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あけましておめでとうございます。
今年1年も宜しくお願いします。
今回は番外編です。
文化祭もひと段落した後の日曜日、俺はバイト先の最寄駅で待ち人を待っていた。
悠然と待ち人を待つ俺の隣には兄貴分とも言える男性が忙しなくしている。
「佐伯ちゃん達、遅いなぁ」
「そりゃあまだ待ち合わせ時間の30分前ですからね。当分来ませんよ」
俺の先輩である戸田さんは佐伯さん達の到着を今か今かと待ち構えていた。
元々今日は文化祭で使ったダーツ盤を池田の爺さんに返しに行くことが目的である。
始めは雪菜と柚子ちゃんの3人で行く予定だったが、そこに戸田さんと佐伯さんが加わってきた。
戸田さん曰く、「佐伯ちゃんとの約束を果たすチャンスだ、健一も協力してくれ」とのこと。
佐伯さんは嫌がっていたが、雪菜と柚子ちゃんが説得をしたおかげで何とかきてくれることになったのは1週間前の話。
こうして今の状況に至る。
「それにしても健一はいつもその格好をしていればいいのに。もったいない」
「俺のことなんてどうでもいいじゃないですか。それより戸田さんのその格好は何ですか?」
俺が指すのは戸田さんの格好についてだ。
戸田さんは普段のジャケットにジーンズといった大人な装いとは違い、スーツっぽい服装で首元にはしっかりネクタイを巻いてある。
「うるさい。店長に聞いたら佐伯ちゃんはチャラくないきっちりした服装なら受けがいいって聞いたんだよ」
「きっちりしすぎですよ。これから佐伯さんの両親に結婚の挨拶でもする気ですか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「本気にしないで下さい。冗談、冗談ですから」
顎に手を当て真剣に考え込む戸田さんを見て俺はあせる。
もしそんなことになったら、佐伯さんの鉄拳が飛んできて遊びにいく所ではない。
「それよりも3人共遅いな。もう来てもいいんじゃないか?」
戸田さんに言われ、腕時計を見ると時刻は10時55分。
約束は11時ということなので、もうそろそろ来るはずだ。
「ごめん、遅くなって」
手を振りながら慌ててこちらに来るのは雪菜と柚子ちゃんだ。
あせっているのかバタバタと小走りをしながら、俺達の方に向かってくる。
「いや、全然待ってないよ。今来た所」
本当は戸田さんに連れ出され30分前には駅前にいたことはこの際言わないで置く。
言うとまたややこしいことになるから。
「ほぉ~~雪菜ちゃん達の制服姿もいいけど私服姿もたまらないね。本当に健一にはもったいないな」
雪案と柚子ちゃんのほうを注視しながらそんな感想を述べる戸田さん。
表情もどことなく中年の叔父さんっぽいので口調も含めてやめた方がいいと思う。
「本当ですか? ありがとうございます」
ほめられた雪菜は戸田さんに向かって律儀に頭を下げていた。
「健一君、どうかな?」
俺は改めて雪菜の方に目を向ける。
雪菜の今日の服装は、赤色のニットチュニックにニーソとブーツという組み合わせである。
見た目が可愛い雪菜にはぴったりの服装であり、文化祭準備の時に出かけたときと同様に可愛らしい。
また、チュニックの下にはチラチラと黒のショートパンツが見えるので、何も履いていないということはなさそうで一安心である。
「あぁ、すごく似合ってるよ」
なるべく雪菜の顔を見ずにそっけなく返すのは、彼女がいつもより可愛く見えてしまったからだ。
このまま雪菜を注視しすぎると勘違いをして調子に乗る可能性もある。
「よかったぁ」
「柚子は? 柚子は?」
柚子ちゃんの服装も相変わらず姉と同じで可愛らしかった。
