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お待たせしました。

3章の文化祭編です。

 文化祭前日の放課後、俺は脚立に登りクラス内の飾り付けをしていた。

 会場設営班である俺はこうして指示のあった所に折り紙で作った装飾品を壁に貼りつけている。

 本当はさっさと帰りたかったのだが、ドアから出る直前で達也に捕まったためこうしておとなしく飾り付けをする羽目になった。

 それだけならよかったのだが、達也は俺が逃げられないように1人のお目付け役をよこしたのだから忌々しい。

 

「ごめん、橘君。もう少しそれを右に寄せてもらってもいいかな?」


「へいへい」


 俺が気のない返事をすると階下の人物は不満げな表情を向けてくる。

 その人物は小動物のような可愛い顔をしている少女で、ここ最近妙になれなれしく俺に接してくる遠野さんである。

 

「橘君、やる気あるの?」


「ないよ」


「橘君らしいね」


 俺の返事を聞いた遠野さんは何故か苦々しい表情を浮かべている。

 俺は彼女に何か悪いことでも言ったのだろうか。

 

「遠野さんは俺にかまけているより、ダーツ班の準備の方に行った方がいいんじゃないの?」


「大丈夫だよ。ダーツ班の方はもう殆ど終わってるから」


「そうか」


 俺は遠野さんの返事にうなずくともう一度クラス内を見渡した。

 クラス内は喫茶スペースとダーツスペースの2つに別れている。

 喫茶スペースには机を並べ簡素な白いテーブルかけをしいているテーブルが用意されており、ダーツスペースには机の上にダーツをするための矢とチップの入れ物が置かれている。

 また、ダーツスペースには壁やガラスが傷がつかないようにダンボールを2重にして壁に貼ってある。

 さらに万全を期すために喫茶スペースとダーツスペースの間には透明なシートを張っており、誤って喫茶スペースにダーツの矢が飛ばないように工夫を施した。

 これなら喫茶スペースの人達の安全とダーツをしている人達のことをシート越しに見ることができる。

 そしてあわよくば自分もダーツがやりたいと思ってくれるとなおさらよい。

 ちなみにこの案は遠野さんが考えたものである。

 俺が送ったアドバイスはシートを透明にすることと壁にダンボールを貼り付けることだけだ。

 こうして遠野さんと初めて会った時のことを考えると、彼女も積極的に意見を言うようになったことに感心する。

 そんなことを考えながら俺は最後の飾り付けを壁に貼り脚立から降りた。

 これで前日の準備は終わりだ。

 心置きなく帰宅ができる。

 

「雪菜、お疲れ様。それにしても橘君がここまで残っているなんて意外なこともあるんだね」


 俺が一息ついているところに現れたのは宮永さんである。

 いつものように明るく元気な様子は見ている人を元気にしてくれるそんな魅力がある。

 宮永さんを見ているとさっきまで出掛かった愚痴が急にしぼんでしまった。

 

「俺だってたまにはクラスのためにがんばることだってあるよ」


「へ~~その割にはさっき鞄を持った橘君が、ドア付近で達也君に捕まっている所が見えたんだけど」


 そのことを言われると俺はぐうの音も出ない。

 どうやら彼女には先程こっそりと脱出しようとしている所を見られていたらしい。

 クラス中の誰も気づかなかったので、てっきり達也にしか見られていないと思っていた。

 

「見たの?」


「うん。だってあれ私が達也君に指示したんだよ。橘君を捕まえるようにって」


 あれは宮永さんが真犯人だったのか。

 もう少しで逃げられたのに、惜しいことをする。

 

「それよりもさ、雪菜と私のシフト全部一緒にしておいたから」


「ありがとう」


 そういうと遠野さんは宮永さんに対してはにかんだ笑みを見せた。

 

「私達のシフトは1日目の午後と2日目だから。3日目は学園祭1日周れるようにしておいたよ」


 宮永さんが言うシフトとは学園祭での喫茶店のシフトである。

 俺の学校では文化祭が3日あるので必ず喫茶店のシフトとして午前と午後、どちらかには出ないといけないとクラスで決めたはずだ。

 それを2日目を全て出る代わりに3日目を丸々あけるということが出来たのは宮永さんの人望の賜物である。

 

「橘君と達也君も私達と同じシフトを組んだから」


 そして俺もどうやら彼女達と一緒のシフトらしい。

 非常に面倒くさいのでサボろうかな。

 

「ちなみにサボったら達也君に引っ張ってきてもらう予定だからサボらないようにね」


 俺は宮永さんの言葉に頷かざる得ない。

 成る程、だから1日目俺は午後シフトなのか。

 1日目の朝来なかったら達也が俺を無理矢理学園祭に連れてきて午後のシフトに間に合わせる作戦っを考えているのだろう。

 なんかこの人も最近俺のことをよく分かってきているような気がして釈然としない。

 

「わかった。極力俺も来るようにする」


「なんか胡散臭い」


 遠野さんがいぶかしげな視線を俺に向け、抗議の声を上げるが俺はその視線を見ないようにした。

 

「それでなんだけど‥‥橘君は3日目は雪菜と周るんだよね」


「はっ? 誰がそんな妄言を言ったの?」


 宮永さんは俺によくわからないことをいってくる。

 3日目学園祭を周るだって? そんな暇があったらバイトをするに決まっているだろう。

 

「雪菜‥‥あなた何も言っていないの?」


「ごめんなさい」


 宮永さんのしらけた視線に遠野さんがすくんでいる。

 彼女が向けている遠野さんへの感情は怒りなのか悲しみなのか俺には分からない。

 

「じゃあさ、暇でしょ。雪菜と学園祭を周らない?」


「周らない」


「じゃあ、私達3人とは「周らない」‥‥‥‥」


 宮永さんが向けるしらけた視線が今度は俺に向けられる。

 その視線が地味に痛い。

 だが、学園祭3日目が空いているということはフルでバイトに入れる。

 ただでさえこちとら宮永さんが来るようになったことで、シフトに入る時間が減って給料が下がっているのだからこういうところで稼がないといけない。

 せっかくのチャンスをふいにしてたまるか。

 

「柚子も楽しみにしていたんだけど‥‥」


「柚子ちゃんも来るの? それならいくよ」


「来るっていうより、いるんだけど‥‥」


 今度は遠野さんが先程の宮永さんと同じようにしらけた視線を向けてきた。

 俺の変貌振りに目の前のにいる宮永さんはあきれていて、隣にいる遠野さんがしょんぼりしているように見えた。

 

「‥‥‥‥ロリコン」


「橘君の趣味わからないわ~~」


 ため息をついている宮永さんと睨みつけるような遠野さんを見ながら、迫り来る学園祭に俺は思いをはせた。

ご覧いただきありがとうございます。


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