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 第3試合、柚子ちゃんと水谷さんの試合は柚子ちゃんの圧勝だった。


「柚子ちゃんの圧勝だな」


「ですね」


 1試合目から全力で試合をする柚子ちゃんを止められる人などいるはずがなかった。

 あまりの柚子ちゃんの強さにSTANDARD CRICKETの途中、水谷さんが可哀相と思ったぐらいである。

 

「それにしても負けたはずの朱里ちゃんも楽しそうだな」


「2人共仲いいですから」

 

 試合が終わった水谷さんと柚子ちゃんは後ろの方で楽しそうに会話をしていた。

 

「朱里ちゃんは大丈夫そうだな」


「彼女は強い子ですから」


 元気に柚子ちゃんと会話する水谷さんは負けた後遺症がないように見える。

 元々の実力差は前々からわかっていたので、むしろ手加減をせずに全力で戦ってくれた柚子ちゃんに感謝をしているようにも見えた。

 

「じゃあ、俺は男子トーナメントの方を見てくるわ」


「えっ、戸田さん?」


「また後で見に来るから。それじゃあな」


 そういうと戸田さんは冷や汗をかきながら男子トーナメントの方へと足を向けた。

 戸田さんの行動に疑問を感じつつ、俺は試合の進行を進める。


「それでは女子トーナメント第4試合を始めます。今から名前を読み上げる選手は所定の位置について下さい」


 俺が名前を読み上げると羽村さんと上村さんが1歩前に出た。

 

「茜、絶対勝って私のかたきを取ってくれ」


「準決勝で待ってる」


 2人の声援に羽村さんもこくりと1回頷く。

 羽村さんの様子ははたから見ていると、そこまで緊張していないようにも見えた。

 対する対戦相手の方はというと‥‥。

 

「また会ったようね。チェリーボーイ」


 俺にハグをしようとする上村さんの攻撃をするりとかわす。

 先程のカウンターの1件といい試合前の質問といい、この人が何を考えているのか全くわからない。

 

「私語は慎んでもらうようお願いします」


「もう、私とあなたの仲じゃない」


「ついでに店員への過剰なスキンシップもご遠慮下さい」


 不満いっぱいの顔をする上村さんではあるが、彼女を無視して俺はトーナメントを進行する。


「それではコークを行いますので、羽村茜さんからお願いします」


 羽村さんがスローイングラインの方に行った後、上村さんの目線は柚子ちゃんの方を向いていた。

 その目は既に準決勝の柚子ちゃんとの対戦に照準を合わせているようにも見える。

 

「ねぇ、健一君。あの子って君の彼女?」


「違いますよ。どうしてそう思うんですか?」


「あんなにさっきまでラブラブしてたじゃない」


「ラブラブって‥‥‥‥」


 上村さんが言っているのはさっきのスペシャルマッチの話だろう。

 今考えてみれば、あの行為自体赤面ものである。

 

「そんなんじゃないですよ」


「知ってた。さっき戸田君から聞いたよ。あのの姉にまで手をつけてて‥‥‥‥君って私が思っている以上にプレイボーイなんだね」


 上村さんは柚子ちゃんから雪菜の方に視線をかえる。

 ここに来て、何で戸田さんが男子のトーナメントを見に行っていたのかがよくわかった。

 後で文句の1つでも言ってやらないと気がすまない。

 

「違いますよ。あの2人は俺の弟子のようなものです」


「弟子ね‥‥」


 何か含み笑いのようなものを浮かべて上村さんはこちらを見ている。

 

「お兄ちゃん、私の番終わりましたよ」


 いつの間にか俺の前に羽村さんが立っていた。

 どうやらコークは終わっていたらしい。

 

「それでは次の方、お願いします」


「ちぇっ、つまんないの」


 そう一言言い残すと、上村さんはスローイングラインの方へと歩いていく。

 その後ろ姿からはこの試合に対して余裕が伺える。

 

「お兄ちゃんはあの人のことどう思っているんですか?」


「えっ?」


 上村さんのことを聞く羽村さんの口調はどこか怒っているようにも見えた。

 

「羽村さんの思っているようなことは思ってないよ。俺だってさっき初めて会ったんだから」


 羽村さんは疑うような視線を俺に向けてくる。


「私、お兄ちゃんが雪菜お姉さんや柚子のことを裏切ったら許しませんから」


「裏切るって。俺は2人のこと‥‥‥‥」


 俺が羽村さんに自分の気持ちを言いかけた瞬間、周りの歓声がひときわ大きくなるのを感じた。

 ダーツ盤の方に目を向けると上村さんがコークのために投げた1投はインブルに当たっていた。

 しかも当たった場所がインブルの一番中心に近い所である。

 観客が沸くのも無理はない。

 

