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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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51 出撃

 ゴブリンは火に弱い。というけれども現実世界で火に強い動物なんてそうそういないのだからそれが普通なのだ。至近距離で爆発が起きても生きている方がおかしい。

 ゲームの世界だから仕方ないけど。


 更に調べた結果。プレイヤーのゴブリンはホブゴブリン。モンスターの方はゴブリンらしい。

 ゴブリンは知能はある。でも人を襲う。蛮族なのか。目が悪くて人間と他の生き物の違いがわからないのか。


 この世界って随分多種族に寛容な世界だよな。

 冒険者ギルドで立ち尽くしているとわかる。3メートルは優に超えている巨人ジャイアントに、腰ほどまでしかない小人ハーフリング。体の半分が魚な半魚人サハギンに、体が炎でできている精霊スピリット。空には鳥人バードマンだの、妖精フェアリーだのが飛んでいる。スケルトンなどが夜道で歩いていても何も起こらない世界だ。


 一体モンスターとの違いをNPCはどこで見分けてんのかな。


 と言った内容を調べていた。世界観の考察は中々面白いものだった。

 本当に多種族だな。オークとか見たことないけど。オークを選んだ人はいるのだろうか。検証するために選んだ人はいるだろうけど。中々人気がある種族ではないだろうな。

 人気種族といえば、人間とかエルフとか、生産にはドワーフとかが人気みたいだ。




 イベント当日なこともあって冒険者ギルドは今からバーゲンでもやるかのようにごった返している。人を探すのも一苦労だ。

 そういえばヴィルゴさん結局狼を調教できたのだろうか。イベント当日で休日なだけもあって朝からログインしてくるとは思うけど。俺は連絡とってないからな。カラコさん任せだ。


 パーティーを見ているだけでも楽しい。全員モンスターで統一されていたり、何かのロールプレイをしているパーティーもいる。近代的な装備をしてるパーティーもあるし、思いっきりファンタジーって感じのもある。


 人混みの中で目立つのは背の高い種族だ。後浮いている種族だな。妖精とかだ。フワフワとホバリングをしている。


 何人か見知った顔もあったが、顔まで隠す甲冑に、更に上からフードを被っていたからバレなかった。

 アオちゃんの友達。アカのパーティーなどは壮観だった。ケンタウロスか馬を持っているプレイヤーしかいない。そして全員が赤色の装備で統一している。全員がほぼ同じ時刻にログインしてきて、すぐにギルドの外に出ていった。

 まさに騎士団という感じだ。



 その途方もない人混みでアオちゃんが埋もれているのを見つけた。鎧で人混みをかき分け近づく。


「おはよう」

「あ、おはようございます。シノブさん」

「嬢ちゃん。ツレが見つかったのかい?」

  この声はどこから?


「おいおい、どこ見てやがるってんだ」

 アオちゃんを見るとそこには赤色のスライムが胸に抱えられていた。ベタベタしたアメーバ状ではなく、つるんとしたものだ。


 一言で言うと場所を変わってくれ、だ。


「い、いえ。シノブさんは私が入るギルドのマスターです」

 ……マスターね。何だろうフォースの使い方とか教えなければならないのだろうか。


「俺はスライムのスライスチーズだ。ライスと呼んでくれ」

 意味がわからない。確かにスライスチーズの中にライスという言葉は入っているけど。チーズとご飯。美味しいのかな。


「俺はシノブだ。弓を使っている」

「弓使いなのに金属鎧とは。こっちのアオちゃんに俺が踏み潰されているところを助けてもらったわけよ。いやー、良い子だ。こんな子がゲーム内にいたとは」

「い、いえ」


 スライムになるとこんな利点があったなんて……俺もスライムだったらカラコさんに運ばれてたのかな? 今となっちゃ鎧で硬いだろうけど。


 そして問題なのが、アオちゃんが布装備なことだ。後衛らしく硬い素材は何もつけていない。おい、運営。これはダメだろ。というかスライムという種族自体がエロさしか感じられない。そして天国にいるライスに殺意が湧いてくる。ダメだ。街中での戦闘は禁じられている。


「んでアオちゃんは誰を待っているの?」

「キイちゃんです」

 あの子も戦うんだ。生産職なのに。そういえばアオちゃんも生産職か?


