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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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55 幼女と妖女

「こんな重大なことが分かった時に始まるんですか……」

 カラコさんは不服そうだ。しかしやるしかない。俺も頑張る。


 森の中から雑魚は出てこなかった。出てきたのは俺が追いかけられたやつよりも遥かに大きいゴブリン。

 低いマンションぐらいの大きさはある。ゴブリンじゃないよね。オーガとかだよね。これ。


 鎧を着ており、剣や、槍なども巨大サイズだ。


『『『グエエエエエエエーーーー!!』』』

 聞くに耐えない酷い鳴き声をあげるたくさんのゴブリン達。空中戦力も魔法使いもいないのが良かった。これは勝てる。


 アイドルの高火力の魔法によって1匹が消し炭になり、ドラゴンのブレスで体がドロドロに溶けているゴブリンもいる。力量の低い人がさっきの戦闘で脱落したからか、今は高火力の人がとにかく目立つ。


 振り下ろされた巨大な剣を受け止めて、そこに大量の火魔法を浴びせかけていたり、ゴブリンの頭上に常に雪が降っている人達もいる。


 標的が大きすぎるせいか、魔法を使えない人達は攻めあぐんでいる。

 ヨツキちゃんのようなゴブリンと切りあえる人もいるだろうがそれはまた別だ。


 俺はというと。


「クラック! ウッドバインド! グロウアップ! ウッドバインド! グロウアップ!」


 拘束魔法で固めていた。

 クラックは使いやすい魔法だ。ゴブリンが大きいと、それに合わせたサイズの地割れが起きる。


「どうだ、どうだ! いつも見下ろしてるお前が今はこの俺に踏まれてるんだぞ」

『グオオオォォ……』


「シノブさん、危ないですよ!」

 こんな鎧まで着ているのだ。即死することはあるまい。

 当たってもマゾヒストが発動する。HPは回復すれば良いだけだ……。

 大分毒されてきたな。痛みなんて大したことはなくない。痛いのはなるべく回避する。マゾヒストはなるべく発動させない。


 なのにマゾヒストをスキル欄に入れてる俺は心配性なのだろう。結構助けられたしな。


「1発で終わらせてやるほど慈悲があるわけじゃない。じっくりジワジワと……あ」

 ヨツキちゃんの大剣が首に振られクリティカルヒットを出しゴブリンは消滅した。


「冥府でまた会ったときに戦いの続きはしようじゃないか」

「シノブさんは死んでも死なないじゃないですか」

 酷いな、人をゴキブリみたいに。確かに死んでもペナルティーだけで生き返るけど。


「ファイアストーム!」

 一体に対してならエクスプロージョンの方がダメージ効率はいい。しかしエフェクトが派手なのだ。その名の通り炎の嵐が吹き荒れる。火災旋風というのだろうか。


 ゴブリン2体が炎の嵐の中に巻き込まれ苦痛の叫び声をあげる。


「装填、破壊、連射、ロックショット!」

 顔全体に矢がまぶされたゴブリンがめちゃくちゃに暴れ始める。

 同士討ちを始めるといい。俺は退避する。


「ポイズナスフラワー。グロウアップ」

 ついでに毒でHPを削ってろ。


「全体的に汚い戦い方ですね」

 うるせー。どうせ俺は卑怯な戦い方しかできない小物だよ。それにこれが楽しいんだよ。

 あれ……俺って性格悪い?

 いや、悶え苦しんでいる相手を前に圧倒的強者というのを見せつけるのは誰でも好きなはず。好きなはずだ。

 うん。大丈夫。


「しかしこの分だと、楽に終わりそうかな?」

「私としては獲物が少ないので不満がありますけど」

 カラコさんはカウンター気味に攻撃をしているだけだ。猛スピードで薙ぎ払われる剣をかわして、その腕に切り傷をつけている。俺には到底ムリなことだ。

 俺は近づかれる前に魔法か弓で攻撃しているけどな。

 マッドが創りだしたゴーレムが近くにいるからいざという時でも安心だ。


 そのマッド本人は3体のゴーレムを率いて巨大ゴブリンと格闘戦を繰り広げている。

 ワイズさんの護衛も合わせて合計5体ものゴーレムを操ってるわけだ。

 俺も土魔法持ってるし、いずれは壁役としてゴーレムを召喚できるようになるのかな?