ブルースクリーンのケーブルニットのカーディガンに白が基調のボチャスカート、それと茶色のブーツが柚子ちゃんに似合っている。
いつもはスニーカーとか機動性が高いものを履く柚子ちゃんがブーツを履いているの意外であるが、彼女の装いは森ガールといってもいいだろう。
雪菜が大人の可愛さだとしたら柚子ちゃんは少し子供っぽい可愛さという所である。
「柚子ちゃんも可愛いよ。よく似合ってる」
「ありがとう」
柚子ちゃんは笑顔で俺に答えてくれる。
「また、柚子だけ贔屓してる」
「してないって。雪菜も十分可愛いから」
「お姉ちゃんばっかり」
雪菜をほめたら今度は柚子ちゃんが不機嫌になっている。
あぁ、もうどうすればいいんだよ。
「健一、お前も大変だな」
そういいながらこちらを見て笑っているのは戸田さんだ。
そんなことを言うなら見てないで助けてくれ。
このままじゃ埒が明かないので俺はとりあえず話題を変えることにした。
「それよりも、佐伯さんは一緒じゃないの?」
「うんうん、佐伯さんとは別だよ」
「『先行ってて』って」
どうやら佐伯さんは2人を先に行かせたみたいだ。
一体どうしたのだろうか。
「健一。あれ、佐伯ちゃんじゃないか?」
戸田さんが指を指す方向には確かに佐伯さんらしき人がいる。
その人は慌てる様子はなくこちらにゆっくりと向かってきた。
「佐伯さん‥‥ってその格好は?」
前から歩いてくる佐伯さんの格好はいつも店で見ているものと同じラフな格好である。
青っぽいジーンズに緑色のパーカーを羽織っていて、おしゃれをしてきた雪菜達とは対照的である。
散々今日を迎えるに辺り『おしゃれをしてこい』と俺には口酸っぱく言っていたのに本人は何をしているのだろうか。
「おぉ、健一その格好いいじゃん。ちゃんと私が言った通りにしたんだな」
佐伯さんが言っているのは俺の服装のことだ。
今日の俺は店と同じように髪はワックスで整え、眼鏡もはずしコンタクトにしているのでそのことに触れているのだろう。
「ってそういうんじゃないですよ。佐伯さんこそ人に散々注文つけといてその格好は何ですか?」
「私のことはいいんだよ。それよりも早くダーツ盤を返しに行くぞ。池田の爺さんも待っているからな」
そういい、佐伯さんは駅の改札に向かって歩き始めた。
それを見て雪菜と柚子ちゃんは慌てて後から追っていく。
「ちょっと戸田さんはいいんですか? 佐伯さんはあんなこと言ってますけど?」
「まぁ、佐伯ちゃんらしいっちゃらしいな」
そう笑う戸田さんはどこか苦笑い気味である。
戸田さんの格好は行き過ぎた感があるが、佐伯さんは気にしなさすぎだ。
「でも、ああいう佐伯ちゃんだからこそ俺は惚れたんだからな」
「はぁ?」
俺が首をかしげると同時に戸田さんも佐伯さんを追いかけていった。
その後電車を乗り継ぐこと40分、件の駅についたので改札を出て地上への階段へ向かって歩みを進める。
地上へと向かっている間、相変わらず雪菜と柚子ちゃんは人ごみが苦手ならしく苦戦をしていた。
「うぇぇん、人が多いよ」
「大変」
こんな有様であるので2人の手を取り、地上への階段へと俺が誘導をした。
戸田さんと佐伯さんはといえば、池田の爺さんの所へよく来ていて慣れてるせいか人ごみをすいすいと掻き分けていく。
途中戸田さんが佐伯さんの手を取ろうと試みるが全て不発に終わっている。
戸田さんが手を取ろうとした瞬間、佐伯さんが横にスッと避ける光景が視界に入るだけで戸田さんが不憫でならない。
そんなことを思いながら階段を上り地上へと到着する。
階段を上った景色は以前雪菜達と来た時と同じようで、たくさんの人が大通りを歩いている。
