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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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75 魔法使いの必需品

 クロユリさん……それはないだろ……。

 目の前には小型犬ほどの大きさのカサカサと動く蜘蛛がいる。

 可愛さが台無しだ。

 てか少女の声で喋る黒い蜘蛛ってどうなのよ。


 無事にクロユリさんのところまでで辿り着いた俺を出迎えたのは黒い蜘蛛だった。最初はカラス、次は猫。で今は蜘蛛。黒い動物シリーズで統一しているみたいだな。

 それにしても蜘蛛とは。女の子っぽくないチョイスだな。魔女っぽくはあるけど。


『中々やるわね。感心したわ』

 お褒めの言葉を頂いたが。


「この木は一体何に使うのでしょうか」

 前のテンタクルも使う用途を聞いていなかったな。


『あら、言ってなかったかしら』

 言われた覚えはないな。俺は記憶力が良いわけじゃないけど、そこまで悪いというほどでもないはずだ。


『もちろん杖よ!』

「杖?」


 多くの本で魔法使いといえば箒と杖、後はトンガリ帽を被っているとされている。もちろんこのゲーム内でそんな格好をしていればコスプレと言われる。盾役が軽装してても、見た目があんまり意味をなさないこのゲームでは関係ないが。俺が鎧を着ていたのと一緒だ。気分の問題だ。なら高い防御力でしかも動きやすいビキニアーマーが流行ってもいいと思うのだが。

 残念ながら全年齢対象のこのゲームじゃ、そんな格好できないんだよなー。



 それは置いておいて。杖だって?

 不死鳥の尾羽とかが芯になってたりするアレだろうか。PKに倒されたら、その杖はPKした者を主人にするとか。


「それはよろしいですね」

『何を他人事みたいに言っているの? あなたの杖よ』

 俺の……杖?

 武器はもう持ってるんですが。これは転職フラグだろうか。別に杖で狙撃ができるなら問題ないけど。


『魔女の中では杖を持つ者が一人前として認められるの。あなたじゃ作れないでしょう? だから師匠である私が直々に作ってあげるのよ』

 それはそれは。

 ゴブリン肉はどこに行ってしまったんだろう。


「ありがとうございます」


『それで次の頼みごとよ。貴方の魔法と相性の良い物を取って来なさい』

 相性の良い物?

 そんなもんわかるか!


『モンスターの体の一部でも何かのアイテムでも何でも良いわ』

 何でも……ねえ。


《クエスト【魔女の弟子】適性素材の入手》



『呼ばれて飛び出てカグノだよ!』

 こら、一体誰からそんなこと教わったんだ。やめなさい。


「このカグノで良いか?」


 俺の魔法から産まれたんだし相性が悪いということはないだろう。喋る武器って良いよね。ロマンだよね。



『……魔力の塊だから不可能なことはないはず。しばらく預かる……ということはできなさそうね』

 そりゃ、そうですね。1人で置いていったらこの店が一晩で焼け野原になってしまう。


『奥についてきて』

 ピョンピョンと跳ねながら、クロユリは奥の扉を開けた。


「カグノ、行くぞ」

『うん!』

 元気が良くてよろしい。この後杖に加工されるとも知らないで良い気なものだ。ククククク。

 何も知らない幼女を人外に変えてしまうとかどこの悪者だろう。

 しかも俺はカグノの親みたいなもんだしな。自らの子供を杖の材料にする親。狂ってるな。


 まあ、それはともかく。

 クロユリちゃん。顔出しするのか?

 顔出しあるよな。初めて見れるんだよな。妹系美少女ひゃっほーい!


「Hey. mother fucker. If you would fuck my love. I'll kill you. 」

 扉をくぐったところには最初に会った金髪男がいた。お久しぶりです。

 随分怒ってるようだが。俺が一体何をしたってんだ?

