃんから聞いてきた」


 どうやら佐伯さんは柚子ちゃんにまで俺の居場所を話したらしい。

 柚子ちゃんに関しては佐伯さんの手伝いもしていたし、ここにきたことは大目に見よう。

 決して俺が小さい子には甘いロリコンだからではない。


「それより、これあげる」


 柚子ちゃんが俺に渡してきたものは、先程柚子ちゃんが貰った優勝トロフィーである。

 こんな大切なもの受け取ってはいけないと思うのだが、柚子ちゃんはそんな大切なものを俺に渡す。


「でもこれって柚子ちゃんが手に入れたんだから、柚子ちゃんが持ってた方がいいんじゃない?」


「あげる」


「でも、柚子ちゃんの」


「あげる」


 柚子ちゃんの圧力に負け、俺は渋々柚子ちゃんから優勝トロフィーを受け取る。

 俺がトロフィーを受け取ると柚子ちゃんはうれしそうな顔をしていた。


「ありがとう。このトロフィー大切にするよ」


「うん」


 柚子ちゃんの笑顔は相変わらず愛らしく、見ててとても癒される。

 これだけでも今日のクリスマスパーティーに来たかいがある。


「そうだ。俺も2人に渡したいものがあるんだ」


 俺は1度調理室を出てスタッフルームへ行くと鞄からあるものを取り出し、2人のところへと持っていく。

 手に持っているものはきれいに包まれた包装紙。

 2人に渡さなければいけない大切なものを持って調理室へと戻る。


「健一君どうしたの?」


「ごめん。2人に渡すものがあったの忘れてて。ちょっと取ってきた」


 俺はそう言って包装されたプレゼントをそれぞれ2人に渡す。

 2人は驚いた様子でそのプレゼントを受け取ってくれた。


「これを私に?」


「柚子にもくれるの?」


「そう。柚子ちゃんには先を越されちゃったけど、2人へのクリスマスプレゼント」


 本当はもっと早く渡すはずだったのだが、結局トーナメントが終わった後になってしまった。

 少し気恥ずかしくはあるが、いつもお世話になってるのだからこれぐらいは渡すべきだろう。


「開けていい?」


「うん、開けていいよ」


「何をくれるのか楽しみだね、柚子」


「うん」


 うきうき顔の雪菜とうれしそうな柚子ちゃん。

 2人は包装を解くと、中からフライトとフライトと同じ色のチップが出てくる。


「ダーツのフライトだ。それとチップもある」


「柚子の分も」


 2人共うれしそうに俺が渡したプレゼントを見る。

 ここまで喜んでくれるとは思わなかったので、俺も素直にうれしい。


「私のは中央に青い稲妻の絵が描いてあるやつだ」


「雪菜のフライトは、とあるプロ選手のロゴが入ってる折り畳み式のスリムフライトだよ。チップは青が合うと思ったから青にしてある」


 願わくばその選手同様に雪菜も上手くなってほしいという思いも含めて、そのフライトを選んだ。

 本人はフライトを何度も見て、うれしそうに微笑んでいる。


「柚子は? 柚子のフライトは?」


「柚子ちゃんは山桜の絵柄が入ってるフライト。全体の柄は黒だからチップも黒にしてある」


 山桜の花言葉には『美麗』や『高尚』といった意味がこめられている。

 美しいフォームでダーツを投げる柚子ちゃんにはぴったりだと思い、俺はこのフライトを彼女用に選んだ。

 願わくば将来、この2人が渡したフライトをつけて大会で活躍している姿を見てみたい。


「そういえば私も健一君と柚子に渡すものがあったんだ」


「渡すもの?」


 そう言った雪菜は懐から包装された紙包みのものを出す。


「これが健一君の分。それでこっちが柚子の」


 雪菜から渡されたプレゼントを開けると中から俺が渡したものと同じフライトが出てきた。

 黒い柄で中央に青龍が彩られているもので、柚子ちゃんの鳳凰と同じくらい格好いい。


「これを俺にくれるの?」


「うん。健一君にぴったりだと思って。どうかな?」


 上目遣いで俺のことを見る雪菜は、普段とはどことなく違うように見えた。


「ありがとう」


「わっ、珍しい。健一君がお礼を言ってる」


「さすがの俺でも貰ったものに関してはちゃんとお礼は言うよ」


 というか今まで雪菜は俺のことをどれだけ薄情だと思っていたんだろう。

 さすがの俺もそこまで薄情ではないぞ。


「お姉ちゃん、柚子も」


 そう言って柚子ちゃんも先程俺にくれたデザインと同じプレゼントを雪菜に渡す。

 雪菜はその包装を解くと、中からはまたもやフライトが出てきた。


「結局みんなプレゼントはフライトなんだね」


「うん、他には思いつかなかったから」


「柚子も」


 どうやら3人共同じ考えだったようである。

