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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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66 月の神殿

 ラビの案内する所へ行くと、奇妙なものといえば奇妙なものがあった。

 建物だ。

 苔むしている西洋風の城に見える。全体的に天空の城っぽい。ロボット兵はいないけどな。

 こんな森の中に建物。確かにアンバランスだ。


「遺跡……でしょうか」

 そう言われればそう見えないこともないな。てか遺跡だな。森の中に建物って。


「遺跡を守る番人とか出てきてくれたら良いんだがな」

 マラもいるってのに物騒なことを言うな。

 マラは一体今のレベルは何なのだろう。でも直接攻撃するわけじゃないから、俺の後ろに居ればいいだけか。


 しかし罠とかそういう物はありそうな気配だ。


 しかし宝箱があるかもしれない。大判小判がざっくざく。俺ワクワクっすぞ。金の亡者? 通帳の0が増えるのは好きだからな。それはゲームでも変わらない。


「気をつけて行こう」

 俺たちは慎重に遺跡の中へ入っていった。

 かなり苔むしていたが、中は意外としっかりしていた。エウレカ号が歩けるサイズの建物だ。

 入ってる直ぐの横道には廊下があり、その両脇にドアが沢山ある。いきなりドアが開いて大量のゾンビが溢れ出てくるという光景を幻視した。もしかしたらモンスターハウスがあるかもしれないな。


 刀を構えたカラコさんが手近なドアを蹴破る。木製だったであろうドアは粉々に砕け散った。

 カラコさんは少しの間、ドアの横に張り付き中の様子を伺っていたが、危険がないのを確認すると、手信号を送ってきた。ノリノリだな。


 もしかしてこれを全て繰り返すのだろうか。そうだとしたら何時間かかるんだろう。


 中には小さな机とベッドの残骸。戸棚がある。

「謎解きRPGみたいですね!」

 なるほど。そう考えればいいのか。あまり戦闘とエロだけしか求めないのも脳筋みたいだしな。ここはこの施設の秘密を探ろう。

 こういう所では机の上に日誌があるのが……あった。ベタだな。

 カラコさんを呼ぼうとして、カラコさんが何もない壁に向かって何かをしてるのが目に入った。壁に手をつけて前に歩いている。ぱっと見警察に銃を突きつけられた人のモノマネにも見えるが、何をしてるんだろう。何もない壁に向かって歩くなんて勇者かな?


「カラコさん……」

「いや、これは隠し扉がないか。押して調べてただけで、決して操作ミスとか、よそ見してたとかでは」

 ……どんだけ意識してんだよ。勇者あるあるのネタをカラコさんの前でしたらどうなるのだろう。羞恥で死ぬかもしれないな。勇者笑なんて性能が良くなかったら笑われるネタにしかならないもんな。ドンマイ。


「日誌を見つけたんだけど」

 てか隠し扉探すぐらいならまずベッドの下とか戸棚の中とか調べろよ。


「本当ですか?!」

 建物があれだけ荒廃しているのに日誌が無事な理由は部屋の中だからだろうか。それともイベントを引き起こすのに必要だからか。


 俺たちは日誌の最初のページから読み始めた。



「中々面白かったですね」

 二流作家のラブコメって感じだな。

 この持ち主はこの神殿の神官の1人だったみたいだ。そして男性について延々と書き連ねてあった。もう本当に相手が鈍感すぎる。神官の涙ぐましいアタックも眼中にないというようにスルーしている。どうやら身分差の恋だったようだ。悲しいな。

 そして日誌の最後に書かれていたのが、ずっと愛していました。だとさ。いや、日誌読んだらわかるよ。最後の言葉に何か書くことないの?

