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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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76 使いこなそう

「お、おじゃましまーす」

 俺はもう既に顔パスになっているのか、奥へどうぞと言われただけだった。

 扉を開ける前から歓声が聞こえてくる。

 恐ろしい修羅達だな。


 舞台に立っているのはヴィルゴさんではない。ラビだ。杵を持って相手を翻弄しているんだが。うん。一体どういうことだ?

 どういうことだ?


「あいつも成長したな」

 染み染みといった感じで自然とヴィルゴさんが横にいる。横にマラもいるが……うん、少し大きくなっているな。成長が楽しみだ。


「ログインしたら運営からメールが着ていて驚いたぞ」

「それは俺もだな」

 ラビの杵が唸りを上げて、腹にヒットしている。怖いな。一体いつ杵を使えるようになったんだろう。当たったプレイヤーは体格差にも関わらずに杵ごと吹っ飛んでいった。

 そのまま空中を蹴り、ラビの蹴りが頭に炸裂した。戦闘不能。なんてやつだ。


「それにしても中々面白そうな武器を持っているな。それに鎧はどうした」

「何か、カグノを材料に杖を作ってもらおうとしたら、槍になってな。鎧は引き渡してきた」

 それにしてもカラコさんのことに触れないのは何でだろう。


「何か色々あったみたいだが……どうだ。うちの若い衆と戦ってみないか?」

 うちの若い衆ってあんた誰だよ。


 ラビは拍手喝采を受け、観客席に礼をしている。黄色い声を浴びやがって羨ましい。見た目は可愛くてしかも強いとかどんなやつだよ。


「防具なしでの、バトルロイヤルがあるんだ。魔法なしの」

 俺のMPバーをちらりと見たヴィルゴさんが付け加えたが。

 対人戦か……。

 近接武器スキル1つもなしで挑めってのが無理なことなんだよなー。


 仕方ない。両手武器スキル取るか。



《スキル【両手武器】を取得しました。スキル欄が限界なため控えに回されました》


「レベルも上げたいし、ちょっとやってみるよ」

 なんで槍なんかになっちゃったかなぁ。カグノがイケイケドンドンなやつだったからだろうか。そうだとしたら俺の選択ミスだ。使わないという選択肢もあるけど、こんなNPCからもらった性能の良さそうな武器。しかも俺自身で素材を取ってきたのだ。


「そうか、行って来い!」


 狙撃手が槍って……ああ、もうゴチャゴチャいうのはやめだ。

 カグノも静かになってることだし、集中して試合に臨もう。



 対戦相手は俺と同じぐらいの背格好の人間です。腰にはふた振りの剣がある。ありゃあ、みじん切りになるな。

「ふん。狙撃手が接近戦を挑むとはな、良いだろう。俺は武器を使わないで相手してやる」


 何かすげえ三下っぽいこと言ってるな。樹人に体力の多さをなめんなよ。



「始めっ!」

 審判の声と共に歓声が会場内を響き渡った。名前まではでなかったけど、ヴィルゴさんのパーティーの狙撃手ということで紹介された。期待してくれていた方たちには申し訳ない。


 いや、だって絞め技だよ?

 槍の一突きを避けられたかと思ったらいつの間に地面に転がって首にはたくましい腕が絡みついていた。男とベタベタする趣味はないんだけどなー。とか思いつつバタバタもがいているうちにHPがなくなって死亡。観客はなんか……冷めてたね。うん。いや、だって狙撃手が接近戦だよ? できないに決まってるじゃん。


《戦闘行動により【両手武器Lv2】になりました》


 弓も一応両手武器だろうからこのスキルの範囲内なんだろうな。弓術のアクションスキルは使えないみたいだけど。

 さて、この対戦で得られたことがある。


 俺には近接武器は使えない。



「中々良い戦いだったぞ」

 どこが?


「それにしても戦いのセンスが皆無だな。槍を突き出して外れたら横に薙ぎ払う。それか一歩下がり相手から距離を取る。それに一々行動の度に考え事をしないことだな。人に攻撃するのにも躊躇いが見えたな。仕方がないとは思うが。武器に振り回されている、という感じではなかったが完全に使いこなせてなかったな。突きというのは一点攻撃でかわされたらそれまでだ。高速で突きを繰り返すことができなければ横にふって相手を牽制すべきだったな」


 俺が首を絞められていただけの時間でこんなに分析をしているとは。というよりこの人って槍も使えるの? そうだとしたら強いな。

 強いのは元々知っていたけど。


 さて、俺には使えないとわかったところでどうしようか。槍術を取る気はなくなった。絶対使いこなせない。こういう時は……あの人に言うに限るな。




「イッカクさんなら、奥にいるデスよ?」

 この人が店番してるってのが不安。ものっそい不安。何で俺の装備作ってないの? ねえ、何で?


