98 トレント
カグノを広場の入り口近くまで運ぶ作業は精神的にも肉体的にも疲労が溜まることだった。火耐性上がったよ。いずれ、火耐性を上げ続ければ普通にカグノとも接することができるようになるのだろうか。
それにしてもカグノも充分に戦えるんだな。エウレカ号の力を借りているからかもしれないが。弓以外にも戦闘手段ができてよかった。
それにしても最近弓のレベルが全然上がっていないな。
本来弓というのは矢を消費する代わりにMP消費を少なくするという武器だ。矢本来の攻撃力にはあまり期待できず、序盤は金を圧迫し、あまり人気はない。
金に余裕ができてくると、効率よく魔法を使うために弓を使おうと思い始める人も多いが、弓は器用さが必要だ。魔力ぶっぱしてきた人はそれだけで、諦めることになる。
第一魔法よりも補正が少ないってのが問題なんだよな。魔法は大体の方向へ放つだけで自動で当たるけど。弓は器用上げないと当たらない。銃はどうなんだろうか。
「こらこらカグノ。書類に近づいちゃいけません」
少し目を離すと、危ないことをしようとする。この場合危ないのは書類の方だがな。しかし子供の時に比べて、やたら騒いだりということはなくなった。肉体と精神は一心同体ということだろうか。
俺の場合、神弓の消費MPとファイアボールだったら、ファイアボールの方がお手頃なのが問題だと思う。加速や破壊を使わなければまだあれなのだが。せっかくある機能を使わないというのもあれだ。しかし使わなければせっかく上げた器用が勿体無いし。
今の神弓は狙撃、もしくは広域殲滅ぐらいにしか使えないな。こういう狭い場所では使いにくい。いずれダンジョンが解放された時なども魔法主体で戦うことになるだろう。
そんな俺がするべき今後のプレイスタイルはなんだろうか。
今は体力と魔力、精神力と器用が高い状態だ。何もしてなくても初めから体力が90ある半樹人って……やっぱり俺って育て方間違えたんじゃ……。まあ、今更思ってもしょうがないことだし。こんなことなら何回も思っている。悩むだけ無駄だ。今の俺は固定砲台スタイル(魔法に対してだけ堅い)だ。
そこで上げるべきなのは何か。
ソロで行くなら精神力一択だろう。ファイアゴーレムに前衛を任せて、豊富なMPを使い、手数、長期戦を挑む。しかし俺はパーティーを組んでいる。では魔力を上げたほうが良いのか?
悩むな。
まあ、交互に上げればいいか。一時期筋力とか体力、敏捷を上げようかと思った時もあったが、今まで通りが1番だな。
足が遅くて力が弱いのは何とも言えないが、それは仕方ない。
「そろそろ出るぞ」
ワイズさんはノートやら何やらを入手したようだ。そしてゴーレムもアイテム欄に入るんだな。てかゴーレムってアイテムなんだな。しばらく放置してたら消えたりするのだろうか。
「……また詳しい調査が……必要だな」
そうだな。俺的には非常に面白い。とまではなかったけど、こう疲れだけが残っている。誰か肩揉んでくれないかな。
「それでどうやって昇るんだ?」
重力が逆転してるわけでもない。
上を見上げるとポツンと白い光が見えるだけだ。閉所恐怖症の人なんて発狂してしまうだろう。しかし縦穴の下にこれだけ集まると息苦しさが……燃えている奴が2人と雷を纏ってる人が1人いるから、暑苦しいのは最もだが。
ワイズさんが懐から銃を取り出す。この人そんな武器なんか使っていたのだろうか。
「……スライムを呼ぶ」
スライムが呼び出され、俺はそれに絡め取られる。
「カグノは……」
龍槍を壁に突き刺してピック代わりにして登ってる。師匠がみたら本当になんていうだろうか。これって魔女の権威的なものじゃないのか。
スライムはひんやりとしていて猛暑日とかこの上で寝たら気持ちよさそうだ。
ゆっくりと壁を登っていく。ワイズさんはどうするつもりだ? と思ったら、銃からワイヤーを伸ばし、上に上がっていった。なにそれかっこいい! てかファンタジーなのにそんな近代的なものあっていいのか?