「で、健一はこれからどうするんだ? 遊ぶにしてもその袋に入っているダーツ盤は邪魔だろう」
佐伯さんが気にかけるのは俺が持っているダーツ盤のことだろう。
確かにこれが荷物となっているので出来れば早急に返しておきたい。
「それもそうですね。先に池田の爺さんの所に行ってもいいですか?」
「そうだな。それじゃあ行くか」
佐伯さんは後ろでしょげている戸田さんに声をかけ、池田の爺さんがいるダーツショップへと向かう。
俺はというと両隣にいる雪菜達の方を見ていた。
「2人共大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。まだまだ歩けるよ」
「大丈夫」
そういうと2人は元気そうに声をかけてくれる。
「これから池田の爺さんの所に向かうから。お昼はそれからってことで」
「わかった」
「今日のお昼ご飯の場所ってさ‥‥」
「安心して。この前は柚子ちゃんチョイスだったから、今回は雪菜が好きそうな所選んだから」
俺がそう発するのと同時に雪菜が満足そうに頷いた。
以前3人で来た時は柚子ちゃんが好むお店で、雪菜も嫌がらない所を選んだので今回はその逆パターンのお店を選んだつもりである。
そのために雪菜には事前にどういうものが好きか聞いている。
「柚子は?」
「柚子ちゃんの好きなものもあるから期待してくれていいよ」
「うん」
「じゃあ行こうか」
こうして笑顔になった2人を引きつれて俺も佐伯さん達の後を追った。
その後、池田の爺さんの店に行き、文化祭で使ったダーツ盤を返し、昼食をとりに外へ向かった。
その時に池田の爺さんからは勝負しろと散々言われたが、何とか逃げることに成功する。
あの爺さんは本当にしつこいんだよな。
「健一君、こっちで大丈夫なの?」
「あぁ、確かこっちにあったはず」
大通りを抜け、人が少ない裏路地を5人で進んでいく。
俺達の周りには数えるぐらいしか人がいない。
「本当にこっちで合ってるのか?」
「意外と道間違えてたりしてな」
茶化す大学生2人組みを横目で見ながらも俺は道なりに真っ直ぐ進んでいく。
確か調べた時はこっち方面にお店があったはずである。
「お兄ちゃん、あれ」
柚子ちゃんが指を指す看板を見ると俺の探しているお店が見つかった。
洋食屋『Honey』である。
「よかった、見つかって」
俺は店の看板を見て安堵のため息をつく。
「まぁ、見た目は大して悪くはないな」
こう評したのは佐伯さん評価である。
この店の外装は確かに白を基調とした外装なので、そこまで悪くはない。
ただ外壁の白い塗装が少しばかり汚れているだけである。
「とにかく味は確かですから、入ってみましょう」
そういい、俺は他の4人を中に入るように促す。
Honeyの内装は他のお店よりは少し独特である。
中はログハウスみたいな木を基調とした空間でいたるところが木製で出来ている。
カウンターに5席、テーブル3席と非常に小さいお店だが、料理の味は雪菜や柚子ちゃんに合うと思っている。
俺は今日のためだけに1度この店に足を運んでいるので妙な自信があった。
優しそうな女性の店員さんからメニュー表を受け取ると俺は雪菜と柚子ちゃんにメニュー表を渡した。
それを戸田さんと佐伯さんは横から一緒に見ている。
「オムライスがある。うれしい」
そんな喜びの声を上げるのは雪菜である。
彼女からオムライスが好きだということを本人から事前に聞いていた。
そのため池田の爺さんの周りに洋食店がないかと調べた結果この店を見つけたのだ。
「ほぅ、健一はずいぶんと雪菜ちゃんのつぼを抑えているようだな」
したり顔でこちらを見る佐伯さんが妙に面倒くさく感じたのでさらっと流した。
「お兄ちゃん、柚子ハンバーグが食べたい」