 道中に午前中にしていたことを話すと悔しそうにしていた。あの抜け殻見つけたのヴィルゴさんだもんね。というより火魔法を使う俺に水神の装備って相性悪いんじゃない? これは水魔法を取得するフラグな気がしてきた。

 高山では龍木を取ったことで何か言われるかと思ったが犯罪とかについては興味がないようだ。そのことよりもギルドから派遣されてきたかであろう何者かについて興味を示していた。わざと龍木を取って戦うとかやめてくれよ? それで勝っても得られるものは更なる追手……まあ、ヴィルゴさんなら楽しめそうだが。



「短時間で凄いものを持って帰って来ましたねー」

 さすがだな。俺が手に持ってるだけだったのに。神弓に引き続き良い武器とは俺って武器運が良いのかもしれない。


「せっかくの良い槍なのに、こいつの戦闘センスがなくてな。相談しにきたんだ」

「狙撃手ですからねー」

 そうだ。狙撃手だから仕方がない。俺がリアルでも運動センスがないのとは関係ない。狙撃手には近接攻撃にマイナスの補正値が入っているとかに違いない。


 ヴィルゴさんに話したことと同じ説明をもう一度イッカクさんにする。魔女の秘密? なんだっけそれ。とは思うがそこら辺は濁して説明してある。なぜ、ゴブリン肉の調理方法を教わりに行って、杖を作ったか。何故ならそのNPCが料理人兼木工職人だからだ。

 我ながら無理な説明だと思う。


 ギルドSランクのイッカクさんでも龍木に関することはスルーしていた。まあ、ギルドと直接関係があるってわけじゃないだろうからな。


「てなわけだ。第二職業で近接武器が使えるものを選ぶしかないのか」

「突けないなら投げればいいじゃないですかー」

 ……そうか。

 突けないなら、戦闘の始めに投げてしまって、それから弓を使って戦えば良い。それか近づかれた時に、投げるとか。



 結果。手から話した状態で炎の刃の展開はできませんでした。カグノにも聞いてみたけど、発動キーが俺なため、身体のどこかが触れていないとダメとのこと。いつの間に博識になったんだか。お父さん知らない子になったみたいで悲しい。そしてコサックダンスは後でやらせるから待っとけ。


 そもそもボールを投げた記憶すらない俺に槍なんて投げられない。


「その槍をもう一度加工できれば早いんですけどねー」

「それは本槍が否定してるからな」

 それにイッカクさんの方法だと、入ってるかもしれない魔女の手作り品の効果がなくなってしまう可能性がある。



「まあ、練習あるのみでしょう」

 そんな結論なの? いつも色々不可能を可能にしてくれるじゃん! 


「一応、今作ってる鎧は近距離戦も想定したものにしときますねー」

 運動部にも入ったことがない根性というものがどこにも見当たらない俺が練習なんかできるんだろうか。いや、できない。


 仕方ない。これを使うのは圧倒的な格下。もしくは拘束魔法をかけた後だけにするか。

「ということなら、行くぞ。シノブ!」

「え、ええ~」

「いってらっしゃーい」

 俺は襟首を掴まれて、ずるずると店から出された。

 そしてそのまま往来を引きづられていく。

 これって意味があるの?


「あの、自分で歩けるから」

「逃げないか?」

 俺の敏捷値で逃げられると思っているのか? 隠れることはできそうだけど、その前に捕まるだろう。


「逃げないから」

 周りの目とラビとマラの目が痛い。鎧をつけてないからバレないとは思うけど、ヴィルゴさんも有名だしなー。

 というわけでやってきたのは西の砂漠。

 俺初期装備なんだけど?



