60 報酬
行きつけの中華料理屋。俺が最近来なかっただけで潰れかけたそうだ。
誇張だとは思うけどな。前は三食ほとんどあそこで食ってたから、かなりいい客だとは思うけど。
ゲームにハマったと言ったら親父さんは呆れてたけどな。
今までもしてたけど、ここまでは時間を費やしてなかったな。
このゲームはリアルの再現度も高く、VR慣れしてない人でも酔わないし。つい宣伝みたいなことをしてしまった。
「まだ、こんだけ混雑してるのか……」
一体どんなものが貰えるのかと、ギルドには大量の人がいる。暴動が起きていないだけましだと思うが。さすが列に並ぶのに慣れている民族でもあるな。
俺はあまり好きではないけど。
どうやらランクごとに並ぶ列が違っているようだ。
Aのところなどは、数人がいるだけだが、CやDなんか殺人的なほどたくさんいる。
これは明日貰ったほうがいいかな?
(シノブさん、私達は今イッカクさんのお店にいます)
何かある度に集合場所として使われるイッカクさんの店は大丈夫なのだろうか。店っていうより集会場兼鍛冶場って言ったほうがいいかな。店の部分なんてほとんどないし。
「了解。今から行くぜ」
店にはイッカクさん、カラコさん、ヴィルゴさんにラビがいた。
カラコさんの装備が修復されてしまっていたのが惜しいな。
「シノブさん、どうでしたかー? ブーストの効果?」
ああ、最低な使い心地だったよ、ありがとうドSロリ。
俺はまだ怒っているのだ。戦闘中のはまだましだったけど、最初のやつの痛みなんて本当に辛かったからな。痛すぎた。
「まあ、あの鎧のお陰で生き残れたと言ってもいいかな」
あの鎧がなければ生き残れなかったとは思うけど、あの鎧のせいでピンチに巻き込まれたような気もする。うーん、心の中では言えても、現実では言えん。VR内だけどな。
だって、こんだけレベルアップしてうはうはな上にアイテムまでドロップしてるんだもん。お礼を言われても悪口は言っちゃいけないはずだ。
俺がまだ根に持ってるだけだ。
こんなにうじうじ考えるのも駄目だな。よし、気持ちを切り替えよう。
「そういえばゴブリン王のドロップアイテムがあったな」
「おおお、それはドキドキワクワクですねー。ぜひとも見せてくださいー」
アイテムを具現化させて、カウンターに置く。
剣はゴブリン王が持っていたままの大きさ。そして王冠は普通の人サイズまでに縮んでいたが……いくら性能がよくても、これはかぶりたくないなー。
「シノブさん、ボスドロップを2つもなんて……まあ、シノブさんが戦ったのだから仕方ないですけど」
こういう羨みがくることを俺は危惧してたんだよな。
やれやれ、俺は一体どうなるのだろうか。
「シノブ、そんな顔をするな。いずれ威力は修正されるさ。ワイズだってチートレベルの強さを持っていたが、今となっては普通の魔法使いより少し強い程度だ」
ヴィルゴさん……そんなことよりラビがまた強くなってるのがわかる。
いい子でお留守番してたのかこの兎?
ヴィルゴさんと同じ雰囲気を持ち始めたぞ。
ワイズさん、今でも十分強いと思うけど、あれでも弱体化してたのか。
魔王の称号がマイナスの部分が多かったのも、ワイズさん用だったのかな?
ボスモンスターを召喚してたらしいし、ゴブリン王みたなものもβ時代はたくさん召喚していたのだろうか。それならば特別に下方修正が入るのは妥当だろう。
まあ、やられたプレイヤーにしてはたまったもんじゃないけどな。
ゲームプレイの範疇で作り出せるのならば、それはそれで良いと思うのだ。
なぜか生産職の現トップ全てにコネがあり、その人達全てに報酬を出して、一つの武器を作らせることができる人なんて中々いないと思うのだが、やろうと思えばできないことはない。
「作った側としては奇跡の出来具合のその能力を低下させられたりしたら萎えますねー。ワイズさんの件も一時しのぎにしかならないと思いますよー。それでこの鑑定結果ですがー」
周りのプレイヤーとの格差をあまり開かせないためというのなら甘んじて受け入れてもいい。
例えば……イベントでの使用不可?
駄目だな。他の弓が必要になる。
このまま運営がほっといて置くことを望もう。
王冠は強化素材でした。
鎧に強化できればいいんだけど、もう上限に達している。痛みを与える機能と音が出なくなる機能だけで?!
