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今回は少し長いです
あの柚子ちゃんとの出会いから2週間がたった。
その間変わったことといえば、柚子ちゃんがうちの店にくるようになったことだ。
柚子ちゃんを初めて連れてきた翌日、出入り禁止の解除をお願いするため店に行ったら佐伯さんがいらっしゃった。
俺の出入り禁止の解除の話を聞いた瞬間鬼の形相で迫られたが、柚子ちゃんの話をだしにして必死の説得の末、なんとか出入り禁止の解除をしてもらったのだ。
正直柚子ちゃんを使ったことには罪悪感があるがこれは柚子ちゃんがダーツをやるためには仕方がなかったのだ。
そう仕方がないのだ。
重要なことなので2度言ってみました。
決して俺がダーツをやりたくてこうしたわけじゃないよ。
柚子ちゃんが楽しくダーツをするためにはこうするしかなかったんだよ。
お願い、信じて。
一方の柚子ちゃんは相変わらず元気な顔を見せてくれる。
あれから俺のバイトがある日は必ず店に来て佐伯さんと3人で一緒にダーツをやっている。
柚子ちゃんはあれからダーツがすごくうまくなったと思う。
どれくらいかだって?
佐伯さんに5割……いや、7割の確率で勝てるようになっているのでかなり強いと思う。
もともと佐伯さんもこの店の店員と言うことで、ダーツ対決でお客さんに負けることがほとんどない。
その店員さんに柚子ちゃんは7割勝てているのだから、中学生の上達スピードは並大抵のものではないことを改めて思い知らされた。
その柚子ちゃんに3割しか勝てない佐伯さんは、最近柚子ちゃんが帰った後必死にダーツの練習を行うようになった。
これはいい傾向ではあるが佐伯さんが必死に練習をしているため、お客さんが来るピークの時間は主に俺しか働いておらず、俺が何故かとっても苦労している。。
てか少しは佐伯さんも働いてくれよ。
このままじゃ俺過労で倒れるよ。
ちなみに柚子ちゃんは最近では常連のお客さんにも認知されてきており、よくその人達とも一緒にダーツをやるようになった(その場合、俺も一緒にやるのだが)。
もううちの店のマスコットと言っていいほどの人気ぶりである。
これだけお店に貢献しているのだからそろそろ俺のバイト代からのゲーム代の天引きも止めればいいと思う。
叔父さんお願いします。
そんなある日、この日も俺は朝早く起き自転車にまたがり学校へ向かう。
家から学校までは大体2駅分あり、自転車で行くと大体30分ぐらいかかる。
俺が電車ではなく自転車で行くのは、単純にお金をけちってるからだ。
理由は親が「バイトしているんだから定期代くらいは自分で出しなさい」ということだったので俺はやむなく自転車で学校まで通い始めることにした。
いくら家計が苦しくても、電車代くらいは出してほしい。
このやり取りを見てもらうと分かる通りうちの親は非常にケチだ。
どうみてもケチだ。
だから、佐伯さん達が俺のことをケチっていうのはおかしいと思う。
ただ、この自転車通学にも1つ利点がある。
それはバイト先には実は電車よりも自転車の方が早く着くのである。
俺のバイト先は駅から歩いて、15分もかかる立地の悪さなので学校からだと店まで30分ぐらいかかってしまう。
ただ、自転車なら裏道を使えば15分ぐらいでつくので、断然自転車の方が早い。
そのため、俺は電車よりも自転車を使って登校をするようになった。
なので今日もいつもの通り自転車で学校まで向かう。
チャイム10分前に教室に入ると、いつもの通り教室内は騒がしかった。
入った瞬間まず目についたのは、達也と宮永さんがしたしげに話していたことだ。
2人が楽しそうに話しているのは全く問題はない。
むしろいい傾向だと思う。
特に達也なんかは今まで女子に振られ続けているのだから親友としても友人に一足早く春が来たことを喜んで上げるべきだろう。
ただ場所だけが問題だ。
何で俺の席であの2人で話しているのだろう?
