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 大会当日色とりどりに飾り付けられた華やかな店内の中、俺はカウンターのところで1人内職をしていた。

 佐伯さん達が忙しなく動く中、俺だけがカウンターで裏方作業に徹している。

 それもこれも宮永さんと達也の2人がこの大会に参加するせいである。

 あれからどうすれば正体がばれないか考えた結果、2人に顔を見られないためにはカウンターでドリンクの担当をしてればいいという結論に至ったためこうしてここにいる。

 

「健一はいつまでそこにいるんだよ。こっちの作業も全然終わってないんだから観念してそろそろ出て来い」


 ダーツの筐体方面の掃除をしている佐伯さんは俺のことをあきれたような目で見ていた。

 いくら佐伯さんがあきれた目で俺のことを見ようがそうそう出て行く気はない。

 

「佐伯さん、こっちの飾りつけ終わりました」


「こっちも終わった」


「2人共ありがとう。カウンターの方に健一がいるから外に出してくれないか?」


「わかりました」


「ました」


 佐伯さんの呼びかけに応じて雪菜と柚子ちゃんがこちらにやってきた。

 この2人も先日から店舗大会の手伝いをしてくれていて、今日も大会前にこうして店の手伝いをしてくれている。

 2人はこちらに来ると作業をしている俺の真正面に立つ。

 

「健一君はそこで何してるの?」


「何って‥‥‥‥参加者に配るドリンクの準備」


 雪菜もあきれたような視線を俺に向けてくる。

 

「それって後でもできない?」


「出来ない」


「健一君の気持ちもわかるけどもうしょうがないんじゃないかな?」


「まだ、大丈夫なはず。目立たないように行動すれば何とかなる」


 あきらめムードの雪菜に俺は発破をかける。

 今日はおとなしくカウンターで仕事をしていれば問題はない。

 カウンターは主に大会参加者やお客さんに振舞うドリンクを作るので人とのふれあいも少ない。

 それにドリンクを運ぶ作業も佐伯さん達に任せればむやみに人と関わることがない。

 

「でも健一君、戸田さんと試合するんでしょ」


 雪菜の言葉が俺の胸につき刺さる。

 

「それに女子の審判もするし逃げることって不可能なんじゃないの?」


「それは‥‥誰かに代わってもらえば」


「あきらめろ健一。その2つはもう決まったことだ」


 雪菜の後ろから出てきたのは先程ダーツ方面の掃除をしていた佐伯さんである。

 佐伯さんもどうやら担当の仕事は終わったらしい。

 

「それにお前と戸田の試合を楽しみにしている人達もいるんだぞ。その人達の期待にこたえなくてどうする?」


 佐伯さんにその言葉を言われるとぐうの音も出ない。


「別に‥‥‥‥俺と戸田さんの試合じゃなくたって‥‥」


「お前と戸田の試合だから人が来るんだろうが」


 佐伯さんは再びあきれたようにため息をつく。

 そんな佐伯さんのことを不機嫌そうに見ているとドアの方からカランコロンという小気味いい音が聞こえてくる。

 

「こんにちは」


「相変わらずここは広いなぁ」


 ドアの方からは身長が高くて清楚な女の子ときれいなショートボブカットの元気少女が入ってきた。

 その2人は柚子ちゃんが誘ったクラスの友達である。

 

「茜ちゃんと朱里ちゃん‥‥いらっしゃい」


「柚子、今日はお誘いいただきありがとうございます」


「今日は負けないからな」


 2人は柚子ちゃんの方を見て微笑んでいた。

 元々大会前に柚子ちゃんから2人が参加できないかという打診はもらっていたので俺はその話を了承していた。

 了承したのが5日前で柚子ちゃんが2人の参加を告げたのが3日前と参加期限ギリギリだ。

 最終的には2人共午前中で練習が終わるという話をしていたので大会直前に来る予定になっていたがどうやら早く終わったみたいである。

 2人がここにきてから柚子ちゃんはどこか楽しそうに見える。


「あたしも‥‥‥‥負けない」


「私だって優勝を狙ってるんだから」


 中学生トリオの話に雪菜まで加わっている。

 話がこんがらがってきて俺はよくわからない。

 

「おっ、メンバー全員が揃ってるじゃん。みんな早いな」


 次に店の扉から現れたのは戸田さんである。

 戸田さんは羽織っている厚手のコートを脱ぎ俺達の方へと歩いてきた。

 

「戸田、どうしたんだよ。店の手伝いをするって言っていたのに2時間の遅刻だぞ」


「ごめんごめん佐伯ちゃん。ちょっと色々あってな」


「色々会ってじゃなくてだな‥‥」


 佐伯さんにしかられる戸田さんは笑っていて全く悪びれる様子もない。

 2人が話始めた後、袖を引っ張られているような気がして横を見ると羽村さんが俺の袖を引っ張っていた。

 