 ワイズさんは何も呼び出さずに魔導書から雷を落としている。

 それが1番効率が良いのだろう。相手は背も高いし。


 程なくして巨大なゴブリン達は死に果てた。特にアクシデントがあるわけでもなく。そして次は何が出てくるのだろうか。


《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが4増えました》

《戦闘行動により【弓術Lv16】になりました》

《戦闘行動により【狙撃Lv14】になりました》

《戦闘行動により【火魔法Lv19】になりました》

《戦闘行動により【木魔法Lv14】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv7】になりました》

《戦闘行動により【魔力操作Lv4】になりました》

《戦闘行動により【遠見Lv13】になりました》


種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv29

称号:神弓の射手

スキルポイント:6


 体力:90(-35)【65】

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :80(+58)【123】

 精神力:80(+5)(+49)【119】

 敏捷 :20

 器用 :80(+16)【92】


 反射で精神力に振ってしまった。これから何を育てようか。魔力か、それとも筋力か。敏捷は諦めてる。鎧だけで相当のペナルティーを受けているはずなのだ。

 筋力を30にしてキリをよくした後は魔力かな。


 俺に筋力をあげる利点は弓使いにとって1つ。射程を上げる。というのだけど俺は加速があるからな。気持ち程度に上げるだけだ。

 それにしても精密操作が上がらない。元々生産用のスキルだからか?


「カラコさん、おつかれー」

 あまり出番がなかったカラコさんにいうと皮肉になりそうだな。

 そんな俺の言葉も届いていないかのように、カラコさんは困惑した様子でステータス画面を見ているようだった。


「カラコさんどうしたんだい?」

「あの……称号を獲得したんですけど……」

 それが大声で言えないようなものだったんだろうか。あるある。しかしカラコさんはそんな特殊な性癖を持っていたかな?


「その称号が勇者なんです」

「は?」

 勇者ってあのヒノキの棒の使い手の?


「魔王を倒しに行かなきゃならないんでしょうか……」

 一体カラコさんが何をした。モンスターを屠った数ならまあ、ある程度はあるだろうけど、それだけじゃないはずだ。


「それで効果は?」

「勇者の威光、器用貧乏、聖剣っていう能力が合わさったものらしいんですが」

 勇者の威光はわかる。きらりんと光って周りの人がひれ伏すんだろう。モンスターが怯むとかの硬化もありそうだな。器用貧乏は……うん。聖剣もかっこいいじゃん。


「これから勇者様(笑)とか言われたり、死に戻りしたら、死んでしまうとは情けないとか言われたりするんですよ?! それどころか民家でアイテムを盗んでいないかとかそんなことまで疑われるかもしれません」


 散々な評価な勇者だな。でも勇者様(笑)はあるかもしれない。


「そんなに気になるんだったら先代魔王のワイズさんにでも相談してみたら?」

「は! そうですね! 何でこんなことになったのかとかも聞いてみます」


 カラコさんはシュタタタタと走っていった。

 カラコさんも大変だな。

 ワイズさんに相談して解決すればいいんだけど。

 聖剣というのだから光る剣とか出しちゃったりするのだろうか。


 帰ってきたらああああとでも呼んであげようかな。



 さて俺は火のエレメンタルについて検証でもしましょうか。


「出でよ、カグノ!」

 指輪が光ると、前にさっき見た幼女がいた。ポニーテールにした赤い髪が元気な印象を与える可愛い女の子だ。体が燃えているのが難点かな。抱きしめられない。


『なーに? お兄ちゃん』

 ぐっ、やはりいい。

 しかし今は可愛い妹と戯れている場合じゃないのだ。


「カグノって何ができるの?」

『燃えれるよ!』

 萌えれる? いや、この場合は燃えるか。


「ちょっと燃えてみて」

『わかった!』

 カグノの体を覆う火が少し強くなった。うーん。微妙だ。


「手だけに炎を集めるとかできる?」

『できるよー!』

 体の炎が全て右手に集まった。右利きなのかな?

 そしてお世辞にも火力が高いとは言えない。


「全力で俺を殴ってみて」

『わかった!』

 即答かよ。


『えい!』

 ポフという可愛い音がして俺の鎧に当たった炎が消えた。

 これは戦闘力にはならないな。愛でるようだ。

 簡単に呼び出せたわけもわかる。マスコットキャラというか、殺伐とした戦闘の癒しになるとか、そんなものなのだろう。ペットみたいなものかな?


