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翌日の朝5時、うるさいほど鳴り響く携帯の音ともに目が覚める。
いつもはもっと遅い時間に起きるが今日は特別に起きるのが早い。
こんなに早く起きたのにはちょっとした理由がある。
実は宮永さんからあの後連絡があり犯人の目星がついたことを聞き、翌日の6時30分に学校に集合するように言われたためこうして早起きをしたのである。
時間的には6時に家を出れば十分学校に間に合う。
俺はいつものように夜勤明けの母親用の朝ごはんを作り、制服に着替えた。
この時時間は5時45分。この調子なら約束の時間よりも少し早い時間につく。
俺が玄関のドアを開けてガレージにある自転車を取り出し外に出ようとするがどこかおかしいことに気づく。
おかしいというのはガレージの外であり、俺の見間違いでなければ外に人の気配を感じた。
この時間はまだ日の出が出る時刻ではないためあたりは暗いがはっきりとそこに人がいることがわかった。
「泥棒か?」
独り言をつぶやき恐る恐るガレージの外を見るとそこにはふわふわ髪の可愛い少女が転寝をしていた。
「これは一体‥‥」
どういうことなんだとつぶやこうとした時、腰を誰かに捕まれた。
ビクッと体を震わせ驚いた後、捕んだ人の顔を見るとこれまた俺の見知った顔である。
「お兄ちゃん、捕まえた」
無表情で俺の腰元を掴んでいたのは柚子ちゃんである。
彼女のスカート姿は寒そうだが、温かくなるように赤いチェック柄のマフラーとピンク色の手袋をはめていた。
「何で柚子ちゃんがここにいるの? ってか何で俺の家を知っているの?」
様々な疑問が俺の頭をよぎるがこうしていても仕方がない。
もう1人の転寝をしている方に事情を聞くしかない。
「おい、朝だぞ。こんな所で寝ていると風邪引くぞ」
立ったまま寝ている少女、遠野雪菜を揺すって起こすと彼女の目がパチッと開いた。
「健一君捕まえた」
雪菜は目が開くと同時に俺の腕を掴む。
現在俺は腰をを柚子ちゃんにホールドされ、右腕を雪菜にホールドされるというおかしな状況に陥っていた。
「これはどういうことなんだ?」
「朝早くから健一君が家にいないってパターンが続いていたから捕まえようと‥‥」
「わざわざ理由をありがとう。で、何で俺の家がわかった? 2人を家に招待した覚えがないんだが‥‥」
「それは昨日達也君に教えてもらって‥‥‥‥柚子は勝手についてきちゃった」
俺は2人の行動に頭を抱える。
今は6時ちょっと前なのでその前から張り込みをしていたことになる。
「ちなみに何時頃からここにいたの?」
「4時30分ぐらいかな」
「そんなに前から待ってたの?」
驚くよりもただあきれてしまう。
その時間は電車は動かないはずだから推測としてここまで歩いてきたと考えていいだろう。
店の近くに家があると昔柚子ちゃんは言っていたので、自転車で15分、歩きだと30分以上はかかる。
よくそんな道を歩いてきたな。
「全く感心するよ」
俺はため息をつきながら2人のことを一瞥した。
俺に抱きついている2人の体温は非常に冷たい。
さすがにこのまま学校へ行っても風邪を引くだけだろうから、それだとなんか申し訳ない。
「柚子ちゃんと雪菜は今日朝ごはん食べたの?」
「食べてない」
不満そうに声を上げるのは柚子ちゃんだ。
そういえば3人で池田の爺さんのとこ行った時も朝ごはん食べてなくてこんな顔をしていた気がする。
「私は大丈夫だよ」
「雪菜は大丈夫でも柚子ちゃんがダメだろ。全く前の時も朝ごはん食べてなかったよね」
「あの時も今回も忙しかったの。慌てて家を出たんだから」
