72 ヘビーな要求
俺達はイッカクさんの店を出て、えるるさんの店へと向かった。
「いらっしゃいませにゃー」
平日昼間だからか。店内には猫とえるるしかいないようだ。猫はちゃんと人語話してる。前のは何だったんだろう。
「いらっしゃいデス。シノブさん、イッカクさん」
店の奥からえるるが出てきた。
「また新しい素材が手に入ったんですよー」
俺のセリフを取られた。それにお前が取ってきたんじゃないだろ。
「またとんでもにゃいことを持ってきたのかにゃ?」
そしてお前も関係ない。
「そうなんですよー。ほら出してくださいー」
素直に水神の抜け殻をカウンターに出す。初めて見た2人からは感嘆の声が上がった。
まあ、綺麗だしな。光を反射してキラキラしてるし。
よく考えたらスナイパーの服装には全然向いていないぜ。どうしよう。
まあ、色とか塗ればいいか。それに狙撃手っぽくないのは元からだ。
「こんな高レベルの素材、ワタシが加工してしマッテいいんデショうか」
「大丈夫じゃないですかー?」
適当だな。
そしてしばらく間が置かれて、俺の発言が求められていることに気づいた。隠密スキルをつけていなかったからかな。
「俺はえるるの腕を信用しているからな」
それに信用以前の問題でえるる以外に店持ち防具職人を知らないというのもある。
「後これも加工して欲しいんだけど」
俺はライチョウの尾羽を出した。
「ライチョウの所まで行きましたかー」
やっとの事で1匹倒せただけだけどな。明日にでも3人で行くのが良いだろう。高山帯にライチョウしか居ないというわけじゃないだろう。ボスもいるはずだ。
「コレはアレク担当ですねー」
そうなのか?
俺の中ではアクセサリー職人としてイマイチな評価なんだが。イッカクさんの装備と比べるのは酷か。
普通の職人ってどんなもんなんだろう。
「これはネックレスにしたことがあるにゃ。雷耐性がつくにゃ。今需要が高くなっているから、高く買取できるにゃよ」
今の所金には困っていないんだよなー。どうしよう。
「勿論加工費は頂くにゃよ」
雷耐性か……盾役のヴィルゴさんにでもあげればいいかな。
金の残りは……約2万。
おかしい。一体どうしてこんなに減ったんだ? 一応ギルドでクエスト受けたりもしたつもりだが。
何に使ったんだろう。使って……ないよな。精々飯食ったぐらいだ。特に何か買った覚えもないのに、1万以上減っている。誰かに勝手に引き落とされたのか?
「5000Gにゃ」
「は?」
少し高くないか?
「高いと思ったら威圧するあたりさすがですねー」
威圧した覚えはないんだが。しかし背の高い俺が上から見下ろしながらだったら何でも威圧に近いことになるだろう。これは仕方がないことだ。
そういえば水神の抜け殻の加工費もかかるんだよな……。
ヴィルゴさんに頼むか。
ダメだな。この思考がいざとなれば親に頼れば良いと言っているみたいだ。自立しなければ。
「イッカクさん、ワイズさん特製のガラス瓶っていくらぐらいで売れる?」
「性能にもよりますが、20〜50の間ですねー。売るならイベントの前の方がいいですよー」
随分大きな幅だな。最低価格で20。前売らなくてよかった。
売るつもりはない。しかし貸し出しでも買ってくれる人がいるのじゃないだろうか。てか邪水晶売ればいいのか。
後食材とかもあるな。MPがなくなるまでグロウアップを使って魔竹の子を大量に売るとか?
とりあえず生産系のクエストないか、次に冒険者ギルド行った時に見てみるか。
大量にあった邪水晶も売って。
俺の財産は5万近くになった。
こうしてみるとあの弓の値段って安かったな。使わずにいるのも勿体無いし。やっぱり採取用の何かとか買ったほうが良いのだろうか。スコップとか。ピッケル買った。鍛冶屋で売ってるかな?
「じゃあ、よろしく頼む」
俺は雷鳥の尾羽を猫に渡した。明日にでも取りに来ればよいだろう。
「これは防具ということで良いんですねー?」
防具……防具以外に何があるんだろう。武器とか? 弓にはならなさそうだけどな。
「まあ、そうだな」
「じゃあ、脱いでくださいー。その鎧結構良い金属使ってるんですよー? 溶かして新しい物の材料にしますー」
俺は鉱石は専門外なんでさっぱりだが、金属でも色々上下があるんだろうな。
……嫌な予感がする。これをそのまま引き渡せば更なる苦痛が俺を待っている気がする。そしてそれはあくまでも気のせいだが、こういうのは当たる。悪い予感ほど当たるのだ。
しかし俺は逆らう術を持ち合わせていない。大人しく渡す他にできることはなかった。
久しぶりの初期装備。
上から外套はつけているけどね。透視ゴーグルも頭につけておくか。久しぶりの格好だな。こんな装備で狩りに行っていた自分が信じられない。防御力なんてないも同然じゃないか。
「シノブさん、生産用の服を作る気はありまセン、か?」
生産用の服……器用が底上げされてる服ってことか。あってもいいかもしれないな。値段によるけど。
「コレなんですけど……」
養蜂用の服なのかな? それともレインコート?
見た目は白くて体全体を覆えるようになっている。体全体が覆えて蜂にも刺されない。やったー!
いらねえよ。
「いやー、ちなみにどういう経緯でこれを作ったの?」
「防護服が欲しいと言われたんデス」
なるほどね。どんな防護服が欲しいか言わなかったのが最大の失敗だな。しかし俺はいらない。何故ゲームの中ですら養蜂をやらなければいけないのだろう。
「養蜂スキルはありますよー?」
あるのかよ。え、ちょっと興味湧いてきた。
今の俺が取得することはできなさそうだけどな。何か条件が必要なのだろう。
「でも高いんでしょう?」
「売れ残りデスよ?」
高くはないのか。なら貰っておくのもいいかもしれないな。
「木魔法を使って取ってきてほしいものがあるのデス」
……初心者用装備でか?
何の用事かというと高山から染料を取ってきて欲しいとのことだった。初期装備で? 殺したいの? 何か恨まれることしたっけ?
「狙撃手は攻撃を食らわない前提の職業じゃないですかー」
アレクも行くそうだから、変なことにはならないと思うけど。
前回戦った時は苦労したからなー。
「前ライチョウと戦った時はもう鎧を手に入れてたんですかー?」
うん? そういえば……そういえば初期装備だったような気がする。うわ、俺達すげーな。命知らずじゃん。何であんな高レベル帯に初期装備で? いや、本当に俺達のプレイヤースキルって高いな。
「大丈夫そうですねー」
「ありがとう!」
あの時よりレベル上がってるしな。それに高山で龍木を取らなければいけない用事もある。渡りに船だ。
よしやってやろうじゃねえか。待ってろよ、養蜂業用の防護服!
……何しにここに来たんだっけ?
ありがとうございました。
VRゲームで養蜂をやり始めるかもしれません。
何故こうなった。