イッカクさんが言うには序盤で手に入る鉱物で作ったから仕方ないとのこと。鉄鉱石……ではないだろうな。これまたファンタジーっぽい鉱石なんだろう。俺はそっち方面に行くことがないからわからないが。
弓は上限に達していないそうです。
驚き。
こんだけ便利なのにな。って言っても使われたのはほとんど魔法陣だけらしい。魔法陣便利だな。
他の生産職はほぼ、一般のものに対するような小さなことをやっただけなんだって。
イッカクさんはパーツ本体を全て作ったと無い胸を張っていたが。機械部分とかもあるはずなのに一体どこに組み込まれてるんだろうな。展開してない見た目鎖だし。
なんか王冠で強化したらますます凶悪な性能になりそうな気がする。
でもカラコさんは武器を色々変えたりするつもりだし、ヴィルゴさんに至っては今までに結構な頻度で盾を変えてるからな。
「前例がないので私にもわかりませんねー。なんせイベントボスなのでー。強力だとは思いますよー」
よし、ゴブリン王がどんな能力を使ってたのか思い出そう。
輿に乗って……人の言葉話して……太ってて……いや、脂肪の下は筋肉ですな力士タイプだったか。
なんせほとんど交戦していないからわからない。回復魔法が厄介なだけだったしな。
「シノブさん、何を躊躇してるんですか。私たちに遠慮はいりませんよ? 最初から恵まれすぎてるんですから」
……そういえばそうだな。今更何でもなかったか。
「じゃあ、お願いします」
俺の目の前で王冠が光になって、弓に吸い込まれていく。
ヴィルゴさん、卵を胸にはさもうとしても潰れるだけだと思うし、カラコさんやイッカクさんの前でやるのはよくないと思うよ。
それにその卵、バッタかトカゲだよね? あいつら変温動物だよな? 地面に埋めておくだけで孵化しそうな気もするけど。
「うーん、中々相性が悪いというかなんかー、って感じですねー」
相性が悪かったのか。
イッカクさんから鑑定結果が送られてくる。
神弓 アポロン(イッカク)
攻撃力 40
重さ 20
精神力+40、魔力+50、体力-40
魔法陣
展開、装填、加速、破壊、連射、付加
耐久値自動回復、耐久値上昇
存在感
この弓ってアポロンって言うんだな。初めて知った。
一番最後につけられているのが新しいスキルかな?
隠密とか擬態を全てダメにしそうな能力だな。
確かにあのゴブリン王は存在感すごかったけど。
狙撃手で存在感あったらダメな気がする。これは盾に使うのが正解だったな。
「能力を消すこともできますよー」
イッカクさんはそういうが、試してみてからでもいいだろう。
この件は保留しておくことにして、俺は剣の方の鑑定結果を聞いた。
カテゴリーは大剣らしい。
ついている能力は大食と悪食。
あんだけ太ってたしな。おなかが減らなくなるスキルと食糧アイテム以外でも食べれるようになるスキルらしいのだが……剣につくとどうなるのだろう。
売るかどうか聞かれたが、それは断った。
ヨツキちゃんに上げるのだ。俺だってあんな可愛い妹……あ、カグノがいるか。
カグノちゃんNPCに触れても警告も何もないんだから、やりたい放題だよなー。
俺はロリコンじゃないからしないけど。
俺はロリコンじゃない。
大事なことなので2回言った。
「そういや邪結晶……」
「それは何かのクエストを進めるときに必要になるものですねー。素材でもないし、武器でもありませんー」
即答かよ。
カラコさんか、ヴィルゴさん辺りが鑑定を頼んだのだろう。
ということは邪水晶も一緒かな?
「ちなみに邪水晶は強化素材ですねー。1番低いステータスを下げて、1番高いステータスを上げます。微妙にですけど。今は市場に氾濫してますけどー、もう取れなくなったので、少し待っていれば上位互換のアイテムが出る前なら高くで買い取りますよー」
思考を読まれたのか。それとも話の流れか。
強化を進めないということはそこまでのステータス補正ではないのだろう。
またいつか思い出したときに売りにこよう。
「ちなみに魔石の使い道は?」
「色々なところで使える便利な石ですねー。私も買い取りしてますよー」
凄い大雑把だな。
便利って。色々って。
「調合と抽出で使える?」
「抽出したら石と魔力になりますねー。魔力はすぐ消えてしまうから無意味ですけどー。磨り潰したら調合もできますねー」
石入りのポーションを飲むのか?!
売らないで取っておこう。どんな風な効果になるかが楽しみだ。
後はスライムと、雷鳥の尾羽だな。よくわからない東の森産の植物はあるが俺もそれは鑑定できるので、放置で。
雷鳥の尾羽はえるるに聞いたほうがいいかな。服職人だもんな。俺の鎧のてっぺんに鳥の羽がついたりするかもしれない……目立つな。
スライムもイッカクさんに聞くのはお門違いな気がする。
これも放置で。
「シノブさんシノブさん、早く報酬を見に行きましょうよ。一定の範囲内から選べるみたいですよ」
一定の範囲内から選べる?
