93 牢屋と薬
馬を買いに行く。家代案。
「あー、これでどうですか?」
自信なさげだが、俺は良いと思うぞ。ワイズさんの案をより自然にした感じだ。何処か月の神殿に似ている気もする。
「あー、最初の案とは違うのですけど。これで作るとなったら基礎以外はバラさなきゃいけません」
石造りだからな。地震に弱いかもしれないが、地震なんてこないだろう。というより街が石造りなここでは、地震が来たら街が先に崩壊する。
一気に魔法を放って壊すとかいうことはできないそうだ。壁を剥がしていって、魔法陣があったらそれを回収という面倒くさい手段を取らなければいけない。魔法陣の1つを見せてもらったが、恐ろしく難解で複雑なものだった。
「これどうやってコピーしてるの?」
「……気合だ」
なるほど。俺には気合より忍耐が必要な気がするけどな。
屋敷の解体にはマッドのゴーレムと修羅の集いヴィルゴさんファンクラブ的な人達が手伝ってくれることになった。闘技場から大規模な工事音が聞こえていたのはこいつらか。それにしてもギルド員でもない人を勝手に入れて良いのだろうか。
俺がとやかく言えることでもないか。
しかしマッドが作業をしているとなると、ウサギ小屋を作ることを頼めないな。カラコさんもログアウトしているし。
やることがないならログアウトして、昼飯を食べたほうが良いのだが、頭でわかっていてもできないことはある。悪習慣だ。逆に昼飯を食べることを習慣にできたら良いのだが。中華料理屋、ランチとか作って安くすれば行くのに。
俺には小屋を建てる能力はない。ゴーレムに命令したら勝手に作ってくれるだろうか。
畑にはグッタリしている蜂とトレント。死んではいないみたいだな。
回復魔法でもかけとくか。
「リフレッシュ」
まあ、少しは元気になったけど、また暴れだしたな。早急に虫かごが必要だ。虫かごを作って何になるのかはわからない。というより養蜂というスキルがわからない。
こいつも餌はいるだろう。やはりウサギの肉か。
というところで思いついた。今トレントに根で押さえつけて貰っている。そんなことができるトレントなら根で檻を作ることだって可能じゃね?
とんでもないことに気付いてしまったな。
「トレント。檻作れる?」
トレントはゆっくりと自らの体を持ち上げ始めた。土の中から根が露出していく。マングローブみたい。そしてある程度まで真ん中に空洞を作るように根を動かし、そこには立派な檻ができた。
トレントって便利。動きが非常に遅いことを除けばゴーレムよりも全然使えるな。
トレントが根の中に蜂を放り込む。狭いが我慢してくれ。
ゴブリン肉食べるかな? 数もあるし、放り込んでおくか。
「ところで、ここに就職する気にはなったかね? 気にいった?」
涼しいし日当たりも良いが、血がない。
どれだけ血に飢えているのだろうか。そうでもなければ戦闘が楽しくはないと思うが。トレントとゴーレムを闘わせたら、凄くトレントの士気が下がったりするのだろうか。
もう一体トレントを召喚してウサギを檻に入れておくか。
「いいか? 食べるなよ? 絶対に食べるなよ?」
フリではない。腹が減ったとか言われて血を吸われたら酷い損害だ。
前報酬として何か渡せれば良いのだが。まだ青いトマトや、ナスをつついているモンスターでも何でもない鳥でも狩ってみるか。
「展開、装填」
的ちっさいなー。当たるか? もっと器用を上げたほうが良いのかもしれない。
ここは安全策でアローレインで行くか。一つでも当たれば狩れるだろう。
「アローレイン」
畑に矢が降り注いだ。実っていたものも落ちてしまったのは秘密だ。鳥のせいにしておこう。何、まだ種はある。今度はイェンツ夫妻に任せればよい。
合計4羽。2匹ずつトレントにやろう。檻に向かって投げると器用に根がキャッチして瞬く間にミイラとなった。血というより体液全てを搾り取ってる感じだな。生物の体液が好きという設定にすると萌え化した時にエロ方面に行ってしまうからか。生き血もあれだと思うけどな。
喜んでいるようでなによりだ。ウサギ程度を狩れるNPCを雇って、毎日届けてもらうというのはどうだろう。どれぐらいがトレント達に取って妥協できる範囲なのか。
哺乳類の草食動物。生きてるものが良い。
このモンスターはびこる世界で哺乳類とは。どこにも当てはまりそうにないものもいるんですが。君たちみたいに。
ということは鳥類はまあまあだったってことか。草食動物が上手いのは肉と一緒だな。
トレントと知らず近寄った草食の哺乳類を地面から串刺しにして流れ落ちる血を吸うのが好きなのか。うん、グロい。
ワイズさん辺りなら、余裕で捕まえてこれそうだが、頼むのもなんだ。この森にでるモンスターで草食といえば……串鹿。確かメスには角がなかったはず。あいつらなら奈良的な感じで飼えそうだけどな。
