90 ギルド設立
87話と88話の内容に齟齬がありました。
シノブが取得したのは
牧畜、醸造、養蜂、瞑想、思考加速です。
申し訳ありませんでした。
「私は書類を書かなければいけないので……シノブさんはNPCを雇うことについてでも聞いといてください」
はっ! ここはどこ? 私は誰?
あまりの緊張さにほとんど記憶がない。何もヘマをしなければ良かったのだが……後は野となれ山となれだ。背筋を伸ばしてかすれ声でハイハイ言っていたので大丈夫だろう。
大丈夫だよな。
大丈夫じゃなかったら書類記入なんてしないもんな。
俺の方は従業員集め。できるなら可愛い女の子。想像するだけで笑みがこぼれてくるぜ。そうだな。メイドも欲しいな。ズラッと並んだメイド達がお帰りなさいませご樹人様って迎えてくれたらなぁ。
まあ、妄想もほどほどにして。
『ではこちらのカタログからお選びください』
カタログって……。まあ良いか。ゲームだし。労基法とかはあるのだろうか。
うん? 最初に注意書きが書いてある。休日を作れとか、日に働かせる時間は何時間以内とか、まあ色々あるみたいだな。でもそのほとんどにも本人と交渉して決めろと書いてある。面倒くさいな。
写真と分野だけ見て決めていこうか。写真が重要だ。
何人か単位で登録してる人もいるみたいだな。コック関係はルーカスさんを勧誘するとして、まだ良いな。今のところ必須なのは畑の整備役だな。まだ家もできていないのにメイドは早すぎる。
おっさんしかいない。夫婦セットで雇って、家も自分で建てるという小作人がいるが……人妻とか、興味ないんだよな。寝とり寝とられは好きだけど。結婚してるってだけでなんというかご愁傷様というか手を出したらタブーというか。こういうモラルはある。
現実じゃできる気もなにもないけどな。
ここはおっさんを雇うしかないのか……と思いながらページをめくった後だった。
農業で林業も何でもできます。ただしおっさん! さぁーてどうしようか。写真を見る限りでは豪腕を持った熱血そうなおっさんだ。それなりに給料は高い。一週間で10万。ボッタクリじゃないかと思うぐらい高い。俺の全財産超えてるぞ? まあ、それなりに金持ちがいるうちのギルドでは問題ないだろう。
想像してみよう。1人で何でもできるこのおっさんには年頃の娘がいる。そしてうちのギルドで数週間働いた後こういうのだ。『娘が、あの噂のギルドマスターをみたいと言ってな。ハハハハ、良かったら会ってやってくれないか?』
これは契約成立だな。雇う側としてはやっぱり従業員の家族構成は知っておきたいよな。
「シノブさん」
速かったな。書類というと時間ばっかりかかるイメージがあったんだが。
「シノブさんが覚えておくべきことは、ギルドマスターって想像以上に大変ってことだけですね」
え? なにそれ。詳細知らせずに不安感だけ煽るのやめて? 俺プレッシャーに弱いから。前に嫌なことが転がっていると知ったらその場で寝てしまうような人間だから!
「そうですね。ギルド同士での抗争。様々な課金アイテム。ギルドレベルや、ギルドポイント。覚えることは沢山あります」
ギルド同士の抗争? ナニソレ? ギルドってほんわかした皆で楽しもうぜっていう集まりじゃなかったの?
「それは一先ず置いておいて、誰か良い人はリストアップできましたか」
「いや、教えてよ」
俺がギルドマスターなんだから知っておかないと心配じゃん。
「長くなりますよ?」
寝るかもしれないが面白かったら大丈夫だ。
「ギルドレベルはギルド構成員のギルドランクで決まります。そしてギルドポイントはギルドからの依頼をこなすことなどで獲得できます。ギルドレベルは上がれば上がるほどステータスへの補正が上がったり、色々な効果があるアイテムを使えるようになったりします。ギルド同士での抗争は主にギルドの依頼ですね。ギルドでの依頼は希少種の保護や、突如発生した魔物を討伐するなど様々なものがあるのですが、その中でも1番簡単なものが1つ」
カラコさんはそこで言葉を切った。
一体なんだろう。
「ギルドの兵に対する装備の提供とか?」
これはイッカクさんがやっていたことだ。ちなみに通常の依頼にはそれはない。
「違います。犯罪者プレイヤーの逮捕ですね。いわゆる賞金首というやつですね」
それがギルド間の抗争とどう関わっているのだろう。
「PKなどはギルドも積極的に動きますが、被害者が出ていない。もしくは被害届が出されていない犯罪者プレイヤーにはギルドはわざわざ動きません。しかしそのまま放置しておいては体面的に悪いので、一応手配書をだす。でも捕まっても捕まらなくてもどっちでも良いという感じなんでしょう」
へー。でそれが?
