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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
93/166

92 蜂と絵心

遅れてごめんなさい。

 何か凄い暴れてんな。

 この木箱の中には蜂がいる。しかしガタガタブンブンと中で大暴れしているようだ。

 さあて、どうするかね。


『いやいや、私たちにあんな家なんて』

「いえ、あそこは使わないので」

『いやいや、私たちは自分で小さな小屋でも作りますので』


 さっきから何回やりとりしているのだろう。契約は終わっているはずなんだがな。


 虫といえば虫かごか虫取り網。しかし両方ともない。仕方ない。小さな穴を開けて、そこから蜂を見てウッドバインドを使うか。


 カグツチノカミの炎の刃でくり抜いて。そこから覗けば良いのだが。側から見て木箱に穴を開けてみるという状態はどう見えるのだろうか。

 変人だな。


 まあいいか。カラコさんと夫妻しかいないんだし。


「さて、見るか」

 これはいきなり覗き出してなんなんだこの人と思われないようにとの布石ではない。ただ気合を入れただけだ。俺がそんな周りを気にするとでも?



 俺は右目を穴につけた。


 クリティカルヒット!


「目が! 目がぁー!!」

「大丈夫ですか!?」


 大丈夫じゃないよ! 危うく死にかけた。なんなんだこの蜂は穴から針を突き出すとかどんな神経してやがる。木箱に入れたまま炎で焼いてやろうか?

 本当に空気読んでほしいな。ここで開けられなかったら君一生木箱の中だよ?


「一体何をやろうとしたんですか」

 カラコさんが呆れ顔で治療してくれる。この人体力を回復する魔法なんて使えたっけ? それに超回復があるから大丈夫だ。

 白い光のエフェクトが俺の目に当たり非常に眩しい。眩しいということは大丈夫だろう。身体欠損の状態異常とか普通にあるからな。血はでないけど普通にダメなような気がする。


「いや、ただウッドバインドで捕まえてから外に出そうと思って」

「普通に出してから魔法で撃ち落とせばいいじゃないですか」

 それだと20万が消し炭になっちまうだろう。飛んだ状態でも効く足止め魔法……ファイアフライがあったな。


 ファイアボールで木箱を粉砕すると同時にファイアフライを放つ!

 問題は同時にこの2つの魔法を放てるかということだ。


「ファイアボール!」

 を片方の手に待機させることはできる。そしてこのままファイアフライをできるか。


「ファイアフライ」

 厳しい。厳しいけどいける。ファイアフライが完成したと同時に、ファイアボールを放つ。

 木箱は砕け、そこにはボロボロの小型犬サイズの蜂がいた。羽は魔法で焼けていて、体にも無数の傷がある。

 これならファイアフライがなくても大丈夫だったかな?


「ウッドバインド!」

 ファイアフライが消える瞬間にウッドバインドを発動させ、無事に捕獲完了。ジタバタともがいているが、抜け出せはしないだろう。


《行動により【魔力操作Lv9】になりました》


 お、レベルが上がった。

 カラコさんの方もカラコさんが半分脅すという感じで、あの離れの一室を使ってもらうことになった。近いうちに引っ越してきてくれたら良いだろう。


 さて、こうして拘束したわけだが、一体どうしようか。どこかに巣を作ってもらうとかはできないよな。ヴィルゴさんに頼めば調教してくれるかな? しかし今ここにはいないからな。


 ウッドバインドの効果が切れて逃げられても嫌だし、トレントを召喚して抑えさせるか。


「トレント、逃げ出さないように捕まえておいてくれ。殺したら承知しないぞ。もしやったら、ファイアゴーレム達で逆キャンプファイアするぞ」

 想像したら恐ろしい拷問だな。軽快な音楽と共にファイアゴーレム達がグルグルと回り、踊るのだ。物凄くシュール。



 トレントもその恐ろしさを想像したのか。身震いした後、根で蜂を囲む檻を作っていた。器用なやつだ。


「お前用の新鮮な兎を仕入れてきたからな。繁殖方法が確立できたら、存分に食べさせてやる」

 食べる? 飲む? どちらもしっくりこないな。吸うが1番あっている。

 兎だが最初にあれだけ狩られても、絶滅しなかったことから余程に強い生命力を持っているとみえる。ほっておいたら増えるだろう。その前に柵を作らなければいけないけどな。魔法でどうにか手っ取り早くできないだろうか。

