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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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外伝 ラビの戦い

 ラビはその時何をしてたか。

 少し短めです。

 ヴィルゴの良い子にしていろという言葉が強くなってこいということなのは理解していたラビは、1人でイッカクの店を出た。

 イッカクは既に工房に潜っており、何物も止めるものがいなかった。


 そして自らの主が向かった方向へ見当をつけると歩いていった。



「キャー、なにこれなにこれ! カワイイー!」

「ウサギのNPC……? 誰かの召喚獣?」

「この子きっと迷子なんだよ!」




 ラビが道を歩いていると急に後ろから襲いかかってくる物を感じた。

 ラビは自然体を装いながら、すぐさま撃退できる準備をした……がそれ殺気を放っていないのがわかるとそのまま力を抜いた。


 同時に後ろから抱きしめられる。主にもよく同じことをされているので衝撃の逃し方は心得ていた。軽くその場で後ろへ跳びラビはふんわりと腕の中に収まった。


 金色の髪を見上げながらラビは首をかしげた。

 この人は誰だろう。


「迷子って言っても……召喚獣だったら呼び戻せば良いだけでしょ。そもそも迷子になるほど、離れて動けないはずよ」

 理知的な顔をした黒髪のエルフの少女がラビに頬ずりする少女を諌めた。

 しかしもう一人の少女はラビを抱えたままスクっと立ち上がった。


「よし、この子は私達が預かろう」


 金色の髪に赤い目。吸血鬼と言われるものの特徴を持っているが今は朝。おそらく半吸血鬼ダンピールだろう。

 背中には1本の棒を背負っている。


「はぁ? 何言ってるのリアム?」

 ダンピールの少女、リアムはエルフに苦言を言われてもその顔は曇らない。自信満々という風に自分の考えを話し始めた。


「だってだって。この子1人なんだよ? 掲示板に書き込めばいいじゃない。私たちが保護してますって。それにサナだって可愛いと思ってるでしょ」

 サナと呼ばれたエルフの少女は頭を抑えて首を振る。その眉間にはシワがよっており、その意見に賛成しないというのが見て取れた。


「私が可愛いと思ってることと、それとこれは別でしょう。それに今から戦場に行くのよ? こんなウサギ連れて行けないわ」

「サナちゃんの側に居れば大丈夫だよー。この私が後ろに敵を通すわけないじゃない」

 リアムは棒を振り回し、どこかの映画のような決めポーズをする。しかも片手でラビを抱えたままでだ。そのことから高い技能は持っているのだろう。

 ラビはそんな腕の中でなされるままにしていた。人の腕の中では暴れないようにしつけられていたのだ。


「はぁ……わかったわ。ただし、いつもよりいっそう気をつけること」

「へへへへ、やったー!」


 リアムはラビを抱えあげてぐるぐる回った。

 サナは大丈夫かしら、という風にリアムのことを見た。



「すっごい人だねー! 毎年の戦争を思い出すよ」

「その戦争が何なのかわからないけど。少し出遅れたようよ」


 最前列のパーティーがもうゴブリン達の大群にぶつかっている。

 騎馬隊がゴブリン達を蹴散らして、巨大な魔法が放たれる。


 赤い光線が走ったかと思うと、ゴブリンの後方で爆発が起きる。


「凄いね! 戦場だね!」

「私たちはパーティーの間を抜けてきたやつを相手にしましょう。最前線に出るのは無理があるわ」

 最も前に進んでいるパーティーの盾ごと体当たりしている姿や、斧でゴブリンを一気に屠っているのはともかく。何個もゴーレムを呼び出してそれを修復しながら進んでいる魔法使いには同じ魔法使いとしてライバル心が湧き上がった。

