94 サボり
家の様子を見る。
家を見ているマラが成長しないことを気にかける。
ヴィルゴさんの話で、わざと進化させていないことが判明
石の調達。石切り師に大理石を切り出すように要請。
うん、皆真面目に働いているな。
ギルドマスターとは本来こうしているものだと思う。普段は自分の部屋に閉じこもり何かイベントがあると出てきて、何か重要なことを言う。
これはNPCのギルドマスターか。
具体的なギルドマスターの仕事ってなんだろうな。セクハラ上司の相談に乗ってあげるとか?
俺と同じように解体されつつある建物を眺めているのはマラ。いつまでたってもプチデビルなんだな。いつになったらサキュバスになってくれるんだろう。子供サイズまで大きくなったといっても、まだ人外だ。いつになったらお姉さんに、豊満な体で俺を誘惑してくる小悪魔になるのだろうか。
ヴィルゴさんの特訓で筋肉全振りサキュバスとか変なフェチ専用の人にされても困るが……こうも焦らされるとな。まあ、気長に待ちましょうか。
あまりバキバキはあれだが、腹筋が割れてる女子とかは好きだぞ。マシュマロボディも良いものだが。
こうやって骨組みだけになっていく家を見ているとこのゲームのクオリティが高いのがわかるな。壁ドンして穴が開いたら異空間でしたとかにならないためだろうか。
壁ドンしたら部屋が異世界と繋がった。どっかのラノベのタイトルみたいだな。突然開いた穴から美少女登場はよくあるが。
……そういう世界に行くのが俺の夢だ。
「穴だ!」
え? 美少女?
誰が叫んだのかはわからないが、美少女に聞き間違えたのはそいつの滑舌のせいだろうか。
床をはがしていたら、穴が見つかったらしい。随分不安な建物だな。基礎コンクリートじゃないのかよ。
という問題じゃなくて、そこがただの床をはがした時に有ったから驚きなわけで。地下室ではないな。たまたま穴が開いていたのか?
たまたま穴があったということはないだろう。意味はあるはず。中に財宝でもあるのか。
ワイズさんの呼び出した使い魔が中を見てくるらしい。俺も一緒に行こうかな。
「シノブさん、防具もなしで行くつもりですか?」
そういや、裸だったな。初期装備はつけてるけど。マントの下にかなり肌着っぽい初期装備だけとかどんな変態だと言われても仕方ない。変態だから仕方ないけど。
どれぐらいまでできているか1回顔を出すのも良いかもしれないな。
「で、何の穴なんだ?」
「貴族の所有物だったから、埋蔵金じゃないですか?」
貴族から埋蔵金を思い浮かべるとは単純な人だ。貴族だったら都合の悪い人間を換金するための地下牢や、かなりマイナーな性癖を満たすための部屋を俺なら想像するが。
突然陥没したとかいう可能性もあるけど。ゲームで意味深な穴が出てきて、何もありませんでしたはないだろう。
期待して待つか。
大人数で活動しているからか、着々と解体されていく。この木は一体どうするのだろう。
《行動により【鑑定Lv13】になりました》
この家はこの森から切り出された木から作られたんだな。
そういえば新たな家を作る材料はどうするんだ?
