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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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50 生産ギルド

「ヴィルゴさん、今日中に狼を調教できんのかな」

「無理でしょうね」

「だよな」


 ラビを調教する時にしたあの一連の寸劇には意味があったと信じたい。レベル差があったら簡単に調教できたとか言って何匹も連れてきたら泣きたくなる。

 戦力が増えるのは良いんですけどね。魔法職、できればバフデバフ系が欲しいところだ。


「この後シノブさんは装備を取りに行かなければならないんですよね」

 ヴィルゴさんに着せるつもりだがそうだな。

 メールは送ったが返事はきていない。直接行って言った方が良いか。


「じゃあ、私はこのブレス器官の改造を依頼してきますので、時間によってはそのままログアウトするかもしれません」

「そうか、じゃあまた明日」

 ブレスを使い物にするにはどんな風にするのかな。剣を振りながらでも撃てるような形になったらやりやすいんだろうけど。後は1発で強力な者が出るとか。


 そういえば機械人間アンドロイドという種族はあるのに改造人間サイボーグはないんだな。

 俺はどちらかというとサイボーグの方が好きだが。子供の頃は加速装置欲しいとか思っていたのだ。


 えるるさんの店はイベント前だからか夜でも平常運転していた。

 堂々と店に入る。ここは既に敵陣なのだ。

「あ、シノブ君じゃん。色々有名になったね」

 店内には戦闘用人型汎用機械がいた。


「なんか……リアルになったな」

 前の時は装備、という感じだった。それでもウェストらへんとかは凄い絞っていると思っていたけど。

 しかし今ではまるで本物のようになっている。見てるだけで訴えられそうだ。


「称号を貰ったんだ! 初号機って言って、少しリアルになるだけだけど」

 ネタプレイしてても称号貰えるんだな。本人が嬉しそうならそれで良いことだ。若干表情までわかるようになってる。

 昼にあった戦隊ヒーロー達も称号を持っているのだろうか。合体とかいうスキルも持ってそうだな。ピンチになったら巨大ロボに乗り込むんだろう。


「にゃー」

 今日は沢山客が来たのか最早人間の言葉を話せなくなっている猫。そんなことってあるのだろうか。

 体全体から疲れてますオーラを漂わしている猫、アレックスが初号機の腕を引っこ抜いた。


 引っこ抜いた。血は出てない。断面はグロ防止のためか真っ黒。


 何が起きた。

 ゾンビ化か、いや獣化か。

 初号機は声も出さずにその場に固まっている。

 アレックスって猫より犬の名前っぽい。


 猫はカウンターに腕を置き、紫色をした鉱石を取り出した。

 腕を犠牲に黒魔術でも始めるつもりだろうか。悪魔とか呼び出せるのか。


 猫が手をかざすと鉱石は消えて、腕だけが残った。

 一体何をするつもりだ?


 猫は無言で初号機に近づき、腕をつけた。


「ああ、ありがとう。次は足をよろしく頼むよ!」

 イッタイナニガオコッテイルンダロウ。


「ネタの称号は沢山出てるけど、戦闘に役立つようなものは少数みたいだね」

「いやいやいやいや、両足外されてるんですけどぉぉぉおお。え? 何普通に話しちゃってんの? 何これ、種族? 足切れる種族って蜥蜴? え?」

「僕の種族はリビングアーマー。生きる鎧だよ」

 生きる鎧……これまた珍妙な種族だなおい。なんだよ足千切れてもダメージを負わない種族って。


「別に不死なわけじゃない。自分の意思でなら切り離せる。他の種族では自分の体をレベルアップさせて強くなるけど。リビングアーマーは鎧を育てるんだよ。こんな風に鉱石と錬成したりね」

 鉱石がないとレベルアップができないのか。全く別ゲームになってそうだ。モンスター系は特殊なのかもしれないけど。

「経験値を貯めて、素材を集めて、経験値分の素材を錬成に使えて、その素材に合わせた特性が鎧に出る。僕は錬金を持っていないからさ。こうしてアレクに時々レベルを上げてもらっているんだよ」

 凄い面白そうだな。俺もリビングアーマーに……いや、他の種族への羨みなんてなんども考えたことだ。俺は半樹人でやっていく。そういうことだ。


「それは面白そうだな。イッカクさんがどこにいるか知らないか?」

 猫が尻尾で奥を指差し……いや、尻尾だから指差してはいないな。尾指したというのかな?