 土魔法使いのマッドに要相談だな。との前にカラコさんに言っておくか。俺だと忘れそうだし。


「カラコさん、マッドに兎の柵を作れないか聞いておいてくれ」

「わかりました。ではイェンツさん、これからよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』


 2人は一旦帰ってギルドへ申請することと、家財道具一式を持ってくるそうだ。手伝いも申し出たが、自分達でも大丈夫とのこと。ちなみに手伝いを申し出たのはカラコさん。俺は横に立ってただけだ。


 2人は礼を言いつつ、光に包まれて消えていった。

 と書くと成仏したみたいだが、転移魔法陣に乗っただけだ。


「それでこれからの予定は?」

「コウメイさんが来るのと、デザインが決定されれば、リフォームの手伝い。それがなければ、私たちは納屋の整備をしましょう」

 納屋? ああ、ホースが閉まってあった場所か。小さいんだし夫妻に任せりゃいいのに。

 納屋の中には色々な農具がある。スコップに死神のような鎌、クワなど。トラクターがあればあの雑草刈りも楽だったんだが。しかしそれのどれもボロボロで使えるかどうかはわからない。新しいものを買った方が良いものもあるだろう。

 考えただけで疲れてくるな。中のものをリストアップして買い直すので良いような気がするが。


「シノブさん、言っていたらコウメイさんが来たみたいです」

 悪魔の名前を呼んだら悪魔が来るってやつか。悪魔ではないけど。


「わかった。行こう」



 コウメイは前と同じ場所に机を置いて待っていた。既に何人か集まっているのが見える。また俺たちが1番最後か? 5分前集合をモットーに未来予知でもしているのだろうか。少なくともヴィルゴさんのいた闘技場よりは近いと思うのだが。


「ああ、今回はきちんと考えてきたので。自信はあります」

 自分からハードル上げてどういうつもりなんだろう。

 しかしその自信通り、ファンタジーさは出ている。

 木でできた城。いや、城が木なのか、木が城なのか。


「これ動きますか?」

 無茶振りだな。


「え? ああ、動くのはー少し厳しいですね」

 そりゃそうだろうな。俺はこれでもいいと思うが周りの反応は微妙だ。


「小人の家みたいだな」

「これだったら前のやつのほうがいいな」

「……もうヨーロッパの……城通りに作るとかで……良いんじゃないか?」


 これは他の人たちのイメージが固まっていないのが問題だな。具体的な例を上げて、それの真ん中のデザインを作ってもらうのが1番良いだろう。


「ああ、ダメだった時を考えてもう一つ考えてきました」

 自信なかったのかよ。

 次に出されたのは水色の、何かの鉱石でできている館。半透明らしい。


「成金趣味っぽいな」

「いまいち何か足りませんね」


 もう俺は何でもいい。


 そして3つ目。三度目の正直で頑張って欲しいものだ。というよりこんなに代案出してくるってことはやっぱり自信ないじゃん。それともしっかり考えてきたっていうのはしっかり大量の案を考えてきたというやつか?