そういう雪菜は頬を膨らまして反論する。
どうやら彼女はご立腹のようだ。
「もういいよ。とりあえず俺の家で朝ごはんを食べてきなよ」
「いいの?」
「いいも何も朝ごはんを食べてなくてクラスで倒れましたってオチはやだからね」
それに時刻は6時を過ぎている。
今更自転車で学校に向かってもこの姉妹を連れて行かないといけないのだから遅れることは確定だろう。
遅刻するならいくら遅れても同じだ。
達也には後でメールでもしておけばいいや。
「そんなことじゃ倒れないもん」
「じゃあ喫茶店のケーキをつまみ食いしすぎて在庫が足らなくなるとか」
「それは‥‥‥‥ないかな」
あるのかよ。
雪菜は俺から視線を少しずらした。
「早く。朝ごはん」
「わかったから、柚子ちゃん。押さなくてもちゃんと作るから」
柚子ちゃんにせかされながら俺はもう一度自分の家に入ることになった。
2人をリビングに通すと椅子に腰掛けてもらい部屋のエアコンを作動させる。
これなら少しすればあったかくなるだろう。
俺が2人を通した所は調理スペースが一体になっているリビングである。
テーブルには俺がさっき作った秋刀魚の焼き魚とスクランブルエッグが乗った皿が置かれていて、ちゃんと上からはラップをかけてある。
「健一君は料理って出来るの?」
「できないよ」
「その割にはうまく出来てるね」
雪菜が多分言っているのはテーブルに置かれている俺が作った朝食のことだろう。
「それぐらいなら誰だって出来るよ。秋刀魚は魚焼きグリルに入れて4~5分ぐらい焼けばいいだけだし、スクランブルエッグは卵をぐちゃぐちゃにかき混ぜるだけだろ。ハンバーグとかそういう凝ったものは全然出来ないよ」
雪菜は俺の言ったことにむっとしていた。
彼女は料理はしないのだろうかすごく気になるので後で聞いてみるか。
不意に隣の柚子ちゃんの席を見るといつの間にか彼女はいなかった。
「柚子ちゃんはどこに‥‥‥‥」
「呼んだ?」
いつの間にか柚子ちゃんは俺の隣にいた。
相変わらずの神出鬼没ぶりを見せてくれる。
彼女は俺の手からかき混ぜている卵の入ったボールを取り上げ、自分でかき混ぜ始めた。
「柚子ちゃん?」
「あたしがやる」
柚子ちゃんが妙に自信満々だったのでそっちは柚子ちゃんに任せ、俺はクッキングヒーターの電源を入れ、味噌汁を温める。
そういえば冷蔵庫に何か残りものってあったような気がする。
「私も手伝う」
結局不機嫌な顔をした雪菜までキッチンに現れてしまう。
てかお客さんなのに2人にここまでやらしておいていいのか俺。
「ありがとう。とりあえず食器を用意してくれないか?」
「わかった」
雪菜に食器の準備を頼んだので改めて俺は冷蔵庫の中身を見る。
中にはこの前母親が煮てくれた里芋が入っていた。
これをつけあわせで出しとくか。
それを電子レンジに入れ暖め終わると柚子ちゃんのオムレツの方も完成しているみたいで、テーブルに皿を1枚1枚置いていく。
雪菜もよそった味噌汁やご飯をテーブルにおいていく。
最後に秋刀魚の切り身も焼きあがったようでそれをお皿に盛り付けテーブルに置いた。
ひと段落終わり、みんな椅子に座った所で一息つく。
「いただきます」
「「いただきます」」
そういいご飯を食べ始める。
まぁ、なんというか柚子ちゃんのオムレツが秀逸な出来だった。
見た目はきれいなオムレツで、俺が母親に作ったスクランブルエッグが酷くみえる。
オムレツは柚子ちゃんから前もって何もつけないように言われていたのでそれに習って食べると味がしっかりしていた。
味付けは塩と胡椒がきいていておいしく、且つ半熟で仕上がっているオムレツに絶妙な塩コショウの加減。
これは絶品だ。
「柚子ちゃん、これおいしいよ」