「ここは出てくるものがランダムだから楽しいぞ。素材も高くで売れるしな」

 そういう問題なのか? ランダムだから危険性が高いんじゃないだろうか。


「実戦で鍛えるのが1番だろう」

 ヴィルゴさん達がいるから死に戻りはない。と信じたい。


「頑張ります」


 暑い中を走って、オアシスに到達。もちろん俺は死にかけていた。

 その中でまた走って泉を発見。モンスターがいないから走っても危険性はないらしい。俺は瀕死状態だった。


「大丈夫か?」

「ひっひっふー、ひっひっふー」

「子供でも産まれるのか?」

 切れのないツッコミだな。しかしそれを指摘する元気もない。しかしそんな程度でモンスターと戦うのをやめるヴィルゴさんではない。


 第一試合目。

 大量のサソリ。



 部屋中にざわざわといる大きなサソリ。オレンジっぽい色に尻尾の先が黒くなっている。


「こういう時は突っ走ってはいけない。まずは相手を見極めることだ」

「へ、へえ……」

 マラが何かしたのか、こちらへ走ってくるサソリたちの動きが鈍くなった。

 ラビが飛び出し、手近なサソリを槌で吹き飛ばす。


「硬いな」

 今のだけでそんなことがわかったのか。

 サソリ達は目の前に来たラビへ、尻尾の針を飛ばした。

 刺すんじゃなくて飛ばした。トカゲみたいに切るのならわかる。飛ばすとは一体どういう仕組になっているのだろうか。

 バックステップで避けたラビのいるところに尻尾の針が刺さり、爆発した。

 爆発した。


 え? 俺あんなのと戦うの? いや、遠距離からならできるけどさ。あんなのと近距離で戦うって無理でしょ。無理だ。無理に違いない。


「爆発するのか。さあ、行くぞシノブ!」

 ラビがヴィルゴさんの後ろまで帰ってきた。

 サソリ達は進軍を始め、俺達に向けて針を放ってきた。

 すげー、迫力だな。


 目の前で戦争か何かかと思うぐらいの爆発が起きる。しかしそれは全てヴィルゴさんの両腕から放たれる光によって防がれていた。

 凄いよね。本当に。


 爆発が収まった時、ヴィルゴさんは一瞬でサソリへと迫った。

 一発のパンチごとにサソリ達が吹っ飛んでいく。

 かかと落としでサソリの装甲が砕け、手刀で胴体が半分になる。


 針を失ったサソリ達はただの雑魚だった。



《戦闘行動により【擬態Lv8】になりました》



 ほう……擬態が上がったか。

 というより何なのあれ。蹂躙じゃん。このゲームって無双ゲームだっけ? 違うよな。


「ほら、シノブ」

 ヴィルゴさんの足には比較的小さなサソリが踏みつけられている。ジージー鳴いて可哀想に。

「ハサミも取ったし、針もない。これなら練習用に良いだろう」

 怖い。ヴィルゴさん怖いな。しかしこれは俺の練習のためやってくれているんだ。仕方ない。戦おうか。


 足の下から放たれたサソリは俺に向かって威嚇している。あれだけ数が多かったから脅威に見えたが、今となってはただの少し大きいサソリである。少しって言っても現実基準でいえばかなり大きいが。


 俺の方に向かってきたサソリにカウンターで一発。

 コサックコサックうるさいな。MPが少ししかないんだよ。


 どうやら刃を展開している時にはテンションが上がるらしい。奇声を上げている。

 ヴィルゴさんには聞こえてないみたいだから良いが、俺がうるさい。

 これは本格的な調教、いや、しつけをしなければいけないだろう。水に浸すとか。幼女を水に浸しちゃダメだが、槍なら何も言われないだろう。


《戦闘行動により【両手武器Lv3】になりました》


 やはり狙撃手だから近接武器のスキルが取得しにくいのか。槍術取れないかなー。

 爆走蠍って名前でした。全然足が速かったようには見えなかったが、なんで爆走なんだろう。爆発はするけど。ドロップアイテムは爆走蠍のハサミ。ハサミもぎ取られてなかったっけ?


「さあ、次に行くぞ!」

 わかってました。しかしMPも回復してきたし、次は俺も少しは頑張れるかも。



 オアシスの外に放り出される。

 ちょ、また走るの?! もう、勘弁してよ。



 第二試合。燃える猫。


 猫っていうより虎? ヒョウ? 燃えてるってことはカグノ親戚か何かかもな。

 1匹だけだが、意外と強敵でした。結局、魔法を使うこともなく。ヴィルゴさんが一発。体勢が崩れたところをラビが上から餅ついて終わり。

 俺がやることはなかった。


「すまなかったな、次に数が出てきたら、相手させるぞ」


 あ、はい。



 第三試合。虎人間。


 獣人とは違うのだろうか。ヴィルゴさんは興奮していた。まあ、見た目も似ているし。俺達は手を出さず、ガチの殴り合いを見ていただけだった。ステータスも上であろう相手によくやるよ。


「す、すまない。つい強敵を見るとな。ハハハ」


 あ、はい。


 第四試合。ゴブリン。


 そうゴブリンだ。何の変哲もないゴブリン達。


「良かったな。これなら戦えるぞ」

 俺もゴブリンには負ける気がしないし。これなら安全だろう。しかしそれにしても数が多くありませんか?

ありがとうございました。

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