「じゃあこの煮込みハンバーグとかどうかな? 店特製のデミグラスソースでを使用してるみたいなんだけど?」
「おいしそう‥‥じゃあ柚子煮込みハンバーグにする」
柚子ちゃんもメニューが決まったらしい。
この店の煮込みハンバーグはスープと野菜とライスも一緒についてくるサービスをしているので柚子ちゃんには丁度いいかもしれない。
「じゃあ俺は和風ハンバーグにしようかな。佐伯ちゃんは何にするの?」
「私は雪菜ちゃんと一緒のオムライスにするよ」
「俺はドリアにするから。これで全員決まったね。すいません」
俺の呼びかけに先程メニュー表と水を出してくれた店員さんが注文をとりに来てくれた。
注文を一通りとり終えると『少々お待ち下さい』といって裏へと引っ込んでしまった。
「それにしても佐伯ちゃんがオムライスって意外だな」
「そんなに私がオムライスって以外か?」
戸田さんが佐伯さんの方を見て何度も頷いていた。
「佐伯ちゃんなら健一と同じドリアでも選ぶのかと思ったけど‥‥」
「いいだろ。たまには」
そんなやり取りを2人が続けている間に頼まれたものが運ばれてくる。
全員の所に食事がいき渡った後、『いただきます』と全員でいい食べ始める。
「おいしい」
「これはいけるな」
オムライス組はどうやら喜んでくれたようである。
特に雪菜なんかはうれしそうにオムライスを口にパクパクと運ぶ。
元々このお店はデミグラスソースに定評があるらしく、3日ぐらい煮込んでいるらしい。
オムライスにもケチャップではなくデミグラスソースがかかっているため、それが薄めで味付けされたチキンライスと絶妙なハーモニーを生み出している。
また、卵も半熟のため半熟卵が好きな雪菜の口に合っているのだろう。
「お兄ちゃん、これおいしい」
「それはよかった」
柚子ちゃんは注文をした煮込みハンバーグをパクパクと口を運んでいる。
こちらもどうやら喜んでもらえたようだ。
ちなみにいくつかのメニューは俺がここに来て食べたことがあるのでこうして感想がいえている。
「健一、和風ハンバーグは‥‥」
「戸田さんは黙ってください」
しょげる戸田さんを尻目に俺は幸せそうにご飯を食べる雪菜達の姿を見やる。
彼女達がおいしそうに食べる姿を見るとこの店を選んでよかったと心の底から思う。
「「ご馳走様でした」」
全員が食べ終わったのを見ると俺はレジカウンターへとお会計を払いに向かうと後ろから雪菜がついてきた。
「どうしたんだよ?」
「いや、私も柚子と自分の分ぐらいは払わないと‥‥」
レジに一緒に来た雪菜はしょげていた。
後で稼いでいる戸田さんに全額請求するんだからそんなに心配することないのにな。
この後戸田さんに支払いの催促をして、渋々ではあるがここでの費用をもらえるのだがそれは後の出来事である。
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ。文化祭の時2人にはお世話になったんだからそのお礼として受け取ってくれると俺としてはありがたいんだけど‥‥」
「でも‥‥‥‥」
どうやら雪菜はいまだに納得していないようだ。
「お二人は仲がいいようですね」
「「えっ」」
レジの方を見ると先程料理を運んできてくれた優しそうな店員さんがレジを打ってくれていた。
その表情は俺達のやり取りを微笑ましく見ているようである。
「彼女さんは彼氏さんを大切にしないといけませんよ。この人数日前にも食べに来てくれたんですから」
「その話は待ってください」
驚いている雪菜の横で店員さんは楽しそうに続ける。
「あれは忘れるわけないですよ。ここに来た時に、オムライスや煮込みハンバーグを1人でオーダーしてその上デザートまで食べていった人なんか今までいなかったんですから」