「唐突だけどアオちゃんの職業って何?」

「あ、あの……無職です」

 無職か……ハローワークもないし。何か行動してたら職業には就けるらしいけど。何でだろうな。


「無職なんて気にすんな! おっちゃんなんかこの歳で無職だぞ? リアルで」

 笑えない冗談だな。いや、冗談ではないか。廃人ならば十分にあり得る。


 さて、このスライムはほっといてキイを探すか。背が高いからすぐに見つかると思うんだが、あ、いた。


「見つけたぞ。俺が道を開けるから、その後ろにぴったりくっついてな」

 人の波を強引にかきわけ、キイの元へと向かう。


「あ、アオちゃんとシノブさん。先日はどうもありがとうございました。お陰でイッカクさんに武器を作ってもらえました」

 礼儀ができている人だ。慇懃無礼なカラコさんに見習わせたい。


「よう、シノブ。こんな可愛い子達と知り合いなんて羨ましいやつめ。俺なんかモンスターばっかだぞ」

 このスライムはいつまでいるのだろうか。


 アオちゃんがキイにスライムを紹介している間にカラコさんを探す。

 その時ちょうどカラコさんからメールが着た。


 ギルド内も、東門への道も新年の初詣かと思うぐらい大変なことになっています。東門の外に出れば広い土地があるのですが、外に出る時に登録しなければならないようです。ということでイッカクさんのお店に集合になりました。



 俺のいないところで色々とやりとりがあったようだな。


「俺は待ち合わせ場所が変わったみたいだ。もう行くよ。2人はどうするんだ?」

「ご一緒してもよろしいですか?」

「あ、私も固定パーティーというのはいないので……」

 2人分なら空きがあるから、大丈夫かな。


「他の人に聞いてみないとわからないけど、大丈夫だと思う」

「お、なら俺も「残念。俺のパーティーは既に4人いるんだな。今回は諦めてくれ」」

 俺以外ライバルがいない。そう、ハーレムのパーティーにこんなスライムの親父はいらない。ラビはマスコットキャラクターだから男に換算しない。

 そして女の子が4人もいるのに、何のイベントも発動しない俺って。


 高望みはしない。パーティーメンバーの女子やギルドメンバーが全員とは言わない。1人、1人でもいいんだ。誰か俺に好意を寄せている人はいないのだろうか。

 俺が鈍感系じゃないのが悪いのか。敏感に反応してしまうからダメなのか。


 鈍感とか敏感とか言う前に好意を向けてる人がいないから関係ないか。



 いや、もしかして自覚なし鈍感系なのかもしれない。実はアオちゃんとか、カラコさんから熱烈なアタックをもらっているのに、鈍感ゆえにそれに気づいていないだけだ。そうに決まっている。


 ああ、多くの女の子に好意を向けられてるのに、それに気づけない俺ってなんてダメな男なんだろうか。




 あれ? 目から汁が流れてきたぞ。

 わかってる。こんなこと考えてる俺がとても虚しいことをしていると。しかし可能性はある。ちょっとぐらい夢見さしてくれよ。理性のバカヤロー!



 俺には何故してるのかわからないが、アオちゃんとライスはフレンド交換して別れたようだ。一体誰を探していたのだろうか。アオちゃんの胸元から離れる時に名残惜しそうにしていたが、キイのひと睨みで慌てて離れていた。キイも思うところがあったのだろう。そしてそれに気づいていないアオちゃんは天然系美少女。俺得。




「シノブさん、おはようございますって……後3人入りますかね……」

 イッカクさんの狭い店内は人でごった返していた。


 お面付きワイズさん、ヨツキちゃんの兄妹に、俺のパーティー。ネメシスに知らない人。前もいたなこの人誰だ? それと巨人と人間のハーフのような斧使いと、その取り巻き2名。ガキ大将とその子分って感じどこかでカラコさんと話してたような気がする。

 それに俺たち3人が追加されて総勢12人だ。

 イッカクさんはカウンターで1人ゆったりと座っている。



「シノブさん。昨日逃げられて、その鎧の説明をしてなかったんですがー」

 イッカクさんが手短に説明してくれた。

 ブーストと言えば強化されるらしい。何が起きて強化されるのかは知らない。思い出したくない。本当ならもっとスキルが付いているらしいが、たぶんこの状態異常をつけるためだけに、他のスキルがつけられなくなったのだろう。

 防御力は保証すると言っていたが。


 後、歩く時に音がならないから隠密にも役立つってさ。


「12人か……ちょうど半分に分けられるな」

 半分に?