……巨大ロボットがいる時点でもう何も言えないか。てかあの巨大ロボットって誰のものなんだろう。製作者はきっとアニメファンなんだろう。あれだけの規模というとやはりギルドだろうか。
俺は1番最後に登り終えた。
時計職人とカラコさんがそこにはいた。カラコさん……俺疲れてるんだよ。
「ご苦労様でした」
お、ねぎらいの言葉が。てっきり叱られるもんだと思ったんだが。
ワイズさんと書類、ゴーレムの引き渡しをし、どこかに渡しに行くらしい。何か聞いたことがあるような気もしないでもない名前の店だな。1回行っただけとかいうそんな店なんだろう。俺は覚えていない。
「シノブさん、大丈夫でしたか?」
「大丈夫……まあ、大丈夫だったが。色々と疲れたな」
「あ、イェンツさんからウサギ小屋ができたということです」
それだけ言うとカラコさんは去っていった。え? それだけ? ウサギの面倒みたらダラダラしてて良いの? なんだか拍子抜けしてしまうな。てっきり何か言われるものかと。
「……身体に刻む件だが……どうする?」
それがあったな。
「じゃあ、ウサギの面倒みたら戻ってくるんでその時に」
蜂、どうしよう。
土地の片隅に小さな小屋ができている。
金網とかどこで入手したのだろうか。ウサギが寝る場所と小さな運動場がある。
イェンツ夫妻達はもういないみたいだ。
カグノがトレント達に近づこうとしているのを止める。普段手を抜いているのかと思うぐらいの素早さで逃げていく2本のトレント。中のウサギ達は動く壁に合わせて走っている。
『ぶー』
ぶーじゃありません。何が不満なんだ。というよりそんなトレント虐めて面白いのか。
「トレント……ウサギ持ってるほうな。ウサギをその小屋に移してくれないか?」
ズリズリと動きながらトレントはウサギ小屋の方に向かっていく。
問題はこいつだ。
「蜂……お前どうする?」
どうするも何もと言いたいのだろうか。俺もこの状況に陥ったら、逃げることしか望まないと思う。
羽を切って、木箱に押し込むぐらいしかないよな。
「そもそも牧畜ってなんなんだ?」
養蜂とか、農作もそうだけど。
調合はわかる。ポーション作れるようになる。
農作を持っていないカラコさんでも種まきはできる。スキルを持っていないとできる野菜の品質が違うというのか。そういうシステム的なものならわかる。
養蜂も牧畜もスキルを持ってなくてもできるけど、スキルを取得することによってできるものの品質が上がるタイプなのだろうか。そうだとしたらとんだスキルだな。
何か便利になるアクションスキルが取れるというわけでもない。現実の農家みたいなことをゲームでもしなければいけないだけか。
調べた。どんな品質ができるかには、水を上げた回数、土の状態、様々な要因があるらしいが、その数値が上がる。要するに農作の人が耕したら、良い土ができるということらしい。俺の予測とあっていたな。
農作スキルのカンストは今現在確認されておらず、レベル20で自動灌水が手に入るか……。遠いな。
というより何故レベル10で取得できずに、レベル20なのだろうか。もしや、20の次は40で取得可能とかなのだろうか。気が遠くなりそうだな。水やりが1番大変そうで、時間がかかりそうだから自動で良いけど。というより人雇ったら、生産スキルいらなくね……?
あくまでもNPCは補助だからな。プレイヤーに勝るものなし。
牧畜も同じようなものだろう。果たして、ウサギがスキルの対象内に入っているのかは知らないが。というより今のところ馬しかいないってどういうことよ。俺が食べてきた肉は一体なんだっていうんだ?