「一言で言うと、私とアオちゃん、キイちゃん以外の私達のギルドメンバーは全員賞金首ですね」
……俺も?
あれがバレた? やっぱり龍木でできた槍を大っぴらに持ち歩いていたらいけないのか?
「シノブさん、町内での危険行為って書いてありましたけど、何かしたんですか?」
「いや、さっぱり。何もしてないのに。冤罪だ!」
希少種を採取したことではなかったか。良かった。
それにしても俺が何かしたか? 確かに危険な行為はしたことがあるかもしれないけど。俺の記憶に残っていないなら些細なことだろう。
「NPCに被害を出したりしないかぎりオレンジにはならないので心配しないでください。いわゆるバレなければ大丈夫というやつですよ」
そうなのか? というよりバレてると思うのだが。というか賞金首なのに俺はギルド出入りしていいのか? 今も受付前だし。
「街の外では背中に気をつけましょうね。もしかしたら拠点に乗り込んでくることもあるかもしれませんし」
何かあれだな。何もやっていないのに犯罪者扱いとは。
「ちなみに1番罪状が多くてギルドポイントも高かったのはヴィルゴさんですね。町中で何十回か喧嘩してます」
何回かではなく何十回か。たぶん誰かのいざこざに自ら巻き込まれていってそのまま乱闘に持ち込むのだろう。質が悪いな。おそらく、喧嘩していた周りのやつらを全て倒して、あの狂獣が暴れてるーって通報されるんだろうな。自業自得だ。
「ヨツキちゃんは何度かNPCの店舗を破壊してますね」
それで青色なのが凄いよ。
「子供だからというので多めに見てもらっているというか、そんな感じでしょうね」
自分の店を子供が壊してそれでも許せるおおらかな店主って凄い。というより絶対金で解決しているような気がする。そして素直に訊きたい。何があったんだよ。
「ネメシスさんが何か理不尽なんですけど。影の精霊だからって理由で賞金首ですね」
何だそれは。種族によって指名手配されるのか? やっぱり精霊って強いからって理由なのか?
確かに見た目は胡散臭いとしか言いようが無いけど。あれは救いがたい。
「ワイズさんとマッドさんは召喚した魔物が物を壊したということですね」
へー、それは難儀なことだ。ゴーレムは不器用だし、ワイズさんの魔物は召喚した場所によっては局地的な災害を引き起こすもんな。
「皆色々あるんだな。で、カラコさんは?」
「私はありません」
そうか、残念だ。
「あっても勇者が賞金首となると思うんですか?」
うわー、この人自分で勇者とか言っちゃってるよ。うん? ということはカラコさんも何かしている可能性があるのか。それが勇者だからって賞金首になってないだけで。
「何でもいいから、シノブさんはそのフードを外さないでくださいね!」
おい、そんな大声で言うと……。
俺の案じた通りに、周りからリア充爆発しろとかいう視線を受けている。面倒くさいやつらだな。本当にモテる男は辛いぜ。
自分で言って悲しくなってきたから、話を戻そう。
要するに、俺達が犯罪者だから賞金首狩りに気をつけろってことか。
どう考えても俺達が悪いな。さっさと自首したほうが良いんじゃないか?