 二階建ての西洋風の城。これはない。これはないな。


「これはない」

「そうですか?」

 カラコさんはそれなりの評価だが、二階建ての城はないだろ。和風なら日本家屋的になったのに。


 そして4つ目、5つ目、と誰も気にいるのが出ない。ちなみに4つ目は和洋折衷な城。5つ目は吸血鬼がいそうな屋敷。初めに出した案に似ているが、赤と黒が多く使われていて少し幻想的な感じだ。


 もう俺は5つ目で良いと思うが。


「何かギミックはないんですか?」

「ああ、ギミックについても考えてきました」

 最初から出せよと思うが、言われなかったらどうしたのだろうか。

 1つ目は霧。ギミックも何も、朝普通に霧がかかるが。

 2つ目、飛び交う無数の蛍。確かに綺麗だろうと思うが、気持ち悪い気もする。それに夜限定なのがな。

 3つ目、屋敷の横に立つ銅像。


 この人ロクな案出さないな。何なの銅像って。


「この銅像は動きます」

 自信満々に言い放ったが、それはカラコさんの衝撃的な一言によって叩き落とされた。

「普通動くものが動いても……」


 え? 銅像って普通動くっけ? どこの魔法世界の人? それとも最近じゃ動くのが普通なのか? 俺が外に出ないうちに世の中は随分進化しているんだな。


「……このままじゃ埒が明かない……皆それぞれ望む家を……描いてみろ」

 さすがワイズさん。わかってるな。

 コウメイから白い紙と鉛筆が渡される。準備が良いな。


 俺は絵心がないんだが……描くだけ描いてみるか。


「木の絵を描いて、その人の深層心理を見るという心理テストがある。絵とは太古の昔から何かを伝えるために描かれてきたメッセージ。今となっては文字があるが、それがなかった時は絵によって伝えるのが一般的だった。文字で人柄がわかるというのがある。絵も同じではないか?

 誰が描いたか1番多く当てた人には、なんと10万G。俺のポケットマネーから支払われます」

「ひゅー、ワイズ太っ腹ぁー!」

 一体何が始まったのか。マスクを外したワイズさんはテンション高いな。


「マスクつけろ」

「はい」

 ワイズさんの天下は一瞬で終わった。残念だ。ヴィルゴさんはうるさいのが嫌いなんだろうな。ネメシスもうるさいけど。同じ女性同士だから許せるのか?


 並べられた7枚の絵。ワイズ、ヨツキ、マッド、ネメシス、ヴィルゴ、カラコ。敬称略のこの7人の絵が並んでるわけだ。俺より下手な人はヨツキちゃんだろう。

 凄いやる気がなさそうに三角と丸で構成されてる1秒で終わるような絵もヨツキちゃんかもな。


 上手い絵が3枚。下手な絵が4枚ある。俺のは下から3番目だ。

 1番上手い絵、シンプルな石造りかつ周りに石の塔が立っている。結界とか張れそうな感じだ。もしくは石の塔からビームが出るとか。俺は好きだな。この構成からして、ワイズさんだな。手も器用そうだし。


 2番目に上手い絵。パルテノン神殿の変形版みたいな感じ。やたら柱があって多重構造となっている。これってどうやって暮らすんだ? それにそもそも扉がない。この非常識さからしてカラコさんだろう。絵としては良いと思う。非常にファンタジー感溢れてて。


 3番目に上手い絵。塔って感じ。周りに螺旋状の模様があって綺麗。塔良いって言ってたし、これがカラコさんかな? エレベーター、もしくはエスカレーターがあるならこれでも良い。俺の部屋は1番上にして転移魔法陣で一瞬にして行けるようにしてほしいものだ。合言葉を知っているものだけが、最上階の俺の部屋に来れるとか良いな。なんだかこういうのも良いな。これに投票しよう。



 さて悪いが、下手な絵のほうを見ていこう。下手だから下手と言われても仕方ない。

 1番下手なのは何が書いてあるのかよくわからない。かろうじて家だとわかるぐらい。手が震えでもしない限りはこんな絵はかけないだろう。これはヨツキちゃんだな。


 2番目は棒だけの簡単な家。このやる気なさそうなのだはヴィルゴさんだ。


 3番目、俺の絵は和洋折衷的な感じの建物。そうよくある建物だ。下手にファンタジー感入れると絵が壊れるような気がしたからな。どうせなら俺も塔にしておけば良かった。簡単そうだし。


