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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
88/166

87 役職

 闘技場に近づくといきなり従順だったゴーレムが走り始めた。ゴーレムかと思えないような機敏な動作だ。俺の命令ではないな。おそらくマッドの命令が届いたのだろう。これだけ距離があっても司令を届かせるとは器用なやつだ。

「何があったんでしょうか」


 何があったか。

 それは中に入ればわかることだ。どうせ観客席が崩落しそうとかそんな感じだろう。


 中では俺の斜め上を上回っていたような、そうでないような気がする結果が待っていた。

 飛び交う魔法、巨大な武器が振られ、砂埃が起き、倒れるワイズさん。


 バトルロイヤルをやっていた。

 俺達についていたゴーレムも中に飛び込み、ヨツキちゃんの一撃をくらい土塊と化していた。


 ワイズさんは完璧な後衛だから仕方ない。しかしなぜ退場せずに闘技場の床で寝転んでいるのだろうか。状態異常の使い手はいなかったはずだが。


 ヨツキちゃんは俺のあげた大剣を使っている。嬉しいことだ。


「……何でしょうかこれ」

 さあ? どうせヴィルゴさんか誰かが提案したんだろ。


 ヨツキちゃんの近くは危険地帯と化しているのか誰も勝負しようとしていない。ゴーレムを纏った強化状態のマッドとヴィルゴさんが戦っており、ラビとネメシスは同じスピードタイプ同士、闘技場内を動きまわって戦っている。今のところネメシスとマッドが不利だな。

 マッドはゴーレムをヨツキちゃんの足止めに使っており、ネメシスはラビの一撃で大きなダメージを受けている。それに反してラビは魔法への抵抗は高そうだ。白くなったからだろうか。


 最初にネメシスが脱落し、倒れた。これってやられたら倒れなきゃいけないルールでもあるのか?

 その後、ヴィルゴさんとラビが合流し、マッドが脱落。


 結果的にヴィルゴさんたちと、ヨツキちゃんの一騎打ちとなった。 

 ヴィルゴさんはその小手でヨツキちゃんの大剣を受け流している。それだけでも大分ダメージを負っているというのだから、恐ろしいものである。

 まさかヨツキちゃんまでマゾヒストを取得してるんじゃないだろうな。


 ヴィルゴさんは怪我を負うたびに自らを治療している。マラがいないと思ったらもう既に脱落していたようだ。

 大剣は嵐のように振るわれ、ヴィルゴさんに近寄る隙を与えない。

 大剣の間合い内に入って仕舞えばヴィルゴさんの独壇場だと思うのだが、中々踏み込む様子を見せない。このまま危険を冒さなければジリ貧だと思うのだが、ヴィルゴさんは何を考えているのだろう。


 大剣をさばいていたヴィルゴさんに代わって、ラビが前に出てきた。

 もう既に手には何も持っていない。細かなステップで大剣を舞うように避けている。そして後ろに下がったヴィルゴさんがニヤリと笑うのが見えた。それは勝ちを確信してるような笑みだった。

 必殺技でも放つのか?


「ウォォーーーーン」


 ヴィルゴさんは宙に向けて雄叫びをあげた。思わず耳を塞いでしまうほどの音量。ヨツキちゃんの動きが止まり、ラビの蹴りが腹にささった。

 そのままヨツキちゃんは体勢を崩して、飛んでいった。



「シノブさん、見てください!」

 カラコさんの声でヴィルゴさんの方を向く。するとそこには巨獣がいた。

 巨大な、ライオンだ。


 ヨツキちゃんが呆気に取られて見つめているうちにラビの攻撃が入っていく。


 気を取り直したヨツキちゃんはラビを無視して、ヴィルゴさん巨大バージョンの元へ向かった。



 巨大化。俺の覚醒と同じようなものだろうか。ヴィルゴさんは動いていないが、あれはかなりステータスが強化されているだろう。


 ヨツキちゃんが剣を振るたびに何か殴打音がなる。全く斬れていない。しかしその大剣の重さもあり、ダメージは入っている。その巨体での攻撃は精細に欠いており、全く当たっていない。

 操るのが大変なのか?



 ヴィルゴさんのHPが削れ切るのが先か、ヨツキちゃんがラビの攻撃で削られるのが先か。

 俺はヨツキちゃんに5ドルかけるぞ!