石だから北に行くのだろうか。
「そんなに暇そうにしてるなら手伝えばいいじゃないですか」
俺は肉体派じゃないんだよな。何か魔法を使うことがあれば手伝うけど。
トレント達の分で減ってるMPを回復させるためにも瞑想でもするか。
その場で胡座を組む。
「そういうカラコさんも何もしてない」
「私は石材や、必要な物の注文をしています」
もうそういうのがメッセージのやり取りでできるようになったのか。どこかのギルドかな? 大口契約しか受け付けてないとか。ネット通販みたいに何でも届けてくれるなら楽なんだが。
「それにしてもシノブさん、ギルドの紋章とかどうしますか?」
そんな物あったなそういえば。かっこよければ何でもいいと思うけど。
「刀と弓が交差してるみたいなのはどうですか?」
「良いとおも」
果たして描く絵が棒だけのカラコさんに描かせたらどうなるのか。ダメだ。周りに笑い者にされる。これは絵を描くのが得意なアオちゃんか、ワイズさんに任せた方が良いな。
「なんで固まったんですか。別に私が描こうとしてるわけじゃありませんよ」
それは良かった。
ギルドに入ってる人は体のどこかにその紋章の刺青とかいいかもな。喧嘩を売ってきた相手をボコボコにして、あいつは誰なんだ……ってなった時に、汗を拭った時に袖が落ちて、手首にある紋章が! あいつはまさかあのギルドの! ってなるのが理想だな。
それかこの紋所が目に入らぬかーって堂々と言ってしまうか。刺青じゃなくて小物でもいいな。ネックレスとか時計とか。小物なら少し機能をつけて、役に立つようにしたいものである。近くにいる仲間に反応するとか。
時計は良いかもしれない。今いるメンバーだけが持つっていう古参のみの物にしよう。そしたら新しく入ってきた他の団員との違いがよくわかるようになるだろう。
思い立ったが吉日。解体もまだまだ終わらないだろうから。
これはサボりではない。ギルドマスターとしての結束を固める大切な仕事だ。
時計職人の居場所は検討がついてる。冒険者ギルド前の広場。なぜ俺がそんなことを知っているかというと。その人と掲示板で話したことがあるからですね。マイナースキル持ち来いって言うところでメニューから時間を見れるのに、時計職人という職業を取った彼。
俺も植物知識とか鑑定の劣化ですとか言っていたことがあったもんだ。植物学になったら、遥かに情報量は多くなったけどな。それ専門にしている人には育てやすくオススメしたいと思う。
そんなところで見かけたのが、1つの生産に特化した職人達。アイテム欄を拡大する鞄制作を持ってるけど、今のところアイテム欄が圧迫されないから需要がないとか、船大工だけど海がないとか。洗濯というスキルを持っているけど、NPCの宿屋に雇ってもらっただけとか。
そんな中の1つに時計職人がいたわけで。
将来金が貯まったら、嗜みとして車と時計とスーツを揃えさせようと思っていたんだ。車は名馬。スーツは鎧一式だな。
赤兎馬みたいなものが欲しい。男なら誰でも戦国武将や、三国志に憧れたりするものじゃないだろうか。誕生日に貰った歴史体験系全巻の中でも特にお気に入りだったな。
じゃあ、なんで騎乗スキルも持っていないし、特に馬を買うつもりがないのかというと。
このゲーム内で馬の恩恵があるのは機動力が極端に低い種族だけなんですね。例えばカラコさんが馬に乗っても戦力は半減する。それに馬に乗ってるだけで止まっている時でも呪文を失敗する可能性が出てくる。走りながら呪文を唱えて失敗とかロスが大きすぎると思う。それならば立ち止まれる隙を見つけて、確実に呪文を撃ち込んだほうが良い。
と思うからだ。だから馬には乗る気にはならない。
とここまで長々と突っ立っていたのはカラコさんが直ぐ横にいるからで。俺はどうしたら良いんだ。ここから動いていいのか? サボりじゃないよな。というかここにいる時点でサボりだよな。
なら良いんだよな。
「あー、ちょっと俺買い物してくるよ……ははは」
「借金」
俺はその場で飛び上がり地面に頭を埋めた。
そういえば金はありませんでした。
俺の無様な姿を見てカラコさんは大きなため息を吐いた。
苦労かけてすみません。
「シノブさん、渡しとかなければいけないものがあります」
カラコさんが小さなコインっぽいものを取り出した。
「これはギルドの幹部だということを証明するものですね。これを持っていることでギルドに関する様々なことができます。金庫からお金を引き出したり、ギルドの色々な設定などです」
俺は頭を引き抜き、押しいただきながら両手でそのコインを貰う。
「変なものに使ったら、借金に追加ですからね」
「わかりました。ありがとうございます」
カラコさんは優しいな。本当にええ子や。
さて、カラコさんの許可も貰ったし、時計を買いに行くか! カラコさんに何かお土産でも買っていって上げよう。服とか服とか服とか。服一択ですね。俺が着せたいだけですが。
遅れてすみません。
ありがとうございました。