 まあ、とにかくそちらの方向を示したので、俺は奥へと勝手に入っていった。


「シノブさん、メール見ましたよー。しかしシノブさん用に調節してしまったのでー」

「またしなおせばいいだろう」

「女性にあれを着せるって可哀想じゃないですかー?」

「男女同権。男子差別反対!」

「差別ではありません。区別です」

「……」




 金の貸しがある人間には勝てなかった。

「俺がこれを着るって決定事項なの?」

「はい。周りの人にも聞いてみたんですけどー『力を得るには代償が必要だ』とか言ってましたー。それにブースト機能を使わなければ良いだけじゃないですかー」

 確かにそうだ。今でさえ超火力なんだから、これ以上使う機会はないだろう。使うにしても誰も見てない時、コソッと使うぐらいなら、大丈夫なはずだ。


「仕方ない。諦めるよ。その代わり……」

 俺が無償でスキル情報を提供したのが悪かったのだ。諦めよう。ただし、対価はもらう。


「こ、これを飲めと言うのですか?」

「ああ。実験体には誰かがならなくちゃな」

 俺の左手には得体のしれない成分。遡行成分がある。そして右手にはファイアソード。当たらなければどうということはない。この世界に恐喝罪などはないのだ。


「私の鑑定でも全く中身が見えませんし、一体なんなんですか!?」

「ふふふふ、飲んだらわかるよ」

 瓶を片手に持ち、じりじりと幼女に近づいていく俺は完璧に犯罪者である。しかしここには誰もいない。誰も見てないのだ。


「シノブさん……何してるんデスか?」

 ここが誰の店かを忘れていました。

 怒ってはいないようだ。よかった。ヴィルゴさんだったら鉄拳制裁だもんな。


「いや、新薬を試してもらおうと」

「目が餓狼でしたよ。他に試す人はいないんデスか? イッカクさんは鍛治職トップです。おかしなことになったら全てのプレイヤーの損失ですよ?」

 画廊?

 イッカクさんは俺から逃れられると思ったのか、えるるの後ろに隠れた。


「実験用のマウスでもいたら良いんだけどね。モンスターが大人しくしてくれるわけでもないし」

「そういう時に冒険者ギルドに相談してみましょうよ。何か良い案があるかもしれません」

 冒険者ギルドかー。生産ギルドとかないものなのかな。金もあるし、実験用動物を売ってれる場所だけでも聞けるかもしれない。


「じゃあ、この鎧は貰っていくよ。ありがとうイッカクさん」

「あ、あ、はい。えーと」


 イッカクさんがまだ動揺しているうちに鎧を装備して奥から出ていく。あれだけの苦痛を味合わせたのだ。別に金ぐらい良いだろう。俺用に調節したと言われている幻痛も使わないのだから、試す必要もない。


「お、シノブ君カッコよくなったね。良い感じだよ!」

 歩いても金属の音もしない。体も少し重くなってかえって安定度が増したような気もする。

 店にある姿見で自分の体を見てみる。


 銀色の甲冑を着た細身の男。肩には鎖のようなものをかけていて、その全身鎧の上からは鎧を隠すようなマントを羽織っている。中世の騎士のようだ。


「自分だとは思えないな」

 弓使いにも見えないし、種族もわからない。完璧に個人情報が隠されている。1つ心配なのは光合成ができるかというとだ。これはまた明日、太陽が出ている時にしよう。


「にゃー」

「じゃあ、また明日。頑張ろうね」

 何かの催眠術にかかって自分は猫だと思い込んでいたのだろうか。結局人間の言葉を話しているところを見ていない。リアルでもニャーニャー言ってるやつだったら……ゾッとするな。


 街を歩くと皆が俺のことを見ている……気がする。道を譲ってくれる人が多い……気がする。

 気がするだけなんだよね。この世界じゃ顔まで鎧で覆うことなんて珍しくないし。リアルの顔でやってるから見られたくないって人もいるし。


 遠距離職でもなんちゃって全身鎧をつけてる人もいるし、目立たないか。


 よし、冒険者ギルド行って実験用マウスか何かを貸してもらえないか聞こうっと。


『未確認の成分を見つけたから、試したいということですか……すみません。私では対応できない問題なので上を呼んできます』

 NPCのギルド員でもわからないことがあるんだな。ってそういう設定か。

 夜遅くにも関わらず、人はやはりたくさんいる。夜目スキル持ちが増えているのだろう。スキル欄が1個取られるのはきついけどな。俺の透視ゴーグルみたいに装備にスキルがついている場合もあるのかな。

