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エピローグになります
この学校の後夜祭は体育館で行われ、吹奏楽部の演奏や有志で参加しているバンドの演奏、学校側がお笑い芸人やアイドルを招いてのライブやトークショーが催されている。
毎年たくさんの生徒がこの集まりに参加しているらしい。
そんな人達を見送る中、俺は誰にも見つかることなく1人教室の机に突っ伏していた。
先程雪菜達にあちらこちら引っ張りまわされたせいで体がボロボロで、後夜祭ではしゃげる状況ではない。
たとえはしゃげる状況でもはしゃぎたくはないがそんなことはどうでもいい。
一旦雪菜と教室に戻った時にわざとトイレに行き、人がいなくなるのを待っていたかいがあった。
こうして1人でいるのはやっぱり落ち着く。
「そんな所で何してるんだよ?」
だるい首を起こし教室のドアの方を見るとそこには先程大はしゃぎで体育館に向かって行った達也がたたずんでいた。
「達也か‥‥お前はさっき体育館に行ったんじゃないのか?」
「忘れ物があって戻ってきたんだよ。お前に言われなくてもちゃんと後で行くわ。今年はアイドルの黒崎千尋と北山卓也が来るんだからな」
「それって誰?」
質問をすると達也は目を丸くして驚いていた。
「お前知らないの? 今話題になっているアイドルだよ。2人共最近テレビにも出てるだろ?」
そんなことを言っても知らないものは知らない。
最近パソコンを使うことはあってもテレビを見ることが殆どないから知らないのはそのせいだろう。
「全く、健一らしいな」
達也は俺の無知ぶりにあきれているようである。
まぁ、柚子ちゃんに聞いても同じ答えが返ってきそうだがな。
今度聞いてみるか。
「そういえば雪‥‥遠野さんや宮永さんは有志の集まりに出ないの?」
「2人が出るわけないだろう。あんなにクラスのことで手一杯だったんだから。それに遠野さんは恥ずかしがり屋何だからこんな話があっても真っ先に断るはずだ」
「そうか‥‥」
俺のことを散々引っかきまわし、色々な所に連れて行き、様々な事件に巻き込むあの人が恥ずかしがり屋なのか。
俺と達也の雪菜への認識は180度ずれている気がするんだが気のせいなのかな。
「それよりも遠野さんと健一って最近仲がいいじゃないか。何かあったのか? 話してみろよ」
「特にはないよ。あっちが勝手に俺に絡んでくるだけだし」
俺は事実を達也に淡々と伝える。
俺のバイト先に勝手に来て絡んできてるのもあっちだし、この前のダーツの時も雪菜の方から絡んできたので達也に話していることは間違ってはいない。
「またまた。それにあの中学生トリオはどういう関係なんだよ? 3人共可愛かったじゃないか」
「それはちょっとな。今回の件でお世話になっただけだよ。単なる知り合いだ」
「本当か? お前は最近女子と接する機会が増えてけしからん奴だからな」
達也はいやらしい目で俺の方を見つめてくるが、その言葉を達也にそのまま返したい。
俺との約束よりも宮永さんの約束を優先して毎日遊びに行っていたのはどこのどいつだよ。
「そんなことないよ」
「ふ~~ん、まぁ浮気するのは程々にしろよ。ろくなことがないからな」
達也はケラケラと楽しそうに笑っている。
こいつのそういう顔を見るのは俺にとっては不愉快な事柄の1つだ。
「そういえば横山の件なんだが‥‥‥‥」
「横山君って‥‥さっき達也が捕まえた?」
「あぁ、そのことで色々わかったらしいから当事者のお前に報告をしようと思ってな」
達也は改めて俺の方に向きなおる。
その目は先程見せていたふざけた視線ではなかった。
「あいつ自分がクラスの装飾品を壊したことを認めたらしいぞ」
「そうか」
それはよかった。
このまま俺が犯人扱いされたままなのはさすがに嫌だからな。
「そこで問題だが横山がクラスの装飾を壊した理由って何だと思う?」
「そんなの俺が知るわけないだろ」
俺は横山君と特に関わり合いがなかったので何で彼がそんな行動を取ったのか不思議に思っていた。
そんな俺に理由なんか聞かれたってわかるわけがない。
頭を抱えて考える俺の顔を見て達也は笑いをこらえきれないようである。
先程の真面目な顔はどうしたんだよ。
「さっきの答えだがな‥‥嫉妬だってよ。宮永さんへの」
「嫉妬?」
達也が何を言っているのかよくわからない。
宮永さんが標的なのになんで俺に不幸の矛先が向けられたのだろう?
