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校長先生の話が長く感じた終業式と退屈なホームルームも終わり、俺は急いで机の上に散乱している荷物をかたす。
明日からは世の学生達にとって待ちに待った冬休みである。
店舗大会まで後数日と迫っているため、この後はバイト先に行ってクリスマスに行われる大会の準備をしないといけない。
準備といってもこの日は大会参加者の名簿の確認や景品の準備といった雑用だけである。
本格的な準備は前日にするのだが、やれることは早いうちにやった方がいいので俺は急いで学校を出ようとしていた。
「健一君、もう帰るの?」
俺が声のする方に振り向くとそこには雪菜がいた。
雪菜も鞄を持っているので彼女も帰るところなのだろう。
「うん。俺は店の手伝いがあるからもう帰るよ」
「それなら一緒に帰らない? 私もお店の手伝いをすることになってるし」
雪菜が話しているのは店舗大会の手伝いのことである。
普段お世話になっているという理由から雪菜と柚子ちゃんも大会の手伝いを申し出ていた。
2人共大会に登録している選手ということもあり断ったのだが、2人の勢いに押されて叔父さんが渋々了承してしまった。
必死に断っていた叔父さんも最後の方は2人の勢いにたじたじだったのでこの結果はしょうがない。
「一緒に帰るっていっても雪菜は電車だろ? 俺は自転車で直接店に向かうから帰る方向違うじゃん」
「それなら大丈夫。私も歩いて帰るから」
「それだと余計に時間がかかるだろうが」
自信満々に胸を張って雪菜は言うが時間的に見ても非効率的なのは明らかである。
何が大丈夫なのだろうか俺には理解が出来ない。
「お二人さん相変わらず仲がいいよね」
俺と雪菜の間に入ってニヤニヤと笑っているのはいつの間にか俺のそばに寄ってきた宮永さんである。
相変わらずというかなんというかこの人は雪菜のいる所にはどこにでも現れてくる。
驚いた雪菜なんか俺からバッと離れて今はあさっての方向を向いている。
「そんな仲むつまじい2人に頼みがあるんだけどさ、この後ダーツしに行かない?」
「あ~~‥‥‥‥‥‥‥‥俺はバイトがあるんで今日は無理だ」
「私も‥‥‥‥ちょっと用があって‥‥‥‥」
俺達がそう話したのを見て宮永さんは難しい顔をした。
「そこを何とか。2人のデートの邪魔をしないことは確約するから」
「「デートじゃない」もん」
珍しく俺と雪菜の声が重なったと思ったら同じことを言っていた。
そんな俺達の行動を宮永さんは驚いた表情で見つめている。
「あら? 一緒に帰る話をしていたからてっきりデートだと思ったんだけど」
どうやら宮永さんは俺達の話の一部始終を聞いていたらしい。
だから普段からクラスではあまり話しかけるなって雪菜には散々言っていたのに聞かないからこういう誤解を生むことになるのだ。
雪菜が招いたこの窮地をどう乗り切ろうか考えていると都合のいい男が俺の後ろから声をかけてきた。
「よう、健一‥‥‥‥ってあれ? 宮永さん達もどうしたんだ?」
天の助けなのかいい意味でも悪い意味でも予想を裏切ってくれる達也が唐突に現れてくれた。
相変わらずの空気の読めなささであるが今はグッショブといってもいいタイミング。
できればこれで宮永さんの話がそれてくれると非常に助かるのだが果たしてどうなるのだろうか。
「達也はどうしたんだ? 悪いが遊びの約束ならパスだぞ」
「遊びといったら遊びなんだが‥‥‥‥実はお前に頼みたいことがあるんだ」
申し訳なさそうに話しかけてくる達也を見て宮永さんは嘆息する。
達也が頼み込むとは珍しいので顔には出さないが俺も結構驚いていた。
「達也君、そのことは橘君には言わないんじゃないの?」
「そうだけどさ、どうせ出るなら優勝したいじゃん。そのためには健一に教わるのが1番早いんだよ」