「うれしい」
恥ずかしがってもくもくとご飯を食べる柚子ちゃんは妙に可愛かった。
その間も雪菜の機嫌はすこぶる悪い。
時折「おいしい」とつぶやくきもくもくと食べている。
「こんなおいしい料理を食べられるなんて、柚子ちゃんと結婚した人は幸せだろうね」
柚子ちゃんはほめられたことがうれしいのか照れていて顔も真っ赤になっている。
多分ほめられたことがすごくうれしいらしい。
だが、柚子ちゃんの機嫌がよくなるに連れて雪菜の機嫌がさらに悪くなった気がした。
この姉妹の機嫌は反比例でもしているのだろうか。
「そういえば雪菜は料理‥‥」
「どうせ私は料理できませんよ」
雪菜はぷいっとそっぽを向きながら秋刀魚を一口口に入れる。
「お姉ちゃん、不器用」
「柚子」
姉にちょっかいを出す柚子ちゃんはどこか楽しそうに見える。
料理は雪菜のウィークポイントだったということがこの時初めてわかった。
「まぁ、今度雪菜の料理も食べさせてよ」
「でも私本当に下手だよ。全然柚子よりも出来ないよ」
「別にいいよ。俺も手伝うし、柚子ちゃんも手伝ってくれるよね」
柚子ちゃんも首を立てにふり頷いてくれる。
「わかった。じゃあ今度作ってあげるから。期待しないでよ」
そういうと雪菜はさといもを1つ口に運び、「おいしい」といっていた。
先程と違い、機嫌はよくなったらしい。
ご飯を3人で食べた後は食器を片付けて外へ出る準備をした。
達也には朝ごはんを作っている最中にメールを送っておいたから犯人探しの方は大丈夫だろう。
「じゃあ行こうか」
「うん」
俺は自転車を押しながら2人は歩きながら学校に向かう。
最初は2人で電車に行くように言ったのだが、当初の予想通り拒否されてしまった。
「本当にここから2人は歩いていくの?」
「だってそうしないと健一君が犯人じゃない証拠にならないし」
「大丈夫」
改めて問いただすが2人がそういうのでしょうがなく一緒に学校へと向かう。
学校までは歩きで大体1時間ぐらい。
現在の時刻は7時なので文化祭の開催時間には余裕で間に合うだろう。
「そういえばさ、健一君のお母さんって何の仕事をしてるの?」
「そんなの聞いてどうするの?」
「いや、別に。特には何も‥‥‥‥ごめん」
雪菜はそういうと何故か悲しい表情をうかべていた。
こんなことでそんな表情をしてほしくないんだけどな。
「看護師だよ。近くの大学病院で看護師をやってるから夜勤でたまに朝はいないの」
「そうなんだ」
雪菜の疑問はどうやら解消されたらしい。
「お兄ちゃん、いつも1人?」
「俺は1人じゃないよ。お店に行けば叔父さんもいるし佐伯さんも戸田さんもいる。それに今は雪菜や柚子ちゃんもいるだろ。寂しくなんかないよ」
多分2人は心配してくれているからそんなことを言ったんだろう。
全く、余計なお世話にも程がある。
「じゃあさ、これからは定期的に健一君の家に遊びに来てもいい?」
「それは却下だ」
「何で?」
「柚子は?」
「柚子ちゃんはいつ来てもいいよ。何ならお泊りしていく?」
「差別、差別反対だよ」
騒がしくもにぎやかな登校をしたのは初めてである。
「絶対行くから。遊びに行くから。佐伯さんに言いつけてやる」
「それだけは勘弁して下さい。あの人がきたら家を荒らされる」
時には頭を抱えることもあるがこんな登校もいいもんだと思う。
2人とそんな話をしているうちに学校の校門へと到着していた。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただければうれしいです。
一応クリスマスの日に短編を上げる予定です。
予定なのでどうなるかわかりませんが、とりあえずそちらもお待ち下さい。