確かに達也とは席が前後しているがもっと他に場所はなかったのか。
せめて宮永さんの席の方で話してくれればいいものの、何故俺の席で話してるんだよ。
俺はため息をひとつつき、思い足取りで席に向う。
荷物だけ席に置いて、トイレにいけば2人の邪魔にならないだろうからさっさと荷物をおいてしまおう。
そして逃げよう。
しかしまぁ、達也はよく宮永さんと仲良くなったもんだな。
俺の知らない内に何があったんだか。
「おはよう。」
「よう、今日もギリギリだな、」
「おはよう、橘君。」
いつものように軽口を叩く達也の隣で、宮永さんが笑顔で手を振っていた。
宮永さんはそういえばよく手を振ってくるな。
誰かに手振らないと死んじゃう病気にでもかかっているのだろうか。
「お前らいつの間に仲良くなったんだ?」
「この前、ダーツを一緒にやった時にな。まぁその後はクラスで普通に話すぐらいにはなったよ。」
「そうそう。達也君達とは最近結構遊びに行ってるんだよね。」
「まぁ……そうだな。」
「そうですか。」
どうやら、あのバイトや部活で忙しいと言っていたのは宮永さん達と遊びに行っていたようだ。
顔が引きつっている達也の顔を見れば1発でそんなことは分かる。
親友との約束は断っておいて、こいつは女を取ったわけだな。
まぁでもそのおかげで柚子ちゃんとも会えたわけだし、今回は特別に許してやろう。
それに俺はクラスのリア充と遊びに行くよりは1人でダーツをやっている方が楽しいからな。
別にいいんだ1人ぼっちでも。
決して1人ぼっちがさびしくて言い訳をしているんじゃないんだからね。
「そういえばお前、あの後大変だったんだからな。宮永さんの友達とかに弁解するのに。」
「その節はすいません。」
「いいよ。私は気にしてないから。それに他の人達が騒いでただけだしね。仕事が入っていたならしょうがないよ。」
そういいハニカム宮永さんは確かに美しいかつ可愛い。
『宮永さん、マジ天使!!』っていった人の気持ちが少しだけわかった気がするわ。
後、この前の件は達也に関して言えば自業自得だからな。
人様の許可なく勝手にメンバーに入れたからこういうことになったんだろう。
お前は少し反省しろ。
「じゃあさ私からのお願いなんだけど、仲直りの印として今度一緒に遊びに行かない?」
「あ~~悪い。俺また当分バイトだからしばらくは無理だと思う。」
「じゃあさ、バイトが休みの時ならいいかな?」
「う~~んその時なら考えるよ。」
まぁ柚子ちゃんがいるから無理だろうな。
あんな店に来るのを楽しみにしている子をほっておいて俺は遊びに行けないよ。
「珍しいな。お前がこんなに素直に人のいうことを聞くなんて。」
達也が俺を見て、驚いた顔をしている。
俺ってそんなに素直になったか?
口ではこんなことを言っているが全く遊びに行く気がないし。
どう見ても達也の過大評価だろう。
「いや、前と全然変わらないと思うぞ。」
「でも、2週間前達也君と話してた時よりはよくなったと思うよ。なんか柔らかくなったよね。」
そういい、宮永さんはこっちに笑顔を向けてくる。
宮永さんも普段はきれいなイメージだが、こういう笑顔は反則的にかわいいと思う。
宮永さんの横にいる達也の目がハートマークになってるのもうなずける。
完全に惚れてるなこれは。
多分いつものように玉砕しそうな気がするけど、達也のことだから気にしないでおこう。
「そういえばさ、遠野さん最近元気ないけど何かあったの?最近宮永さん達とも一緒にいないし。」
「そうなんだよね。なんか元気もないし遊びに誘っても全然こないし、私も心配してるんだ。」
達也と宮永さんの会話を聞きつつ、俺は遠野さんの席を見る。
確かにいつもは他の女子と話しているのに、今日は1人でポツンと席に座っている。
宮永さんが言う元気がないというよりは、何か抱え込んでいるという風に見て取れる。
何か最近そんなに抱え込むようなことがあったのだろうか。
俺には全く関係ないことだからどうでもいいことなんだけど……少しだけ、本当に少しだけ気になる。
こうして人の心配をするなんて、最近の俺はどうかしているな。
これも柚子ちゃんと出会ったせいなのだろうか。
「だったらさ、今度定期テスト終わりに遊びに行こうよ。遠野さんも誘って。」
「そうだね。雪菜もみんなで行けばきっと元気が出るよ。」
「健一も来るだろう?」
うん?今何か話していたっけ?