「それ以外にもギルド同士での決闘でもギルドポイントは貯まるので。私達はそちらの方がメインになりますね」
決闘? ヴィルゴさんが大活躍だな。
「色々な種類がありますが、1つはギルドの練習場での決闘。対人戦ですね。参加するには色々と厳しい条件が必要みたいです」
なるほど。あの無法地帯の修羅達の集いみたいなものと違うんだな。
しかしなぜ決闘という対人戦を出すのに、決闘モードなどができなかったのだろう。全年齢だからとも言えるが。なくても喧嘩はできるけどな。もっと治安を良くするには決闘モードをつけるのが1番だと思うのだが。
子供が現実でも決闘で物事を決めようとしてしまうからだろうか。
まあ、そんなことはどうでも良い。俺はやるとも思えない。関係ない話だ。
「次には自由競争。ギルド同士で話し合い、勝負をして勝ったほうがギルドポイントが得られます。これによって強大なギルドが大量のギルドポイントを取引にして、小さなギルドからギルドポイントを搾取したり、逆に弱小ギルドがなめきった大ギルドに一泡吹かせるってこともできませね」
なるほどね。相手が相手だから必ず勝てると思って、相手を食いつかせるために大きなポイントを提示して、そして小さいギルドから少量でもギルドポイントを得るということか。
俺達は小さいところから搾取する側だな。
「ギルドポイントを賢く運用しなければ自由競争で相手にもされずに、得る手段もなくなりますね」
「中々難しいものだな」
「シノブさんには任せられませんね」
ニコニコしながら言ってるがそれ素? 素じゃなかったら頭叩いてもいいか? 確かに信用できないけどさ。
「ギルドポイントって具体的に何に使えるんだ?」
さぞかし魅力的なものなんだろうな。
「各種ステータスのブーストに使ったり、冒険者ギルドに依頼を出す時にも使えますね。その他、冒険者ギルドそのものとの取引に使用可能らしいです」
冒険者ギルドそのものとの取引ってのがよくわからないが、確かに便利だ。魔力のブーストとかができるってことだよな。最強な俺が更に最強になってしまうではないか、フハハハ……。
さてと、情報を整理。
ギルドポイント便利。相手に喧嘩売って勝てば貰える。単純明快だが、妙な制度だな。プレイヤー間でライバル争いをさせたいのだろうか。それともPKをする力を決闘に回せってことか?
まあ、カラコさんに任せておけばよいか。
「最後の手段は相手の拠点に侵入して、ギルドマスターをPKですね。ギルドポイントの八割が奪われます」
そんな恐ろしいことがあるのか。怖いな。護衛でも雇おうか。その護衛が敵の刺客だったりするんだよな~。どきどきわくわく。
はっ。一体なぜ俺はわくわくなんてしているんだ。こんなのどこかの戦闘狂と一緒じゃないか。危ない危ない。
「しかし俺達の拠点って自然の要塞だからそれはないだろうな」
相手のギルドの規模にもよる。あの森を余裕で突破できるぐらいの能力があれば良いだろうが。
「シノブさんは狙撃手ですから狙われるでしょうね」
なぜそこで確信しているんだ。狙撃手という枠を越えた近距離戦もできる俺なのに。
「なんだか、面倒くさいことになりそうだな」
更に日々が忙しくなりそうな気がする。何かやらなければいけないことがあったと思うのだが……調合か。MPポーションの解析をしなければな。
「でも楽しそうじゃないですか!」
カラコさんは目をキラキラさせているが、無邪気で良いものだ。
俺なんかただでさえヘイトを集めまくりなのに。俺がギルドマスターになったなんて知られたら、一体何をされるかわからない。ヨツキちゃんファンクラブの応対が大変なことになりそうだ。
いや、ロリコン紳士達は紳士だから迷惑をかけないことを期待しよう。
「楽しそうなのには同意する。それで今のところ雇うNPCだが、美人が全然いない」
カラコさんは俺の開いているページを見た。
「そりゃそうじゃないですか。農業ガールなんて幻想ですよ」
農業ガールって何だろう。山ガールや仏ガールの親戚?
「でこの万能なおっさんを雇いたいと思うんだが」
万能なおっさんだから結婚ぐらいしているだろうという計算だ。給料も高いんだしな。
「高いですね」
ギルドの金庫を預かっているらしいカラコさんは難色を示している。なぜらしいかというと本人からしか聞いていないからだ。というかギルドの金庫って何だろうね。俺は全く金を出していないんだけど。
「でも土木系なら何でもできるらしい」
「週に2回も休むんですか……」
「やっぱり優秀なギルドには優秀な人を」
「ダメですね」
却下されました。これは仕方ない。俺には金庫事情はわからないのだ。
「ちなみに金庫の中は?」
「数百万ありますね」
お、おう。そこでなんで濁すのかはわからないが。数百万か。
「なら全然余裕じゃん」
「シノブさん。総額の問題じゃありません。他と比べてこの人だけが異様に高いから言っているんです。何事にもお金があるからといって高いものばかり買っていると破産しますよ?」
年下に諭されてしまった。
そうだな。ではこちらの夫婦で住まわせる代わりに給料が安いこの人達にしてもらおうか。
「良いですね。結婚しているというのは好感ですね。使えそうにない離れが一棟ありますし。あそこを使用人用の住居にしましょうか」
何かいよいよ本格的にギルドを作るという感じになったな。
カラコさんが受付で金とか色々注意を聞いている間に俺は次にやる行くところを思案する。
そうだな。生き血と食料用の家畜を探しに行くか。
ありがとうございました。