「教わる? 俺はお前に何を教えなければいけないんだよ?」
俺が達也に勝っていることと言ったら勉強ぐらいしか思いつかない。
その勉強もほぼどっこいどっこいで教えてもそれほど意味がないと思う。
果たして俺が達也に何を教えればいいのか全く見当がつかない。
「ダーツに決まってるだろ。健一にはダーツを教えてほしいんだ」
「ダーツっていきなり言われてもどういう風の吹き回しなんだ? それにクリスマスパーティーの準備はしないと間に合わなくならないか?」
達也は少し前にクリスマスパーティーをするといっていた気がするのでこんなのんきに遊んでいてもいいのだろうか。
そろそろ準備を始めないとクリスマスパーティーまでに間に合わないと思うのだが。
「あれはやめだ。結局人が集まらなかったんだよ。だから俺はクリスマスは別のことをすることにした」
「別のこと?」
どことなく鼻息が荒い達也だったが、この時俺はすごく、それはとてつもなく嫌な予感がした。
最初に口を挟んだのは宮永さん、達也が話し始める前に彼女が話を切り出した。
「私がこの前元気がない達也君に一緒にダーツの大会に出ないかって誘ったんだ」
「お前‥‥‥‥なんてことを‥‥‥‥」
気づくと俺は誰にも聞こえないような声でそうささやいていた。
本当は膝をついてうなだれたいのだが、そんなことをすると俺のバイト先のことがばれる気がするので冷静を装う。
隣にいる雪菜はしきりに俺のことをチラチラと見ているので先程の俺の言葉が聞こえていたのだろう。
俺達のことを知ってか知らずか宮永さんの表情は明るいままである。
「そうだ。達也君ももう登録も済ませてあるんだよね」
「おぅ。宮永さんに言われてこの前済ませてきた」
なんてことだろう。バイト先に行ったら今すぐ名簿を確認しなくてはいけない。
「それで大会までに少しでも上手くなりたいからダーツが上手い健一と遠野さんを誘おうって話しになったんだ」
「そうそう。少しでも上手くなって優勝に近づければいいなって」
そういい、宮永さんと達也は顔を見合わせて笑っていた。
この2人の仲もよろしいようだが、俺はこの状況をどう打破すればいいのかわからない。
「そうかーー。悪いが今日もバイトなんだわーー」
「どうした健一? ボーーっとして? 言葉まで棒読みだぞ?」
「ほらっ、あのっ‥‥‥‥疲れてる。健一君は疲れてるんだよ。テストも終わったばかりだし」
「そういえばテスト終わってから全然元気なかったよな」
慌てて取り繕うように話す雪菜の言葉に達也は納得したようだった。
「じゃあ遠野さんはどう?」
「ごめんなさい。私も今日は柚子を待たないといけないから‥‥」
「柚子ってこの前文化祭の時にいた妹さんか。ならしょうがないな。宮永さんと2人でがんばるか」
「そうだね。2人で練習してがんばって優勝しよう」
宮永さんと達也は2人だけで盛り上がっているように見える。
それに反して俺といったらテンションが駄々下がりだ。
果たして俺は無事大会の日に店にいることが出来るのだろうか。
「そういうことだから。なんかすまんな健一」
申し訳なさそうに俺の方にむけて手を合わせる達也である。
この時達也から珍しく殊勝な言葉を聞いた気がした。
「あぁ、別にいいよ」
「またなんか合ったら誘うわ」
そういい残し、達也と宮永さんは楽しそうに笑いながら教室の外へと出て行く。
それを俺は陰鬱な表情で出て行く2人を見送っていた。
「雪菜」
「何? 健一君?」
「俺、クリスマスの日にバイト休んでもいいよな?」
「ダメだよ。健一君はちゃんと出ないとダメ」
雪菜の無慈悲な通告に俺はこれから叔父さんをどのようにして説得しようか考えることとなった。
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