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 文化祭1日目の朝、俺はいつもより早めに家を出て、学校へと向かった。

 朝早くから学校へ向かう理由はダーツで使用するチップの補充や矢の調整をするためである。

 これは遠野さんがやる役目だと思うのだが、調整の仕方をわかっていない様子だったのでこうして俺がやるはめとなった。

 その作業を朝早くからやるのは俺がクラスメイト達がいる前で作業をすると、遠野さんがいる手前角が立つ。

 準備の時も遠野さんと話しているだけで男子からは不評を買ったのでなるべく作業は一目がつかない所でやるしかない。

 なので朝早くから学校に行けば人もいないためこうして眠い目をこすりつつも学校に来ている。

 それにもしダーツの矢の調整が予定より早く終了したら、校内をぶらつけばいい。

 誰もいない文化祭を1人で楽しむのも乙なものだ。

 俺は朝7時に学校に着くと、いつも通り駐輪場に自転車を止め校舎に入る。

 その時携帯が振るえたため、俺は携帯のディスプレイを確認した。

 送り主は遠野さんで文面にはこう書いてあった。

 

『おはよう。もう起きてる? 今日は遅刻しちゃだめだよ』


「遅刻って‥‥俺はもう学校に来てるわ」


 携帯にツッコミをいれながらも遠野さんへ返信するための文面を作成する。


『寝ぼすけの遠野さんと違ってもう学校にいるよ。チップの補充と矢の調整を先にしてる』


 この文面を遠野さんへ送信した。

 遠野さんのことだから今頃慌てて準備をしていることだろう。

 その様子を考えただけでも非常に面白い。

 俺はクスクス1人で笑いながら昇降口で靴を上履きに履き替え、階段を上った。

 そして丁度俺のクラスがある階にたどり着くと何かものが壊れた音が聞こえた様な気がした。

 

「何だ? この音は?」


 気のせいだと思いつつ教室の扉を開くと俺は教室の惨状に驚いた。

 

「何だよ‥‥これ?」


 教室の光景は凄惨せいさんなものであった。。

 机はひっくり返り、昨日装飾したはずの折り紙やダンボールは床に落ち、ビリビリに破かれている。

 ダーツスペースにあるダーツ台は床に全て落ちており、矢もチップの所が全て折れて床に散乱していた。

 この状態のままでは喫茶店をやる所ではない。


「酷い‥‥誰がこんな‥‥」


 俺は慌ててダーツスペースのダーツ盤の方に向かい機械が壊れていないかの確認を行った。

 俺が池田の爺さんから借りた物は3台中2台が得点を自動で計算してくれるものである。

 これが壊れていたら喫茶店が出来なくなってしまう。

 俺がダーツ盤のスタートボタンを押すと幸いにもダーツ盤の電源が入った。

 

「よかったぁ‥‥」


 ダーツ盤の電源が入り、俺は脱力し床に座り込んでしまう。

 電源がついたので何とかダーツ喫茶が継続して出来ることがこれでわかった。

 すかさず床に散乱しているダーツの矢も見るが、こちらもチップを変えれば使い物になりそうである。

 だが俺が喜んでいたのもつかぬ間、1人の小太りな少年が教室に入ってきたことで状況が一変する。


「おはよう‥‥って何なんだ、これは? って橘、お前は一体何をしているんだ?」


 ドア付近を振り返るとそこには以前宮永さんと文化祭の出し物でもめたことのある、クラスメイトの横山が姿を現した。

 彼も教室の惨状を目の当たりにして目をむいていた。

 そしてひとしきり驚いた後、俺の方を睨みつけてくる。

 

「せっかくクラス一丸となって作った結晶を‥‥‥‥君はなんてことをしてくれるんだ」


「俺は何もしていない」


「この教室にはお前しかいないんだから、お前が犯人だろ」


 確かに先程まで教室には俺しかいなかったのだからそのように疑われてもしょうがない。

 だが、クラスにいたからって犯人にされるのはあんまりである。

 その数分後、他のクラスメイトも順にクラスに来て、その惨状を見て驚いていく。

 最悪なことに横山が橘がやったということを主張したため、健一はクラスメイトからも無実の罪を着せられてしまう。

 その間、健一がいくらやっていないと言っても誰も信じてくれない。

 

「橘、そろそろ白状したらどうだ?」


「やってないことを何でやってると言わないとといけないんだ」


「現状、朝来たとき君しかいなかったんだから君が犯人に決まっている」


 横山の声に呼応するように他のクラスメイトも口々にそういう。

 

