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「ゲームはゼロワンにするよ」
「ゼロワン?」
そう言えば遠野さんにはまだゼロワンのルールは教えていなかった気がする。
俺としたことがうっかりしていた。
「ゼロワンは単純に301、501、701、1001等の決められた点を0に近付けていくゲームで、1番早く0点になった人が勝ちになるルールだよ。ちなみに0点を越えてマイナスになったらラウンドは終了して、次のラウンドは前のラウンドの最初の点数で行うんだ」
「ルールは分かったけど、それって先行の方が有利じゃない?」
「そうだね。だから1番手は遠野さんで2番目は柚子ちゃん、最後は俺って順番にするよ」
「え~~っ、柚子が1番手で投げたいのに」
柚子ちゃんはそのような意見を言うがここは素人の遠野さんが1番手の方が無難だと思う。
遠野さんは達也達とダーツをよくやっている話は聞くが、ルールを知らない時点で柚子ちゃんよりも上手いということはあり得ないだろう。
しかし柚子ちゃんは駄々をこねている姿も愛らしくてすごく可愛いと思う。
もしも俺がロリコンさんなら絶対柚子ちゃんをお持ち帰りしている。
ただ俺はロリコンではないからお持ち帰りはしないけどね。
「柚子ちゃんはこのゲーム、先行が有利ってことを知っているよね」
「うん。知ってるよ」
「じゃあお姉さんよりも後ろの順番になるってことは柚子ちゃんの方が投げるのが上手ってこともわかるよね」
「もしかして、お兄ちゃんは柚子の方がお姉ちゃんよりもダーツが上手いと思ってるの?」
「もちろん。柚子ちゃんはダーツが強いからお姉さんに前の順番を譲れるよね」
「うん」
「じゃあ、柚子ちゃんは台の設定の方してくれるかな?」
「わかった。お兄ちゃんがそういうなら、柚子設定してくる」
そういうと柚子ちゃんは笑顔でダーツの台の方に向かっていった。
最初からこうして駄々をこねないで素直に聞いてくれるとありがたいんだけどな。
でもこういう所も柚子ちゃんらしくていいと思う。
「橘君は柚子の扱い方上手いね」
「そんなことはないよ」
「でも、あんなことを言わなくてもいいと思うんだけどな」
あんなこととはさっき言った柚子ちゃんの方が強いって話だよな。
やっぱりあの言い方はまずかったか……。
何とか弁明しないと。
「ごめん、あの時はそういうしかなくて……決して遠野さんが弱いわけではなくて……」
しどろもどろしている俺に対して遠野さんは「ふふっ」と微笑みをうかべている。
「こんなに格好よくても橘君はやっぱり橘君なんだね」
「それってどういうこと?」
「橘君はやっぱり私が知っている橘君なんだなって」
そう遠野さんは意味深な言葉を俺に投げかけてきたが、俺には彼女の言葉が理解不能である。
俺と遠野さんは今まで接点なんてなかったはずなのだが一体どこで接点があったのだろう。
「お兄ちゃん、準備できたよ~。設定は501にしておいた」
その時ちょうどダーツ台の設定をした柚子ちゃんがこちらに戻ってきた。
遠野さんにこの話を聞くのはどうやらもう少し後になるらしい。
「柚子ちゃんありがとう。じゃあさっそくやろうか。順番は遠野さんからだよね」
「うん。じゃあ始めるね」
そういい、遠野さんはスローイングラインに立ち、投げる準備をする。
「お兄ちゃん、さっきお姉ちゃんと何を話していたの?」
「学校の話だよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんは実は同じクラスなんだ」
そのことを聞くと何やら柚子ちゃんは考え込むしぐさを見せ、「負けない」と一言小声で呟き遠野さんの1投目を食い入るように見つめている。
俺としてはそんなに大した話を遠野さんとはしていないつもりだったのだが、柚子ちゃんにとっては違ったのだろうか。
柚子ちゃんの行動を不思議に思いながら俺も遠野さんの1投目を見る。
遠野さんは柚子ちゃんとは対照的にどうやら右手で投げるようである。
姉妹や兄弟できき手は同じだと思っていたのだが、こう観察すると違うものなんだな。
その遠野さんの1ラウンド目は17のシングル、3のシングル、20のシングルで合計40点。
残りは461点である。
初心者でこの程度の点数を出せればとりあえずはいいのではないだろうか。
続いて柚子ちゃん。