「あいつクラスの出し物決める時、コスプレ喫茶をやるって言ってたくせに宮永さんに論破されたろ。あの時のことを今だに根に持ってたらしいんだよ」
「そうなんだ」
「で、あいつはダーツ喫茶なんて予算オーバーしたり、ダーツのルールや得点計算がややこしくてすぐ破綻すると思っていたわけ。だからすぐにコスプレ喫茶に切り替えられるように仲間を集めて準備していたらしいぞ。でも実際は予算内で誰でも出来るようなものに仕上げたじゃん。それを見て宮永さんを少しでも困らせたいと思ってあんなことをしたらしい」
「あ~~なるほど」
確かにダーツ盤に関しては俺が得点計算が楽になるように自動で動くものをわざと借りてきたし、ないものに関しては簡単で単純なゲームを雪菜に提案していた気がする。
だが、それでも俺は雪菜にそのことを話したぐらいで他の人に話した覚えはない。
なので俺が狙われることはないんじゃないか?
「ちなみに健一に全て罪を被せたのは、たまたま健一があの日朝早く来たかららしいぞ。あのことがなければ宮永さんに全ての責任をなすりつけようとしてたって言ってたらしいからな」
「はぁ? 俺そんな理由でこの3日間逃げ続けないといけなかったの?」
「まぁ、そういうことだ」
達也は笑っているが、俺としてはあきれるしかない。
そんな理由で俺はクラスの人達から逃げ続け、柚子ちゃんのクラスに入り浸っていたのか。
こうして理由が判明すると意外とあっけないものなんだな。
「まっ、健一はご愁傷様って所かな。じゃ、俺はそろそろ体育館にいくわ。ライブも始まっちゃうし」
そういうと達也は教室から出て行こうとする。
「達也」
「あぁ、何だよ」
俺が声をかけると達也は首だけをこちらに向け、だるそうな声を発していた。
「その‥‥‥‥ありがとな。犯人捕まえてくれて」
この時達也は目を丸くしてこちらを唖然とした表情で俺のことを見つめていたと思うと、突如二カッと笑う。
「お前から礼を言われるなんて初めてだな」
「まぁ今回は世話になったからこれぐらいはな」
「別にいいって。それよりも遠野さんにお礼を言っとけよ。あの時一緒に謝っていたけど、遠野さんだけはずっとお前は犯人じゃないって言ってたんだからな」
「わかった。ちゃんとお礼を言っておくよ」
「約束だぞ」
そういうと今度こそ達也は教室から出て行った。
あいつが何をしたかったのがいまだに俺にはわからないがこれで色々な謎が解けた。
釈然とはしないがこれで少しすっきりした。
俺は椅子から立ち上がりダーツスペースの方まで移動して、ダーツの矢を1本手に取り的に向かって投げた。
その矢は真っ直ぐ飛んで行き、ブルへと刺さる。
「ナイワン」
達也が去った教室の扉の方へ行くとそこには先程まで俺と一緒にいた少女が俺の方に近づいてくる。
「今度は雪菜か」
「あたしもいる」
雪菜の後ろからは隠れていた柚子ちゃんがひょっこりと現れた。
「柚子ちゃんも来てたんだ。そういえば2人共、後夜祭に行かないの?」
「後で行こうと思ってるよ‥‥‥‥健一君も誘って」
「そうですか」
どうやら2人は俺のことを後夜祭に誘いにきたらしい。
相変わらずお節介をやきに来るとは面倒な人達だ。
「今日は楽しかったね」
「俺は疲れただけだがな」
「お兄ちゃん、楽しくなかった?」
「いや、柚子ちゃん達と一緒に過ごせたのはすごく楽しかったよ」
柚子ちゃんが悲しそうな表情をうかべたので慌ててフォローをする。
何故だかわからないが柚子ちゃんの泣き顔を見ると俺の心がズキズキと痛む。
「本当?」
「本当だよ。柚子ちゃん達のクラスの出し物も手伝えて本当によかったんだから」
俺がそういうと柚子ちゃんは先程とは違い、笑顔だった
やっぱり柚子ちゃんは笑顔が1番だね。
「健一君って私には厳しくて柚子には甘いよね」
雪菜は何やら不満そうである。
いや、別に差別しているわけではないんだけどな。
「別に雪菜に厳しくしているつもりはないよ。それに俺の無実を信じてくれたんだって? 達也から聞いたよ。その‥‥‥‥ありがとな」
「そっ、そんなことないよ。だって健一君ならダーツ盤にまで手を出さないはずだし、こんな面倒そうなこと絶対やらないと思うし‥‥」
話している雪菜の声はどんどん小さくなっていった。
途中からは俯き頬を赤くし、やがてその声が聞き取れなくなる。
「柚子は? 柚子は?」
「柚子ちゃんも匿ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