戦果によって報酬が違い、それは固定されてないってことか。
「俺が来た時はまだ混んでたけどな」
「あー、私も行くので少しは空いている列に並べると思いますよー」
そういえばイッカクさんはギルドのVIPだったな。
俺とカラコさんはフードを深く被り、イッカクさんとヴィルゴさんはどうどうとギルドへ向かうことになった。
俺たちが隠れてる意味ないじゃん!
しかし全身鎧が隠れていることから特定はできないだろう。弓も見えてないしな。
でも視線は刺さってくる。
Aの受付にいるからしょうがないんだけどな。
ギルドでは多人数に対応できるようにか、冊子を配って決まった人から受付に行くという方法を取っているようだ。
並んでる間に決めておいて、決まらなかったら後ろの人を優先していくという方法を取っているようだが、これがまた決まらない人の多さ。列の横に氾濫して、大変なことになっている。
人々のイライラも最高潮だ。
なんでそんなに早く来てしまうのだろうか。明日にでも来れば空いているだろうに。
俺達も人のこと言えないけどな。
イッカクさん権限でAのところ使えちゃったから、並ばなかったけどな。
何というか、Aのところ見てるとキャラ濃い人多いよね。
全身鎧で歩けなさそうなサイズの槍持ってたり、ケンタウロスで全裸だったり。あ、もちろん男。女の子は上半身裸装備ないもんね。アニメのコスプレしてたり、後はあまり見ない種族だったりする。人気のなくて際物な種族なんだろうな。
「変態プレイという点ではシノブさんも十分変態ですね」
「酷いな、全く」
カラコさんも最初はあれだったが、今では邪眼系を使うこと以外は普通の……いや、機械人間で魔法を使えるんだから変わってるか。今のところ周りを明るくするライトって呪文しか使えてないみたいだけどな。レベル上げのためか光の球がふよふよと漂っている状態だ。
「見た目は鎧戦士、中身は狙撃手だ。どこも……」
おかしいな。何で俺は全身鎧なんて着てるんだ全く。
機動力はいらないからいいけどさ。
「いや、職業サモナーの癖にスキル構成が格闘家とかいう変態もいるし」
「ソロでやる人はどんな職業でも大体召喚魔法取ってるじゃないですか」
そういやそうか。その人はリアルスペックが凄いってだけだったかな? 何種類もの武器を扱えるって言ってたしな。
「そういや、カラコさん。何種類の武器を使うってどうなんだ?」
「急な質問ですね。私が何でも答えられるとは思わないでくださいよ、知ってることだけです」
そりゃそうか。
「問題は金だな」
ヴィルゴさん、いたんですか。
「武器が多くなると、メンテナンスも必要になりますしー。スキルが育つのも遅くなりますー。しかしメインの他にサブとして使っている人はいますねー。遠距離で弓を射って、近づかれたら剣のように。でも魔法があるのでー、完全に物理よりか、魔法よりしてない限りは魔法戦士という形が一番ありますねー」
困った時のイッカクさん。さすがだな。何でも知ってる。
俺は物理? も魔法もある魔法戦士かな?
魔力実体化で作られた矢が物理攻撃になるのかもわからないし、そもそも矢って攻撃力としては本当に低いものだったと思うけど。そういえば毒があるし、使う機会がない。
この弓とまさか合成して使うってわけにもいかないしな。
合成スキルがないと状態異常弓は使えないってのが、あれなところだ。
今のところの俺には無理な話だな。
状態異常にして戦うのって好きだけどな。
『パーティー、惨劇の斬撃の方ですね?』
あの臨時パーティーこんな名前だったのかよ。誰が決めたんだ。
「はい」
どっしりと分厚い冊子が手渡される。
功績によって分厚さが違うんだな。イッカクさんの持つ報酬本は俺らのより薄い。それでも分厚いことには変わりないが。戦闘に参加してなくても何らかの形で関わっていれば報酬はもらえるのかな?
ヴィルゴさんのも俺らとほとんど変わらない厚さだ。
あっちも俺らのパーティーのほぼ横にいたしな。ゴブリンの攻撃のほとんどをこっちで引き受けていたからってのも最前線で戦えていた理由かもしれない。
「私たちが見るべきなのは最後の方のページですよねー……」
カラコさんがページを広げたまま固まった。
こういう本を二人で読むのって合法的に近寄れるからいい……何?!
カラコさんが広げたページにはこんな文字が躍っていた。
ギルドまで徒歩5分! 飛んだら1分! 陽光降り注ぐ明るい室内! 都市機能の利便性と豊かな緑に恵まれた住環境! レンガの外壁が気品と格調を演出! 新婚さんにおすすめ2LDK! ウォークインクローゼット付きで収納抜群! 巨人族用にカスタマイズ可能! ドラゴンから犬まで、ペット可!
新婚。
……プロポーズでもしたほうがいいのかな?
ありがとうございました。




