52 戦闘開始
圧倒的。無敵感。運動会。
なんといえば良いのか。
このゲームが発売された時の行列より凄い。
現実でこれだけの人が集まることは中々ないだろう。てか地球にこんなに人っていたんだな。NPCも混じってるけど。
簡易防御壁の周りに並ぶ様々な武器をつけた人達。様々な種族が戦闘に向けてそれぞれの活動をしている。
空には鳥人や召喚魔法で呼び出されたであろう召喚獣も沢山いる。その中には緑色のドラゴン騎兵の姿も見てとれた。
ほとんどがパーティーごとだが、ギルドみたいに何十人かで集まっているところもある。
「あれは何でしょうか」
カラコさんが指差す方には土魔法で作られたのだろう。小さな塔っぽいものがあった。
カラコさんにはわからなくても遠見を持っている俺にはわかる。
「片部プレア。VRアイドルって知らない?」
プレイヤーが持っているうちわやはっぴを見るとそう書いてある。
リアルでは活動せずにVR内でのみ活動しているアイドルだ。顔を出さないアイドルはアイドルなのか。
ファンに会ったことあるけど、外見じゃなくて中身が好きなんだと。高尚な人達だと思う。
俺もVRテレビとかで見てるから知ってる。トーク力があるから生き残ってファンもいるのだろう。アンチの間では中身はおっさんとか言われているがどうなのだろうか。
実況でもするのだろうか。ファンに顔を見せるという点ではあんな風に高いところに登るのはいいと思うけど。
「片部プレアですか。確かこのゲームの公式プロデュースアイドルでしたね」
地下アイドルだと思っていたがそこまで出世してるのか。そして公式プロデュースアイドルがイベントに参加してるのか。普段は中身が入れ替わっていたりするのだろうか。
「確か職業はアイドルでしたね」
「ファンもそこそこいるみたいだし、団結力は強いだろうから戦力にはなるだろうな」
「……雑談はそこまでにして、シノブは位置取りに動け」
「了解」
皆ザワザワと防御壁の前に行くのに俺だけ防御壁の上で待機だ。この上で立っている人はほとんどいない。いるのは後衛のサポート役のみだ。呪曲を使うのか、楽器を持った人が多い。そして軽装、もしくは初心者装備が多い中で俺の鎧はすんごい目立つ。目立たないことはもう諦めた。
さて、何を使おうか。
ファイアショットに付加を使うと1発がエクスプロージョン並みの威力になる。5、6体ならまとめて葬ることができる。それに加速を使えばかわされることはない。そして連射をプラスする。数百体は仕留めることが可能だろう。
そんなことしたら悪目立ちするのは必須なので、使うのは加速と破壊で止めておこう。
超遠距離から火の矢が猛スピードで飛んできて、何匹か串刺しにする。ゴブリンからしたらこれほど強力な敵はいないだろう。
俺の役割は前で戦う皆の邪魔をする雑魚を掃除すること。使っていくのはファイアショットかな。そういえば土魔法の弓を使ってない。
「アースショット? クレイショット?」
一体何なのだろう。禿げた弓教官に聞いておけばよかったな。
「ロックショットですよ」
「ああ、ありがとう」
親切な隣にいた人が教えてくれた。スーツにサングラス姿の暗殺者だ。
よし、試してみるか。
「展開、装填、ロックショット」
矢が石のようになった。物理攻撃力が増すのかな?
やっぱり土魔法は物理系が多いな。
放たないでキャンセルをする。
「その弓はまさか……」
「称号は持っているな。俺はシノブ。よろしくな」
弓を見ただけでわかるレベルになっているのか。展開しないと弓だと気付かれないだろうけど。
「私の名前はジープです。よろしくお願いします」
見た目と中身が随分と違うやつだな。いや、仕事人というのは敬語なものかな?