『ふ、ふぇぇ、手が痛いよぉ』

 やばい、泣きそうだ。

「ああ、ごめんごめん。痛かったね。ほら痛いの痛いの飛んでいけー」

 何とか泣かれることを阻止できた。

 子供の相手は疲れるぜ……。


「おい、シノブ。火の精霊を連れてきたぜ」

 その声はネメシスか。


 後ろを振り向くとそこにはネメシスと……全身火のお姉さん。キリッとしていて、女王のような風格がある。横にいるのは従者だろうか。あ、こっちがご主人ですか。


「いや〜ロリっ娘な精霊たんもいいですな〜。あ、わいはネヴィいいます。よろしゅう」

 一体どこ出身の人だろうか。

 格好はローブに杖と典型的な魔法使いの格好をしているエルフだ。


『ふふふ、私はアイネルよ。よろしくね』

「よろしくお願いします!」

 こういうの。こういうのが出てきて欲しかったんだよ。背が高めで、胸もあって、かっこいい人。交換してほしい。


「それで? 呼び出してるってことは検証とかしたのか? どうだったんだよ」

 少しネメシスがイラついているな。熱いからかな?


「火力はなし。俺を殴ったら逆に拳が痛んだみたい。戦闘には使えそうにないな」

『まだ小さいものね』

『小さくないもん!』

 2人が横に並ぶと年の離れた姉妹のようだ。


「戦闘に使えない精霊。でもそんな精霊たんも可愛いな〜。2人目は幼女にしようかな〜」

 ダメだこいつ。煩悩しかない。除夜の鐘でも打ちに行ったらどうだろうか。


『あら、私の前で2人目の話をするなんて』

「あ、ああ……」

『ふふふ、冗談よ。仲間が増えるのは歓迎だわ』

「アイネルたーん」


 ぐっ、うらや……いや、けしからん。何公衆の面前でイチャついてるんじゃ。リア充爆ぜろ! ちくしょう! ちくしょぉぉ!


『シノブたーん』

「真似しなくてもよろしい」

 真似して抱きついてきたけど少し熱い。火耐性が上がりそうだ。


『カグノが抱きつくの、ダメ?』

「いいともさあ、俺の胸に飛び込んでおいで」

『やったー!』

 ああ、俺は甘いな。

 しかし可愛いは正義! 正義に従って何が悪い!


「こいつら……」

 ネメシスさんが顔を抑えている。ネメシスさんも顔がないのに表情がわかる微妙な存在だ。影の精霊と言われてたな。だからなのか? 黒子か全身ストッキングみたいな風貌だが。

 同じ精霊でも違いがあるんだな。



「こいつらを連れてきたのは俺の失敗だったか……。戦闘に使えないのならば俺はもう関与しない。掲示板に書き込んで追求されなくするか、自分一人で独占するのも良いだろう。じゃあ、俺はワイズのとこ行ってるよ。では後はごゆっくりイチャついてな!」

 ネメシスは影に潜り込むと移動していった。いちゃついてるのが悔しくなったのだろうか。そうか!ネメシスだけ1人だったもんな。



『ふふふ、カグノちゃん。貴方珍しいわね』

 ネヴィと精霊談義を繰り広げていると、アイネルのそんな言葉が耳に入ってきた。


『どこがー?』

『貴方の中にある剣。今はまだ燻ってるけど……燃え上がる日が楽しみだわ』

『????』

 カグノは首を傾げてる。俺も一緒になって首を傾げた。


「いや〜、こうして会話を聞いてるととてもAIとは思えませんな〜。美女と美幼女の会話。いいですな〜」


 何かのフラグだろうか。

 エレメントは何かで強化できる、とか。俺がファイアソードを強化しようとしているときに出てきたのが原因か?



「ネヴィさん。魔法を発動させて、それをそのまま維持できる?」

「そんなん朝飯前やで」

 ファイボールを3つだしてお手玉をし始めた。器用なことだ。


「器用値を上げてるから、楽勝や」

 魔法にも器用が作用するとは。驚きだ。


「じゃあ、ファイボールを強化しながら、人を思い浮かべるのは?」

「えらい難しい注文やな」

 そう言いながらもファイボールを1つにまとめ、サイズを大きくし始めた。そして目を瞑って妄想の世界に入り込んでいるようだ。


 いけるかもしれない。

 と思ったとき、アイネルが手を伸ばして手の炎を奪いとり、食べた。


『ふふふ、美味しかった』

 妖艶な笑みを浮かべて、そんなことを言われれば怒る気も失せる。


 その言葉でアイネルに抱きついたネヴィはだらしない顔をしている。

 そしてアイネルは口だけでごめんね。といっていた。ということはこれで合っているのではないか?

 そしてこれを邪魔したのは……嫉妬だろう。


 俺は最近のAIの高性能さに恐ろしさを感じたのだった。不気味の谷だ。あまりに人間に近いと恐怖を感じる。



『ぎゅーっ!』

 カグノが抱きついてきた。

 ああー、可愛いなー。もうなんでもいいやー。

ありがとうございました。

どうしてこんなことが起きてしまったんだろうか。やたらキャラを出しすぎるのは悪い癖です。

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