 それはそれでいいとしてこの大量のフライトをどの様に使おうか考えてしまう。


「そういえば健一君って、どっちのフライトをつけるの?」


「えっ?」


「柚子の? お姉ちゃんの? どっち?」


 2人はそう言うと俺の方に迫ってくる。

 そういえば俺のダーツには、先程柚子ちゃんからもらった鳳凰のフライトがついたままである。

 このままだとどちらかのフライトは予備のものになってしまう。

 どんどん俺に近づき決断を迫ってくる2人に対して、俺はある1つの妙案が浮かんだ。


「わかった。ちゃんと両方のフライトをつけるから」


「どういうこと?」


「だからこうして、こうすれば‥‥‥‥」


 懐に入っていたダーツの矢を取り出し、俺は雪菜と柚子ちゃんから貰ったフライトを1枚ずつ矢につける。

 1つは柚子ちゃんから貰った鳳凰柄のもの、そしてもう1つは雪菜からもらった青龍のフライト。

 1つの矢に貰ったダーツのフライト1つずつつけていく。

 これで2人のフライトが1枚ずつ使われていることになるので文句はないはずである。


「お兄ちゃん、最後の1つは?」


「最後の1本は元々俺が持っていたフライトを使うよ。これで俺、柚子ちゃん、雪菜、3つのフライトを使ってダーツが出来るでしょ?」


 言うならば3人の絆といってもいいダーツである。

 咄嗟に考えたにしては、中々いい案だと自分では思っている。


「健一君、ちょっと待ってて。今ダーツ持ってくるから」


「柚子も」


 2人は1度調理室を出てすぐさまダーツの矢を持ってくると、自分達の矢にフライトを付け始めた。

 先程と同じように1つは自分のもの、もう2つは他の2人からプレゼントされたものに付け替える。


「これで私達も一緒だよね」


「柚子のも一緒」


 2人共うれしそうにダーツの矢を付け替えて喜んでいる。

 やっぱり2人共同じ行動を取っていると、2人が姉妹なんだなと感じてしまう。


「それよりもさ、せっかくのクリスマスパーティーなんだから2人共表に出ようよ。俺のことは放っておいて」


「ダメ。外出るなら健一君も一緒に出るの」


「お兄ちゃんも一緒」


 2人はどうやらここからてこでも動かないようである。

 明らかに俺と一緒にいるより楽しいと思うのに2人は損をしているように思う。


「いた。遠野さんパーティー会場にいないから探したけど、こんな所にいたんだ」


「探したんだよ。雪菜急にいなくなっちゃうんだもん」


 調理室の扉の所には今度は宮永さんと達也が立っている。

 達也の両手にはパーティー用のオードブルが握られていて、宮永さんは紙皿とコップを器用に持っていた。


「飛鳥に達也君? どうしてここにいるの?」


「さっき佐伯さんに聞いたら、雪菜達はここにいるって言ってたからきたの」


「あの人も本当に気前がいいよ。遠野さんのこと聞いたらここに入れてくれるし。何より可愛いし」


 そう言うと達也はニヤニヤと笑い続ける。

 相変わらず女の人には弱いと思うが、さすがに人を見る目は養った方がいいとこの時ばかりは思った。

 佐伯さんを乙女扱いするのは、ジャンル的に違うと思う。


「そう言うわけだから、私達もここにいてもいいよね?」


「佐伯さんがパーティー用のオードブルくれたから、みんなで食べようぜ」


 そう言うと2人は調理室にある休憩スペースにオードブルを置き、椅子に座る。

 俺としては達也達に正体が知られたくない以上、早くこの場から逃げたい。

 俺はひっそりと立ち上がり、そろりそろりと扉から出ようとした所で誰かに肩を掴まれる。

 恐る恐る後ろを振り向くと、笑顔の宮永さんが俺の肩をつかみ仁王立ちをして立っていた。

 

「橘君、逃がさないよ」


「はっはっは。僕は橘君じゃないよ。ただのお店の店員さ」


「そろそろ嘘をつくのは止めない? 姿や印象は学校とは違うけど挙動とか動作、声まではごまかせてないよ」


「くっ」


 相変わらずこの人は鋭い勘を働かせる。

 その勘を俺にではなく、もっと別の所に使ってもらいたい。


「それに周りの人が『健一』って呼んでる以上、貴方は橘健一以外の何者でもないわ」


 ついに宮永さんが決定的なことを告げ、俺の正体を暴いてしまう。

 さすがにこれ以上はこの人をごまかすのが不可能だと感じた俺は、素直に白旗を揚げることにした。


「わかった。宮永さんにはごまかしがきかないんだね」


「当たり前でしょ。最近の橘君をずっと見てるんだから癖や習性ぐらいは把握してるわよ」


 にやりと笑う宮永さんの話を聞いていて、俺の背筋が急に寒くなる。

 てか、癖はともかく習性って俺何かの動物と勘違いされてないですかね?