「状況をわかっていないシノブさんのために3行で解説します。

 イベントの報酬はパーティー単位。

 活躍したパーティーほどレアな報酬。

 人数を減らすメリットはない。

 ということです」


 なるほどわかりやすかった。今以外にでも起きてることを全て3行で解説してくれたら楽なんだけどな。


 じゃあ、皆6人組になってー。と言われるわけでもなくバランスの良い戦力にするために、勝手に分けられた。



 そしてもう1つのグループが酷い。

 壁は知らない人。名前を呼ばれてたので知ったのだが、 マッドというらしい。狂っているのか。それとも土魔法を使うのか。壁というから狂っているのだろう。茶髪を長めに伸ばしている人間のイケメンだ。しかし背の高さでは勝っている。

 前衛がヨツキちゃん。そしてその大雑把な戦いの討ち漏らしを防ぐのがカラコさん。後衛でサポートに勤めるのがワイズさん。超後方高火力射撃が俺。そして俺とワイズさんを影の間を渡りながらサポートするのが、ネメシス。

 恐ろしい面子だ。どんな軍団も真っ青になって逃げ出すだろう。そして回復役がいない。ワイズさんができるといえばできるのだが。


 もう1つの方はわりと普通だ。

 名前を思い出したジンを主軸としたパーティー。称号を取ってみせると豪語していただけあってプレイヤースキルは高いようだ。

 壁兼回復役はヴィルゴさん。壁兼攻撃役がジン。後衛が取り巻き2人。回復魔法も使えるという。そして皆に取り巻き扱いされているのが可哀想。俺も名前知らないけど。

 アオちゃんは後衛の補助。そしてキイは人形を使った遊撃だそうだ。


 壁が多くて防御力の高いパーティーだな。

 一体どういう基準で決めているのだろうか。ダメージを負う人と負わない人かな?




 ラビはどこに行ったかって? 今回はお留守番らしいです。お留守番という名の単独行動みたいです。召喚魔法は術者が近くにいないとダメだけど、調教でしたら、自分で動くし、魔力とかのコストもいらないし、育てればプレイヤー以上に強くなるし、調教の難易度が高いわけだよ。


 狼を連れていない所を見ると失敗したみたいだけどな。

 おい、なんだその懐から出した卵は。イッカクさんに預けんな。おい。それって街道で取ってきたんだよな。卵泥棒かよ。

 バッタかトカゲか、まさか狼が産まれてくることはないだろう。

 今はどうでも良いことだ。産まれてから考えよう。


 今不安なのは1人で出かけたラビがどうなるかだ。まさか人化しないよな。うさ耳をつけたむきむきの野生的な男とかに。レベルが上がったら人になるってのはモンスターにありがちなことだ。

 ラビだったら褐色肌で上半身裸で頭にはうさ耳。下半身にはダボっとしたズボンを履いた。蹴り技使いになりそうだな。髪色は銀で。


 準備を終えた皆が立ち上がる。俺もポーションを前線組に配る。ヴィルゴさんが回復できない時のためだ。


「……さあ、行こうか」

「イベント楽しみ」

「ラビ、良い子にしてろよ」

「これじゃ、蹂躙だな。ゴブリン達に同情してくるぜ」

「シノブさん。最初の場所取り。なるべく戦場が俯瞰できる場所にしてくださいね。そこまで後ろにはゴブリンも来ないはずですし、後衛の援護と同じ狙撃手ぐらいしかいないはずですから」

「はいはい。なるべく高い場所に陣取るよ」



 さて、レベルアップ祭りの時間だ。あまり目立たないように程々に頑張ろう。




名前:シノブ

種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv25

称号:神弓の射手

スキルポイント:6


 体力:90(-35)

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :75(+58)

 精神力:70(+49)

 敏捷 :20

 器用 :80(+16)


パッシブスキル

【弓術Lv12】

【狙撃Lv10】【隠密Lv7】

【火魔法Lv16】【木魔法Lv12】【土魔法Lv4】

【マゾヒストLv6】

【遠見Lv10】

【精密操作Lv4】


ありがとうございました。

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