 そして4番目に下手なのが、何か近未来的な建物。ロボットとかがあるけどそれ以外はよくわからん。絵が下手な人が想像しにくいものを描くとこうなるって例だな。それでも俺よりかは上手いが。



 というわけで俺が予想したのは1番がワイズさん、2番がカラコさん、3番がネメシス、4番がマッド、5番が俺、6番がヴィルゴさん、7番がヨツキちゃんだな。


「これはわかりやすいですね」

「楽勝だな」

「それフラグ」


 まあ、結果発表を静かに待とうじゃないか。


「……1番人気があったのは、このシンプルな石造りなものだ」

 やっぱりな。シンプルイズベストというかいい感じに神秘的な雰囲気が出ていれば皆納得するんだよ。


「これは俺が書いた。……皆正解しているな。意外だ」

 この中で1番手先が器用なのってワイズさんじゃないですか。そりゃそうですよ。


「……次に人気があったのは……この塔だ。ネメシスに2票……それ以外は全員1票ずつ入っているな」

 これはネメシス率が高いような気がする。手の込んだ手抜きという意味でも。


「……これを書いたのはヴィルゴだ」

 1人に一票ずつということは本人しか当たっていないということか。しかしこうなるとわからなくなったな。この手抜きのものは誰なんだ?


「3番目は……この柱の絵だな。マッドが2票、シノブが2票、ネメシスが2票、カラコが1票と分かれているな」

 あれ? カラコさん俺だけかよ。これは負けたな。


「……これはネメシスだ」

 これを当てた人が1人リードしている状態か。しかしどれもその人が書いたらあ~という感じには納得できるのはなぜだろうか。あー、わかってたわかってた。やっぱりねって感じ。



「……それ以外は誰にも人気がなかった」

 下手な絵ですからね。仕方ありません。

 今のところ残っているのはヨツキちゃん、マッド、カラコさん、それと俺だ。マッドがあの適当な絵を書いたのか。


「一気に発表していくぞ。……この可愛い絵は……ヨツキだ。皆正解しているな」

 可愛いい? 最近の価値観の多様化にはついていけんな。それにしてもこういうところで気配りできるのがさすがというか。子供の扱いに慣れているな。俺だったら、1番下手な絵とか言ってしまいそうだ。


「そして……この棒の絵はカラコ。皆バラけていたが、1名正解者がいる」

 カラコさん……絵心がないにもほどがあるよ。


「私の思い浮かべる理想の建物は絵というものではあらわせないので」

 凄い言い訳だな。絵では表せられない建築物って一体どんなものだよ。概念を超越しているとか、常に光り輝いて見えないとか、透明とかそんな感じなのか?

 まあ、俺達大人生暖かい目で見守ってやるのが正解だろう。絵が上手くなくても生きていけるんだぜ?


「シノブさんも下手なのにそんな目で見ないでください」

 そんな目ってどんな目だったのか。生暖かったからいけなかったのか? それに適当に描いて絵の下手さを誤魔化しているカラコさんに言われたくないな。常に勝負には本気だすべきだと思う。しかしこれまでが、この絵当てクイズで勝つための戦略だったとしたなら恐ろしい。


 この後は特に目立ったこともなく。勝者発表の時間となった。俺は誰にも当ててもらえなかった。良かった。マッドと俺の絵を逆に思っていた人が多かったのはなぜだろうか。


「……1番多く当てたのは……」

 マスクつけてるからか、タメが長いな。さっさと言えよ。


「俺だ」


 一分後、変わり果てた姿となってワイズが転がり、コウメイさんが引きつった笑いをしながらデザインの総まとめをすることになる。

 さっきから動かないけど、何の状態異常なんだろうな。俺は特に魔法を発動した覚えはないが。それにしても主催者が優勝取るとか酷い。酷すぎるな。

ありがとうございました。

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