 かゆ……うま。みたいに意味不明なことでも、あの場合は前に色々重要なことが書いてあったからいいんだよ。これただのラブコメじゃん。

 最後に原因不明の奇病が発生して、解散することになりました〜。とか神の怒りを買ってーとかならともかくさ。

 これは日誌じゃなくて日記だな。


「悲しい物語なのかどうかよくわかりませんね。落ちがありません」

 そう、日常の1パートで日誌は切れてしまっているのだ。もう少し不穏な様子とかを書いておいて欲しかったと思うが、こうなった原因は唐突に起きたんだとわかるな。


「おーい、こんなもの見つけたぞ」

 部屋の中を捜索していたヴィルゴさんが何かを見つけたようだ。

 手に取っていたのは巨大な蛇の抜け殻だった。


 蛇型のモンスターがいるのか。

 それともこの神主が蛇の抜け殻を財布に入れておくタイプの人間だったのか。

 それにしては大きすぎると思うけどな。


「蛇ですか……気をつけましょう。この部屋はこの日誌のみみたいですね」

 ヴィルゴさんはベッドの上に蛇の抜け殻を投げ捨てた。勿体無い、何かに使えるかもしれないのに。と思うのは俺が生産も持っているからだろう。


 他の部屋も最初の部屋と同じようなものだった。日誌があり、そこに日々のことが書いてある。

 そしてわかったことがある。

 ここは月の神の神殿。モンスターは中に入ってこれない。そしてここの人はある儀式の犠牲になったということである。

 じゃあさっきの蛇の抜け殻は何だったんだろうね。神官が財布に入れるために持ち込んだのだろうか。本当にそうだとしたら欲にまみれてるな。神に仕える身なのに。


「やはり邪神を復活させるための生贄でしょうか」

 ここの人はかなり月の神への信仰心が高かったようだ。邪神なんかを復活させるわけないと思うけど。月の神邪神説があるなら中々斬新だと思う。


 モンスターがいないとわかってからは、カラコさんが扉蹴破ることはなくなった。別にモンスターいても蹴破る必要がなかったように思っていたのは秘密だ。


 俺が思うにこの通路は神官の人たちが暮らしていた場所だな。

 遂に廊下の突き当たりまでたどり着いた。


「廊下の突き当たり……これまでとは違うことがありそうですね」

 カラコさんが静かに扉を開ける。

 これまでの部屋とは違い、少し豪華だった。豪華といってもベッドと机が少し大きく、本棚があるだけだ。

 本棚の本は大抵のものが朽ちて判別不能になっている。本棚の本が朽ちてるのに、何で日誌は大丈夫なのか、という無粋なツッコミはよしておこう。


「こういう本棚の後ろに隠し扉が……」

 カラコさんは頑張っているが、俺は日誌を読むとするか。


 神官の長だったみたいだな。

 その日にあったことを記録している。今日は晴れ、とか。月が良く出ているということだ。作物がよく実った、とかね。

 しかし、それも後半になっていくにつれ、書かれなくなっている。あの方という人物にフォーカスが移っているな。最初のラブコメの時にも思ったが何故名前を書かないのか。名前を呼んではいけないあの人だったりするのだろうか。

 そして大きなことがわかった。

 あの方……Aとしよう。

 Aが死んだ。神官達は心配。我らが命をかけて亡骸をお護りします。全員儀式で死亡。

 どこのアイドルなんだろう。どんだけ熱狂的なファンか。そう思ったけど宗教ってそんなもんだったな。どの神官の部屋にも偶像は飾ってなかったから偶像崇拝ではないと思うけど。


「あの方というのが月の神というのならしっくりきますけど……」

 隠し扉を見つけるのを諦めたカラコさんが、俺の話を聞いてそういった。やはりそう思うか。

 でもおかしいのが、言葉を交わしてるんだよな。


「神託というやつじゃないでしょうか。それか月の神が下りてくるとか。ギリシャ神話じゃよくあるじゃないですか」

 確かにそうだな。ここはファンタジーだし。



「じゃあ、神が死んだ?」

「そうなりますね」

 GOD WORLD ONLINE。この名前からして神がいるかと思いきや、街の中に神殿があるわけでもなく、公式サイトに神に関する記述もない。

 その理由は何なのだろうか。神は死んでいるから。神の力が満ちた世界で生きる。そんなことを謳っているのに神は死んでるのか。


「神は生き返ることができる。しかしそれには死体がなければいけない。ということで死体を何らかの方法で保存したんでしょうね」

 神の死体……イマイチ想像できないな。


「じゃあ、ここに月神の死体があるのか」

 ここで月神を復活させるのがプレイヤーの役目なのか?


「ここの発見報告が見つかったぞ」

 手持ちぶたさで掲示板を見ていたヴィルゴさんがそんなことを言った。

 ということは月神はもう復活してんのか? 俺たちか来るのは一歩遅かったってことか。


「詳しい座標は不明。偶然見つけたらしいな。モンスターがいなくて休憩に良い。条件を満たせばストーリーの根元に関わるイベントが発生する可能性がある。と書いてあるな」

 条件。条件があるのか。

 その人達は条件を達成してなかったから、月神を復活できなかったのか。

 俺たちはどうだろう。

 1回も死に戻りしてないことが条件なら厳しいな。


「その他に詳しい情報は?」

「イベントが発生するであろう地点には近づけなかったらしい」

「近づけなかった?」

 一体どういうことだろう。物理的な壁があるのか、それとも結界か。

「空間が歪んでいるようだったとそこでは書いてあるな。歩いても歩いても前に進めない。歩いているのに動かないといった調子だな。魔法を放ったらその場で止まったらしい」


 不思議なことだが、もしかして時間が止まっているのかもしれないな。魔法が止まるってことは。

 どっちにしろ探索はしないといけない。

 俺たちは神殿の入り口まで戻る。


 エウレカ号の上でカグノが寝ている。呑気なものだ。探索を手伝っているヴィルゴさんのモンスター達を見習えと言いたいが、燃えてるんだから無理か。どうにかして火を無くせないものか。そしたら躊躇なく抱きしめられるのに。