 全く、これだから脳筋は。


「あーゆーおーけー?」

 金髪は無言でホルスターから拳銃を抜いた。

『やめなさい』

 こんな場所でなかったら俺も相手してやるんだがな。MPがないから仕方ないよな。本当に残念だ。いやー、MPあったらなー。


 金髪男のいる廊下を抜け、ある部屋へ入る。そこにはベッド、ぬいぐるみ、ふわふわな女の子の部屋があった。

 くぅ……人生で初めて入る女の子の部屋がNPCのだなんて……どっちにしろ感動だ。


 そのベッドの上では長い黒髪の少女がスヤスヤと眠っていた。髪の色がルーカスさんと違うな。こんな可愛い妹を持ってルーカスさんは幸せ者だ。羨ましい。羨ましすぎる。この妹に病気の時看病してもらったんだろー? いや、本当にルーカスさんは嫁もらわなくて良いな。これ絶対一戦超えちゃうじゃん。愛さえあれば関係ないってなっちゃうじゃん。いや、本当に羨ましい。

 は? なんで俺には妹がいないんだよ。NPCがこんな可愛い妹を持って、プレイヤーの俺に妹がいないのはおかしい。横暴だ! 策略だ! 末っ子は女にしなければいけないという法律を作れ!



 ふぅ……興奮してしまった。俺としては課金でもいいから癒しの妹が欲しいな。ワイズさんに言えば少しは考えてくれるだろうか。


 いつの間にか蜘蛛は消えていて、ゆらりとクロユリは起き上がった。


「おはようございます」

『寝てたわけじゃないわよ』

 ヨダレと寝癖と頬っぺたにシーツの跡がついているんですが、それは寝てたと言うんじゃないだろうか。


 パジャマ姿だが、煩悩がない俺にとっては無意味だ。人畜無害な仏のような人間とは俺のことだからな。だからこの場で服をパジャマから着替えても良いんだぞ?


 そんな俺の願いも虚しく、クロユリちゃんはその場で座り直した。まあ、パジャマ姿でも眼福ですよ。俺は立って、そしてクロユリちゃんは座ってるんだから、胸がね。本当背が高くてよかった。


 因みにクロユリちゃんは大きい。背はそこまで大きくはないのだが、スタイルが良い。怪しい気配が漂う薄暗い部屋の中でベッドの上で座っている寝起きの少女。……魅了か混乱の状態異常にかかりたい。


 クロユリは目に手を当てると叫んだ。


『魔眼!』

 邪眼と違って目は光らないみたいだな。俺も取得するか。


《スキル【魔眼】を取得しました》


 これはアクションスキルか。MPは大丈夫かな?


「魔眼!」

 力を入れて言ってみたが意外と恥ずかしい。大きな声で言えるクロユリちゃんは凄いよ。

 見える景色が違って見える。

 周りに靄がかかってる感じ。その中でも一際色が濃いのが、クロユリとカグノだ。カグノの方には腹の真ん中あたりに魔力が渦巻いている塊があるのがわかる。あれが魔法の核というやつかな?

 可愛らしいぬいぐるみ達にも核があるのが恐ろしい。多分あれ動いて襲いかかってくるんだろうな。


『あなたも魔眼の持ち主だったのね』

 どうしよう。クロユリが凄い厨二病っぽい。厨二病でも可愛かったら問題ないけど。


《行動により【魔眼Lv2】になりました》


「ああ、はい」

 本当は今取得したんだけどな。


 いつの間にか、クロユリの手には龍木が握られている。


『本当にこの子を使っていいのね?』

 最終確認か。もちろん俺は良い。


「いいよな、カグノ」

『やだー!』



 な、何?

『どうするの? この子は嫌だと言っているけど』

 これは想定外だ。まさか拒否するとは。


「えーと、何で嫌なの?」

『嫌だから、やー!』

 ダメだ。話が通じない。どうすれば、どうすれば良いんだ。


「もしやってくれたら。エウレカルテル号にコサックダンス踊らせるから!」

 どうだ?!