スローイングラインに立ち、遠野さんとは対照的に左手でダーツを持ち、投げる態勢に入った。
こうして見ると遠野さんのフォームに比べて、柚子ちゃんの方がフォームがさまになっているのがわかる。
これは俺がここにきてから何度も柚子ちゃんのフォームを指導して、一緒に練習をしてきたからだ。
このフォームの格好で立つ柚子ちゃんを見るのは俺としても感慨深い。
その柚子ちゃんは、1ラウンド目の1投目からいきなりインブルに当てた。
「ナイワン!!」
俺が柚子ちゃんに掛け声をかけると柚子ちゃんもこちらを向きにこっと笑った。
「橘君、今のナイワンってどういう意味?」
「今のは1投目や2投目でブルに当たった時に言う掛け声だよ」
「そうなんだ。確かに飛鳥達とダーツやっていた時に達也君がたまに言ってたかも」
達也よ、遠野さん達にそこらへんの説明もしてやれよ。
遠野さん全く分かってないだろう。
柚子ちゃんはというとその後は13のシングル、10のシングルで合計73点。
残りは428点である。
そして満を持して俺の登場である。
自分でこの中で1番上手いと公言しているのでここで失投をするわけにはいかない。
「橘君、がんばって」
遠野さんも俺のことを応援してくれている。
スローイングラインに向かうすれ違いざまに、柚子ちゃんにも「がんばって」と応援されてしまったからにはいい所を見せないといけない。
そしてスローイングラインに立ち、右手でダーツを持ち投げる態勢に入る。
今日はいつもより的が大きく見える。
きっとこれならブルに入るはずだ。
そう思い投げた1投目……。
「あっ……」
「…………」
後ろから悲鳴にも似たような声が聞こえてきた第1投目は的のはるか上を通りダーツの台にぶつかった。
つまる所的に当たらなかった。
あそこまで格好つけといてこの結果とは情けない。
そんな中2投目は20のシングル、3投目はアウトブルに入り、合計70点、残りは431点となった。
「あれ? アウトブルって25点じゃなかったっけ」
「今やっているゲームはソフトダーツ専用の台だからアウトブルでもインブルでも得点は同じなの。アウトブル25点ってルールはハードダーツだけだから」
「なんかややこしいね」
「基本このお店にあるものはソフトダーツの台だけだから基本ブルに入ったら50点入るって覚えとけばいいと思うよ、お姉ちゃん」
後ろで遠野さんに柚子ちゃんがソフトダーツとハードダーツの説明をしてくれている。
遠野さんも柚子ちゃんの説明に納得しているようだった。
本来なら俺が説明をしなければいけない所を柚子ちゃんにしてもらって情けないな。
ありがとう、柚子ちゃん。
こうして1ラウンドを終えた順には柚子ちゃんが1位で俺が2位の接戦になり、遠野さんが少し離れて3位という結果だった。
「橘君、ナイワン」
「お兄ちゃん、ナイワン」
戻ってきた俺に対して彼女達はそう優しい声をかけてくれる。
温かい掛け声はありがたいがやはりさっきの1投目を外した恥ずかしさが抜けるはずがない。
「しょうがないよ。失敗は誰だってあるんだし」
「そうだよ。お姉ちゃんなんか全部当ててるのにお兄ちゃんの点数に届いてないんだよ」
「柚子!!」
からかってきた柚子ちゃんに対し、遠野さんがすかさず叱るが、遠野さんもどうやら本気で怒っているわけではないようだ。
この姉妹を見ていると、この2人がすごく仲がいいということがよくわかる。
「次は柚子より点数を取るんだから」
「お姉ちゃんがんばってね……あまり期待してないけど」
「柚子!!」
そんな2人の茶化しあいを見ながら俺は胸に懐かしさを覚えていた。
確か俺が昔ダーツを始めた時もこんな気持ちだったっけ。
「橘君、次は橘君の番だよ」
「もう俺の番?」
そこにはいつの間にか投げ終わって、こちらに戻ってきた遠野さんがいた。
柚子ちゃんも3投目を投げ終わり、ささったダーツの回収にいってる所だ。
「橘君がぼーっとしている間に、もうみんな投げ終わったよ」
「ごめん。今ちょっと考え事をしていたんだ」
そう遠野さんに弁明をし、俺は再びスローイングラインの上に立った。
この3人でやっているダーツは、いつも1人でやっているダーツよりもずっと楽しく、時間なんかも忘れてしまう。
こんな時間がずっと続けばいいなとこの時の俺はそう思っていた。
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