79 MPK
「自動戦闘とか、思考加速とか取ればもっとマシになるんじゃないんですかー?」
「いや、無理だな」
それ酷くない? ヴィルゴさんから見て俺どんな感じだったの?
しかし自動戦闘とは良い響きだ。寝てても勝手に戦闘してくれるのかな?
「頭の悪いAI使ってるので継続戦闘には向いてないスキルですよー」
なら何故紹介したんだ?
気分だけでも味わえるということか?
「例の運営から貰ったもので役に立ちそうなものがあったら、取ってみたらどうだ?」
「そうだな」
思考加速があればまあまあ戦えるかもしれないしな。近接戦闘ほぼ必須スキルだからな。魔法戦でも役立つと思うし。そういうスキルを持ってないで戦ってるヴィルゴさんは一体。
調教系のスキルじゃなくて、ステータス上昇のを入れれば更に強くなるんだろうけどな。
はて、ヴィルゴさんは一体どんなスキル構成なんだ?
「そういえば」
そう言ってイッカクさんが取り出したのは鉄の箱。
「孵化しましたよー」
何かが体当たりするような音が聞こえてくる。これってもしかしてくるあれか。
「ああ、ありがとう」
2人とも何の変哲もない顔してるけど、これって中にモンスター入ってますよね。ヴィルゴさんが強奪してきたであろう卵が孵化したのか。
この中で暴れている時点で刷り込みという手段は無理だった、ということだな。それどうするんだろう。哀れな経験値になるのだろう。生まれた瞬間に閉じ込められて、と殺処分とは……心の中で合掌しておこう。
ヴィルゴさんはスキルを取ったらログアウトするそうだ。
「その……昨日は色々すまなかったな。昨日起こったことは無視してもらってかまわない」
なら、言うなよ!
とも言えず。
「俺も気になってたことだし、いいさ。カラコさんも元気そうだしな」
「そう言って貰えると助かる。じゃあ、また明日の昼に会おう」
そう言ってヴィルゴさんは消えていった。ラビ達も一緒に消えていく。
「さて……」
何となく気まずくなった。普通に考えたら大体の人はログアウトして明日の仕事や学業に専念するために寝る時間だ。
そんな時間でもログインしていることが当たり前のような感じでいる俺たち2人。
店ももう閉まっているし、てか店主でもないイッカクさんが、家主が不在の今居ていいのか?
「鎧の完成図見てみますかー?」
「まあ、一応」
イメージ図っぽいのを見せられる。
青を基調とした、ちょっと和風っぽいものだ。
「全身覆うだけの材料はなかったので、急所を守る形になりますねー」
中々かっこいいと思うよ? でもどこに金属部分があるのだろうか。青と黒の相性は中々良いと思う。それに前よりかは重そうではない。
「それで頭装備に悩んでましてですねー。角とか生やすのどうですかー?」
「あ、結構です。シンプルで」
シンプルイズベストだ。
「女の子ならティアラとかいう選択肢もあるんですが、男用装備ってどうしても重くなっちゃうんですよねー」
俺はそこまで見た目に気にしないから適当でいいけどな。あまり目立つのはあれだけど。
「どうしても顔全部を覆うやつじゃないとダメなのか?」
「男の顔なんて誰が見たいんですかー?」
なるほど。それは正論だな。
後衛職である俺が頭を守らなければいけない場面はあまりないと思う。だから髪飾りみたいなものでもいいけど、視界に入る人たちの身にもなったら、男1人と女子3人、獣1匹のパーティーよりも、女子3人と人外2人のパーティーの方が良いもんな。わかるわかる。ハーレムパーティーとか見ると自分が女の子ばっかりでも殺意沸くもん。
「そういえば運営から良いもの貰ったそうですねー」
スキルのことだな。そういえば何を取ろうか。やっぱり養蜂?
「取るなら今は確実に取れない。もしくは取るのに相当な難易度がいるものが良いですよー」
やっぱり魔法かな。でもこれ以上魔法増えても呪文の管理ができそうにないしなー。
生産で役に立ちそうなものが良いな。
そういえば、とイッカクさんが取り出したのが、俺が今思い出したえるるからの報酬。
え? 器用値プラス30? 凄いじゃん。
初心者用装備よりかはマシだろうと思い、着てみる。
「不審者ですねー」
ですよねー。
この格好で薬作ってたら凄い危険な薬作ってるみたいだな。顔の部分メッシュだけど。
白いから目立つ。目立つから狙われやすい。ということはないと思うが着るのは1人の時だけにしよう。
てか防護服で何故器用が上げられてるんだ? 耐久値上げろよ。
「それは結構貴重な素材を使ってるから高いんですよー。でも見た目から全然売れなかったらしいですー。そして在庫処分として押し付けたわけですねー」
タダでもらえたんだから良いけど。
「タダより高いものはないって言いますねー」
怖いことを言うな。確かにそうだけど。俺の持っている弓もタダだったけど、そのせいで断れないことが増えたもんなー。
弓……そういえば弓強化してたな。
ゴブリン王の何かを使って。すっかり忘れていた。
今から夜狩りにでも行ってこようか。
1人で装備もないし、北に。
俺の中では北は完全にカモになっている。動きも鈍くて魔法に弱いモンスターしかいないからな。
もちろんギルドでクエストは受けておく。金稼ぎは重要だし、そもそもランクを上げなければいけないのだ。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「頼まれましたー」
まずはギルドに行って、それから試してログアウトしよう。
『おめでとうございます。シノブさんの階級がAになりました』
「パードゥン?」
思わず英語が出てしまった。俺がインテリでグローバルな人間だということが周りにわかってしまうではないか。困った困ったこの癖も直さないと……とかじゃなくて何だって?