「ちなみにいつから気づいてたの?」


「疑問に思ったのは大会が始まる時から。さすがに核心を持ったのは準決勝の雪菜との試合の時だけど」


 宮永さんの洞察力に感心しながら、俺は諦めて先程迄座っていた雪菜の隣に座った。


「だって明らかに雪菜が橘君のことを目で追っかけてるんだもん。あれだけ橘君のこと見てれば、誰でもわかるよ」


 俺は雪菜の方を見ると彼女の肩がビクッと震える。

 雪菜は雪菜で俺と顔を見合わせると苦笑いをして、まかそうとしている。

 そんな俺達のやり取りをお調子者である達也はぼんやりと眺めていた。


「なぁ、お前本当に健一なのか?」


「知らん」


 約1名俺を見て驚いている男がいるが、そんな事俺の知ったことじゃない。

 何なら一生こいつには橘健一の偽者だと勘違いしてもらいたい。


「それよりも雪菜ひどいじゃん。健一君とデートしてるなら、そう言ってくれればいいのに」


「でっ、デートじゃないから。柚子もいるし」


「え~~~~」


 雪菜はもじもじとしながら宮永さんの話を否定する。

 俺としてはもっとしっかりと否定してほしいが、雪菜があいまいな否定の仕方をするなら俺がしっかりと否定するしかない。


「宮永さん。雪菜は柚子ちゃんと遊ぶためにここに来ている訳で俺とデートじゃ‥‥‥‥‥‥って雪菜痛いから。てか何で蹴るの?」


 俺は事実を言っただけなのに、雪菜は何故か不満そうな顔で俺の脛をピンポイントに蹴ってくる。

 脛という場所は弁慶の泣き所と言われているぐらいの急所なので、本気で蹴られると結構痛い。

 というか雪菜の誤解を解いたのだから、敬う気持ちぐらい持っていてくれてもいいんじゃないか?

 いつも通り雪菜の言動と行動が一致しないので、相変わらず何を考えているかよくわからない。


「合ってるけど、何かそれはそれでむかつくの」


「何だよ、それ?」


「橘君はもう少し乙女心を学んだ方がいいよ」


 宮永さんがあきれた感じの表情をしているのがまた癪に障る。

 一体俺に何の落ち度があるのだろうか。


「お兄ちゃん、ここにいたんですね」


「お前はここにいたのか」


「げっ」


 いつの間にかパーティーグッズを手にした羽村さんと水谷さんまで調理室に入ってきて、室内は今まで以上には混沌としてきた。

 こうして高校に入って初めてのクリスマスは騒がしいまま過ぎていく。

 雪菜と柚子ちゃんが俺のために色々してくれたが、そのお返しを2人にしてやれているのか俺にはわからない。

 できれば俺も助けてもらってばかりではなく、2人の役に立ちたいと強く思った。


「おい、健一とおもわしきもの。クラッカーないのか? もう1度打ち上げするぞ」


「健一と思わしきものじゃない。俺は正真正銘橘健一だ」


「おぉ、そのツッコミはまさしく橘健一だな」


「判断するポイントはそこかよ」


 とりあえず今はこの馬鹿騒ぎにもう少し興じていようと思う。

 2人のことをもっと良く考えるのはその後でも遅くはないだろう。


「雪菜もクラッカーを早く持って」


「えっと、ちょっと待って」


「お姉ちゃん遅い」


「柚子が早いんだよ‥‥‥‥ってみんなもう持ってるの? 早過ぎるよ」


 クラッカーを引っ張り破裂音が室内に響く中、楽しそうに笑う達也や宮永さん達、何より柚子ちゃんに慌てふためく雪菜を見て俺はそう思った。

ご覧いただきありがとうございます。


感想をいただければうれしいです。


これにて4章完結です。

途中で中断期間もありましたが、何とか無事に終わりました。

今後の予定や4章の後書きは今日の夜か週末に書こうと思います。

最後になりますが、ここまで作者の拙作をご覧いただきありがとうございます。

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