「狙撃手って少ないですよねー。周りも演奏者ばっかりで浮いちゃって」
「だよなー。俺なんか全身鎧だぜ? 前線にいるならともかくこんな後ろでなんか、何のためにいるんだよって感じだぜ」
そんな感じでお互いに雑談をしていると俺の遠見が森の中にいるゴブリンを捉えた。
「来たみたいだな」
「私にも見えました。狙撃手同士お互いに頑張りましょう」
周りにあまり狙撃手がいないこの状況ですっかり意気投合した俺たちは握手を交わした。
「ほら、俺のパーティー。1番前の……白い大剣持ってる子がいる」
「伝説レベルの人がゴロゴロ揃ってるじゃないですか……これは凄い」
伝説って少し言い過ぎだとは思うけどな。
俺の真後ろで巨大な太鼓が鳴らされた瞬間、戦闘が始まった。
それぞれ前衛がスキルを叫んでゴブリン達の大群に叩きつけ、後衛は一斉に魔法を放つ。初っ端から多数のドラゴンブレスが戦場を横切り、巨大な魔法がフィールドを抉る。
しかしゴブリン達も黙ってやられているわけではない。仲間がやられてもその屍を乗り越えて進んでいく。
一気に戦場は混戦となった。
統制が取れているわけではない。
パーティーごとに過剰戦力で周りのゴブリンを葬っているだけだ。ゴブリン達はそれをすり抜け後衛へ迫るが、そこにも魔法の砲撃がされて、一瞬で消し炭になる。
俺の周りでは楽隊がそれぞれ呪曲を弾いている。それによって後衛は強化され、更に強力な魔法を放っている。
その中でも特に異彩を放っているのが、片部プレアの陣営だ。片部プレアの種族は幽霊のようだ。
「みんなぁー! 頑張れぇー!!」
「「「うぉーーー!!」」」
あれはオタ芸というやつだろうか。1つの乱れもなく一心不乱に踊る様は凄まじい気迫を放っている。とても俺にはできないを
そして片部プレアが高台から放つ光の矢が前線のゴブリン達を薙ぎはらう。
「あれどんだけのブーストかかってんだよ……」
「私からしたら、シノブさんの武器も大概だと思いますよ」
確かにそうか。
「装填、加速、破壊、チェイスアロー、ロックショット」
凄まじい勢いで放たれた石の矢が、ゴブリン達の間を糸を縫うように進む。
威力は中々だな。ファイアショットより重いからか、少し速度が遅いような気もする。
突如戦場に大量のゴブリンのゾンビが湧いてくる。その中心に立っているのは。ワイズさん。あのひと死霊術師だっけ?
ヨツキちゃんは物凄い勢いで進軍している。大剣を振るう度に地面にはクレーターができて10匹ぐらいのゴブリンがまとめて吹き飛ばされている。あの子は周りに沢山ゴブリンがいた方が活躍できるから良いのだろう。そしていつも派手なカラコさんが完璧なサポートをしている。さすがだ。
常にヨツキちゃんの背後にいて、迫ってくるゴブリンの首を跳ね飛ばしている。
2人とも壁の前にいるというのがね。壁って何なのだろうって気にさせる。
そして肝心の壁。マッドだが、マッドな土魔法使いだったよ。俺みたいに重装備だからわからなかったけど。土でできたゴーレムの上に登っている。魔法の良い的だと思うのだが、重装備だから大丈夫なのだろう。
ゴーレムは脆いらしくゴブリンの剣が振るわれる度に足がボロボロと崩れていっているが、直ぐに修復されている。両手を振る度にゴブリンが飛んでいき、他のゴブリンに当たってダメージになっている。
良く良く見たらネメシスがゴーレムの足元で魔法をぶっ放しているのがわかる。何故近距離で魔法を使っている連中が多いのだろうか。ゾンビゴブリン達に戦闘を任せて、自分は本に魔法陣を書き込んでいるワイズさんを見習え。
森から出てきたゴブリンの魔法使いの一団を一掃する。魔法なんてものはいらない。というより壁役の前に出ている2人には魔法は脅威だ。ヨツキちゃんはともかくカラコさんが。
戦場には狼に乗ったゴブリンも現れ始め、後衛にも被害が出てきている。前線に行く実力がない中堅のパーティーが後衛の周りにいるとしても素早く動き回る狼は捉えがたいだろう。
かといって遠距離から攻撃をする俺にも対処方法はない。矢では当たらないのだ。
「ちょろちょろと動き回っている狼が難題だな」
「私ら狙撃手にはどうにもできませんねー。その弓そんな機能ついてないんですか?」
連射と付加を使えばそこらへん爆殺はできるだろうけどどうしようか。
NPCの部隊もいるから大丈夫か。間近に来たら魔法で拘束すれば良い。
もう一つのパーティーの方へ意識を移す。ヴィルゴさんが盾をしているところだ。
こちらも大分前に食い込んでいる。
ゴブリン達が弱すぎて話にならないのかヴィルゴさんは盾をブンブンと振り回している。あれはもう盾じゃない。鈍器だ。
そしてジンもそれに負けんとばかりに斧を振り回している。バーバリアンという感じだ。
そしてその死角を補う形で取り巻きがいる。2人は常に位置を変えながら攻撃を続け、1人に集中してゴブリンがいかないようにしている。
しかし最も貢献しているのはアオちゃんだろう。後衛の周りに結界を張り、自分も中に入り、式神を呼び出して攻撃している。前に見たでかい狐、9本の尾がある妖狐に加え、爪が鋭いクマ、水を操っている龍などがいる。
式神といえば鬼のイメージなのだが、鬼はいないんだな。アオちゃん自身が鬼だからかな?
