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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
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85 リフォーム

 空間収納の魔術師……俺も人のこと言えないけど中二病だな。


 そして問題なのが二つ名が空間収納の魔術師ということだ。システムに認められてしまって中二病的な名前を名乗っているのではない。二つ名というのだから誰かにそう呼ばれているのか、自称しているかのどちらかだろう。自称だとしたら微妙だな。

 センスがわからない。


 空間収納というからには空間に収納スペースを作るデザインに長けているのだろう。階段の下に収納スペースとか。それぐらいならば俺も思いつく。本職に任せれば良いか。希望は全体的にかっこ良く。THEラスボスって感じで。

 いや、勇者がいるならラスボスは変か? 勇者がいる建物って想像がつかないな。

 王城?



「やっぱりギミックをたくさんつけてほしいですね。隠し扉とか」

 楽しいのは最初だけで慣れたら激しく面倒になると思うが、そういうものに憧れるのはわかる。絵の後ろに秘密の部屋とかな。しかしVRの内では隠すものがないからな。


 現実リアルでも家に誰も来ないから何も隠してないけどな。

 やはり機密書類とかを隠し部屋には置いておくものなのだろうか。後は強力な武器だな。所持していれば殺されない限りは紛失しないけど。

 そもそも俺の武器は称号によって奪われることも誰かに売ることもできない。俺しか使えないという。マナーの悪いプレイヤーに渡ってPKとかされたらたまらないもんな。


 まあ、俺もマナーが良いとはいえないが。掲示板で俺のことを叩いているやつらよりかはマナーは良いつもりだ。その中でも俺を擁護してくれる発言があると少し心が安らぐな。ほとんどが俺の自演だが。いや、でも本当に優しかったとか言ってくれている人はいる。全く心当たりはないが。

 絶対身内の誰かが俺を哀れんで言ってくれているような気がする。


 掲示板で俺についてグチグチ言わず正面きって挑んでこいよ! とは思うがヴィルゴさんがいるからな……。それにβテスターの敵対したら怖い皆様がいるから下手な嫌がらせもできないらしい。


 イッカクさん、ワイズさん、本当にありがとうございます。





「俺としてはワイン飲みながら高笑いできる感じがいいな」

「どんな感じですか」

 別に桜見ながら日本酒飲んで、横に和服美女にお酌してもらうのも良いよ? 要するにそういう雰囲気を味わいたいということだ。


「それにしてもシノブさん、ワインなんて飲むんですね。以外です。高校生かと思ってました」

 ……若く見られて喜べば良いのか、それとも同年代に見られていたことを喜べば良いのか。


 確かに落ち着きが無いとも言われるし、知性が見られないと言われたこともある。進化したチンパンジー並の知性だとも言われたことがある。だからといって高校生はないんじゃないか? あの時から成長したことといえばVRゲームに慣れることだけだぞ? VR内の独特のノリとか。


「俺は成人してるぞ。それにワインは飲めん」

「じゃあ、何で」

「雰囲気だ」

 安ワインしか飲んだことがないからかわからないが、美味しさがわからない。ビールを飲むだけだ。

 基本的には酒は飲まないけどね。何事も程々が良い。ビールを飲むのも、流行に乗ってるだけだ。



「お酒って美味しいんですか?」

 そう聞かれると困るな。決して美味いわけではない。ノンアルコールの酒を飲んでも不味いだけだ。要するに俺はアルコールを求めているのだろう。


「飲み過ぎは身体に悪いな。というより飲まないのが1番だ」

 ここは大人として妥当な答えをしておこう。酒を飲むのには条件をつけるのが1番だ。なんとなく惰性で飲んでいたら量を調節できないからな。


 てな感じで酒の危険性と泥酔者の犯罪率について心の中で思いを巡らせていると、家の前で何か集まっている人達がいた。



 俺達が最後みたいだな。遠くからのんびり歩いていたから仕方がない。

 机の上に図面を広げているのは白髪で眼鏡をかけて、オールバックな会社員風の男。不動産屋に少し似ているような気がする。眼鏡と雰囲気だけだが。

それにしても眼鏡という要素があって雰囲気も同じなのに、こちらの人は信用できる気がするのはなぜだ。体全体から職人臭が漂っているからか?


 自分でも漂う職人臭というのはよくわからないが、そういうものなのだろう。うん、主に服装かな? 職人っぽいのは。 


 スーツというものはどうしても、押し売りを思い出す。スーツなんて入学式で着たかな? ってぐらいの着た記憶しかない。



 建物の図面と予想完成図を見る。

 高級そうなヨーロッパ風の邸宅だ。


 何か普通だな。もっとこう、エキセントリックな感じにならないのか。具体的にどうしたいのかよくわからないからこんなカタカナに頼るわけだが。


 よく言えば普通。悪く言えば凡庸。

 こんな建物、カラコさんが黙ってるわけない。


「30階建てとかできないんですか?」

 おい、ビルでも建てる気か。


 カラコさんがそう発言したことによって、その空間収納の魔術師はこちらに気づいた。


「ああ、貴方がギルドマスターですか。どうも今回デザインを考えさせていただきます。コウメイと申します」

 朗らかに笑い、カラコさんに握手を求めるコウメイ。何故だ。まさか隠密スキルは控えにしていても効果があるのか?


 それにしても初対面で、相手に握手を求めるなんて下心が丸見えだ! と思ってしまうのは俺が握手慣れしていないからか。

 そしてギルドマスターは俺だ。そしてカラコさんも笑顔で握手し返すんじゃねえだろ。ギルドマスターを何だと思ってるんだ?


「……コウメイ……ギルドマスターはこっちだ」

 そう! 俺! 俺がギルドマスター。


「あ、ああ、すみません。こちらの方があまりに堂々としていたので……」

 小さい女の子とその護衛みたいな関係に見えるのかね。確かに俺とカラコさんを同時に視界に入れようとすると近くでは無理だが。


「ギルドマスターのシノブだ」

 俺達は堅い握手を交わした。まるで10年来の付き合いの親友のように見えるがただのビジネスの相手である。


「コウメイです。今のところ考えているのはこのような建物なんですが、いかがでしょうか」

 仕事が速いのはいいけどな。もっと俺が望んでいるのは。


「もっとファンタジー満載な感じにしてくれ」


 そうだよ。大木の形をした家とかさ。銀色の塔とかさ。動くとかさ。そういうものを求めているんだ。こんな飾りげのない、貴族の別荘みたいなものはお呼びじゃないんだ。



「ファンタジーな感じですか……」

 コウメイはさっきまで広げていた完成図と図面をしまった。


「もう一度考えなおしてきますので。では」

 風のように去っていった。

 他のギルドメンバーとは話していたから、要望とかは入ってると思うけど。俺とカラコさんと今いない非廃人グループの人達だけだな。要望が聞かれていないのは。まあ良いだろう。

 カラコさんはビルでも建てたいようだが、やたら高い建物ってロマンだと思う。


「……コウメイが言うには……」

「貴重な機能がたくさんあるから、立て直しよりもリフォームの方が良いらしい。私としては見た目なんて何でも良いんだがな」

 ワイズさんのセリフをヴィルゴさんが代弁してくれた。

 なるほど。


 でもリフォームってあのままの形に近くなるから、あまり面白くならなさそうなんだよな。

 30階建てとは言わないものの、もう少しこう、なんといえばよいのかわからないが、面白くしてほしいところだ。

ありがとうございました。最近遅れがちですみません。

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