「このまま真っ直ぐ進めば礼拝所があって、イベントが起こるかもしれません」

 礼拝所といえば真っ直ぐの道だからな。左の廊下を進むのもいいが、それは条件を満たしているか確認してからでもいいだろう。


 真っ直ぐの廊下には突き当たりに大きいドアがあるだけだ。そのドアには蔓のような模様が彫られている。


「良いですか? 開けますよ?」

 一応警戒だけはしておこう。何が起こるかはわからないからな。


 扉を開けるとそこは真っ暗だった。窓が一つもない。


 一歩踏み込むと足元がジャリとなった。

「土?」

 そう、建物の中に土があった。ここだけ床がないのか、それとも土がひかれているのかはわからない。光が入っていないからか、苔は生えていない。


「ライト」

 カラコさんが出した光の球が照らす範囲には壁は見当たらなかった。どれだけ広い空間なのだろうか。

 俺たちは無言で進んでいく。

 進んでいると徐々に光の球が離れていく。


「カラコさん!」

「あれ、シノブさん?」

 気づかぬうちにカラコさんとの歩調がずれていたのか。いつの間にかカラコさんは前にいた。

 俺は夜目をつける。

 前にいるのはカラコさんとラビだけだった。


 俺の横ではヴィルゴさんが足元を確かめながら歩いている。そう、歩いているのだ。俺は立ち止まっているのに。

 歩いているのに全く前に進んでいない。何かのダンスのようだ。


「皆、今俺たちは進めていない」

「何?」

 ヴィルゴさんが立ち止まるが、俺との位置は変わらない。


「ファイアボール」

 俺が放った火球は俺の手元で停止した。



「で、でも私達は」

「そう、カラコさんとラビだけは条件を満たしたということだ」

 ウサギ繋がりだろうか。ウサギとうさみみをフードを持っている人。違うかな? 月といえばウサギだけど。


「わかりました。皆さんはそこで待っていてください」

 ヴィルゴさんはその場で全力で走っている。ちゃんと土を蹴って体を前に押しやっているのに、火球との位置が全く変わらないことを見て理解したのだろう。その場の地面が削れてもいない。奇妙なことだ。VR内でだからこそ起こる不思議なことだ。


 光が徐々に前に進んでいく。

 カラコさんには見えていないと思うが、夜目を持っている俺にははっきりとわかる。

 中央には巨大な岩がある。曇っていてよく見えないが中には人のシルエットが見て取れた。


 あれが神の死体か。そして周りを覆っているのが、神官たちが儀式の末に生み出したものだろう。



「何か水晶みたいなものがあるので触ってみます!」

 カラコさんから報告がきた、さて鬼が出るか、蛇が出るか。


 カラコさんが水晶に触れると同時に水晶は柔らかな光を放ち始める。

 その光が地面に当たったところから白い仄かな光を放つ花が生えてくる。

 その様子はとても幻想的で美しかった。

 俺は採取していたけどな。採取しても採取しても無限に湧き出てくる。


 月光草

 品質 A

 月の力が籠っている。昼は枯れ、夜になると芽を出し、花を咲かせる不思議な草。宿根草であり、球根がある。夜にのみ活性化することから夜行草と言われることもある。その花は白く仄かに発光しているため見つけるのは容易。月の光りが差しこむ所でのみ発芽し、入らなくなると発芽しない。森林で木を切り倒すとその夜には大量の月光草が生えてくるという。芽が出ている時間が長いほど品質が高くなるので朝日が出る前に採取するのが良い。月神薬と呼ばれる薬を作ることができる。その薬を服用すると昼の生き物でも夜に対応することができるようになる。