唐突に話を振られ、会話を全く聞いていなかった俺は戸惑ってしまう。
「うん?お前話し聞いていなかったのか?」
遠野さんを見ていたと言ったら、後で何を言われるかわからないからここは黙って首を横に振っておく。
横の方で宮永さんがニヤニヤとしているのは見なかったことにしよう。そうしよう。
「いや、聞いてたよ。悪いが当分の間バイトだから無理だ。」
「えー、橘君もくれば絶対に雪菜も元気出ると思うのに。」
宮永さんがブーブーいってるがこの日のバイトは何が何でも行かなくては行けない。
理由としては、柚子ちゃんが久々にバイト先にに来るからである。
このようなことになったのは理由がある。
俺達の高校は今日から定期テストに入るため、俺はしばらくはバイトを休まなくてはいけない。
柚子ちゃんと俺がした約束は、俺がいないときは勝手にダーツをしてはいけないというものであるため、俺がバイトを休んでいる間は当然柚子ちゃんもダーツができない。
そのため、今日から4日間行われる定期テストの期間内は柚子ちゃんもダーツができないのである。
ちなみに柚子ちゃんにそのことを話すと、驚くことにえらく素直に聞き入れてくれた。
俺の中ではあのふくれっ面を見せ、だだをこねると思っていただけに意外だ。
柚子ちゃんから話を聞くと、どうやら彼女の方も定期テストの為、その期間は来れないらしい。
柚子ちゃん曰く「テスト期間が被ってて良かった。」だそうだ。
その時の柚子ちゃんが見せる笑顔といったら可愛いかったなぁ~。
子を育てる親の気持ちってきっとこんな風なんだろうか。
その後、テストでいい点を取ったら柚子ちゃんにいいものをプレゼントするという約束もした。
これは本来ならだだをこねる柚子ちゃんをてなづける最終手段として取っていたものだが、その必要はないようで一安心だ。
テストが赤点でも取らない限りは渡そうと思うが、それは本人には秘密にしてある。
多分そっちの方が柚子ちゃんも勉強するのにやる気が出ると思うし。
俺のプレゼント発言をを聞くと柚子ちゃんはすごい気合いの入った様子で『絶対だよ。約束だよ。』と俺に声をかけてくれた。
柚子ちゃんはやっぱり可愛いな。
どうして、こう小さい子は可愛いのだろうか。
あやうく、中学3年生ってことを忘れてしまいそうな愛らしさだ。
それとは別にさっきから宮永さんの言っていることが実は俺はよくわかっていない。
宮永さんは俺が来ると遠野さんが元気になると言っていたがそれはどういうことなのだろう?
別に遠野さんと俺が遊びに行った所でなんら変わりがないと思うんだけどな。
その理由を宮永さんに聞こうとする前にチャイムがなってしまい、宮永さんは席に戻ってしまった。
「まっ、物好きな人もいるんだよな。」
「それはどういうことだ?」
達也の一言に俺は顔をしかめたが先生が入って来てしまったため意識を先生の方へと向け、これから始まる定期テストへの準備を始めた。
ご覧頂きありがとうございます。
宜しければ感想等頂けたらうれしいです。
なんとか10話まで到達しました。
ここまで書いていて長かったような短かったような不思議な感じです。
ここまで読んでいただいた皆さまには本当に感謝をしています。
これからもがんばりますので応援の方、宜しくお願いします。