 そして終わりは唐突に来た。

 ヴィルゴさんの爪の一撃をヨツキちゃんが避けれなかったのだ。今までは大丈夫だったのに。集中力の差が出たのか。


 とここでワイズさんの下からマラが出てきた。まさかあそこに隠れて魔法で補助していたのか?

 ワイズさんの腹の下で? 策士だな。最後にヨツキちゃんが避けられなかったのも、マラの魔法の効果か。うむ、妨害に攻撃、回復が備わっているヴィルゴさんは怖い。

 そういうことだな。


 花火が打ち上がり、俺達の拍手の音が静かな闘技場に響く。ヴィルゴさんは元の大きさに戻り、俺達に向けて満面の笑みで手を振ってみせた。


 倒れていた人達が億劫そうに立ち上がる。

 ワイズさんとか最初っから倒れっぱなしだったんだろうな。俺もあの中に入っていたらワイズさんの次にやられていた可能性があるな。たぶん空気を読んで覚醒の時間を待ってはくれないだろう。



「やはり対人戦ではヴィルゴさんが1番ですか」

 対モンスターならまた順位が変わるかもしれないが。ヨツキちゃんとワイズさんが組む、最強のタッグには敵わないだろう。


「俺としては……」

 MP切れで良かったという感じか。あの中には入りたくない。というより子供相手に戦えるヴィルゴさんは鬼畜というか、容赦しないというか。凄いと思うな。



 俺達は観客席から闘技場内に降りていった。


「おめでとうございます」

 激戦だったな。なんか本当についていけないよ。

「2人も万全だったなら参加できたのにな」

 いえいえ、万全であったとしてもお断りさせていただきたい。


「なんで戦ってたんですか」

 カラコさん、聞いても無駄だ。どうせ、暇だったとか。そんなところだろう。


「……ギルド内の役職……決めだな」

 ギルドマスター不在の時にそんなことを決める争いをしていたのか?


「私が優勝したから、私は闘技場の管轄をもらうぞ」

 お、おう。役職名は闘技場管理人かな?


「……俺は序列7位か」

 序列とか一体何なんでしょうか。

 さっきの戦闘では1位がヴィルゴさん。2位がヨツキちゃん。3位がネメシス。4位がマッド。5位がワイズさんだが。7位ということは俺とカラコさんが1位と2位か。


 上位陣を女子が占めている。女の子は強いってことだな。


 ワイズさんが紙にサラサラと何かを書き出す。字が綺麗だな。さすが手先が器用な生産職なだけはある。


 序列1位 カラコ サブマスター

 序列2位 シノブ 畑長

 序列3位 ヴィルゴ 戦闘長

 序列4位 ヨツキ 警備長

 序列5位 ネメシス 倉庫長 

 序列6位 マッド 工作長

 序列7位 ワイズ 魔法長


 え? 俺が序列2位?


「……勇者が2位ではかっこうがつかないだろう……」


 そして俺が畑長? なにそれ。長がつけば何でも良いと思っているのか? というかネーミングセンスないな。


「これは却下ですね。どうせなら四天王にしましょう」

 カラコさんの一言によって、紙は白紙になった。

 四天王か。


「称号名がそのまま役職名でいいんじゃないでしょうか」

 魔導司書ワイズ。狂戦姫ヨツキ。みたいな感じか。まあ、良いんじゃないだろうか。


「今役職を決める争いをしなくても私が後でしっかり決めます」

 カラコさんが胸をはって任せろと言っているのだから任せれば良いだろう。何かギルドマスターとしての色々な仕事を奪われているようだが、これで良いのだ。君臨して統治はしないってやつだ。


「シノブさん、明日ギルドで申請しましょうね」

 あー、聞こえない聞こえない。

「面接もありますよ、シノブさん」


 ……何の嫌がらせだろう。

 

「わかったわかった」

 俺にはやらなければいけないことがたくさんあるのにな。


 ということで、戦いを観戦していたカラコさん達はいつもより少し遅めだが、ログアウトするそうだ。俺もそれに合わせて、あの特典を使ってからログアウトするか。

 ワイズさん達の一度ログアウトするという言葉に戦慄を覚える。この人達っていつ寝てるの? 俺とは違ってちゃんと飯は食ってるみたいだけど。


 あー、ゴブリンタロウのメールを忘れていた。

 ……明日の朝確認すればいいか。


 さて、行くか。10ポイントを消費しに、一体どれぐらい悩むことになるのだろう。

ありがとうございました。

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