『いえですからAランクになったんです。おめでとうございます』
発音の悪い俺の英語でもわかるとはさすがだな。
「俺が一体何をしたってんだ? 全く心当たりがないんだが。いきなりこんな高い位置につくなんて善良な小市民には耐えられない」
『先のゴブリン族の侵攻を食い止めたことが認められて、Aランクにさせてもらいましたが。辞退もできますが、どうしますか?』
なーるほど。何か俺が悪いことしたからカマをかけられてるのかと思ってしまった。
Aランクにさせてもらえるっていうなら、ありがたくもらおう。Sランクまであと一歩だな。
「いや、Aになっとくよ。ギルドの施設が使えるようになるんだろう?」
『はい。ギルドの全施設が解放されます。ギルド訓練所、生産部屋、食堂の無料化……』
へー、色々あるんだな。
俺は説明もそこそこに切り上げ、北へと向かった。
クエストはいつものカニ狩り。
これだけカニを狩ってるのにカニ鍋を食べたことがないのはどうしてだ。土鍋を手に入れてないからなんだけど。
意識があるからと言って、装備から外せないとかいうことはなかった。外せなかったら呪いの装備だしな。
馴染む……馴染むぞ。
力が流れ込んでくる。これが伝説の弓の力……!
これをつけてるとつけてないとではステータスに大きな差があるしな。
さて、カニも見つけたことだし、試してみるか。
さあ、料理の時間だ。カニの肉よこせ!
「展開!」
どうしてこうなった。これ完璧にマナー違反というかトレインというか、MPK紛いのことというか。
モンスターから逃げるけど中途半端な速さでなので追いかけていく。その途中でまたモンスターに会ってそいつも追いかけてくる。そしてまた……という風に続々と追いかけてくるモンスターが増えていく状態のことを電車のようだということでトレインというのかもしれない。
俺の後ろにはカニ、カメ、ゴーレムが大量にいる。
これが俺の新しい力か……正直言っていらなかったです。
展開した時から、寄ってくる異常なほどのモンスターの量。手に負えなくなって逃げ出したけど、増える増える。ねずみ算式に増えていき魔王軍でも来たのかな? ってことになっている。
街まで持ち越すわけにもいかないから、ここで一網打尽にしてあげましょう。
「ファイアウォール!」
そのまま壁に突っ込んでくるものが多数。バカなんだな。魔法に弱いので大抵のやつは一発で落ちる。
「付加、連射、ファイアショット!」
絨毯爆撃。
1人でこれができるってやっぱこの弓凄い。今からログアウトするからこんなことできるんだけどね。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが2増えました》
《戦闘行動により【弓術Lv18】になりました》
《戦闘行動により【魔力操作Lv8】になりました》
《戦闘行動により【暗視Lv8】になりました》
《戦闘行動により【発見Lv12】になりました》
《戦闘行動により【魔眼Lv3】になりました》
わかってる……火魔法ばっかり使わないで、土魔法も使えってことが。
わかってるけど、わかってるけどやっぱり火魔法の方がエフェクトも派手で、色んな種類あるから使いやすいし。クレイゴーレムを常時発動とかしておけば簡単に上がったりするかな?
職業:狙撃手 Lv32
称号:神弓の射手
スキルポイント:36
体力:90(-35)【65】
筋力:25(+5)
耐久力:40
魔力 :100(+58)【123】
精神力:100(+49)【119】
敏捷 :20
器用 :80(+24)【92】
やった……やってしまった……。
でもいやでも普通に筋力って使うし……重い物持ち上げる時とか……持ち上げることなんかないけど。
ちょっと最近、弓重いなーとか思ってたんだよね。
うん、厳しい言い訳だな。
寝よう。寝たら忘れられる。それに俺はエンジョイ勢なんだ。ガチ勢みたいに効率的なステータス構成なんか求めてない!
ありがとうございました。
今後共よろしくお願いします。