それもいずれ新しい街とか発見されたら、見つかることだろう。
北、東、西の中で北は特に何の阻害もなく、上へ上がれば上がるほどレベルが高いモンスターが出てきてプレイヤーを阻んでいる。東は植物などのトラップが多く、あまり攻略は進んでいない。
そして西はそれぞれがこぞってあると言われている王都に向かっている最中だが、死んだらサルディスからやりなおしなので、よほど実力のあるものでもないとダメだろう。
新しい街が発見される兆しは見えないな。王都方面へ沢山人が行っているし。そちらに期待できるかな? あ、後ノルセアの南の海も一体どういう構造になっているのだろう。まさか海に見えない壁があるとかではあるまい。
今そんなこと考えても仕方ない。蜂の処遇だ。蜂!
蜂はトレントの根に捕まって大人しくしているが、トレントを返したら、逃げていくだろう。
「トレントウサギ係、ご苦労」
トレントウサギ係は返して、と。
ここはあれをするしかないのか。
「トレント蜂係、いずれ1日にウサギ2匹食べさせるような生活にするから、どうか、頼む。今日だけこの蜂の面倒みてくれないか!」
俺はトレントに対して頭を下げた。
サラサラと根が動き、地面に文字を書いていく。
それより、お前の血が欲しい。
怖いよ。どこのホラーだよ。というより半樹人に血って流れてんの? 汗もでないから血も涙もないのかと思っていた。冷酷という意味ではなくてね。
トレントがそういうなら血はあるんだろうけど。このゲーム全年齢対象だからそういうグロいのはないんですよおー。すまないね。
腕が取れたことはあったけど。正直血の表現より部位欠損の方がやばいと思うのだが、そこら辺はどうなっているのだろうか。
「できるもんならやってみな!」
ならお言葉に甘えて。
は? こいつ本気でやるつもりか?
『ダメ!』
カグノが俺の前に踏み出して、火を大きくした。その火に怯えるようにトレントが根を引っ込める。
「いや、カグノ。良いんだ。俺の身体1つで済むのなら」
『でも!』
「これは俺の意思なんだ」
そういうとカグノは渋々といった感じで後ろに下がった。
実際、俺の血で済むのならウサギなんて買う必要がなかった。それにゲーム内だから血を抜かれることの忌避感はない。美女の吸血鬼だったら血を吸って欲しいぐらいだ。
俺の手にトレントの根が巻きつく。
「ぐあっ」
手に根が食い込んで、血が出てきた。それを根毛が吸い取っていく。グロいというか、ナニコレ。完璧に18歳以上対象だよな。トレントがこんなことしてくるなら誰もトレントと戦わなくなるぞ。
まさか手加減しているというのか?
地面からの串刺し攻撃しかしてこないのは俺らのためを思ってやってくれているのか。
時間経過と共にHPが減っていく。しかしまだ余裕はある。
『し、シノブ!』
「大丈夫だ」
外からみたらあれかもしれないが、最初の痛みに慣れればジクジクと痛むだけだ。腕に毛根が絡むのが痛かっただけであって、吸われるの自体は献血と同じような感じだ。
しかし少し身体の力が抜けているような気がするな。HPが減ってるんだから当然か。
HPが半減した所、トレントは満足したらしく根を外した。
先程まで血が滲んでいた腕は一瞬で元に戻る。便利なものだ。
『美味しかった』
一体誰の声だ?
もしかして……トレントか?
まさかこいつも女体化するんじゃないだろうな。つ、次は黒髪ロングの巨乳で不思議ちゃんタイプを頼む!
といった俺の願望が叶うこともなく。トレントはそこに佇んでいるだけだった。
しかし少しずつ大きくなっているような気がする。俺の血はポーションと同じ効果があるのか?
「じゃあ、今度からよろしく。名前つけなきゃな、名前は……」
『アイ「シャラップ!」』
カグノには黙っていて欲しい。エウレカルテル号の二の舞いにはしたくないのだ。
そうだな。トレントだから。
「レントト~とかは?」
『拒否する』
よしカラコさんに任せよう。俺に名付けは無理だ。カラコさんなら沢山の中二病語録から良い物を出してきてくれるだろう。
こっちのことは終わったと。
ワイズさんのところに戻ろうか。
ありがとうございました。
最近7時更新というより7時から8時の間に更新みたいになってますね。気をつけます。