それに加えて可愛らしいぬいぐるみ達が間で戦っている。キイちゃんは今回は馬に乗らず、ぬいぐるみを操るのに全身全霊を集中させているのだろう。俺の時より数が多いよう気がする。そして更に強くなっているような気もする。
動物が多すぎてまるで動物園だ。取り巻きの魔法使いも困惑しているようだ。水魔法を使っているようだ。
戦闘自体はまだまだ生温い。だってまだ小さいのしか出てない。ピンチになったら巨大化する変異種ゴブリンはよ!
しかしこれだけの数もあるのだから、それなりにレベルは上がるはずだ。戦争は数らしいが、このゲームの場合質だ。ヨツキちゃんなんかどんだけいても一定以下の筋力を持っていないとはじき飛ばされてしまうだろう。受け止めようとしても剣ごと壊しているしな。
しばらくしたらゴブリンの大群が尽きてしまった。これで終わりじゃないよな。終わりだったらなんか連絡来るもんな。
どうやら、最前線が森の始まりの場所まで到達してしまったことが問題のようだ。ゾロゾロと後ろに下がっていく前線。森の中に入ったら後衛の援護も受けにくくなるし、見通しも悪いからな。賢明な判断だ。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが3増えました》
《戦闘行動により【弓術Lv13】になりました》
《戦闘行動により【狙撃Lv11】になりました》
《戦闘行動により【隠密Lv8】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv17】になりました》
《戦闘行動により【土魔法Lv5】になりました》
《レベルアップによりスキル【クラック】を取得しました》
《戦闘行動により【遠見Lv11】になりました》
種族:半樹人
職業:狙撃手 Lv26
称号:神弓の射手
スキルポイント:9
体力:90(-35)
筋力:25
耐久力:40
魔力 :75(+5)(+58)
精神力:70(+49)
敏捷 :20
器用 :80(+16)
パッシブスキル
【弓術Lv13】
【狙撃Lv11】【隠密Lv8】
【火魔法Lv17】【木魔法Lv12】【土魔法Lv5】
【マゾヒストLv6】
【遠見Lv11】
【精密操作Lv4】
スキルポイントにボーナスがあったな。イベントだからだろうか。これで貯めて、新しいスキルを取って、イベント中に育てろということか。今は何も取れないけどな。
そして大分レベルアップしたな。土魔法の新しいスキル。クラック。麻薬だろうか。
試せばいい話か。
「クラック!」
ガツ、という音がして地面に割れ目が入る。拘束魔法か。ウッドバインドと組み合わせると良いかもしれないな。拘束+拘束。
「新しい魔法。弓使いは魔法も使えていいですねー。銃は弾のバリエーションがありますけど。私は少し弾補給してくるので、抜けます。予想外に消耗が多くて」
「お、じゃあ、また補給終わったら」
「では」
俺も矢の数が無限でなければこんな風に補給に行かなければならなかったのだろう。矢の分の金も馬鹿にならない。
いやー、本当にこの弓を手に入れられて良かったな。足手まといなのはやっぱり引け目だからな。
前線が元の位置に引き、魔法職が休憩をしてMP回復に努めているのが見える。出張で武器の研ぎ師や、軽食などを売っている人がいる。武器の耐久度を回復させる錬金術士もそれなりにたくさん動き回っている。一部の生産職にとってもこのイベントは稼ぎどきなのだろう。
俺もドロップが大量だ。魔石と、ゴブリンの肉。魔石って何に使うんだろうな。今度カラコさんにでも聞いてみるか。
ゴブリンの皮とかがドロップしないのは使い道がないからだろうか。肉と魔石だけ。後は使い物にならない。
掲示板でも見て暇を潰すか。
お、ゴブリン肉を美味しく調理しようっていうスレッドがある。
2.名無しの剣士
どうやってもゴブリン肉は不味い
3.名無しの魔法使い
>>2
4.名無しの戦士
>>2で結論が出てた
使えないな。ゴブリン肉って不味いのか。調理するのはやめておくか。
そういえば鎧を着たまま光合成ってどうなるのだろうか。試してなかった。
発動させてみた。
鎧が緑色っぽくなる。こうなるのかよ!
装備つけてたらできなくなる仕様だったら不便きわまりないけど。
一体どういう形で栄養を吸収しているのだろうか。
問題なく発動できたから良かったのかな?
終わりよければ全て良し。
生産職が退散したのを見計らったようにゴブリンが森から姿を見せた。
雑魚のゴブリンもいるが、それだけではない。10匹に1匹の割合でゴブリン騎兵が混ざっているし、所々に巨大ゴブリンも見える。
俺と恐怖の追いかけっこをしたやつだ。許せん。あの時の恐怖を倍返しにして返してやるわ!
ありがとうございました。