俺は恥ずかしくなり自分の顔を覆った。
確かに俺はこの前1人で来た時、オムライスと煮込みハンバーグを注文して食べていた。
そういえばその時もこの店員さんがオーダーを取りに来た気がする。
「その時も『この店のお勧めって何ですか?』とか聞かれたので私が説明したんですよ。何でこの人はこんなに食べるのか不思議に思っていたんですけど、あれは彼女さんのためだったんですね。感心します」
俺は小声で呻きながらもお財布から1万円を取り出し支払いを済ませ、外に出る。
今更ながらとても恥ずかしいことをしていた気がする。
「健一君?」
俺の後に外に出てきた雪菜はニコニコ微笑むだけである。
「あーーその‥‥今の店員さんの発言は忘れてほしい」
自分の表情をを見られないように、精一杯ポーカーフェースを貫く。
「無理だよ。健一君ってやっぱり優しいんだね」
雪菜の言葉が俺の胸に突き刺さる。
「そんなことはない」
「そうかな? 教室で見る健一君とは大分印象が違うんだけど?」
どうやら雪菜は俺の学校での生活のことを指しているらしい。
別に店でも学校でも同じ装いのはずだと思うんだが。
「でも、最近教室でも健一君優しくなった気がする」
「もうこの話題はやめようか。ほら佐伯さん達も出てきたし」
俺はドアから出てくる佐伯さん達を指差しながら話題をそらした。
佐伯さん達がこちらに合流する間、雪菜がずっとニコニコしていたのが俺の印象としては残っている。
昼食を取った後は表通りに戻り5人でゲームセンターにやって来た。
佐伯さんは戸田さんを連れて、真っ先にレースゲームの所へと引っ張って行く。
そのため今は雪菜と柚子ちゃんと俺の3人だけである。
「俺達はどうしようか?」
「う~~ん」
「お兄ちゃん、あれ」
柚子ちゃんが指を指したのはプリントシールの機械、通称プリクラである。
「あっ、いいかも。じゃああれやろう」
姉妹揃って俺の腕を引っ張りプリクラの機械の中へと俺を誘導していく。
ちなみに俺は生まれてこの方プリクラを撮ったことはないので、こういう時にどうすればいいか全くわからない。
俺がわからない中、遠野姉妹は着々と準備を行っていく。
「健一君、笑って」
雪菜からそう言われ笑うが俺の笑顔はどこかぎこちなかった。
「お兄ちゃん」
「柚子ちゃん?」
後ろに回りこみ、俺の肩口から顔を出してくる柚子ちゃん。
そして次の瞬間、柚子ちゃんが俺の脇をくすぐってきた。
「柚子ちゃん、やめて。くすぐったいから」
柚子ちゃんの思わぬ攻撃? に対し笑っている所でシャッターが切られる。
次の写真は俺がもだえているものが取れた。
こう見ると先程より俺が滑稽に見える。
「私も」
そして何を思ったか雪菜が俺の左腕を取り自分の体を押し当ててくる。
「柚子も」
負けじと柚子ちゃんは右手を取ってきた。
この状態じゃ全く身動きが取れない。
「2人共、身動き取れないから離して」
「「やだ」」
「そこは即答かよ」
俺が反論をしている間に3枚目のシャッターがきられた。
その後も何枚か取ったが、結局3枚目の写真を印刷するものに選んだ。
あの2人が俺に抱きついた写真に文字を書いたり、スタンプをつけて作業は完了。
今は3人でプリント機の外に出て印刷で出てくるのをいまかいまかと待ちわびている。
「出てきたよ」
雪菜がプリントシールを手にとった。
柚子ちゃんと雪菜の持っているプリントシールを見るとそこには2人に腕を抱きつかれたハーレム状態の男が写っていた。
その男は俺なのだがこうしてよく見ると額に少しだけ汗が滲んでいるようで、笑顔は引きつっている。
隣の遠野姉妹が笑顔なのとは対照的だ。
多分これが学校に流出することになったら、俺は文化祭の時と動揺につるしあげをくらうだろう。