「上村はさすがだな」


「当たり前だって。なんたって俺の彼女なんだから」


 歓声が大きくなったのは上村さんがインブルに当てたこと意外にも原因はある。

 その理由は女子トーナメントの試合を見に、男子トーナメントの参加者何人かが集まっていた。

 その観戦者の中には柏木さんの姿も見て取れた。

 ギャラリーは先程までとは違い段々と増えてきている。

 上村さんもギャラリーの声にこたえて片腕を上げていた。

 

「お兄ちゃん、進行、進行」


 羽村さんの声で俺は我に返り慌てて進行をする。


「それでは上村千佳さんの先攻でゲームを始めます」


 俺がスタートの掛け声をかけ、2人の試合は始まった。

 1Leg目の序盤から上村さんのダーツが猛攻を見せる。

 1投目から3投目までいきなりブルに当て、HAT TRICK を取った。

 

「偶然? 偶然だよな」


 俺は上村さんのダーツに目を疑う。

 HAT TRICKなど素人が早々できるものではない。

 上村さんは口だけでない、ちゃんとダーツの修練を積んだ人だということがこの時わかった。

 上村さんがスローイングラインから立ち去った後、おずおずと羽村さんが出てくる。

 あんなダーツを見せられた後の羽村さんが心配である。

 戦意を喪失してダーツが乱れなければいいが‥‥。

 

「‥‥って、そんな必要はないか」


 羽村さんの目はまだ死んでいない。

 俺の杞憂とは裏腹に羽村さんはしっかりと自分のダーツを見せた。

 1投目が20のシングル、2投目は12のシングル、3投目はブル。

 3投中1投はブルに入れるという俺の教えを守り、しっかりと自分のダーツをしている。

 上村さんは残り351に対して羽村さんは残り419。

 差は離れてしまったが、まだチャンスはある。

 

「っしゃ。次は私の番だよね」


 意気揚々と上村さんはスローイングラインへと歩いていく。

 そしてスローイングラインに立つと、すぐに構えてダーツの矢を投げた。

 その軌道は真っ直ぐ、ブルに向かっていく。

 

「あの人は一体何者なんだ?」


 1投目からブルを捕らえて驚愕する俺をよそに、上村さんはすぐさま2投目を投げる。

 その2投目も寸分たがわない精度でブルに当たった。

 3投目は10のシングルに当たるが、これで残りは241。

 上村さんの圧倒的優位は変わらない。

 

「こうなると羽村さんのメンタルが心配だが‥‥」


 どうやらそれは杞憂のようだ。

 スローイングラインに立つ羽村さんの目はまだ死んでいない。

 羽村さんの1投目は18のシングル。

 2投目が5のシングルで3投目はブルで残り点数は346。

 ちゃんと自分のダーツが出来ているのにも関わらず、絶望的に差は開くばかりだ。

 

「茜ちゃん」


「茜、チャンスはあるぞ」


 柚子ちゃんと水谷さんも羽村さんに向け必死に声援を送る。

 羽村さんはいつも通り自分にできることをやっているが、それよりも相手の方が頭1つ抜け出している。

 正直上村さんの相手は今の羽村さんには荷が重い相手かもしれない。


「羽村さんには荷が重いか」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 上村さんのレベルは間違いなく羽村さんのレベルを超えている。

 幸い周りには誰もいなかったおかげで、この呟きが誰にも聞こえることはない。

 その間に上村さんはスローイングラインに立ち、ダーツを投げる。

 1投目はブル、2投目は20のシングル、3投目もブル。

 LOW TONを取ったことで周りのお客さん達からさらなる歓声が上がった。

 

「これは決まったかな」


 スローイングラインに立つ羽村さんは気丈に振舞っているが、状況は非常に悲観的だ。

 現にこのラウンドで1度もブルに入らなかったことがそのことを告げている。

 次のラウンドも順当に行けば上村さんの上がりである。

 

「あっ」


 思わず声を上げてしまうのは上村さんの1投に関してだ。

 トリプルに入れれば終了という所ではずしてしまい、バーストしてしまう。

 

「あちゃ~~やっちゃったな」


 頭を抱えながら上村さんは待機するテーブルの方へと戻っていく。

 その後ろ姿に余裕が見えるのは1ラウンドぐらいでは点差が覆らないからだ。

 結局次のラウンドで上村さんが上がってしまい、結局1Leg目は上村さんに軍配が上がった。

 その後の2Leg目も上村さんが順当に得点を重ねていき、結局この試合は上村さんが勝利する。

 これで準決勝までの選手が出揃った。

 宮永さんVS雪菜と上村さんVS柚子ちゃん。

 どちらの対戦もただで終わる気配がなさそうだった。


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