「そうだよ。だって朝現場にいたんでしょ?」


「それにお前は1度もクラスの活動に出なかったじゃないか」


「それでクラスみんなでやったことが面白くなかったからこんなことをしたんでしょ?」


 クラス中の言葉に俺は段々と面倒くさくなってきていた。

 そして、文化祭自体も正直どうでもよくなっている。

 遠野さんや宮永さん達ががんばっていたから少しは協力していたがさすがに限界だった。


「おはよう‥‥ってこれどうしたの?」


 驚きの声を上げたのは宮永さんである。

 その後ろから遠野さんと達也も教室に入ってきた。

 後からきた2人も教室の惨状さんじょうに驚いている様子だった。

 

「橘が全部こんな状態にしたんだよ」


「橘君が?」


「そうだよ。あいつがこんなめちゃめちゃな状態にしたんだ」


 残りのクラスメイト全員も口々に俺のことを非難していた。

 その話を聞いた宮永さんは驚いていて、達也はあきれている。

 遠野さんにいたっては怒りの表情を覗かせている。

 この時『帰りたい』という思いが俺の中を渦巻いていた。

 

「まぁ、人を責めるよりとりあえず今はこの状態を何とかすることを考えましょう。時間もないことだし」


「それよりもまずは橘の謝罪の方が先じゃないのか?」


 そういうと横山が俺の方に近づいてきた。

 小太りな体なので間近で見ると想像以上の迫力である。

 

「さぁ、謝れよ。『クラスに迷惑をかけてすいませんでした』って」


 さすがの俺もこの言葉に限界が来た。

 横山が近づいた瞬間、彼の頬にフックぎみの拳が入ると彼はよろけて倒れてしまう。

 俺はその隙に後ろの扉から出て廊下を全力疾走で駆けた。

 教室の方から何か声が聞こえてくるがお構いなしである。

 こうして俺は自分のクラスから脱走を図った。

 

 

 

 

☆★





 クラスから健一が去った後、達也は頭を抱えていた。

 どうしてあいつはこんなに不器用なのかと。

 確かに横山があんな風に迫ったのも悪いと思うが、拳をあいつの顔面に叩き込むことはないだろう。

 そのせいで健一の悪評がさらにクラス中に広まってしまった。

 横山は先程クラスメイトに付き添われ保健室に向かって現在は治療中のはずである。

 こちらの応援が遅かったことを悔やむ達也であった。


「達也君は橘君のことどう思ってる?」


 達也に質問してくるのは先程から一緒にいる宮永である。

 彼女も健一が出て行ってからどこか困ったような表情を浮かべていた。

 宮永と遠野は達也と共に、健一の家まで出向き彼を起こしに行く予定であった。

 しかし、遠野がメールで彼が既に学校にいることを伝えたため予定が狂ってしまう。

 3人はそれぞれ驚き今後の対応をどうするかメールをした結果、とりあえず彼の最寄り駅に集合して3人で学校へ向かったわけである。

 そのため、クラスに入るのがいつもより遅くなってしまった。

 まさかこんなことになるとは誰も思っていなかった不測の事態である。

 

「俺はあいつはやってないと思う。こんな面倒なことをあいつがするわけがない」


「私もそう思うの。不思議よね」


 達也と宮永の意見は一致していた。

 宮永と意見が一致したことを達也はうれしく思う。

 

「雪菜なんかさっきからすごく怒っているんだから。『何で橘君のことをみんな疑うんだ』って」


 達也が片づけを手伝っている遠野のことを見るがその表情はいたっていつもと同じように見える。

 ただ、友人である宮永が言うのだから本当に怒っているのだろうと達也は解釈をした。

 

「健一もあんな可愛い子にかばってもらえるんだから本望だろうな」


「私もそう思う。それに雪菜があんなに怒っている所初めてみた」


 宮永がここまで言うのだからその話は本当なのだろう。

 達也は片づけをしている遠野をみながらそんなことを思っていた。

 

「で、健一はどうする?」


「もちろん探すわよ。達也君はあてはある?」


「あてか‥‥」


 あてと言われても正直健一がどこにいるのかなんて達也には想像ができない。

 中学時代も達也が誘わなければ家の手伝いをしているような奴である。

 そんな奴はもう校内を出てしまったのではないかとも考えてもいい。

 

「とりあえず、まだ学校にいるのは確実だろう。午前中に校舎を練り歩いてみるさ」


「私も探すようにするから宜しくね」


「あぁ」


 どうやら遠野と宮永は健一のことを犯人と思っていないらしい。

 そのことを達也はうれしく思った。

 

「達也君どうしたの? 急に笑って? 何かおかしいことでもあった?」


「いや、ちょっとこっちの話」


「変なの」


 クスクスと笑う達也は宮永に短い返事をした後、自分も片付けに集中することにした。


ご覧いただきありがとうございます。


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