 しかしサナは冷静だ。たった二人の自分たちの能力をきちんと把握していた。



「じゃあ、ウサちゃん。ここで大人しくしててね」

 サナの横にラビは降ろされた。そうしてしたことは真っ直ぐに前線に突っ込んでいくことだった。

 ゴブリンぐらいでは技量で何とでもできる。そう判断したゆえの行動だったのだが、2人は慌てた。



「ちょ、ウサギちゃん。待ってー!」

「り、リアム!」

 ウサギを追いかけて、前線に行った友人1人を放っておくわけにもいかずサナは死に戻りを覚悟して追いかけて行くのだった。



「つ、捕まえた! ウサギちゃん速いね」

 リアムはスピードの落としたラビを捕まえてその速さに驚いていた。


『ギャアギャアギャア』

 その声にリアムが見回すと周りには既にゴブリンしかいなかった。10匹ほどだが、リアムとサナの2人でも難しい数である。

 リアムは棒を構え、ラビをその場に降ろす。


「ミスト! リアム、今のうちに逃げて!」

「ナイスアシスト!」

 サナが唱えた魔法によって霧が発生した。リアムはラビを抱え、ゴブリンの包囲網から抜け出す。



「もう、リアムは本当に厄介ごとしか持ってこないんだから」

「お小言は後にして! 2人なら10匹だって行ける! ノルマは1人5匹!」

「無理に決まってるでしょ。さっさと引くわよ!」

 リアムの腕を引きずって、サナは後ろに引こうとする。この魔法もそれほど時間を稼げるというわけではないのだ。

 ラビは何やら言い争いをしている2人を眺めていたが、急激に迫ってくる音に気付き腕の中を飛び出した。


「ウサギちゃん!」

 霧の中から飛び出してきたのは狼に乗ったゴブリン騎兵。霧の中で匂いを感じて突撃してきたのだろう。上に乗っているゴブリンは槍を真っ直ぐに構えている。


 リアムは避けようとしたが、後ろにサナがいることを思い出した。リアムは避けられても、サナの敏捷では避けきれない。

 そう判断したリアムはカウンターを狙うため、棒を構えた。

 ゴブリンを一撃で叩き落とし、反す棒で狼の鼻を叩いて怯ませることを狙う。

 リアムは体勢を低くして、集中力を極限まで高めたのだが。


『ギャイン!』

 ラビの回し蹴りが狼の鼻面に炸裂した。狼はゴブリンを乗せたまま、方向を変えてリアム達の横を飛んでいった。



「ウサギちゃん?」

 呆気に取られている2人を気にした様子もなく、その場でステップを刻み始めるラビ。霧からゴブリンの顔が出た瞬間、音速の脚がゴブリンの首を刈り取る。

 ゴブリン達に思考する暇を与えずに首の骨を的確に折っていく。


「もしかして……私たちよりも強いの?」

 サナはその言葉を聞いたウサギが少し笑ったようにみえた。

 得体のしれないウサギ。しかしそのウサギも今は使わないといけない。


「リアム! ウサギも戦力になる。いけるわ」

「思わぬ誤算! 連れて来て良かったでしょ?」

 リアムはしたり顔で言ったが、サナはそれを無視した。


 何匹のゴブリンがラビによって倒されただろうか。

 そしてミストの効果が切れた。

 迷っていたゴブリン達は汚い声を上げ、2人の少女へ襲いかかった。


「ウォーターカッター!」

「旋風!」

 2人はラビの後に続き、ゴブリン達の群れを迎撃しはじめた。




「いやー、激戦だったねー!」

「ハイドロセラピー。ウサギちゃんもありがとうね」

 2人は第1波の戦闘を終えて、街の中に帰っていた。

 サナの魔法がラビのHPを回復する。ラビは血で染まった足を舐めて綺麗にしていた。



「それにしてもこんなに強いとは、私よりも強いかもしれない」

「リアムよりかは確実に強いわよ」

 ぶーぶーと文句を言うリアムを気にせずにサナは考える。このウサギは何なのだろう。

 一般プレイヤーよりも強い召喚獣。ドラゴンのような当たりなら、そのぐらいの実力はあると思うが。このウサギもそうなのだろうか。


「掲示板は反響ないね。一体このウサギちゃんは何者なんだろう。あ、何者じゃなくて何ウサギか!」

「この強さだったら迷子じゃなくてあえて単独行動させている可能性があるわ。1人で行動できてるのが不思議だけど」

 2人は首を傾げるが、その答えは出なかった。



「ウサギちゃん。次も一緒に戦ってくれる?」

 ラビは少し考える仕草をした後頷いた。


「ヤやった! サナ! ガンガン前に行くよ! 私も大分レベルアップしたしね!」

 サナ自身もレベルアップの多さに驚いていた。それほど格上には見えないのにこのレベルアップ。何匹屠ったかは覚えてないが前線に出ていた分だけは効果があったようだ。



 その後、ゴブリンが1匹残らず狩り尽くされるまで、2人と1匹は連携して戦った。ゴブリン王などの巨大モンスターも出てきていたが、2人はほとんど雑魚相手に戦っていた。



「ウサギちゃん。今日はありがとうね」

「フレンド登録できないのが惜しいね。リアムの行動もたまには良いことがあるってわかったわ」

「たまにって何よ、たまにって! いつも良いことを目指して動いていますー」

 リアムが腕をかかげて抗議をする。


 ラビは雑踏の中から自らの主が戦場から帰っていく音を聞いた。

 帰らなければ。


 ラビは主の方へ駆け出そうとして、共に戦った戦友のことを思った。中々興味深くて……筋が良い。

 筋が良い。自分の主がよく言ってくれる言葉だ。

 ラビはそんなことを見て思った。



《【格闘兎】の守護を受けました》

 突然、リアムにそんなインフォが流れる。


「え? ええええ~~~!!」


 そんな叫びを尻目にラビはイッカクの店へと駆けていった。

 ありがとうございました。

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