『うーん、いいよー!』

 キタコレ。エウレカルテル号よ。成仏しろよ。あの重さでコサックダンスができるとは思わない。しかしやらせるしかないだろう。頑張ってくれ。



『本当に良いのかしら』

「いいんです!」

 気が変わらないうちに早くやってくれ。俺はコサックダンスができないんだ。足が長いからな。


 少し考えた後、クロユリはカグノの腹に手を突っ込んだ。熱くないのか、流石だ。


『うぅ……何かお腹に入ってくる……痛いよぉ……』

 俺はロリコンじゃない。ロリコンじゃないんだ! 泣いてる幼女の姿を見たってなんとも思わない煩悩退散。

 俺は落ち着かせるように頭を撫でた。手がめっちゃ熱いです。


 クロユリが手を引っこ抜くと、カグノは消えた。しかしクロユリの手にはギラギラ光る小さな太陽みたいなものがある。これがカグノの核か。


『ふぅ、後は龍木を削るだけ……』

 クロユリちゃん。涙目ですね。熱かったのかな? さっきのは痩せ我慢か。


 ベッドの上に無造作に核を置くと、クロユリは手に似合わない大振りのナイフを持った。


 クロユリは静かに歌い始める。そして歌いながら龍木を削り始めた。綺麗な歌声だ。何だか体が重くなってきたな、最近の疲れてるのか……?




「勇者よ、よくぞきたな」

「くそ、魔王ヴィルゴめ。絶対に助け出すぞ。シノブ姫!」

「キャー助けてー!」



 はっ、いつの間にか寝ていた。変な夢を見たような気がする。思い出そうとすると悪寒が走る。悪夢だったんだろう。思い出さないに限る。

 ふと、横を見るとクロユリが眠っていた。



 は? 一体何が起きたの?

 まさか、杖の完成のお祝いとして飲んだジュースが酒で酔っ払って、俺は制御が効かずに襲いかかってしまって一緒のベッドで寝ていたということか? NPCとはできるという都市伝説を聞いたことがある。まさかな。まさか俺が精神だけ非童貞になってしまうとは。今までVR内で初体験なんてモテない野郎がすることだと馬鹿にしていたが……まさかそんな俺がしてしまうとは、父さんと母さんになんて言えば良いのだろう。

 取り敢えず起こすか。


「クロユリさん? クロユリさーん?」

 俺がクロユリちゃんに触れようとした時、乾いた破裂音がした。


「うぇ」

 俺は胸から血を流しまたベッドにダイブすることになった。体が動かん……出血多量か?


「How do you feel mother fucker?」


 最悪だよ。これからイチャイチャラフラブのピロートークが始まるところだったのに、なんて奴だ。


 俺は無言で近くにあった杖を手に取った。俺の手に合うように作られたような長い杖。先端には赤く光る宝石がついており、杖には紐のようなものが巻きついている。


 名前は何だろう。

 カグノはカグツチノカミから取られた名前だったな。そのままの名前でいいか。


「行くぞ、カグツチノカミ!」

 俺のその言葉に応えるように、宝石の部分から火の刃が噴き出した。


 体の痺れが取れてきた。よし、やるぞ。



「横恋慕とはみっともねえな」

 今までは俺もその立場だったが、今となっては違う。俺はもう、非童貞だぁ!

 そんな心の叫びと共に杖を手に持ち、金髪男へ躍りかかる。炎の刃はいともたやすく男を切り裂くかと思いきや、筋肉でも重そうなのに、意外と簡単に避けられた。

 これが筋力値と敏捷値の差か。


 しかしこの狭さでは、銃を持っている奴の方が不利。

 再度杖を振り上げた時、俺の体が固まった。金髪も同じようだ。


『あなた達……人の部屋で戦ってるんじゃないわよ!』

 俺と金髪は同じように壁に叩きつけられた。

 俺は撃退しようとしただけなのに。


「こいつが、いきなり襲いかかってきたんだ!」

 クロユリがギロリと睨みつける。こ、こえー。


『ここに置いてあげるだけでも感謝しなさいと言ったのに。また厄介ごとを……』

「No!」

 金髪筋肉は何かを言おうとしたが、また何かの力を使って外に放り出されていった。恐ろしい。


『ごめんなさいね。私の術を盗まれるわけにはいかなかったから眠ってもらったわ』

 うんうん……。え?