今回の件では柚子ちゃんにも感謝をしないといけない。
彼女がいなければ俺は無実の罪で職員室に連行されていただろう。
「羽村さん達にも後でお礼を言わないとな」
「じゃあさ、お兄ちゃんのお店に2人を連れてきてもいい?」
柚子ちゃんからの唐突なお願いだった。
まぁ、柚子ちゃんの友達なら俺のことを漏らすこともないだろうから大丈夫か。
それに部活もやっているらしいし、入り浸ることもない。
助けてくれたし感謝の意味をこめて呼んでもいいだろう。
「うん、いいよ。今度つれてきな」
「やったぁ」
柚子ちゃんが両手を上に上げ飛び跳ねながら喜んでいた。
「じゃあさ、飛鳥とか連れて来ても‥‥」
「それはダメだ。クラス中に俺のこと広まったらどうするんだよ? 俺恥ずかしくて学校行けなくなる」
「え~~」
「『え~~』じゃなくて。それに宮永さんはよく店にきてるじゃん」
「だって飛鳥がいる時って健一君お店に絶対いないじゃん」
確かに雪菜の言う通り宮永さんが店に来た時、俺は大抵バイトを休んでいる。
大抵戸田さんから宮永さんがいつ来るかの情報が入るため、バイトは比較的に休みやすい。
あれから宮永さんも戸田さんの指導を受けに来てるんだもんな。
おかげでバイトの時間がどんどん削れていく。
「それはダメだ。何があっても」
膨れる雪菜を見ながらでも俺の決意は変わらない。
あいつらを連れてくると絶対に大変なことになるのが目に見えている。
「じゃあそれはそれとして、健一君は後夜祭の後にあるクラスの打ち上げは出るよね?」
「いや、俺は今日このまま帰宅する予定だが‥‥」
「え~~行こうよ。クラスのみんなもくるって言っているし」
「行かないものは行かない。柚子ちゃんだって今日は普通に帰るでしょ?」
柚子ちゃんに聞くと彼女も首を縦に振って頷いてくれた。
「打ち上げは今度」
「ほら、柚子ちゃんもそういってるし俺は帰るわ」
「ダメだよ。健一君来るのすごく楽しみにしてたんだから」
鞄を持とうとする俺のことを、雪菜は制服の袖を引っ張り帰宅しようとする俺の妨害を始めた。
「やだよ。何で仲がよくない人達と打ち上げをしないといけないの?」
「だって‥‥」
今度は雪菜が泣きそうな顔になる。
柚子ちゃんといい雪菜といい女の子って表情がコロコロ変わりやすい。
黙って俯いている雪菜のことをしばらく見ると何かを閃いたみたいだった。
「じゃあ私達だけじゃダメ? 私とか柚子だけなら打ち上げしてもいいかな?」
「う~~ん」
確かにそれなら別にいいが、それって果たして打ち上げって言うのかな?
俺はクラスの出し物に殆ど参加していないし、柚子ちゃんは別のクラスでありそもそも中等部所属だ。
打ち上げというよりはただのお食事会なんじゃないのかな?
「まぁ、それぐらいならいいよ」
「本当? やったぁ」
雪菜は笑顔を店ながら携帯を動かして誰かに連絡をしている。
「誰に連絡してるの?」
「佐伯さんと戸田さんに。2日目にクラスの出し物を手伝ってくれたみたいだから」
そういえばあの2人も来てたな。
それよりも出し物を手伝っていたって一体あの2人は何をしていたんだ?
色々聞かなければいけないことがありそうだが今は後回しにしておこう。
服を引っ張られる感覚がしたため下を向くと柚子ちゃんが俺の袖をくいくいと引っ張っていた。
「お兄ちゃん、茜ちゃん達は呼んじゃだめ?」
「別にいいよ。呼んであげな」
「やったぁ」
柚子ちゃんも慌てて自分の携帯を取り出すと羽村さんと水谷さん宛にメールを送っていた。
こうして激動の文化祭は終わりを迎える。
ただこの後控えている打ち上げを考えるとぞっとする。
メンバー的に無難に過ごすことは出来るのか。
楽しそうにメールを打っている2人を見ながら俺は心の中でそんなことを思っていた。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただけるとうれしいです。
多分これが年内最後の更新になると思います。
横山君の動機についてですが実は2章の始めの方で少し触れています。
ただ、その部分をうまく描写できていなかったため失敗したかなと反省しています。
次章ですが、4章に入る前に番外編を1話か2話書こうと思っています。
詳しくは活動報告をご覧下さい。
それでは今年1年ありがとうございました。
来年もよいお年を。