「よく撮れてる」
プリクラを総評するのは柚子ちゃんである。
雪菜も柚子ちゃんのほうを見て頷いていた。
「そうかな? 俺の表情とか引きつってるけど‥‥」
「それも健一君らしいじゃん」
「お兄ちゃんらしい」
2人は納得しているようだが俺は納得できていない。
てか俺らしいって何だよ。
「おーーい」
元気よくこちらに向かってくるのは佐伯さんである。
後ろから疲れたような顔で戸田さんが向かってくるので引っ張られたのだろう。
「おっ、雪菜ちゃん達プリクラ撮ったのか‥‥‥‥あぁ、健一らしいな」
しらけた表情で佐伯さんは俺のことを見ている。
「そんな表情をしないで下さい。俺だって不本意なんですから」
「そうか? むしろ今のお前の状況を表している最高なものだと思うんだが」
ちなみにこの後来た戸田さんにも同じようなことを言われた。
「ちくしょう。健一だけいい思いをしやがって。こうなったらみんなで撮るぞ」
「また撮るんですか?」
俺の抗議もむなしく今度は5人で撮ることになった。
この5人で撮った時は非常に騒がしく、残念な(特に戸田さんが)ことになったのだが、それも俺達らしかった。
☆★☆★
「結構遊んだな」
伸びをしながら満足げにつぶやくのは佐伯さんである。
「まぁ、あれだけ遊べばそうですね」
それから色々とゲームセンターで遊んだ。
遠野姉妹がダンスゲームがうまかったのが俺としては以外である。
どうやら2人は昔、このゲームを結構やっていたらしい。
「でも、何か足んないよなぁ~~」
戸田さんはそういうとなにやら考え込むしぐさを見せていた。
俺としてはなんとなく戸田さんのもやもやがわかる気がする。
「柚子ダーツやりたい」
「柚子ちゃん?」
「そうか。今日はダーツをしていないからだ」
柚子ちゃんの言葉にどうやらみんなが納得したらしい。
「で、最終的にはここにきたのか。あきれてものも言えないな」
カウンターに座っている池田の爺さんはこちらを見てため息をついていた。
「まぁ、そう言わないでよ。みんな楽しそうだし」
俺はダーツを投げている遠野姉妹のことを見ながらそんな感想を述べている。
あれから池田の爺さんの店に移動してこうしてダーツを投げることにした。
池田の爺さんの店はわりと近いしこういうのもありだろう。
「結局こうなるのか」
「佐伯さんはわかっていたようですね」
隣であきれ混じりにいう佐伯さんである。
「まぁな。この面子ならダーツはやりそうな気がしたし」
佐伯さんの言うことはおおむね俺も思っていたことだ。
この面子でいるのにダーツをしないのはありえないだろう。
「じゃあ私達もやるか」
「そうですね」
そういいつつ俺と佐伯さんは戸田さん達の方へと向かう。
この1日は俺にとっても忘れられない1日になった。
「そういえば佐伯さんはどうして今日はそんな服なんですか?」
「えっ?」
「いや、おしゃれしてこいと言った人がしてこなかったんで」
「あ~~~~それはだな‥‥」
「スカートのことか?」
「へっ?」
「確かお主はスカートを持ってなかったとか行ってなかったか?」
「爺さん、それ以上は口を閉ざそうか」
「もしかして‥‥佐伯さんってデートはスカートしかはいちゃいけないとか思っていますか? だからそんな簡素な服にしたんじゃ‥‥」
「べっ、別に‥‥‥‥私はそんなこと思っていないし」
珍しく冷や汗を大量にかきながらダーツを投げる佐伯さんをいじるのは楽しかったのも付け加えておく。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただければうれしいです。
もう1話番外編を入れてから4章を開始する予定です。