 そういえばこの防具についているスキルは幻痛だけなのだろうか。しまったな。無理やり強奪してくるんじゃなくて、ちゃんと聞けば良かった。今度あった時にでいいか。


『お待たせしました。別室へどうぞ』


 ギルド受付嬢に連れられて、ギルドの奥の部屋へと行く。この時は見られていたと思う。気のせいではない。


 部屋には銀髪でダンディーな男がいた。渋い。いぶし銀だ。


『私の名前はディナー。生産ギルドサルディナ支部の支部長を任されている』


 夕飯か。何も食べてないな。

 そして生産ギルド? そんなものがあったのか。


『一体何を見つけたのか。見せてくれないか?』

 俺の自己紹介もしないまま、提出を出された。

 俺がアイテムを具現化させて渡す。


『やはりな。遡行成分。これは危険だ』

 危険というと毒性があったりするのか?


『詳しいことは話さない。これは全てを巻き戻す。そんな成分だ。全てだ。どうして草で怪我が治るのか考えたことがあるか?』

「いえ」

 システムで治るんじゃないの? 現実世界ではそりゃ草食べて怪我が治ったら凄いけどさ。病気ならともかく。


『この世界のどこにでも満ちている力。それが遡行成分だ。作用した者の時間を巻き戻してしまう。その範囲を決めているのが。この草の成分というわけだ』


 へー。時間を巻き戻すってどんな風になるんだろう。もしかしてモンスターが無限にポップするのもこれが関わってるのかな。倒されては時間を巻き戻されての繰り返しとか。


『生産ギルドではこの成分の売買を禁じている。個人での利用は止めない。生産ギルドは商業ギルドとも繋がっている。この禁を破った時にはそれ相応の覚悟があるものとさせてもらう』


 元から売るつもりはなかったし、それはいいんだけど。


「生産ギルドとか商業ギルドとかってどこにあるんですか?」

『王都だ』


 王都か。今日はよく聞くな。


『優秀な生産者はいつでも歓迎している。王都の問題が解決されたらいつでも来い』

「問題とは?」

『機密事項だ。俺からは言えん』


 そうですか。

 機密事項って気になるな。恐らくあの砂漠を越えて、プレイヤーが王都に行って、王様との謁見イベントを終えて、解禁されるのだろう。だけどあの広さの砂漠って一体どのぐらいかかるのだろうか。途中にオアシスがあって休めるけど、そこでも戦闘しなきゃ出られないし。

 食糧を大量に持ってケンタウロスが走るのが1番速いかな。


「ありがとうございました」




 さて、遡行成分の効果はわかったと。面白半分でイッカクさんに飲ませなくてよかった。見た目幼女なドワーフだが、本当の幼女に……。


 はっ。これを街中でバラまけばそこら中がロリとショタになるのではないか?

 恐ろしいことを思いついてしまったな。この成分が売られないし、情報もないわけだ。爆弾になんか混ぜて街中で爆発させればロリコン大歓喜になるじゃないか。


 時間を巻き戻すと言っていたな。HPとMPが回復して、経験値が減る。これって死に戻りに近いな。経験値こそ減らないものの、ステータスが減る。これは少しの間自分の時間が巻き戻っていることなのだろうか。



 こうして世界観は紐解かれていくものの、この成分が役立ちそうにはない。解析すべきはポーションで抽出したヤク草特濃汁だろう。もしかしたら状態異常を治すポーションができるかもしれない。


 HPのみを巻き戻す成分があるなら、MPを巻き戻したり、状態異常を巻き戻したりするのもあるだろう。

 開発できたらもう億万長者じゃね? ギルド作るとかも余裕で作れるようになるかもしれない。


 いや、今の所作られていないということは作るのが相当難しいに違いない。



 今は難しいことを考えるのは止めにしてポーション作りますか。

 ヤク草が品質悪いけど仕方ない。ないよりマシだ。



《生産行動により【調合Lv6】になりました》

《生産行動により【抽出Lv3】になりました》

《生産行動により【薬品知識Lv9】になりました》



 品質はC止まりだ。普通のガラス瓶でやった時って俺は品質がどのぐらいの物が作れるんだろう。



 明日に備えて今日はもうログアウトしますか。ゴブリンの対策とかも調べたいし。

ありがとうございました。

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