「羽村さん、どうしたの?」


「お兄ちゃん、あの人って確か文化祭の時にいた人ですよね」


「そうだよ。文化祭の時に俺のことを捕まえに来た人で‥‥‥‥」


 羽村さんは戸田さんのことを覚えているようである。

 佐伯さんとはこの店で何度か会っているので面識があったが、戸田さんと会うのは文化祭以来だったはずだ。

 

「おっ、柚子ちゃんの他に文化祭の時の中学生コンビもいるな。あの時は悪かったな。健一を捕まえるためとはいえ邪魔して」


「いえ、気にしていませんので大丈夫です」


「それならよかった。君達も今日の大会に出場するのかい?」


 羽村さん達と戸田さんは和やかに話を始めた。

 始めは話が合わないと思っていたがそれは俺の見当違いだったようである。

 それにしても3人が和やかなムードで会話をしていて本当によかった。

 もう少し仲が悪いと思っていたので一安心である。

 

「それよりも戸田は練習しなくてもいいのか? 健一に負けたら格好悪いぞ」


「大丈夫。本番前はこうしてリラックスするのが俺のやり方なの」


 そういいながら再び羽村さん達と話し始めた。

 はたから見ていても戸田さんからは余裕が伺える。

 宮永さん達が来るということでびくびくしている俺とは大違いだ。

 

「相手は相当手ごわいな。こりゃ今回は健一の負けで決定かな?」


「大丈夫です。健一君は重要な所でやってくれる人ですから」


「お兄ちゃんなら勝てる」


 遠野姉妹は自信ありげに佐伯さんに語りかけている。

 相変わらずこの姉妹が俺に寄せる全幅の信頼が理解できない。

 

「2人の俺への期待はありがたいが、プロ相手に勝てる自信全くないんだけど」


「大丈夫だから」


 だから何が大丈夫なんだよ。

 プロ相手に勝てる保障なんて全くないぞ。

 

「お兄ちゃんは強い」


「じゃあ私も健一が勝てる方に1票入れるわ。実は店長とどっちが勝つか賭けてるんだよ」


 賭けの話をする佐伯さんはやけに楽しそうである。

 みんなして俺にどんな期待をしてるのだろうか。

 

「お兄ちゃんと戸田さんは試合をされるんですか?」


 横から羽村さんが俺達の話しに入ってきた。

 戸田さんとの話し合いもどうやらひと段落ついたようでで2人ともこちらを向いている。

 

「そうだよ。スペシャルマッチって名目で大会前にやることになってるんだ」


「まぁ、俺が健一に負けるわけがないけどな。羽村さんも俺が勝つと思うだろ?」


 戸田さんに話を振られた羽村さんは苦笑いを浮かべていた。

 その様子はどことなく戸惑っているようにも見える。


「戸田さんには申し訳ありませんが‥‥‥‥私はお兄ちゃんが勝つと思います」


「じゃあ私はこっちのプロの兄ちゃんが勝つと思うな。さすがにプロには勝てないだろ」


 羽村さんと水谷さんで予想が大きく違う。

 ただ、予想した2人はどちらも自信ありげに見えた。

 

「さすがは健一、信頼されてるな。見てろよ。スペシャルマッチでは俺が絶対勝つんだからな」


「俺だってやるからにはただで負けるつもりはありませんよ」


 俺の反論に佐伯さんと戸田さんは顔を見合わせて笑っていた。

 他の人たちは2人の顔を見てきょとんとしている。

 

「佐伯さん達は何がおかしいんですか?」


「いや、いつもの健一が戻ってきたなって思ったら面白くなってな」


「そうそう、大口を叩かない健一は健一らしくないからな」


 ちょっと待て、その発言だと俺がいつも大口を叩いているようじゃないか。

 

「確かにそうですね。健一君のナイーブ発言ってあんまり聞かないかも」


 雪菜まで2人の話しに納得してしまった。

 せめて否定ぐらいはしてほしかったんだけどな。

 

「これはいい勝負が出来るんじゃないか?」


 佐伯さんはにやけた表情でそんなことを言っていた。

 何がそんなに楽しいんだろうか俺にはわからない。

 

「出来る限り善処します。それよりお客さんもきたようですし、俺達も仕事をしましょう」


「あぁ、確かに。大会の受付もやらないといけないしな」


「そう言うわけで俺と佐伯さんと戸田さんは抜けるので後は雪菜に全部任せるから」


「俺も頭数に入ってるのか?」


「当たり前だ。さっさと準備するぞ」


 そう言うと佐伯さんは戸田さんを引っ張ってレジの方へと歩いていった。


「私達も手伝うよ」


「いや、ここまで準備で来たら後は大丈夫だから。みんな選手なんだから少しは休んでてよ」


「わかった。その代わり健一君も絶対に勝ってね」


「まかせとけって」


 先程とは違い安堵の表情を浮かべる雪菜を置いて、俺カウンターの方でドリンクを出す準備を始めた。

ご覧いただきありがとうございます。


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