 そう、これは月光草だ。

 止まっているファイアボールが消える。壁がなくなったようだ。

 ヴィルゴさんがカラコさんの横へと駆け寄る。品質Aの月光草の花が歩くたびに舞い散っている。

 エウレカ号とカグノは戻らせた方が良いだろう。燃やしてしまうのはもったいない。



 さて、果たしてどんな風に大量採取するか。鎌が欲しいな。コンバインとかないのだろうか。


 っとその前にイベントだな。

 神の死体を確認せねば。


 岩は光を放つごとに縮んでいるようだった。徐々に、中の様子が鮮明に見えるようになってきている。



 長かったようで短いその光が収まった時、そこには1人の男性が横たわっていた。白い着物に身を包む、肌から髪まで真っ白な青年だ。そして体には蛇の刺青が彫られていた。

 俺も空気を読み、月光草採取をやめる。



《行動により【収穫Lv10】になりました》



 その青年は起き上がると辺りを見渡してから、カラコさんとラビへ視線を移した。

『受け継ぐものか。血は通っていないな。いや、血がないからこそ、なのだろうか』

 何を言っているのだろうか。カラコはんが機械人間だということか?

「私はカラコと申します。貴方は月の神様ですか?」

『昔はそうだった。確かにそうであった時もあった。しかし今はどうなのだろうな。死と再生を司る者であったが故に帰れたが……』

 ここで月神は言葉を切った。


『そうか。水の神の手助けがあってこそか。それほどの者だったのだな』

 1人で何かを納得しているけどさっぱりわからない。俺達にもわかるように説明してくれないかな。


「月の神様、貴方は何故死んだのですか?」

 カラコさんが凄い聞きにくかったことを聞いてくれた。神を殺すほどの者とは何なのだろう。


『わからぬ。奪われたのだ。全てを。我は帰れた。しかし時間はない。そのために受け継ぐ者を求めていた』

 カラコさんがその受け継ぐ者なのか。


「あ、記憶継承!」

『我がいた証をそなたに授けよう』

 記憶継承がこんなところで役立つとは。イベントを進めるようだったんだな。


 月の神とカラコさんが白い光によって繋がれる。

 カラコさんがその場で倒れそうになったところをヴィルゴさんが受け止めた。


「貴様何をやった!」

 ヴィルゴさんは犬歯を剥き出しにして月神に向かい唸りだした。

 怖い。神相手なのにこの啖呵が切れるヴィルゴさんが怖い。


 カラコさんが意識を失っても、月神とカラコさんを繋ぐ光は途切れずに、何かが送り込まれるたびにカラコさんは痙攣している。



『すまない。これをすることで貴様らの友人には苦労をかけることになるだろう。これは我からの手向けだ』

 月神が俺たちに手を向けると、俺たちの装備の上に扉に描いてあったものと同じような蔓の模様が現れていた。


「そんなことは聞いていない。何をやったかと聞いているんだ!」

 ヴィルゴさんはなおも唸るが、月神は答えなかった。

 そしてラビを見て、微笑んだ。初めて見た月神の笑みだった。


『そう言うのなら、止めはしない。かつての我が眷属を思い出したので、な。役に立つかはわからぬ。加護を授けよう』

 ヴィルゴさんが動こうとするが、カラコさんを抱えてるので動けない。

 俺たちが見守る中、ラビの色が茶色から白に変わっていく。そして凄い触り心地が良さそうだ。

 ラビは目をパチクリとさせて自らの体を確認した。返り血が更に目立ちそうだな。


『重ね重ね謝罪をしておく。巻き込んだことを……』

 それだけ言って、月神は消えた。

 謝るぐらいなら最初からやらなければいいのにと思う。

 俺としては巻き込まれ大歓迎だけどな。特殊イベントはこれでクリアか。イッカクさんに装備の性能がどうなったか見てもらわないとな。

 触手を狩るはずだったのが、とんでもないことになった。


 そしてカラコさんってこのゲームの主人公な気がする。最初が肝心なこのゲームで、記憶継承を選んだ人はどれぐらいいたのだろうか。

 カラコさんだけ、これを取得していた。その可能性すらある。

 運営側どう思っていたのだろうか。このイベントがクリアされることを望んで作ったとは思えない。

 条件が厳しすぎる。


 神の力を奪った者、それがラスボスとなるのだろうか。


 ヴィルゴさんは気を失ったままのカラコさんを背負いあげた。

 大丈夫なのだろうか。


「リフレッシュ」

 魔法は発動したが、カラコさんが目覚めるような気配はしない。


「シノブ、帰るぞ。護衛を頼む」

 ヴィルゴさんがこちらを見る目には何か激しいものが宿っているように見えた。

 俺が倒れたカラコさんに駈け寄らなかったことだろうか。

 それとも呑気に月光草を採取していたことか、月神に何も言わなかったことか。



 俺はそういうやつだ。人よりもゲームプレイを優先させる。カラコさんはしばらくしたら目が醒めるだろう。そして月神により、能力が高くなっているだろう。

 それで良いじゃないか。気を失った後のカラコさんには誰が受け止めたかはわからない。なら受け止めるのも、受け止めないのも変わらない。ここは現実ではない。VRゲーム空間なのだ。ヘッドギアを外せば全てが消える夢の世界。俺たちはここで共通の夢を見ているに過ぎない。