 俺ってもしかして壮絶な勘違いをしていた? 式場とか、幸せな結婚生活とか考えてたのに、まじ? うわ、恥ずかしい。あー、あの時聞いてのが日本語できない人で良かったー。いや、これは黒歴史認定だな。VR内では色々緩くなるのは知ってたけど、NPCにはそれが適応されないもんな。うん。

 落ち着いた。落ち着いたけど、落ち着いたけど。恥ずかしい。


 俺に恥など残っていたのかと新鮮な気分だ。恥も外聞をかなぐり捨てて生きてきたからな。



『その杖は上手く動いているようね』

 そういえば自然と発動してたな。

 こういう時こそ鑑定の出番だ。


 龍槍 カグツチノカミ

 カグノの心を芯に、龍木で作られた杖。周りにはテンタクルの触手が巻きつけてあり、杖の修復機能を高める。火魔法の威力を上げる。主と認めたものにしか効果がない。



 槍?

 杖じゃなかったっけ?



『槍の方がカッコいい!』

 どこからか声が……。

 疲れてるのかな。


『コサックダンス! コサックダンス!』


 ……現実逃避はやめよう。


「カグノ、まだ生きていたとはな」

『カグノは生きるよー!』

 ポジティブでよろしい。しかしカグノの心を芯にしてるからこんなことになったのかな? 喋る武器とかロマンだとか言ったけど、実際、幼女は、うるさい。

 今度ネットで大人にする方法を調べよう。大人の女にしてやりたい。ファイアエレメンタルに限りプレイヤー間でも増えてるようだしな。

 他意はない。静かにしたいだけだ。


『エレメンタルを杖の芯に使うのは聞いたことがなかったわ。何が起こっても仕方ないことよ』

 そういうものなんですか。槍術を取った方が良いのだろうか。

 本格的に狙撃手から転職だな。

 それとも狙撃手と槍使いとの相反する職業に就かなければならないのだろうか。

 この槍のダメージって何依存なんだろう。魔力依存なら良いんだけど。



『ようやく、魔女になる準備が整ったわね』

 え、やっと? まだ魔女じゃないの?

 そんな俺の戸惑いを他所に、クロユリは堂々と宣言した。


『魔女修行よ!』



 あ、ヴィルゴさんからメール着てた。


 俺はクロユリちゃんの修行という言葉から目をそらし、メールを確認していた。

 ヴィルゴさんの所にも同じ運営からのメールが着ていたか。例の場所で待ってると書いてある。例の場所……あそこか。


『ちょっと、聞いてるの?』

「はい、聞いてますよ」


 ゴブリンタロウにもメール打っとくか。

 月の神についてと、遡行成分について、後は……邪結晶と魔女についても聞いてみようか。


 よし、これでいいか。


『今私が言ったことを復唱しなさい』

「すみませんでした」

『何も言ってないわよ』

 酷い、どこの先生だ。寝ている俺を呼んで、何ページか慌てている俺をゆっくり見て少し笑うと、呼んだだけだと言って授業に戻る。寝てた俺が悪いんだけど。寝てた俺が悪いから何も言えないけど。

 俺ってよく考えるんだよ。善と悪について。考えたからって俺の正当性は見つけられなかったけどな。


『先ずは冒険者ギルドのランクをSまで上げなさい』

 何か言ったか?


『何を惚けた顔をしてるのよ。あなたは料理と調薬ができるのよね。冒険者ギルド内であなたがいないと上質なポーションが手に入らない。というぐらいに権力を高めなさいと言っているの』

 要するにイッカクさん並みになれということか。無理やん。思わず話せない関西弁が出てきてしまった。


「ちなみに、それの目的をお伺いしても良いでしょうか」

『ギルドと契約できるぐらいのレベルになりなさいということよ。まだ調薬の域にも達してないんでしょう?』


 確かにそうです。一体調合を何レベルまで上げれば調薬に進化できるのだろうか。


『1日でやれとは言わないわ。1週間。それでやりなさい』

 何この無理ゲー。

 ……取り敢えず調薬スキルを手に入れるように頑張ろうか。


《クエスト【魔女修行】冒険者ランクSを目指せ》


 取り敢えず……ヴィルゴさんに会いに行くか。

ありがとうございました。

英語部分は翻訳サイトを使ったので心配です。

要望があれば修正します。

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