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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
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84 空間収納の魔術師

 まじかまじかまじか。これがっ、俺の待ち望んでいた! くぅぅ、感激だぜ。

 光が収まった場所にいたのは美しく気品のある美女。燃え盛るような赤色の髪をしている火の精霊だ。

 この時をどれだけ夢見たことか。こんな、ラノベみたいなこと。冴えない大学生の元に突然現れた槍。それが擬人化! しかも無垢な美女!


 冴えない大学生の元に槍が現れるって時点で常軌を逸しているが、が。しかしこれは何というか。コメントしがたいというか。今はただただ眺めていたいのです。こんな際どい格好している女性なんてVR内でもいないしな。際どいって言ってもドレスだけど。


「カグノ……ちゃん?」

 カラコさんとヴィルゴさん、ネメシスもファイアゴーレムがいきなり美女に変わったので唖然としている。


『今はカグツチノカミだった。テヘヘへ』

 美しい。見た目は妖艶な美女なのにその笑顔の純真さギャップがあってよろしい。


『なんか、変!』

 カグノはおもむろに胸を掴んだ。

 鼻血が出そう。やべえ、あんな弾力。あの柔らかさ。見てるだけで出血多量。ナニコレ、夢じゃないよな。目の保養というかなんというかあの中に顔を埋めてもカグノなら何も言わなさそうというか。


「カラコさん、これでわブホッ」

 俺の視界に最後に映ったのはカラコさんの拳だった。何で?





「……一体何が起きたんだ」

 しばらく気を失っていたらしい。VR内で気絶とかあるのか? 眠れるならあるかもな。現に気絶してたんだし、あるか。


「シノブさんの顔があまりにも気持ち悪すぎて見てられなくて、私の中でシノブさんの評価をこれ以上下げないためにやむを得ずやらせていただきました」

 それはすまなかったな。頭が痛くてよく思い出せないが、俺はどんな顔をしていたのだろう。確かに最近欲望が溜まっていたような気がする。

 少しは冷静にならなきゃな。


 闘技場ではヴィルゴさんとネメシスが戦っている。


 どちらが優勢か。

 魔法主体で戦うネメシスと物理主体で戦うヴィルゴさん。

 ネメシスは影となり距離を放しながら影の銃弾を撃ち込んでいる。ヴィルゴさんはそれを避けながらローキックをしている。

 威力の低さを手数で補うネメシスと全ての能力が高いヴィルゴさん。

 どっちが勝つかは明白だな。



「そろそろ行きましょうか」

 まだ戦いも途中だが、仕方ないな。これ以上ここで油を売ってるわけにもいかないしな。俺だけ設備を知らないとか嫌だ。

 誰のせいでこんなに時間を喰うことになったのか。数々の不幸が重なった結果と言えよう。俺は体の節々が痛いです。


 ということで俺達はその場を退出して、庭の設備を見て回ったのだった。


 ギルドに必要なさそうな施設がたくさんある。

 お嬢様が午後に紅茶を執事に入れてもらって主人公について独り言を言ったりする場所や、閉じ込められるためにあるのかというほどな倉庫。ガラスでできた蝶とか飛んでたような感じの建物とか。


 景観として? 残念ながら俺にはそんな景色を眺めて風流なことを言う趣味はない。見るなら女の子を見ていたほうが心癒される。あれだな。雇うならNPCの女の子達を雇って、それで心癒やせば良いか。メイドとか欲しいな。

 ギルドマスターなんだから、良いではないかとか言えたりするんだろうな。



「後ヴィルゴさんが巨大な檻が欲しいとか言ってましたね」

「いつ?」

「シノブさんが気絶している時に」

 なるほど。一体何に使うのだろうか。


 檻……しかも巨大な檻。

 何か嫌な予感しかしないが、俺には関係ないことだろう。逃げ出した場合でも俺は感知しないぞ。ヴィルゴさんの独断だからな。


「それにしても、腕のやつ使わなかったな」

 見たかったんだけどな。新しいブレス。前みたいにシュールなものではなく、スタイリッシュかつ、有用、そして変形というロマンを満たしてくれているものと信じていたのに。

「シノブさんには毒は効かないじゃないですか」


 効かないってわけじゃないんだけどな。効きにくいってだけだ。それに毒耐性つけてなかったら普通に効くし。


「見ますか?」

 見せてくれるなら。


 カラコさんはいきなり腕を前につきだした。ガチャガチャという機械音と共にカラコさんの腕の一部が変形して灰色の機械部分が出てくる。

「あ、毒耐性つけてください」


 おい、俺に撃つのか? 超再生も毒耐性もあるから大丈夫だとは思うけど。

 カラコさんの腕の機械部分には多数の穴が空いている。そこから出てきたのは紫の煙。警察がよく投げているあの煙玉みたいな感じだ。

 あっという間に煙が俺の視界を奪い、俺を毒状態にする。


 うん……。これ使う機会あるのかな?


「どうですか?」


《行動により【毒耐性Lv7】になりました》


 どうと言われてもな。なんというか、逃走用に使えそうだな。カラコさんがいる場合で逃走する機会なんてあるのかと思うが。それよりあの視界を遮るって仲間にも聞くから大分使いどころを選ぶと思うんだが。


「あれって周り見えるの?」

「見えませんね。基本敵陣に飛び込んでいって、毒煙幕を出して、逃げるって感じです」

 カラコさんとか俺の戦力ならば、そのまま殲滅した方が早いような気がするが。そういう戦い方は好きだけどな。しかし風で飛ばされたところを見ると、風魔法に弱そうだ。相手が風魔法持ってたらこちらに流れてくるかもしれない諸刃の剣だな。


「後は……家の中の害虫駆除ですか?」

 果たしてこのゲーム内にGゴキブリは生息するのだろうか。アレルギーを持っている人までいるというあれ。出した途端一部のプレイヤーから苦情が殺到しそうだが、このプレイヤーの悪評を恐れぬ運営ならやってくれるだろう。Gゴキブリの出現率も部屋が汚ければとかにしたら、問題はないと思う。俺のような集合住宅に住んでいる人間には清潔にしていても、時折他の部屋の住人が侵入してくるのが悩みだ。まあ食べ物なんて簡易栄養剤とか飢え死にしないようなものしかないけどな。



「あ、メールがきましたね。ワイズさんからです」

 俺には……着てないな。なぜだろう。

 いじめられてるのかな?


「デザイナーさんが来たらしいです」

 ギルドマスターの俺には知らせなくて良いってか。1人でいろってか。


「シノブさんと一緒に来てくれとのことです」

 なんと。俺がメールに気づかないということを見越してか。

 そういえば、ゴブリンタロウからメールが着てたな。後で確認しなければ。


「そのデザイナーってなんて名前なんだ?」

「空間収納の魔術師という二つ名だそうです」

 それなんて匠?

ありがとうございました。

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