 何だか場の空気が悪いな。

 ヴィルゴさんは出口に向かって歩き出した。それにラビ達も続く。


 全てはカラコさんが目覚めてからの話だな。今色々考えても仕方ない。



 俺たちはなるべくモンスターとの戦闘を避けながら進んだ。この森は奇襲をしかてくるものが多い。隠れている場所を見つけて、そこから離れれば襲われることは少ないのだ。



《行動により【発見Lv11】になりました》





 森を出たところでカラコさんは目を覚ました。

「……ヴィルゴさん。もう大丈夫です」

「本当か? 大丈夫なんだよな」

「少し疲れたのでログアウトします」

 それだけ言ってカラコさんはログアウトした。

 まだ街に入っていないのにログアウトしたのか。確かペナルティーがあるはずなんだけど。


「シノブ、カラコのことをどう思っている」

 ヴィルゴさんがこちらのことを見ずに問いかける。

 ここはふざけていい場面なのだろうか。いや、違うな。


「凄い強くて、ノリも良くて、一緒にいて面白い。そんな感じかな」

 ヴィルゴさんは何かうんうんと1人で頷いている。

「私がよく考える言葉を教えてやろう」

 何だろう。


「平日に4時間以上VRゲームをしていて、そのゲームに本気になっている子供は心が壊れている可能性が高い」

 俺もゲームに対しては本気だけどな。俺もおかしいといいたいのか? それは酷いぞ。酒飲める年齢だから子供とは言えないかな?


「カラコちゃんはゲームを楽しんでいる。だけどあの時は苦しんでいた。カラコちゃんはどこか壊れているところがある。またここに帰ってくる可能性はどのぐらいだろうな」

 そんなことを考えていたのか。

 カラコさんが壊れている。確かにそうかもしれない。カラコさんは中学生か高校生のどちらかだろう。友達と一緒にやるわけでもない。第一朝から晩までゲームをしていて、良い訳がない。



「私たちは他人だ。名前や住所どころから、本当の顔すらもしらない。そんな間柄だからこそ、言えることがあるんじゃないのか?」

 ヴィルゴさんが何を求めているのかはわからない。俺に何か悲惨な過去があるわけではない。今俺がここにいるのは俺自身の努力の結果だ。


「まだ俺たちが会ってから1週間と少し程度だぞ?」

「それでもあれだけ仲が良いじゃないか」

 確かにそうだが。俺たちは気が合ったのだろう。そして俺がVR独特の距離感で近づいてしまった。楽しかったから良かったのだが。

 でも現実のことを聞くのって明らかなマナー違反だよな。まだお互いの年齢も知らないし。


「わかったよ。今度会ったらそれとなく聞いてみるよ」

 ヴィルゴさんは一体何を考えているのか。もし悲惨な状況。例えばいじめとか寝たきりとかを俺が聞いたって同情できるわけがない。俺は平穏な人生を送ってきたからな。


「ただの老婆心だとは思うけどな。心配なものは心配だ」

 ヴィルゴさんって何歳なんだろうな。


「シノブはこれからどうするんだ?」

 どうしよう。講習に行く時間は近いけど。触手が採れたと報告に行く時間ぐらいはあるかな。


「NPCに会いに行ってからギルドの講習に行くよ」

「じゃあ、また明日、だな。私たちは西でレヘリングしてくる。中々楽しいぞ?」

 西は暑いからな。


「また今度の機会にしておくよ」


 カラコさん大丈夫かな。現実面での体調に影響があったなんて知れたら訴訟問題にまでなると思うんだけど。

 あー、めんどくさくなるな。俺はただ楽しくゲームをやりたいだけなのに。他人の悩みだなんて。それでカラコさんに嫌われる可能性もある。教えてくれない、というのが一番いい選択なのだろうけど。

 教えてくれたら教えてくれたで、また色々面倒くさいことになりそうだ。


 そのことを思うと今すぐログアウトしてふて寝したくなる。

 しかしイベントの商品、ゴブリンでもわかる講座がある。

 そこで月の神について聞いてみようかな。



 よし、気持ちを切り替えて、まずはクロユリさんの所へ行こう。

ありがとうございました。

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