というより木箱を開けた時には俺のことを怖がって逃げようとキーキーもがいてた奴がトレントのお膝元に入ると安全を確保したと思ったのか舐めた態度になるのがムカつくな。何だか俺のことをバカにしているような気がする。奴らはただ寝てるだけなのに何故こんなにイラつくのだ。
心を落ち着かせよう。矮小なウサギごときに動揺させるとは俺もまだまだ修行がなっていない。
このまま、用事が終わったからといって手伝いに行くのもあれだから、調合でもしようか。
トレントの影に座り調合セットを取り出す。
何日ぶりだろう。随分やっていない気がするな。取り敢えず今持っているヤク草を全て使い切るぐらいの勢いで。
とその前にあの服に着替えるか。着替えたくないなぁ。
《生産行動により【調合Lv9】になりました》
《生産行動により【抽出Lv8】になりました》
《生産行動により【薬品知識Lv10】になりました》
《スキル【薬品知識】がレベルマックスになりました。スキル【薬品学】に進化可能です》
《スキル【薬品学】を取得しました。残りスキルポイントは26です》
《生産行動により【薬品学Lv2】になりました》
《生産行動により【魔眼Lv6】になりました》
やはりな。10レベルになったら薬品知識から薬品学へと進化した。
滴凍草から取れる魔力の籠った魔力水を使って作るとこんなものができた。魔石をすり潰していれた場合も同じこととなった。魔石と水を混ぜると魔力水になるんだな。
ポーション
品質 A
シノブが心をこめて作ったポーション。HPを超回復すると共にMPも少し回復する。様々な過程を経てこの品質が物ができあがった。
ガラス瓶によって効果が挙げられている。
特に心をこめたわけではない。
説明文からしてAが1番上っぽいな。たぶんガラス瓶のおかげで品質がかなり上がっているんだと思う。調合Lv9だし。
普通の水で作った奴は全て捨てていたのだが、これは保存だ。森に入って滴凍草を大量採取するのも視野に入れておかねば。滴凍草って栽培できないのかな。岩とか木の幹についてる植物だけど。
これを濃縮したものがMPポーションかもな。しかし
1本しかないMPポーションをこの程度のレベルで解析しても良いのかと思う。ワイズさんが俺を信頼して渡してくれたんだからな。
その信頼には答えなければ。
ということで師匠に解析頼もう。あの人なら抽出も一段階上の部分までいってそうだし。ここで自らのレベル上げのために失敗も厭わず、試してみるのはダメだ。
必ずMPポーションの量産体制を整えねばな……。
……半分だけ抽出してみるか。何と何に分離されるかでも。というよりその前にMPポーションに薬品学。試してみるか。
MPポーション
品質 A
MPが超回復する。
《行動により【薬品学Lv3】になりました》
少ない。情報が少なすぎる。製造法の一部でも書いてくれないだろうか。というより薬品学ってなんだったんだ。薬品知識だったらこれが何かわからないとか?
抽出してみるか。
中身の半分をすり鉢に出し、抽出。
《生産行動により【抽出Lv9】になりました》
さて、何ができたんだろう。
MPポーション
品質 D
MPを少量回復する。
おう……。
仕方ない。俺にはまだ速かった。
他には月光薬があるな。ポーションと同じような感じで作ってみるか。
煮て、潰して、濾してと。
植物の液
植物の体液。
品質すらないものができあがりました。これはゴミってことだな。それとも青汁として飲めたりするのだろうか。捨てて良いだろう。他の人は一体どうやって新しいレシピを見つけているんだ?
図書館とかないのかな。
そうだ。模造のスキルがあったな。これを使えばこんな時間をかけずにポーションを量産できたはずだが、今やってることは量産ではない。というより量産しても容器がない。その場に垂れ流すことになるだろう。
まだ材料はほんの少しあるから取得してみるか。
《【模造】を取得しました。スキル欄が限界なため控えに回されました》
これはメニューから選択できるみたいだな。
ゲーム的だ。というかこれがなかったら、生産なんてできないな。
ヤク草と水を選択。調合するをポチッとな。ポーションの液というアイテムができた。垂れ流しということにはならず、実体化はされないようだ。
《生産行動により【模造Lv2】になりました》
これどっかから大量にヤク草仕入れてきたら、押してるだけで調合のレベルが上がるんじゃないか? まあ、そうだよな。これがなきゃ生産職なんてやってられないよな。レベル上げのために同じ作業を何十回とかさ。
俺はしてたんだけど。
何かトレントがしばらく見ないうちに凄く茂っている。何があった。ポーションで土壌汚染でもされたのか? ポーションはHPを回復させるだけであって、上限を上げたりするものじゃないんだけどな。喉が潤ったから元気になったとかだろうか。喉があるのかは知らないが。
それにしてもこんなんじゃ調合スキルから調薬スキルまで上げる事なんてまた夢のまただな。
家の様子を見に行くか。
ありがとうございました。




